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96.撤退の合図

 アーリット達が王都に移籍して二月は経った。その間に街の復興は大分進み、瓦礫の撤去や物資の運搬はほぼ終わった。それで建物のガワはほぼ出来上がったので、今は建物の中の方の仕上げをやっている。その辺は繊細な作業が多いので、粗雑な組合員はお呼びじゃなくなり報酬のボーナス期間は終わった。今は無級か1級が数が少なくなった瓦礫撤去等の力仕事依頼を早朝から争奪戦を繰り広げているって状況だ。

 そんでボーナス期間が終わったので2級以上は通常依頼を受けるようになった。そっちの方が報酬がいいからな。

 

 狩場の方も数カ月誰も入っていなかったおかげで、大分以前の状況に戻っている。そんなある日の事、俺はいつものように適当にブラついて出会った豚を討伐、大八車に積んでの帰路の途中だった。


 森の中に笛の音が3回鳴り響いた。


 あん?撤退合図?久しぶりだな。まーた飛竜でも出たんか?


 笛の音3回は撤退の合図と決められている。絶対守らねえといけないって訳じゃねえけど、聞こえた時は守っておいた方がいいだろう。早い話面倒な魔物が出たって事だからな。ちなみにこの合図聞こえた奴も同じように笛を3回鳴らして周囲に教えないといけない事になっている。こっちは絶対にやらなきゃ駄目と決められているので、俺も指笛で3回音を鳴らして撤退を始める。


 帰る途中で良かったぜ。これが行きなら獲物無しの無駄足になってたからな。


 そうして街へ戻る途中、落ち着きのないパーティーを見つけた。確かあいつらは2級の移籍組だったはず。見ればパーティーで話し合いをしている様子。


「だから、何かやべえから一度街に帰るぞ」

「けど、まだ来たばっかりだぞ。あの笛の音は気になるけど、まずは依頼達成してからだろ」

「色々な所から笛の音が必ず3回聞こえてくるのはどう考えても異常でしょ!」

「今日は一度戻って情報集めてからの方がいいと思うな」


 うん、うん。何か異常を感じたら撤退するのが生き残る秘訣だよ。そうやってしぶとく生き残ったのがコーバスのベテラン連中だ。・・・・・碌なもんにならねえな。


 何て考えて無視して行こうとしたら気付かれたみたいだ。


「あ。筆頭だ。あの人に聞いてみるか?」

「いや、でも大丈夫か?」

「また汚物の刑に処せられるんじゃない?」

「いえ、ここは汚物よりも命です。僕は聞くべきと判断します」

「おい、マジでやめとけって!」


 ・・・・汚物の刑って何だよ。


 あの最低な3日間はベテラン含めみんな心に大きな傷を負ったんだよ。ようやく打ち解けてきたと思った移籍組や新人が、あの出来事以降ベテランに対して妙に壁を作っちまったし、それを受けてベテラン組もなんか気を使っているからな。俺は前から壁作られているから気にしてねえけどね。


「筆頭!すみません、さっきからこの笛の音は何なんですか?」


 見るからに知的参謀系の魔法使い装備の奴が俺に話しかけてきた。その顔はすごく緊張しているし、仲間は『あいつ話しかけやがった!』って顔してんだけど、失礼すぎねえ?しかも『筆頭』って『4馬鹿』と言われている俺、ゲレロ、トレオン、モレリアで一番馬鹿って言ってんだよな!知っているぞ。


 でもまあ、そこはコーバス一心の広い俺だからな。許してやろう。


「笛3回はやべえのか、面倒な魔物が出た時の撤退の合図だ。お前ら組合員になった時の注意事項読んでねえのか?」


 無級は文字も読めねえ奴もいるし、注意事項のメモなんてすぐに捨てるから覚えてる奴が少ないんだろう。俺はたまたま無級の時に飛竜が出て教えてもらった。他だとこの前の地竜が2匹出た時ぐらいしか撤退の合図聞いてねえ。


「読みましたけどそんな事一言も書いて無かったですよ!」

「いや、そんな事ねえよ。俺ちゃんと読んだもん。・・・・・っと取り敢えず俺は撤退するからお前らは好きにしろ」

「リーダーここは撤退だ!じゃなければ僕だけでも撤退する」

「・・・・・・・この笛の音は絶対撤退しないといけないんですか?」


 リーダーって言われた奴が俺に聞いてくる。積み荷が空だから、出来れば狩りに行きたいんだろう。まあ、俺の言葉を聞いて好きにしろ。


「絶対じゃねえ。撤退するかしないかは各自の判断だ。ただしこの音が聞こえたら、同じように笛3回鳴らすのは絶対だ」

「分かりました」


 俺の言葉を聞いてリーダーは指笛を大きく3回鳴らす。


「そんじゃあ、後はてめえらで決めろよ。じゃあな」


 そう言って駆け出そうとしたらまたリーダーが声をかけてきた。


「筆頭!・・・・・筆頭が僕達の立場ならどう判断を下しますか?」

「・・・・はあ、人に判断任せるんじゃねえよ。てめえらで最悪が何かを考えろ!」


 冷たいだろうが、関係ねえ奴を巻き込むんじゃねえよ。

 

