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創造世界  作者: ナンパツ
第二章 ガランの方舟
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第十三話


 ーー「長旅は疲れたろう!お前達の家を創ってやる!」


 ガランがそういうと、突然床が隆起した。もくもくと形を作り、あろうことか、家を創ってしまった。それが四人分。リリーの為に、厩舎まで作ってくれる始末だ。巨騎士のいるキョウには一層大きな家を創ってくれた。

 リリーの傷は、アラギラというお婆さんが見てくれた。包帯を巻き直して、傷を綺麗に洗ってくれた。傷に効くという軟膏を塗って、安静にすれば大丈夫だという。ほっとして、どっと疲れが溢れ出す。ナキの肩にも、軟膏を塗ってくれた。

 ナキにはもう、ガラン達が神聖なものに見えてきた。汚い髭面が、聖書か何かだと思っている。

 ガランが創ってくれた家の中で、ナキは寝台に横たわる。

 大蛇の腹の中は、ガランと少年の意のままに操れるという。キョウの巨騎士のように、糸目想起士のライギルドのように。命令すれば、何でもではないが、多くのことをさせられる。

 ガランが家を創ってくれたというのに、複雑な思いになってしまう。

 

 「......」

 

 そんな思いに駆られても、睡魔からは逃れることは出来ない。久方ぶりの食事、安住だ。疲労から、安堵から、やっと、ナキは心から、眠ることが出来た。

 

 ◯


 「いっ?!」


 久方ぶりの快眠の中、布団の上から衝撃が来る。勢いに目を覚ませば、ルフリア、セディア、イト、キョウの四人が、ナキの視界を囲んでいた。

 セディアが言う。


 「情報整理しましょう。ナキちゃん」


 ちゃん?

 寝ぼけた思考で寝台を降りる。すぐそこに、丁度四人座れるような机があった。昨日には無かったものだ。おそらくルフリアが創ったのだろう。銀色の机なのだから。

 四人は同じく創られた銀椅子に座り、机を取り囲む。

 

 「今日までとことん臨戦状態だったからね。話しておかないと、フェアじゃないでしょ?」

 「フェア...」

 「うん。フェアじゃない」


 これまで、命の危機しか無かったものだから、四人の経緯は知らなかった。分からないことが出てきたりすると、あぶれ者の感覚を覚えることもあった。確かに、平等ではない。

 話してくれる気があったことに少し安堵しながら、セディアが慎重に話し出す。


 「私達は、空から来たんだよ?ナキちゃんが言う化け物、カイルの中で暮らしてたの」

 

 ナキも、前のように取り乱すことのないよう、注意して聞いていた。


 「丁度ここみたいに、家も、水も食料もあった。落ちるまでは、結構幸せだったんだけどねー」

 「ここみたいに?」

 「うん。ちなみに、すっごい人多かったんだよ。それこそ、一つの国みたいなものだったなー」

 「そうなのか」

 「そして、ここが紅一点!」


 セディアは身を乗り出し、机を叩いた。ガランの叩きを見た後だからか、なんだか小さく感じる。


 「カイルの中では、無人、創人、無創人、三つの人種が仲良く暮らしていたのでしたー!」

 「無...人」


 セディアは陽気に声を張り上げる。空気に抱きつくように、両腕を広げていた。ルフリアとイトは何一つ表情を変えていないが、ルフリアは一定の律動で手を叩いている。キョウは緊張した面持ちで、立派な姿勢で椅子に座っていた。

 そんな不協和音にも気づかない程、ナキの心境は目まぐるしくも、一点に静止していた。


 「あ、あれー..?」


 聞いたことがある。いや、聞いたことも、見たこともある。夢だ。夢で見て聞いたのだ。無人という言葉を、激しい憎悪を。空から落下する、男の内を。


 「..ごめん。続けてくれ」

 「大丈夫?」

 「ああ」 


 突然黙ってしまうと、勘繰られてしまう。今はセディアの話を聞かなければならない。

 そんなナキを、ルフリアはじっと見つめていた。


 「無人っていうのは、創造が出来ない人達のこと。創人っていうのは、ナキちゃんやルフリアちゃんみたいに、創造が出来る人達のこと。そして、無創人っていうのが、その名の通り、無人と創人のハーフ。創造は出来ないけど、鍛えれば創人みたいに強くなれちゃう!...っていうことなんだけど」

 「続けてくれ」 

 「う、うん?」


 ナキの反応があまりに淡白で、セディアの目が点になってしまっている。ナキ自信そう思うけれど、それでも逸る気持ちが抑えられずにいた。

 ごほんと空気を整えるように咳払いして、セディアは続けた。腰あたりの肩掛け鞄は、セディアの気持ちを表すように揺れていた。


 「まあ、なんやかんや平和に暮らしてたんだけど...一部の人達が内紛を起こしてーー」

 「ーー崩壊した」


 言いにくそうなセディアの代わりに、ルフリアが口を開く。セディアはそのまま、大人しく椅子に座った。


 「逃げた先に、お前がいたという訳だな」

 

 イトが、つまらなさそうに言った。椅子に身を任せ腕を組み、仏頂面で髭を生やしている。ガランとは大違いの髭である。


 「でも、どうやって地上に降りたんだ?空からだなんて、天馬でも居ない限り、無理だろ?」

 「そこは、このキョウくんがばっちりやってくれたからね!」

 「は、はい!やりました!」


 キョウに視線が集まると、素っ頓狂な声を出して固まってしまう。余程緊張しているようだ。沈黙が流れると流石に察したのか、恐る恐るに口を開く。


 「せ、正確には、僕の姉さんが、ですけどね..」

 「あの紅い大きな騎士のことだよ。ネリアちゃんっていって、キョクちゃんのお姉さんだよー」

 「あれが...?」

 「うん。姉さんがあの剣で、僕達を地上まで送り届けてくれたんだ」

 「世界一危険な滑り台だったな」

 

