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アースガルドの写本師 ~魔導書が選んだ、禁断の真実~  作者: ましろゆきな
第三章:運命の選択、そして心と歴史の螺旋 
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第十五話:アラミスの葛藤と「恩義」の選択

「新たな魔導書」が、アルト王子でも、図書館長でもなく、異国の商人アラミスを選んだ瞬間、図書館を覆っていた緊迫した空気は、新たな次元の重みを帯びた。


 アラミスの胸元に吸い込まれた光は、彼の全身をまばゆく輝かせ、その内に膨大な知識と力が流れ込んでいくのを、彼は確かに感じていた。


「アラミス様!これで、魔導書は我らのもの!真の歴史を公にし、世界の秩序を覆す時です!」


 結社の幹部たちが、狂喜の声を上げた。


 彼らの目には、アラミスが魔導書に選ばれたことが、自分たちの目的達成を意味すると映っていた。


 豪商からの命令が、彼の脳裏に強く響く。

 この強大な力を利用すれば、彼の商会は、世界の歴史すら動かすことができるだろう。これまで孤児から這い上がり、冷徹な判断力で今の地位を築いてきたアラミスにとって、それはあまりにも魅力的な「現実」だった。


 しかし、同時に、彼の内には、市場で指輪を拾ってくれたかさねの純粋な瞳と、彼女が命をかけて守ろうとした図書館の真実の重みが宿っていた。


 魔導書は、まるで彼の「意思」を試すかのように、彼の心に潜む野心や欲望を呼び起こそうとする。

 強大な力が、彼に囁きかける。


「全てを手に入れろ。お前は、その資格がある」


 アラミスは、胸元に宿る魔導書の光を見つめながら、深く、深く息を吐いた。

 彼の青い瞳は、一瞬、激しい葛藤に揺れた。


 目の前には、満身創痍でかさねを守り抜いたアルト王子が、自身が選ばれなかった悔しさを押し殺し、それでもなお、かさねの安否を案じる複雑な表情で立ち尽くしている。

 かさねは、自身の写本がアラミスを選んだことに、驚きと共に、ある種の運命を感じているようだった。


(……恩人に、仇をなすことはできない)


 アラミスは、静かに、しかし確固たる決意を胸に、自らの選択を下した。


 それは、彼のこれまでの人生の全てを覆すような、「恩義」を優先する選択だった。


「下がれ」


 アラミスの声が、図書館に響き渡った。

 その声は、これまで彼が発してきたどの言葉よりも、重く、そして力強かった。結社の幹部たちは、彼の言葉に戸惑う。


「何をおっしゃいます、アラミス様!今こそ、我らの目的を……」


「愚か者め」


 アラミスは、冷たく言い放った。


 彼の全身から、魔導書から得た強大な魔力が、紫色の光となって噴出した。

 それは、暴走ではなく、完全に制御された、圧倒的な力だった。


「この力は、貴様らが弄ぶようなものではない。そして、彼女かさねが命をかけて守ろうとした真実を、貴様らの欲望のために汚すことは許さない」


 アラミスは、魔導書の真の力を制御し、結社の幹部たちへと向かって、一歩踏み出した。


 彼の周囲に、見えない障壁が展開され、幹部たちの攻撃を弾き返す。

 そして、彼は指先一つで、空間を歪ませ、幹部たちを次々と図書館の外へと強制的に転移させていった。

 彼らの顔には、恐怖と、アラミスの裏切りへの驚愕が浮かんでいた。


「……アラミス……?」


 アルト王子は、その光景に呆然と立ち尽くした。


 アラミスが、敵であるはずの結社を退けたことに、驚きを隠せない。

 かさねもまた、アラミスの行動に目を見開いていた。


 アラミスの顔には、苦渋の表情が浮かびつつも、どこか吹っ切れたような清々しさが宿っていた。

 彼は、自身の内に宿った魔導書の力を、豪商の命令ではなく、自身の「恩義」と「良心」のために使うことを選んだのだ。


 彼は、かさねに向かって、しかし誰に聞かせるでもなく、かすかに呟いた。


「この力は、私が持つべきものではないのかもしれない……だが、貴女が託したものを、私は決して悪用しない」


 アラミスの選択により、図書館の争奪戦は、ついに終わりを告げた。

 しかし、この選択は、彼自身の運命を大きく変え、かさねとアルト、そして世界の未来に、新たな螺旋を描き始めることとなる。

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