「・・・・・っ!!・・・・・撤退だ」

「おい!お前何言ってんだよ!一日かけて狩場きて獲物無しで撤退とかありえねえだろ!」

「ちょっと、アブブ!フェイローがリーダーなのよ!リーダーの指示には従うって決まりでしょ」

「アブブ、決まりは守らないならパーティーから追放です」


 何か揉めてんなあ。・・・まあ、別に俺には関係ねえや。


 揉めている連中を無視して俺は街に向かったんだが、何故か連中ついてきやがる。しかもアブブとか言う青髪短髪がグチグチグチうるせえんだ。仲間が宥めてるけど、ちょっとこいつ鬱陶しいな。


 一度立ち止まり、大八車を置くとみんな何事かと足を止める。それなら丁度いいって事でアブブの目の前に立つ。


「おい、アブブとか言ったな?てめえさっきから鬱陶しいんだよ!」


 顔を近づけてアブブって奴を睨みつけると、向こうも睨みつけてきた。


「ああ?何だ!てめえ!・・・・」


 睨み返してきた馬鹿のボディに一発。それだけでアブブは地面に膝をついた。


 ・・・・・はい、ばかー。ここは組合じゃねえ街の外なんだよ。何よりもまずは先制攻撃だ。そんな睨み返してくる前に体動かせ。俺が優しくて良かったな。普通は武器使われて死んでたぞ。


 そう思いながらアブブの顔を蹴っ飛ばし意識を刈り取る。


「ちょ!筆頭!何するんですか!!」

「アブブの態度が悪かったにしても酷すぎるわよ!」

「筆頭、これは流石に・・・」


 あーあ、こんなんでグチグチ言うなっての。


「うるせえ!あんまりグダグダ言うと、てめえらもぶん殴るぞ!取り敢えずそこで寝転がっている馬鹿を俺の大八車に乗せろ。苦情は街に戻ってから聞いてやる!!」


 別にこのまま放置してもいいんだが、最近の俺の評判最悪だからな、ここで助けて少しは街のみんな、特に受付嬢達の心象よくしておきたい。


「この強鼻豚と一緒にアブブ乗せるんですか?」

「文句があるならてめえらで運ぶか、そこに置いていけ」


 そう言うとそいつらは慌ててアブブを俺の大八車に乗せる。ったく最初から言われた通りにやれよ。


「そんじゃあ、俺は先に行くからな。ついてきたけりゃあ勝手についてこい。但しこいつみたいにグダグダ言う奴はぶん殴って放置するからな!」


 俺の注意にみんなブンブン首を縦に振って分かってくれたみたいだから、撤退再開だ。



「ふう、なんとか戻ってこれたな」


 特に何事も無く街に戻ると、先に戻って来た連中が解体場前でたむろしている。


「・・・こ、こんなに戻ってきているのか」

「やはり戻って正解だった」


 それを見て俺についてきた奴らが驚いているんだけど、アブブとか言う奴大八車から降ろしてくれねえ?そう指示しようとしたらペコーが絡んできやがった。


「よお、ベイル。お前も戻って来たのか?ってお前狩り終わった後だったのか、良かったな」

「その言い方じゃペコーの所は獲物無しで撤退か?」

「狩場向かっている途中に撤退の合図だ。嫌になるぜ」


 やっぱりコーバス長いだけあって、ペコー達は獲物無しでも撤退選択したんだな。何が出たかしらねえけど、俺のカンじゃ撤退選ばず狩りを続けた奴は多分死んでるだろうな。


「で?結局何が出たんだ?ペコーは知ってんのか?」

「なんか『蟻蜂』だってよ」

「・・・まーた、面倒くせえのが出たなあ。実際には知らねえが、数も多いからすげえ面倒だって聞いてるぜ」


 『蟻蜂』・・・聞いた話だと人と同じぐらいの大きさで蟻みたいな見た目の癖に、たまに空飛んで尻の針で相手を突き刺してくる蜂みたいな攻撃をしてくる魔物だ。当然針は毒付きで刺されると体が麻痺する。麻痺すると、そのまま巣まで運ばれるか、顎で切り刻まれてから巣に運ばれる。更に口からは弱い酸を飛ばしてきて、武器や防具を駄目にしてくる嫌な攻撃も持っている。