 あの時、悪魔の襲撃の前に、黒く長いものが空に現れていた。あれはそういう事だったのか。

 点と点が繋がって、段々と詳細が掴めてきた。だからあの時悪魔だと思っていた人間達は、逃げていたのだろう。キョウの姉、ネリアと呼ばれた巨騎士が、カイルからルフリア達を地上へ降り立たせる為に。


 「だけど、ほとんど殺された。今生き残ってるのは多分、私達だけ」

 「...俺達が、やったことだ」

 「そうだ。お前達がやったことだ」

 

 イトが追随する。ナキを見る目に力が籠り、抑えていただろう敵意が剥き出しになる。

 イトだけは、ナキを連れて行くことに反対だった筈だ。


 「お前を、殺したって良かったんだ」

 「イトちゃん」

 「黙れセディア」


 一寸の硬直状態の末、イトは扉へと歩き出す。大蛇の創った扉は鍵なんてものはない。ただの木製の扉だ。

 

 「まあ、好きにしろ。お前は脅威でもないからな」


 イトが外に出てから、ナキは俯いた。周囲に喧騒はなく、恐らくナキを見ているのだろう。


 「...イトさんも色々あったんだ」


 俯き続けているナキに気を遣ってくれたのか、ルフリアは始末が悪そうだ。

 手が震え出した。ナキはこの手で、人間を殺したのだ。それは、今目の前にいる人達の仲間だった。逃げようとしただけなのに、こちらの都合で、人間を無碍に殺した。

 今もこの手に蘇る感触を、克明に思い出す。取り返しの付かない、人を殺すという行為。

 それでもナキは力を込めて、拳を握る。

ーー「一緒にこんな世界、変えようよ」


 「まあ、落ちるまで面識なんて無かったんだけど」

 「...」


 もしかしたらルフリアの言葉は、適当に流すのが良いのかもしれない。

  

 「こんな所、ですかね..?」

 「んまぁ、イトも居なくなっちゃったし、細かいことは後でいっか。じゃあ、皆で挨拶回りでも行かない?」

 

 外に出ると、整備された集落が目に入る。珍しいのは、都会のように整備されている点だ。一般的な集落のように牧歌的ではなく、人工的な創りだった。

 

 「そこのお兄さん!おはようございまーす!」


 セディアが快活に声をかけると、男は振り返る。笑顔なセディアとは正反対に、男は死んだような顔をしていた。顔が青く、痩せこけている。

 

 「こんにちは...」


 明らかに元気がないその声には、どこか聞き覚えがあった。


 「昨日の解体、貴方ですか?」

 

 恐る恐る質問すれば、男は少しはにかんで見せた。眉を下げて、困ったように会釈する。


 「えぇ。私は料理人ですから」

 「料理人!」

 「美味しかったです。本当に。有り難うございました...」

 

 男の痩せこけた顔を見ると、絶品のお刺身の味を思い出す。心からの礼を言えば、今度は本当に嬉しそうに表情を変えてくれた。

 

 「俺、ナキです」

 「私はセディアです!こっちはルフリアちゃんと、キョウくん。今はいないけど新しいおじさんはイトって言いまーす。料理、ありがとうございました!」

 「有り難うございました」

 「あ、ありがとうございます」

 「こちらこそ、有り難う。私はジョンハット。これから..宜しくお願いしますね」


 礼儀正しく、男はお辞儀をしてみせた。別れた後の背中は、どこか寂しそうで、奇妙な感覚を覚えた。


 「挨拶とは立派なことではないか!」


 疲れた背中を見送っていると、大柄な男、ガランが、頭布を巻いた少年と、レディを連れていた。

 少年とレディは不満なようで、未だ睨まれている。ナキと同じくらいの年のように思えるので、なんだか複雑だ。


 「ここでは何をしても自由だ!そこのロジバルトのようにはならんから、安心して永住してくれ!」

 「永住..」

 「お前達はもう、俺の家族だ!ガハハハハ!」


 ガランはさも当然かの様に、豪快に笑っている。紡がれた言葉の違和感に気づきかけていた時、頭布を巻いた少年が前へと出る。


 「ここでは、一日三回鐘が鳴るんだ」

 「鐘?」

 「ああ、それが鳴ったら、昨日の食卓に来てくれ。鐘が鳴ったら直ぐだ。

 「ガランの食卓さ!」


 ガランは陽気に叫んで、子供のように両手を広げている。


 「ガランの、食卓?」

 「ああ!楽しいぞ!ガハハハ!」


 にこっと笑んで、ガランはどこかへ行ってしまう。頭布の少年はそれに続いて、ガランについていく。レディはこちらを睨みつけながらも、間隔を置いて少年の背を追いかけた。


 「念を押すんだけど」


 呆気に取られていると、少年が振り返る。レディはすぐに止まって、少年と同じように振り返る。表情は別物で、あからさまに怒っている。


 「鐘が鳴ったら直ぐだよ」


 それだけ言って、少し足早にその場を後にした。残されたナキ達は、静寂の間に考える。


 「...なんか、家族にされたんだが」

 「そうだね」

 「ちょっと、不気味なんだが」

 「そうだね」


 思ったことを口にすれど、帰ってくるのは適当な返事。セディアやキョウを見ても、なんとも言えない表情をしていた。

 取り敢えず、鐘が鳴ったら、昨日のガランの食卓とやらに行ってみるしかないだろう。

 ナキは少しもやもやとしながらも、集落の風景を見る事しか出来なかった。

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