99.女王蜂蟻討伐依頼②
翌朝、時間通り門に向かえば、そこそこの人数が既に集まっていた。
「おはよー。開門と同時なんて久しぶりだぜ」
顔馴染に挨拶して回っていると、すぐに開門の時間だ。
「ペコーさん。まだ2パーティ来てないですけど、どうします?」
門が開くのを見ていると、ショータンがペコーに近付いて相談している。
「時間に遅れたら置いていくって言っただろ。その分報酬増えるから待つつもりは無え」
「ペコーさん、遅れてくるって分かってましたね?」
呆れるショータンの言葉にニヤリと笑うペコー。その顔を見て俺は気付いた。
200匹程度なのに依頼受けたからおかしいと思ったけど、何だ、そういう狙いがあったのか。
「組み分けはどうするんです?」
「俺とショータンの所に付くはずだった2級は無しでいいだろ」
「まあ、そっちの方がやりやすいからいいですけど・・・」
ショータン達が納得すれば、この話は終わりだ。俺等は別に負担が重くなる訳じゃねえしな。逆に報酬が上がって嬉しい所だ。
「なんか小ズルいですね」
「だな。待ってやればいいのに」
今の話が聞こえていた『転がった剣』の連中がブツブツ文句言っているが、そもそも遅れた奴が悪いんだよなあ。
「じゃあ、お前ら待ってればいいじゃん!俺等先に行ってるからよ。戦いが始まったらお前らの依頼は失敗扱いになるから急げよ」
・・・・・・・
わざと少し声を大きくして言ってみたら、他にもブツブツ何か言っていた連中も口を閉じた。そうそう、変な仲間意識なんて邪魔なだけだぜ。特に依頼で約束守らねえ奴らなんて特にな。
■
「取り敢えず巣はこの先らしい。予定通り俺等がぐるりと回りこむ。ショータン達は左側、ベイル達は右側に回り込め。俺等が回り込んだら笛を一度鳴らす。そしたら作戦開始だ報酬は人数割りだからな。抜け駆けなんて意味ねえからするなよ、ベイル!」
「うるせえな。する訳ねえだろ。俺はコーバス一足並み揃えるのが得意な組合員だぜ」
目的地に急ぎ進むと昼前っていうか多分10時頃には到着した。それで少し休憩と装備確認して行動開始って所でペコーからこの言葉だ。ちなみに遅刻した奴らは追いついてない。
「そうだな。みんなに足並み揃えさせるのは得意だったな。ただ、その間にてめえは何度一人で抜け駆けした?ああ?」
「おいおい、そんな怒るなよ、ペコー。昔の話じゃねえか」
まあ、あの頃は若気の至りって奴だ。逆にそんな何年も前の事をグチグチ持ち出して来て大人気ねえぞ・・・・って言ったらこいつら怒るだろうなあ。それで何度喧嘩になったか・・・・。
「お前らに先輩から一ついい話だ。ベイルと依頼受ける時は報酬は必ず人数割りにしろ。絶対に早い者勝ちにはするなよ。この馬鹿、ありとあらゆる手でこっちを妨害してくるからな」
「おいおい、新人に勘違いされるような事言うなよ」
「勘違いだあ?」
「てめえ、スープに睡眠薬混ぜたのも勘違いって言いてえのか!」
「ゴブリンキングがいるとかって嘘報告もあったな。どうするか全員で話している間に1人抜け駆けしてゴブリンの巣を全滅させたよな!」
「『香辛料爆弾』味方に投げてきた事もあったな」
「全く見当違いの場所に案内された奴もいたな」
「決めた時間守らず抜け駆けされた事もあった」
おいおい、何かペコーとその仲間から色々言われてるけど俺そんなひどい事したか?故郷じゃ毒盛られたり、後ろから斬りかかられたりしたんだぜ。俺のやった事なんて温い、温い。
「お前らそんな事で騒ぐんじゃねえよ。新人がビビってるじゃねえか」
「「「「騒ぐだろ!!!」」」」
「そんなくだらねえ話よりもさっさと動け。日が暮れるぞ」
「・・・・・チッ!てめえの言う通りだ。まずは依頼に集中だ。お前ら今の話に興味があれば街に戻ってからベテラン連中に聞いてみろ。喜んで詳しく教えてもらえるぞ」
余計な事言うなよ、ペコー。あいつら面白がってそれこそ盛りに盛って話をするだろ。まーた俺の評判下がるじゃねえか。
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・・・・・・・
ほらー。さっきの話聞いて『転がった剣』の連中がチラチラこっちを気にしているけど話しかけてこねえじゃねえか。ペコーの奴ら、碌な事言わねえな。この変な空気を変えるには・・・・雑談だな。そう言えばこいつらのパーティ名について聞きたかったんだ。
「なあ、フェイロー。お前らのパーティ名『転がった剣』ってどうしてそういう名前にしたんだ?」
「この名前ですか?それはパーティ結成時に床に剣が転がっていたからですよ」
いや、状況じゃなくて理由を知りたいんだ。
「そうじゃなくて、その理由が聞きてえんだ。もしその時に剣じゃなくて盾なら『転がった盾』ってなるんだろ?」
