94.最低な三日間③
・・・・・・・。
騒いでいた連中もその音で口を閉ざし、辺りが沈黙で包まれる。
「おいおいおい、今の音はシャレにならねえぞ」
「ちょっ!マジで冗談だって言ってくれよ!」
「ティッチ!!!!助けてくれえええ!」
「お願いします。もう許して下さい。僕たちを田舎に返して下さい」
もうみんなションベンなんかどうでも良くなり大騒ぎだ。俺も大声でティッチ達に助けを求める中・・・・・。
「・・・・・・・・・・ワリ」
ボソリとアウグが呟いた。その言葉を聞いたみんなは怒髪天だ。
「てめえ!アウグ!そんな軽い謝罪で許されるとでも思ってんのか!」
「頭を地面に擦り付けて許しを乞うレベルだろうが!!」
「うわ!くっせえ!マジでこいつやってやがる!」
「しかもノータイムっておかしいだろ。前もって何か警告しろよ!」
「うるせえ!俺はケツ拭かなくてもいいぐらい毎日キレがいいんだから仕方ねえだろ!」
「仕方なくねえよ!てめえのキレが良かろうが悪かろうが、てめえが今、キレていい理由は何一つ無えんだよ!」
「こいつ肛門ガバガバじゃねえか!」
「最悪だー。助けてくれー」
「チッ!ゴチャゴチャうるせえ連中だ。・・・おーい、シューリーどこだ?」
「ここだ!リーダー!」
「悪いがケツを拭きたいから水魔法くれ」
「・・・・リーダーここからじゃ上手く狙えねえ。多分周りにも水が被っちまう」
「ああ、別にいい。気にすんな」
「ふざけんな!気にしろよ!」
「お前!前から言おうと思ってたけど自己中が過ぎるぞ!!」
「お前が世界の中心じゃねえんだよ!」
「キレがいいからケツ拭かなくても大丈夫とか言ってただろ!」
「シューリー!水魔法使ったら、床に落ちてる汚物が流れるから絶対に使うなよ!使ったらてめえも同罪だ!」
アウグの奴逆に凄いな。どうやったらあれだけ自分中心の考え出来るんだ?あいつ頭おかしいだろ。
ただ、頭おかしいのはアウグだけじゃなかった。アウグは先陣を切っただけなんだ。今のやり取りを聞いて、アウグの後に続く奴がどんどん現れる。その度に怒声が響き、辺りは阿鼻叫喚の嵐だ。寝起きで牢屋にぶち込まれたってのもこうなっちまった原因だと思う。
それからゲレロは笑いながら言っていたが、女達は全く優しくなかったよ。あんなきったねえ光景見せられたんだ。そりゃあ、みんな怒り心頭だよ。結局翌朝まで俺たちは牢屋にぶち込まれていた。
■
「・・・・・」
「・・・・・」
ミチミチに詰め込まれた牢屋で一夜が明けた。座る事も出来ないこの状況で立ったまま寝るとかいう特技を習得した奴も多いだろう。だからといって熟睡できるような環境じゃないから、みんな精神的にも肉体的にも憔悴しきっている。
そんな状況だからか、きったねえ音が鳴り響いても、もう誰も何も言わない。無言で解放の時をただ耐えて待つのみ。
そしてついにその時がやってきた。
遠くから複数の足音が聞こえてきて、それに反応した連中が目を輝かせる。
「人だ!人が来た!!」
「おーい!こっちだー!」
「たすけてくれえー!」
なんか俺達遭難した人みたいになっているな。そんな俺等の必死の叫びが届いたのか、やってきた人物から声がする。
「うるさいなあ。って、くっさ!ティッチさん、牢屋ってこんなに臭いんですか」
「ミーカの言う通り、臭い酷すぎません?」
