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婚約者が急にツンデレを始めましたが、どうにも下手です。

作者: 石動なつめ

「べ、別に、一緒にお昼を食べるのは、ミラのためじゃないんだからなっ」

「何ごと⁉」


 唐突に婚約者のジャンからそんなことを言われたものだから、ミラは吃驚してしまった。

 食堂で一緒にお昼を食べていただけなのに、何の脈絡もなくそう言われたのだ。

 ミラは思わず、持っていたフォークをぽろっと落としそうになってしまった。


「じゃ、ジャン……?」

「あっ、大丈夫?」


 あまりにも驚いた顔をしていたせいか、ジャンは心配そうな顔でそう聞いてきた。

 その表情と声はいつも通りで、今のよく分からない態度は見間違いだったのねと安心して、ミラは「大丈夫」と返す。

 するとジャンは、ほっとした表情を浮かべた後で、ハッ、と何かを思い出したように目を見開いて、


「べ、別に、心配しているんじゃないんだからなっ」


 ……再び似たようなことを言い出した。

 心配しているんじゃないも何も、どう考えても心配してくれていたようにミラには思える。


(な、何だろう……これは……)


 ミラは頭の上に疑問符を浮かべながら、


「えっと、ジャン? どうしたの? お腹とか痛い?」


 とりあえずそう聞いた。

 急におかしなことを言い出したので、どこか具合でも悪くなったのだろうかと、ミラも心配になったのだ。

 するとジャンは、


「ミラが心配してくれた……」


 と、頬をポッと赤らめている。これはいつものジャンである。

 しかし、やはり少しして、ハッ、と目を見開くと、


「ぼ、僕は問題ないともっ! ミラに優しくしてもらえて嬉しいけれど、嬉しくなんてないんだからなっ」


 先ほどと同じくおかしなことを言っている。


(どうしよう……)


 ミラは赤い目を見開いて、たらり、と冷や汗を流しながら心の中でつぶやく。

 自分の婚約者、何かおかしなことになっちゃった、と。



 * * *



 ミラ・パルマは、パルマ伯爵家の跡取り娘である。

 将来は婚約者のジャン・マルテと結婚して、家を継ぐことになる。


 他の婚約者同士がどうかは知らないが、ミラとジャンは母親が親友同士ということもあって、幼い頃から一緒に遊んでいて仲も良かった。

 婚約者となってからも良好な関係を築いている。

 その一番の理由は、お互いがお互いのことを大好きだからだ。


「ねぇ、ミラ。僕、ミラのことが大好き。だから大人になったら僕と結婚してくれる?」

「いいよ、私も大好きだもの! ジャンが私のことを、ずっとずっと好きでいてくれたら、結婚する!」


 会うたびにそんなやり取りをしていたものだから、すーっと婚約者になって、周りからも微笑ましい眼差しを向けられていた。

 それは成長してからも変わらずで、王立学園へ入学してからも二人は仲睦まじく過ごしていた――のだが。


 それが今日唐突に、おかしなことになってしまった。


(お昼のあれは何だったのかしら)


 本日の授業が終わり、図書館へ本を返しに行こうと歩きながら、ミラが昼食時のことを思い出していると、


「ミラ、待って。それ重いだろう? 僕が持つよ」


 ジャンがそう言って駆け寄って来た。

 おや、と思ってミラが足を止めて顔を向けると、そこにはいつものジャンがいた。


(あ、良かった。私の知っているジャンだわ)


 ミラはほっとして微笑む。


「ありがとう、ジャンは優しいね」

「っ、べ、別に、ミラのためじゃないから。僕が持ちたかっただけだからねっ」


 ――しかし、見慣れたジャンは一瞬で、おかしなジャンになってしまった。


 ジャンはミラから本を受け取ると赤くなりながら、ぷいっ、と顔を背ける。


(こ、これは気遣ってくれているのかな……?)