「・・・・あれ?もしかして筆頭って6級冒険者の話知らないの?」
ティモが少し驚いたように聞くけど、少なくとも俺はアーリット達が目指していたって事ぐらいしか知らねえ。
「知らねえ。俺はスラム育ちだからそういう逸話とか有名な話詳しく知らねえんだ」
親がいたら、寝る時にでも聞いて覚えたんだろうけどな。
「そう言えば筆頭はスラム育ちだった」
「そうか。有名だと思っていたけど知らない人もいるんだな」
「それなら私から説明を!」
そう言って前に出て説明してくれたのはイシュカだった。
聞けば、過去の有名な6級組合員ってのは、まだペーペーだった時には『落ちてた銅貨』、『絶対死なない』、『強い心』とかってパーティを立ち上げたから、それを習ってその時の状況や決意をパーティ名にするのが一般的らしい。
「それでももうちょっと格好良い名前の方がいいんじゃね?」
俺がそう言うと各自が呆れた顔で首を振る。
「ベイルさんに一つ有名な話をしましょう」
・・・・お、おう?何?
戸惑う俺を気にせずイシュカは話を続ける
「昔の話ですが、とあるパーティが結成して名前を『竜殺し』としたんですよ」
「おお!格好いいじゃねえか」
「でもそのパーティ、ゴブリンに負けて逃げ帰ってきたんですよ」
「・・・・・・」
「更にそのパーティ全員奴隷落ちしました」
・・・・・おーい。竜殺しー。
「もう一つ、これもよくある話です。とある街の名前に最強を付けたパーティがいました。ここでは例として『コーバス最強』としておきます。そのパーティどうなったと思いますか?」
「・・・・えっと、同じ様にゴブリンに負けた?」
「無級で逃げ出しました」
・・・・・・
最強って何ですか?デンプシーロール使えれば分かりますか?
「そういう訳で強そうな名前使うと、逆に弱く見えるから避ける傾向にあります」
「へー。そういう理由なのか。知らなかったぜ」
「筆頭はソロだから知らないかもしれませんが、この話は受付嬢からも教えてもらえますよ」
おいおい、その話も知らねえぞ。ソロだから仕方ないかもだけど、未だに組合の事で俺が知らねえ事あるんだなあ。
そうして雑談していると笛の音が聞こえてきた。ようやく行動開始だ。
「まずはランが1匹釣ってきて」
「分かった」
フェイローの言葉にランが茂みの向こうに走っていく。
「まずは僕らだけでも対応できるか確認するので、筆頭は手を出さないで下さい」
「はいよ」
そうしてしばらく待つとランが戻って来た。
「すぐに来る」
「分かった。ランは筆頭の所まで下がって援護して」
フェイローの指示で俺の所までランが来たと同時に茂みの向こうから蜂蟻が飛び出してきた。もうね、見た目スズメバチまんま。大きさは人と同じぐらいだけど地面を這っているから、頭が腰より下にあってすごく叩きやすそう。
まあ、そうは言っても所詮2級相当の魔物だ。2級のこいつらはかなり警戒している。まずはダイサが盾で止めてからフェイローとアブブが横から斬りつけ、他3人はいつでも魔法や弓で攻撃出来るように構えている。かなり安定した立ち回りだ。結果フェイローの攻撃は羽根に邪魔されて腹を半ばまで切り裂いた所で止まったが、アブブは頭と胸が繋がった細い箇所をきれいに切り落とした所で戦闘は終了だ。
終了したが、頭だけになっても蜂蟻はまだしぶとく生きて口をカチカチ打ち鳴らしている。流石昆虫、凄い生命力だ。そしてこのカチカチが仲間を呼ぶ音らしい。
ここからが本番だな。取り敢えず最初は『転がった剣』で対応するから、俺は荷物持ちの1級の護衛だ。
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「く、来るぞ!」
しばらく待つと茂みの中から3匹の蜂蟻が現れた。当り前だけど蜂蟻は既にこっちの姿を捉えて突き進んでくる。そこを盾を構えたアブブとフェイロー、ダイサが各々盾で受け止める。後はそれぞれ武器で頭を切り裂いたり、叩き潰して終了だ。まあ2級相当って言ってもこいつら数が多いから問題なんで、単体ならこんなもんだろう。
そうしていると最初の1匹がようやく動きを止めたので、トテトテ近づいて両断された頭と体を引き摺って1級の2人に投げる。
「ほら、暇なら解体しとけ」
「ひ、ひ、ひ、暇って・・・今、戦闘中ですよ!!」
「そうです。解体中に襲われたらどうするんですか!!」
「終わるまで待って解体してたら時間の無駄だろ。慣れたパーティは倒した獲物を率先して拾いに行って、どんどん解体してるぞ?」
「い、いや、だから襲われたどうするんですか!」
「ああ?てめえらは俺が守ってるから大丈夫だよ」
全く、臨時パーティだって言っても少しは仲間を信じろよ。俺は一度たりとも仲間を見捨てた事ねえんだぞ。故郷で見捨てられた事は何度もあったけどな!