「いや、普段はここまでじゃないんだが・・・」
声からするとやってきたのはティッチ、シリトラ、ミーカだろう。そんな3人に別の牢屋に入っている犯罪者も何故か必死に訴えだす。
「兵士さん!悪かった!全部正直に話す!話すからこいつらと同じ目だけは勘弁してくれ」
「頼む!もう暴れねえ。ちゃんと兵士さんの言う事聞くから!こいつらと同じ牢だけは勘弁してくれ」
「俺は今まで底辺だと思っていたけど、まだ底があるなんて知らなかったんだ。俺はもうこれ以上落ちたくねえ。真面目に働くから許してくれよ」
俺達もだけど、別の牢の犯罪者もかなり精神的にきているみたいで、すげえ必死に訴えている。
「おい!犯罪者共!てめえらが馴れ馴れしくティッチさんに話しかけてんじゃねえよ!」
「そうだぞ!ティッチ様は俺達に用事なんだ!邪魔すんな!」
「・・・・・こいつら反省してなくないですか?」
「おーい!ミーカ!お前何言ってんだよ!滅茶苦茶反省しているって!」
「ティッチ!ミーカの言う事に耳を貸すな!」
「そうだ!俺達の方が付き合い長いだろ!」
そんな事を言っていると3人が俺達の牢の前に姿を見せた。で中の状況を見ると3人とも見た事ないぐらい顔を顰めた。
「ここまで酷い光景は初めて見ました」
「ああ、野盗の巣の方がまだマシだ」
「はあー。もう最悪」
「最悪って何だよ!ミーカ!この状況はお前らが作ったんだからな!」
「そうだぞ!てめえらのせいで、牢屋が肥溜めに変わったんだからな!反省しろ!」
この状況で強気にいけるこいつらは何なんだろうな。と、思っているとシリトラが重大な事実を告げた。
「言っておきますが、今回の件、全員で話し合った結果、ミーカと私に全ての判断が委ねられました。このまま解放するのも継続させるのも私とミーカの気持ち次第って事を覚えておいて下さい」
・・・・・・・
「おい、おい。なんか今日ミーカ可愛くねえ?」
「本当だ!なんかメッチャ色気出てんな」
「バーカ、俺は前からミーカがいい女だって思ってたぜ」
・・・この馬鹿共、この場面でそれは悪手だって分かんねえのか。
「・・・・・あと、三日ぐらいぶち込んでおきましょう」
ほらな。何で今のでミーカの機嫌が直ると思ったのか理解出来ねえ。本当に馬鹿しかいねえな。
「はあああああ!ふざけんなよ!俺達これだけ反省してんじゃねえか!」
「もう十分罰は受けただろ!いい加減許してくれてもいいだろ!器のちっちえ女だな!」
「そうだぞ、ちっちえのは胸だけにしとけ!」
「・・・・・焼き殺しましょう」
そう言ってミーカは無表情で手に火球を生み出す。おいおいおい、逃げ場のないこの状況でそれはシャレにならねえぞ。
「ティッチさん、何か問題ありますか?」
「うーん。報告書あげる手間があるぐらいかな?」
「なら、問題ないですね」
「問題あるだろ!ティッチも何でそんなに軽いんだよ!」
「普通止めるだろ!牢屋で大量の死人が出たら大問題だろ!」
「一度にこれだけ組合員殺したら組合長も怒るだろ!」
誰かの言葉にシリトラが手を叩いて反応した。
「ああ、そうそう。組合長が今まで見た事がないぐらい機嫌悪かったんですけど、あなた達何したんですか?」
・・・・・・・・・
チッ!組合長は頼れねえ。と全員が思ったんだろう。そんでこうなると最後の手段、全員で泣き落としだ!!
