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創造世界  作者: ナンパツ
第三章 龍人の里
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第三十一話


 直ぐに繰り出される拳を、透壁で受ける。今度は蓮撃だ。透壁で耐えていれば、何ということもない。蓮撃が止むと、ゼラニムは空中で蹴る。すぐさま左腕の透壁を合わせようと思っていたら、右足以外に、右足以上の気配が迫っているのを感じた。


 「!」


 視界の隅に、長く太い、赤みががった龍の尻尾があった。蹴りは囮で、尻尾が狙いだったのだ。

 これでは避けられない。なけなしの思考で、左脇腹側面に透壁を創造する。しかしそれは所詮急造であり、心許ない。瞬間的に創った透壁は、ゼラニムの尻尾に壊された。壊された先にいたナキの左脇腹に、尻尾が力強く直打する。

 そして、吹っ飛ばされた。

 嘘だ。と思った。これくらいの攻撃、ジェメドの拳に比べれば屁にもならない。尻尾が当たっても、耐えられると思っていた。耐えた後の反撃を考えていたのに、現実では吹っ飛ばされている。その乖離が、凄く気持ち悪かった。

 ナキの全身は、横に大きく動いた。空中を裂くように、木の幹に背中を強打する。

 ぐにゃり。


 「かはっ...!」


 透壁は間に合わなかった。少しの動揺が、思考を妨げた。トラル教官に、口酸っぱく言われていることなのに。


ーー「思考を妨げるな!創造力は勝手に創られてくれないぞ!お前達が考え、想像し、実行して初めて創られるんだ。常に想像しろ。その作戦が間違っていてもいい。体に叩き込め!」ーー


 考えろ。皆はどう戦っていた?

 思考を巡らせていると、幹の感触が、考えていたものと違うことに気がついた。

 目の前には、ゼラニムが迫っている。鉄の籠手を嵌めた拳を、まだ遠くにいるというのに放とうとしていた。

 何かある。そう思えば、幹が折れていることに気がついた。いや、折れているのではない。ナキの全身が直撃した瞬間、衝撃を和らげるように折れ曲がったのだ。ぐにゃりという感触がしたのを覚えている。

 森の監視人という言葉を思い出す。ゼラニムは森人であり、里周辺を監視している。であるならば、当然森のどこに何があるかなど、把握しているのではないか。

 木の幹が、受けた衝撃を返す。衝撃が跳ね返されて、ナキはゼラニムの元へ飛ばされた。ゼラニムは右拳を繰り出している。これに当たれば、一溜りも無いだろう。

 ナキ以外ならば。

 

 「うんぁ..!」


 左腕の透壁と、右拳の籠手が交わった。衝撃と共に、落雷が落ちたような衝撃が左腕から流れてくる。気を抜いたら気絶してしまいそうな威力は、両者の得物が壊れてしまう程だ。ナキは透壁が、ゼラニムは籠手が、同時に壊れた。


 「いってぇ...!」


 身悶えるゼラニムは、何故か笑っていた。勝気な笑顔に、ナキは迫る。相手は森人。地の利はあちらにある。下手に動いて先手を取られたくない。

 長い透壁を創造する。拳に付いた、少し曲がった円筒状の透壁。それをゼラニムの頬に向ける。案の定、彼は目を見開いて、諸に受ける。それから、連打、連打、連打。ヨハネスの様に長さを変えつつ攻撃するような想像は出来ないけれど、全身の力を込めて殴る。

 尻尾が来たので、後ろに退く。すかさず攻め掛かると、ゼラニムは後ろに飛んだ。同時に、地面を爪で切り裂いた。


 「貰うぜ一本」


 木の幹を足掛かりに、上に飛ぶ。ここら一帯は同じ木が自生しているようだ。幹を利用して、ゼラニムは天高く飛び上がる。飛び上がっている途中、木の下から、根っこが地面から這い出てきた。

 後ろに飛ぶと同時に根を切ったのか。上へ上がる勢いで、長い根っこがゼラニムの手元に上がっていく。

 空中にいるゼラニムが、段々と近づいていく。ナキは身構え、ぶんぶんと回されている根っこに注意した。

 横一閃。

 左手が振られた瞬間、鞭のようにしなる根っこがナキを襲った。根っこは音速を超えて、ナキの顔面を狙っている。

 パン!