「お前、実際戦った事無いのに良く知ってんな。こいつらの面倒くさい所は、女王を殺さねえと何度でも復活するって所だ。そんで更に面倒くせえ事に女王は地面の巣の一番奥にいるんだよ」


 しかも巣は迷路みたいに入り組んでいるから、どの道が最奥に繋がっているか虱潰しに探すしかないらしい。


「聞いていた以上に面倒くせえ魔物だな」

「そう言うなって。針と噛みつき攻撃に気を付けておけば死なねえから、1匹の強さは2級真ん中相当って所だ。酸攻撃もちゃんと洗い流せば問題ねえ。問題は数が多いって所だが、報酬を考えると目を瞑るしかねえな」

「そう言えば、蜂蟻の酸袋と針って売れるんだったな」


 確かどちらも1個5000ジェリーぐらいだったか?だから1匹10000ジェリーしか稼げねえが、そこはペコーの言う通り数がカバーしてくれる。巣には少なくとも数百はいるだろうからな。


「大体2級と3級合わせて5パーティと各パーティに採取や荷物持ちの1級3人つけるってのが一般的だな」


 へえー。結構人数集めるんだな。・・・ってよく考えればそりゃあ、魔物の数が多いからそれぐらいにはなるか。

 

「明日には依頼が出されるだろ。ベイルはどうする?受けるのか?ちなみに報酬は人数割りだからソロでもお前だけ報酬がいいって訳じゃねえぞ」

「何だよ。パーティ割なら喜んで受けるんだけどな」


 人数割りはその名前の通り、採取素材を売った金や報酬を参加した人数で分ける方法で、パーティ割は最初パーティ単位で報酬を分けて、その後パーティ内でメンバーに報酬を分ける方法だ。当然ソロの俺はパーティ割だと全てが俺のものになるから、どんな依頼でもかなり報酬が美味しい。

 けど、一度もパーティ割の依頼受けさせてもらった事無いんだよな。ソロの俺が得するのが気に入らないから必ず断られる。心の狭い連中ばっかりで嫌になるぜ。


「ペコーの所はどうすんだ?受けるのか?」

「今日仲間と話合って決める。今回巣の規模が分からねえのが不安要素だ。100匹程度の小さい巣だと目も当てられねえ」


 今回多分参加は60人程度だろう。それで100匹だと一人素材売っても16000ジェリーぐらい。巣に売れるもんがあっても対して報酬は増えねえだろう。ただこれが500匹規模の巣だと報酬も納得できる・・・かどうかはかかる日数によるって所だ。二日で一人8万なら3級パーティなら、ギリ許せる。3日かかればアウトだ。この辺は運によるだろうな。


 そんな事を話していたら見た事ない奴がペコーに悲痛な顔で話しかけてきた。


「ぺ、ペコーさん。あの、俺等のパーティーメンバー見ませんでしたか?」


 装備的には2級の真ん中ぐらいの奴が3人。俺は見た事ねえから移籍組だな。ただ、ペコーは知っている奴らみたいだ。


「ああ、お前らか。他の連中は見てねえな。多分死んだんだろう」

「ちょ!何て事言うんですか!!」

「はあー。なら、俺に聞かずに黙って待ってろ。ただ、周りを見てみろ。焦っている連中が見えるな。多分あいつらも意見が割れて仲間が数人撤退しなかった連中だろう。俺に文句言うならあいつらと一緒に仲間を信じて黙って待ってろ」


 ペコーがそう言うと3人は押し黙った。今ので俺は察したぜ。俺とは違いアブブみたいな連中が仲間と別れて狩りを続行したんだろう。見れば似たような連中が数組いるな。まあ、俺には関係ねえ話だから、さっさとこの豚を処理場に運び込むか。


 ペコーに挨拶して処理場に入ると、何故かアブブのパーティーメンバーもゾロゾロと後をついてきやがる。何でだ?


 良く分かんねえけど処理場の受付で親父に買い取りを依頼する。


「オヤジ!買い取り頼むぜ」

「おお!ベイルか。相変わらず一匹だけか・・・お!今日は珍しく二匹じゃねえか・・・ってこいつも解体すんのか?」


 驚くオヤジに釣られて大八車を見れば、まだアブブが乗ってやがった。


「・・・まあ、いいや、こいつも解体頼む」

「「「ちょ!!!!」」」

ここからが第2部(予定)です。

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