 彼の言葉のままを受け取るとそうじゃないかと思うのだが、態度が変だ。

 昨日までのジャンであれば「僕が持ちたかっただけだから」なんて微笑んでいたはずだ。台詞の前半部分はなかったと思う。

 気遣ってくれているのは間違いないとは思うが、本当に一体どうしたのだろうか。


「ジャ、ジャン、何かあったの? お昼からずっと様子が変よ?」

「へ、変? そ、そう? そんなことはないと思うけど……?」

「どうして動揺するの」

「い、いや、動揺なんてしていないよっ」


 ジャンは首をぶんぶん横に振る。しっかり動揺している。

 うーん、とミラは首を傾げた。


「いつも通りのジャンなら、別にミラのためじゃないから、とは言わないわ。ミラのためだからって言うでしょう?」

「うっ! そ、それは……」


 ミラが指摘をすると、ジャンは軽く仰け反って言葉に詰まった。


 ミラの婚約者はミラのことが大好きで、何かしてくれるたびに「ミラのためだから」「ミラだけだよ」と言ってくれるのだ。

 少々恥ずかしくなることもあるが大事に想ってくれていてミラは嬉しいし、それならばと自分も「ジャンのためだもの」「ジャンだけよ」と同じように返している。

 だからジャンの態度がいつもと違うのはすぐに分かったのだが、何故こうなったのかだけは分からない。


(もしかして私、ジャンが嫌だって思うことをしてしまったのかしら……)


 自分では気が付かない内に、彼に嫌われることをしてしまった可能性は十分にある。ミラの顔がさあっと青褪めた。


「あ、あの、ジャン……もしかして私、あなたに酷いことをしてしまったんじゃ……」

「えっ⁉」


 ミラはおろおろしながら、恐る恐るジャンに訊く。

 するとジャンがぎょっと目を剥いた。


「えっ、ど、どうしたのミラ、そんな悲しい顔をして。ミラは何もしていないよ?」

「だ、だって、ジャンの様子がいつもと違うし……愛想を尽かされたんじゃないかって……」

「ま、待って! ないよ、絶対にない! だって僕は、毎秒ミラをかわいいと思っているのに……!」


 ジャンは本を片手に抱えると、もう片方の手でミラの手をぎゅっと握った。

 その手が温かくて、嫌われてしまったらどうしようと不安だった心が、ちょっとだけ落ち着く。


「そうなの?」

「そうだよ。ミラのことかわいいと思っています、心の底から。僕の婚約者は世界で一番かわいい。いや本当にかわいい……えっ、吃驚するくらいかわいい、どうしてこんなにかわいい子が世の中に存在するの? すごい……」


 途中からうっとりとした顔で「かわいい」と連呼され、ミラは自分の頬に熱が集まるのを感じた。


 ジャンはこんな風によくミラを褒めてくれる。 

 ミラは自分の容姿が地味で平凡だと自覚しているが、彼のおかげで自己肯定感が高まった。

 容姿についてチクリと嫌味を言われても「ジャンがかわいいと言ってくれるからなぁ」とまったく気にならない。

 そのお返しにミラもジャンのことを「かっこいい」「素敵」と褒めるようになった。ちなみにお世辞ではなく、こちらも本心である。


 ――まぁ、それはともかく、である。


 本来のジャンは確かに存在していて、そしてミラは嫌われたわけではない。

 とりあえずそれだけは分かったが、おかしな言動を取る理由については相変わらず謎である。


(でも、何か妙に既視感はあるわ。何だったかしら、これ。最近、見たことがあるような……)


 そう考えていると、ふと、ジャンが持ってくれている本が目に入った。

 おっとりとした女性主人公と、素直になれない『ツンデレ』という性分の男性の恋物語である。

 友人から「今はこれが流行っているのよ」と教えてもらったミラは、一度読んでみようと思い、学校の図書館から借りたのである。


 内容は実に面白かった。主人公と男性が、そのツンデレのせいですれ違いそうになるシーンに「今! ここで! 素直にならなくてどうするのっ」と思わずツッコミを入れてしまったくらいだ。面白くて、最後まで一気に読んでしまった。

 今日はこの続きを借りようと思っていたのだが……。


(ん? ツンデレ?)