 間一髪、背中を反らして避け切った。空気を押し除けるほどの速度で、根っこの鞭は爆発するような音を出してナキの仮面すれすれを横切った。

 

 「隙ありだ」


 声が聞こえる。顔を上に戻せば、鉄屑がナキの視界を陣取っていた。


 「壊れた籠手か....!」

 

 鉄屑の隙間を縫う様に、ゼラニムの爪は空を切る。ナキの顔面に向けられた龍人特有の爪は、右腕に創った透壁で防ぐ。

 視界の鉄屑はまだ晴れない。ナキは地面を蹴り、後ろに退いた。


 「一々創造すんの、疲れねぇかぁ?!」


 ナキの行動は読まれていたのか。ゼラニムは追い討ちのように、長い尻尾を胴体に巻きつけた。力が強い。踠いても離れない。ぴったりと、蛇のように隙間がない。

 

 「うらぁ!!」


 巻きついた尻尾は、抗う力などものともしない。龍の尻尾の気のままに、ナキは吹っ飛ばされた。少年といえど、ナキは人間。人間の重量を尻尾一つでこんなに飛ばすとは、龍人の素の能力は、ナキ達人間より圧倒的に高い。

 でも、負ける理由にはならない。

 

 「かっは、...!」


 血反吐が出る。鉄の味が口内を回っていく。気持ち悪い感覚だ。痛さよりも衝撃で意識が失くなりそうになる。それでも左手に握った根っこを落とさなかったのは、紛れようもなく、ナキの意地だった。


ーー「お前さ、何で剣なんか使うんだよ」


 ジキラが呆れたように、ナキに言った。先ほど圧倒的な実力で負かされたナキは、何回も言われた文句を聞き流せないでいる。

 ナキだって、剣が体に馴染まないことはよく分かっていたから。そもそも、剣の才能がないのだ。透明な剣にしても、何も変わらない。


 「ユアンさんに憧れるのもそろそろ辞めとけよ」


 ぎくっと、肩が強張るのを感じた。図星だからだ。ナキの義理の親であるユアンは、想起士であり、剣を得意としている。その剣捌きはジキラだって到底足元にも及ばない。そんな彼のもとで暮らしていれば、憧れるのも仕方ないじゃないか。


 「弱い悪物だったら良いが、皮膚が硬い悪物がいたとすれば、お前の剣じゃ斬れない場合があるだろ」

 「だから、殴り合いでもしろって?」

 「ああそうだ。お前には意地があるからな」

 

 馬鹿にした目だ。けれど、ナキもそうではないかと思い始めている。ユアンやジキラのような闘い方ではなく、ヨハネスのような闘い方が合っているのではと、密かに思っているのだ。


 「それと最後の方、集中切れてただろ。攻撃がばればれだ。もっと頭使えよ」

 「使ってただろ。創造の形変えたり、土埃上げたり」

 「違う。分かりやすいんだよ。確かに工夫はしてるが、予備動作で全部分かる」


 確かに、これをすると決めたら、一直線にやってしまうきらいがある。予備動作は確かに、分かりやすいのかもしれない。悔しくて、ナキは前を向く。これ以上みじめになるのはごめんだった。


 「確かに、お前のは分かりにくい...ーー」

 

 一呼吸置いて、喉に出かかった言葉を転がしてみる。すると、なんだかすっきりするような澄んだ風が流れた気がした。


 「俺が焦ってた時、勝ちに急いだ時...不意打ちするなら、機会を見ろ。って、ことか」

 

 ジキラは、口端を弧に曲げた。まるで教え子のようで、ナキは苦虫を噛み潰す。悔しい。いつか、ジキラに絶対に勝ちたい。そう強く思ったーー 

 

 木の幹が自身に降りかかった威力を返そうと、ナキの全身を押し出そうとしていた。二度目の攻撃だ。受け身は取れる。舌を噛み、意識を堪える。

 ゼラニムは、拳を構えていた。


 「なに?!」


 木の幹がナキを跳ね返す。ここまでナキは、ゼラニムの思惑通りだ。

 左手を強く握る。ゼラニムが放った、鞭のような根っこだ。吹っ飛ばされる時、左手で掴んでいた。

 今更気付いてももう遅い。ナキは先のゼラニムのように、精一杯に根っこを振り払う。

 根っこはゼラニムへ向けられている。鞭のようにしなり、やがて先端が。

 パン!

 ゼラニムには、当たらなかった。根っこの先端が短かったか、意味のない所に音を出して空気を壊す。

 目を見開いたゼラニムは、不発を悟ったのか、眼光をナキに固定する。


 「終わりだ」

 

 そうして繰り出される拳は、確信に満ち溢れていた。ナキも、右拳に透壁を創造し、ゼラニムに向ける。

 ゼラニムとナキでは、身体能力に差がある。当然龍人のゼラニムの方が拳の威力は高い。拳を交えても、勝つのはゼラニムで、ナキが打ち勝つ可能性は限りなく低い。かといって、前みたいに防御するにも、創造する時間がない。急造だって、あっけなく壊されてしまうだろう。威力は少ししか変わらず、一溜まりもない。

 今だろ、ジキラ。

 絶対に勝ったという確信。先程のゼラニムの表情は、そういった類のものだ。相手の小僧は龍人に、悪物に翻弄され成す術がない。気を衒ったつもりの攻撃も底を尽きた。そう思っている。後は止めを刺すだけ。