そんな事言っている間にお代わりが来た。今度は5匹、しかも1匹飛んでるぞ。
「ティモ!イシュカ!空飛んでる奴を墜としてくれ!ランは1匹だけ時間を稼いでくれ」
フェイローの的確な指示が飛ぶ。飛ぶんだけど、こいつらこの調子だと6匹以上は対応出来ねえな。
案の定横の茂みから出てきた6匹目に対応できず、魔法使い組が襲われる。ティモとイシュカが声にならない叫びをあげるが、他の連中は気付いていない。距離的には同じ場所にいた二人だが運悪く狙われたのはイシュカだった。大きく口をあける蜂蟻に手に持つ杖を突き出し、何とか防ごうとするが、その目は堅く閉じられていた。
「はあー。危なくても最後まで目を閉じるな。ビビって目を閉じると、生き残れる最後の、あるかもしれないチャンスを見逃すぞ」
ビビるイシュカに注意しながら走り込んで、蜂蟻の横っ面をこん棒でぶん殴ると、地面を4~5m転がってからその動きを止めた。
顎をカチカチする様子もないから死んだ?
「あれ?思ってたよりしぶとくねえな。まあ、いいや、こいつ貰っていくぜ」
思っていたより生命力が無かったのが気になるけど、そのまま死体を引きづって1級の所まで持って行く。
「おい、お前らまだ最初の1匹解体終わってねえじゃねえか!仕事ちゃんとしろよ!」
「む、無理ですよ」
「せめて終わってからにして下さい」
「甘えんな!てめえら報酬抜きにするぞ!」
「ねえ、イシュカ。筆頭ヤバくない?」
「・・・・ヤバいですね。あの人足止めが得意なはずですが、攻撃力もとんでもないです」
「しかもめっちゃ走り回って死んだ蜂蟻回収してるんだけど・・・」
「ああいうのは全部終わってからと、ハルドンでは教わったんですが・・・」
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あの後は『転がった剣』の連中でも相手出来る数しか来なかったので、俺は蜂蟻の回収と解体を手伝ってやった。多分、今回20匹いなかったな。そんでしばらく待つと、他のチームの連絡役がやってきた。
「こちらはもう引っ張れないので、先に進んで問題ない」
「分かった。こっちも同じ状況だ。ペコーさんに伝えるからもう少し待っていてくれ」
そういうフェイローの言葉を聞くとランが姿を消した。ペコーに報告に行くんだろう。これでどこのチームも同じ状況だと分かったから、ここからペコーの合図で更に巣に近付いて同じ事の繰り返しだ。一応巣に近付くとあのカチカチ音を聞き取る蜂蟻も増えるから増援が多くなるんだけど、いきなり巣に向かわずにある程度数を減らすって作戦だ。これも蜂蟻の一般的な討伐方法らしい。
けど、俺はその作戦で少し疑問が浮かぶ。
「うーん。最初っから数おかしくねえ?」
「どういう事ですか?」
「フェイロー、よく考えろ。俺等でもう20匹倒してんだぞ。他も同じぐらいと考えると、4チームだから既に80匹だ。情報だと200匹って話だろ。数が多くねえか?」
「・・・・そ、そう言えばそうですね。次は20匹以上は釣れるでしょうから、数が全然合いませんね」
「そう言えば、この釣って数を減らす作戦って、よくて半分ぐらい減らせると読んだ気がします」
見た目通り博識のイシュカが詳しい事を教えてくれる。
「そうすると、400匹はいそうだな」
アブブがにやりと笑う。こいつはたくさんの蜂蟻と戦えそうで嬉しいんだろう。俺は報酬増えそうだとわかりニチャリと笑う。
ランが俺から一歩距離をとったのは何でだろうな?