 そう言えば、今日のジャンの言動は、本に描かれていたツンデレ男性と似ている気がする。


「ねぇ、ジャン。本当に今日は変よ。一体どうしたの? 今日のジャンは何かこう……その本に出てくるようなツンデレみたいなことを言っているわよ?」


 ツンデレの別表現が思いつかず、ミラがそのまま言うと、ジャンの表情がパッと明るくなる。

 彼は綺麗な青い瞳をキラキラと輝かせながら、ずいっとミラの方へ近付いた。


「そう⁉ 僕、ツンデレみたいだった⁉」

「えっ、う、うん。そうだね?」

「そっかぁ! 良かった!」

「良かった……?」

「あっ。な、何でもない。そ、そんなことより図書館へ行くんでしょう? ほら、早く行こう!」

「あ、うん……」


 ジャンは少し慌てた様子で首を振ると、図書館へ向かって歩き出した。


「いや、まさかね……?」


 何となく嫌な予感を感じながら、ミラはその後を追いかけたのだった。



***



「……というわけで、ジャンの様子がツンデレなの」


 翌日、学園へ登校したミラは、友人のユミアにジャンのことを相談していた。

 こういう時に違うクラスなのはありがたいと思いながら、昨日のことをユミアに話すと、


「ああ、うん……その、実はね、あなたたち一体何しているんだろうって、皆噂していたわ」


 彼女はちょっとだけ申し訳なさそうな顔でそう答えてくれた。

 噂されるほどだったのか……とミラは軽く衝撃を受ける。

 しかし、それならば説明の手間が省けてありがたいとミラが思っていると、


「でも、何で急にあんなツンデレみたいなことを言い出したのかしらね」


 ユミアは不思議そうに首を傾げた。ミラは大きく頷く。


「そう! それが分からないの! ツンデレみたいって言ったら何か喜んでいるし……何ならカフェでケーキを奢ってくれたわ……美味しかった……。美味しくて追及するのを忘れた……」

「ミラ……」


 ミラが学校を出て立ち寄ったカフェで、ジャンと一緒に食べた苺のミルクレープの味を思い出していると、ユミアから残念なものを見る目を向けられてしまった。

 そうしていると、


「ユミア、ミラさん、何の話?」


 と別のクラスメイトが声をかけてきた。

 ユミアの婚約者のゼンだ。


「あら、ゼン。ちょうど良いところに来たわね。ねぇ、ジャン君がおかしくなった理由を知らない?」

「あいつはいつもおかしいだろ?」


 するとゼンはきょとんとした顔で首を傾げた。

 あまりにも当たり前のように言われて、ミラは少々面食らったが、言われてみれば確かにそうかもしれない。もっとも、ミラも似たようなものだけれど。


「まぁそれはそうだけど、ほら、昨日はいつにも増して変だったんでしょう? 何かツンデレっぽいことを言い出したねってミラと話をしていたのよ」

「ああ、なるほどね? でも、それなら知っているよ。あれだ。男子の間で、瞬間的にツンデレがブームだったんだよ」

「ブーム?」


 おや、とミラが目を丸くする。

 ゼンは「実はね」と人差し指を立てた。


「女子の間でツンデレ物が流行っているって聞いたから、婚約者に好かれたくてツンデレになってみようぜって話があってさ。それでやってみたんだけど……練習の段階でほとんどが挫折したから、まともにやっているのはジャンだけだ」

「ジャン……ッ!」


 思ったよりもどうしようもない理由で、ミラは頭を抱えた。 



***



「これが原因だったかぁ~……」


 放課後、ミラは中庭のベンチに座って、図書館から借りて来た本を眺めていた。

 例のツンデレ物の恋愛物語の続編だ。

 確かにこれを読んで楽しんだのは事実だけれど、まさか現実でこういう展開になるとは思ってもみなかった。


(驚いたけれど、好かれたいって思ってやってくれたのよね……)