 それが、ゼラニムの隙だ。視野が狭くなった今なら決まる。

 拳が眼前に迫る。その瞬間。

 ナキは、空中で腰を捻った。同時に、右肘を下から全力で突き上げた。


 「なっ...!!!」

 

 右肘に想像した長い透明な円筒物。右拳の攻撃動作は囮であり、ナキの狙いは、ゼラニムの顎下だ。

 跳ねっ返りの勢いを加味した攻撃は、綺麗に直撃する。たとえ龍人が丈夫であっても、この威力の顎下への攻撃は、気絶したって不思議ではない。

 だから、追撃する。

 勢いを利用して、左足をゼラニムの頬にぶち当てる。創造せず、全思考を蹴りを当てることに尽力する。全力の蹴りは、諸に直撃した。

 地面に降り立つ。地面があると感じると、ふらふらと視界が揺れる。脳が重くのしかかって、立っているのでやっとだった。

 疲労をかき消すように、倒れているゼラニムを見る。ナキが蹴ったであろう頬は赤く腫れ上がっており、伏した体は微動だにしていない。

 

 「あっはははは!!ゼラニムくん、人間の少年に負けてるよ!滑稽だぁ!」


 遠くでセンプウの声がする。皆は馬車の上から、各々の表情でナキを見ている。ベーレがこれ以上ないくらいの興奮した声で叫んだ。


 「めっっっっちゃすっきりした!ナキって呼んであげるわ!ナキ!」


 センプウはまだ笑っている。ドスは読めない。ハクビは真剣に、倒れているゼラニムを見つめていた。

 

 「助けるまでもなかったか」


 背後から声がした。振り返ると、気絶しているゼラニムの奥に、龍人が立っていた。顎下の髭が揺れる程長く、禿頭らしき頭の両側には、少しの白髪が残っていた。二本の角は、ゼラニムの物より格段に小さい。

 老人の龍人の瞳がナキを映し出す。海のような広大さを思わせる青い瞳に映れば、自分のちっぽけさが露呈する。無性に動きたくなって、身動ぎしてしまう。


 「あなたは...?」

 「儂はトウロウ。愚息が申し訳ないことをした」


 トウロウは頭を下げる。突然の行動に既視感を感じながらも、疲労したナキの体では慌てることも出来なかった。あ、いや...そんな呟きを、トウロウはどう受け取ったか、下げていた頭を上げる。


 「お詫びに、歓迎させて貰う。本当に、申し訳ない」

 

  ◯


 そもそも、里の入り口は見えていたのだ。入り口には二人の龍人が警備していたそうで、その内の一人が遠くの異変を感じて、ゼラニムが馬車の前に立っていたのを見つけた。その後、面倒くさそうにトウロウを呼びに行ったのだそうだ。

 トウロウが駆けつけている頃には、戦闘は既に始まっていた。ゼラニムが気絶したところで顔を出したのは、殺し合いではないと確信したからだ。

 

 「ゼラニムくんは、トウロウ殿の出涸らしだね!」

 

 センプウはことあるごとに気絶しているゼラニムを揶揄っているが、それに言及する者はいない。

 それでもベーレ辺りは、ゼラニムへの侮辱に笑いを堪え切れないようだ。爆笑している。

 そんな光景を、トウロウは暖かく微笑していた。仮にも息子を馬鹿にされているのだが。


 「里に着いたら、イト以外は埋葬。イトは一足先に床につく。であれば、儂はイトを案内しよう。ハクビ達は墓に案内してくれ」

 「分かりました」

 「里長には儂から言っておくが、明日の朝でいいのか?」

 

 トウロウはセディアへと問うと、彼女は笑顔で答える。


 「もちろん有難いです。何から何まで、お世話になります!」

 「いやいや、愚息が迷惑を掛けたのだ。これくらい朝飯前にもならんよ」


 ゴーンと呼ばれた筋骨隆々の馬は、元々ゼラニムに懐いた悪物だそうだ。気絶した主人を見て何を思ったか、素直に走り出した。

 そうして、里の入り口に差し掛かる。遠くで見た里の景色は、近くで見ると凄まじい。龍人が洗濯物を籠に入れ歩いている。それを不思議そうな双眸で見つめる栗毛の狼。滝の勢いで虹がそこかしこに現れていて、崖の上から尻尾を持った子供達が飛び込んで遊んでいる。飛び込んだ湖には、駱駝の瘤をのようなものを背中につけた大山椒魚が、大きく飛び上がる。

 龍人と悪物が、視界いっぱいに広がった。

 ゴーンが止まると同時に突然、ベーレが立ち上がる。愉快な声音で、両腕を目一杯に広げた。


 「ようこそアンテールへ!歓迎するわ!」


 ナキ達は、目を輝かせていた。見たことない光景だ。こんなに綺麗で、空気も美味しい。興奮しないわけがない。けれど、心のどこかで冷静な自分が安堵していた。

 やっと着いた。

 全身の力が抜けて、振り返る。

 リリーは、ゼラニムに奪われることはなかった。

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