 思うところはあれで、その気持ち自体は嬉しくてミラはにへらと笑う。

 何だかんだでミラはジャンが好きだ。幼い頃からジャン一筋なのだ。そしてジャンが自分を好いてくれていることも知っている。

 そんな相手からもっと好かれたいと思われるのは、それはそれで悪い気持ちはしなかった。


「……ハッ! そうだわ、これはもしかしたら、私もツンデレになるべきではっ⁉」


 唐突に、そんな考えが降って来た。


「そう、そうよ。してもらう側に甘んじているなんて、そんなのダメよ。してもらったらその分お返しをしなくっちゃ……そうよ!」


 ミラはぐっと両手に力を込めると、ベンチから立ち上がる。

 そしてくわっ、と目を見開いて、ジャンの教室へ向かうべく歩き出した。


「あれ~? ミラちゃんじゃん、めちゃめちゃ気合い入っているけど、どうしたの~?」


 するとその時、ジャンのクラスメイトから声をかけられた。

 放蕩息子で有名な男子生徒だ。出来れば距離を置きたいタイプだったので、ミラは名前すらあまりよく覚えていない。


「あ、どうも。急いでいるので失礼します」

「待って待って、めっちゃクールじゃーん! そういうところもかわいいけど、せっかく会えたんだからお話しよ~? ジャンと一緒じゃないの珍しいしぃ」

「しません。失礼します」


 すん、とした顔で断るミラだったが、彼はめげずに近寄って来る。

 断っても諦める気配のない男子生徒に、ミラは言葉で断っても無駄だなと理解し、スッと早足になった。


「うお、速っ⁉ でも走らないんだね⁉」

「廊下を走るのは規則で禁じられているので」

「もう、俺と話すのが恥ずかしいんでしょ? 照れちゃって~!」

「色んな意味で恥ずかしいですね」


 いつもの朗らかさが嘘のように、ミラは淡々と返す。完全な塩対応だ。

 しかし、ここまでしているのに男子生徒は気にせず、ミラの歩く速度に合わせる。


(くっ、脚の長さめ……!)


 自分の歩幅を恨めしく思いながら、ミラはとにかく前へ進む。 

 ジャンのところまで行けば、彼もこれ以上しつこくはしてこないだろう。


「ね~。ミラちゃん、俺のこと好きだからって、そんなツンツンな態度取っていないでさ、ほら、かわいく笑ってよ~」

「いやよ。どうしてあなたにツンデレをご披露しなきゃならないの。勘違いしないで。あなたのこと、ちっとも好きじゃないわ」


 ミラがキッと睨んでそう言った時、


「――えっ」


 ジャンの驚いた声が耳に届いた。

 見れば、廊下を曲がった先にジャンが立っていて、彼は目を見開いて、とても驚いた顔をミラへ向けていた。


「あっ、ジャン――」


 大好きな婚約者と会えたことに、ミラがほっと息を吐く。

 しかしジャンの反応は、ミラの想像していたものとは違った。


「……っ、ミラっ!」


 ジャンはミラの方へ駆け寄ってくると、手を握って自分の方へ抱き寄せた。

 えっ、と驚く間もなく、ミラはジャンの腕の中に閉じ込められる。

 見上げると、彼は悲しそうな顔でミラを見ていた。


「ミラは……そいつのことが好きなの?」

「ううん、全然好きじゃないよ。名前も知らない。ジャンのクラスメイトってことくらいしか知らない」

「えっ」


 ミラがはっきり否定すると、名前も知らない、の辺りで男子生徒の顔が引き攣ったのが横目で見えた。

 まさか、そこまで認識されていなかったとは思わなかったのだろう。


「マーカス。……だいぶ前に、ミラと婚約しようって画策していた奴」

「そうなんだ?」

「そうなの。覚えていない? ほら、ミラの誕生日会でプロポーズされたでしょ」

「まったく覚えていないのだけど……」


 ミラは首を横に振る。本心だ。

 言われてみれば、十歳かその辺りの誕生日会で、顔は見たような気がするけれど、プロポーズなんて大層なことをされた記憶がない。

 ミラが眉根を寄せて「うーん……?」と思い出そうとしていると、ジャンの腕の力が少し弱まった。


「それなら良いか」

「良くないんだけど? あーもー、本当にミラちゃんってば、昔からジャン一筋だよねぇ……」

「僕も一筋なんだよ」

「そうでした。あーあ、今ちょっと変な感じになっていたから、押したらいけると思ったんだけどなぁ」

「ミラにちょっかいかけないでくれる?」


 マーカスと呼ばれた男子生徒は、はぁ、とため息を吐いた。

 それから彼は恨めしそうにジャンを見て、


「だったら変なことして、ミラちゃんを不安にさせるんじゃないよ。こんなのに何で負けるんだろうなぁ、俺……」


 なんて肩をすくめて「今度は名前覚えていてね」とミラに言って、どこかへ歩いて行った。

 マーカスの姿が見えなくなってから、ミラはふうと息を吐いて、


「ねぇ、ジャン。そろそろ離して?」


 と頼んだ。ジャンは、ハッ、として「ご、ごめん!」と慌てて手を離す。

 感じていた温もりがなくなって、ほんの少し寂しさも感じながらミラは「助けてくれてありがとう、ジャン」とお礼を言った。

 しかし彼は「いや……」と、少々気まずそうに視線を彷徨わせている。


「ジャン?」

「あの、ミラ……。さっきマーカスに言った台詞……」

「台詞?」

「勘違いしないで。あなたのこと、ちっとも好きじゃないわ……って奴」

「それがどうしたの?」

「ええと、その……それって好きな奴に言う言葉じゃ……」


 そこまで言われて、ミラは「ああ」と理解した。

 ジャンはツンデレを演じようとしていた。そしてミラがマーカスに言った台詞は、ちょうどそのツンデレな人間が言うそれだったのだ。

 ミラが読んでいる本にも同じ台詞が書かれていた。あの時するっと言葉が出たのは、頭の片隅にその記憶があったからかもしれない。


「違うわ。私、好きな人には好きって言うし、嫌いな人には嫌いって言うわ」


 ミラは胸に手をあてて、はっきりとそう言い切った。

 ――まぁ、つい先ほどまでは、ツンデレを実践してみようなんて考えたりもしたのだけれど。

 その辺りはこっそり胸の中にしまいながら、ミラがジャンを見上げていると、彼は「そっか……」と安堵したようにつぶやいた。


「ごめん、ミラ。……あの、不安にさせた?」

「ちょっとだけ。でも、心配の方が大きかったわ。急にどうしたんだろうって。事情についてはゼン君から聞いたけれど……」

「ば、バレちゃったんだ。ご、ごめん、僕……」


 しょんぼりと肩を落とすジャンを見て、ミラは一歩分彼に近付くと、彼の頬に手を当てて、


「ジャンがツンデレにならなくたって、私はあなたのことが大好きよ。昔から、ずっとあなただけが大好きだもの」


 ふんわり微笑んでそう言った。

 するとジャンが大きく目を見開いて、がばっ、と再びミラに抱き着いて来る。


「わあ!」

「ごめんね、ミラ! やっぱり、僕にはツンデレは無理だ……! 冷たい態度を取ろうとしたって、全然出来ないんだから……! 大好きだよ!」

「っ、わ、私もよ、ジャン……!」


 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、ちょっと息苦しくなりながらもミラはそう返し、二人はしばしの間にこにこと微笑み合った。






「あいつ、ミラさんに対してだけは何であんなにポンコツなの?」

「恋は盲目って言うでしょう。好き過ぎて訳が分からなくなっているのよ」

「十年以上婚約者同士なのに常に鮮度があるんだよなぁ……」


 それをゼンとユミアと、それからマーカスの三人が見守りながら、苦笑交じりにそんな話をしていたのだった。

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