「うわーん。許してくれよー」
「もう、こんな場所にいたくないよー。えーん」
「ヒック、ヒック、反省しています。許して下さい」
「もうこんな肥溜めにいたくないんです、許してくれえ」
「肥溜めにしたのはお前達だろ」
ティッチが冷静に突っ込みを入れてくるが、みんな無視だ。涙を流しながら必死で許しを請う。
「はあー。まあ、これで少しは懲りてくれたでしょう」
俺達の必死の訴えが響いたのか、シリトラが、ついに希望の光を与えてくれた。
「し、シリトラああああ」
「ありがとう!ありがとう!」
「やっぱり俺達のシリトラ母ちゃんは優しいぜ!」
「ママー」
「あなた達の親なんて死んでも御免なんですけど・・・・」
「ええー。許すんですか?」
「流石にこれをあと3日はティッチ達にも迷惑でしょう」
「そうだな、これ以上酷い状況になれば、みんな牢屋に近付かないだろう」
それって俺達に餓死しろって言ってるようなもんだよな?ついでに別の牢屋の犯罪者も巻き込まれてるけど・・・・。
「そう言う事なら仕方ありませんね」
そしてついにミーカも許してくれて解放の時が訪れる。
「いいですか!次は3日はぶち込みます。組合長も何故か大喜びで賛成したので、冗談ではないですよ」
「「「「「はい!!!!」」」」
「・・・・・はあー。こういう時だけ息ぴったり」
ミーカが呆れた顔をしているが、俺達の顔は希望に満ち溢れているだろう。
そしてついに解放の時。
牢屋から出た俺達は伸びをして解放感を味わう。
「ふうううう。ようやく出られたぜ。やっぱり外の空気は美味いなあ」
「まだ何も空気変わってねえよ。臭いままだ」
「うわあああ!外だあああ!自由だああ!」
「だからまだ外じゃねえよ。兵舎の中だ」
「いやあ、今回は結構堪えたぜ」
「流石に今回はやり過ぎたな」
「だな。それでも許してくれたシリトラとミーカに感謝だぜ」
「よーし!みんな!ミーカを胴上げするぞ!」
「「「「おお!!!」」」」
「きゃああああああああ!!寄るな!!!早く体洗ってこい!!!」
こうやって、さり気なく嫌がらせしようとするこいつらは、やっぱり性格最低だ。
「お前達、汚物が広がるから、ここでは体洗うな!外の川で洗ってこい!ただし間違っても上流で洗うなよ」
「へいへい、そんぐらい分かってるっての。ティッチは心配性だなあ」
川の水を街に引いているから、上流で洗うと汚物が流れ込んで大変な事になるからな。
「あと、体を洗い終わったらここの掃除だ」
・・・・・うん。俺達が汚したからね。
「そんじゃあ、行くぞ」
クワロの号令と共に俺達は街の外の川に向かって走り出した。
「うわ!またあいつらだ!」
「最悪だ!またかよ!」
「あいつら何かくせえぞ」
「やっぱり組合員ってのは碌なもんじゃないわねえ」
相変わらず街の人からボロクソ言われているが、そんな声は俺達の耳には届かねえ。今は体を洗う。それだけで頭が一杯だからな。
そうして体を洗った俺達は再び街に戻る。
「うわ、戻って来た」
「一体あいつら何がしたいんだよ」
「何で街に入れるんだよ!」
「兵士は何であいつら捕まえないの!」
また街の住人が騒ぎ出すが、俺達は無視して組合に戻り、片隅にまとめて置かれているパンツなんかを装着したら、牢屋に戻り、ティッチに言われたように掃除を始める。ついでにさっき俺達が通った場所も汚れたので掃除をするように言われた。
「ええ?今度は何だ?」
「何で掃除してんだ?」
「意味分かんねえよ。これだから組合員ってのは・・・」
「本当に組合員ってのは私達とは違う生物じゃないかしら?」
昨日は下半身丸出しで兵士に連行されたと思ったら、今日は同じ格好で街の外に駆けていき、しばらくしたらまた戻ってくる。最後はちゃんと服を着て街の掃除だもん。街の住人からすれば訳分からねえだろうが、誰も俺達に事情を聞きに来る奴はいなかった。
俺も街の住人だったら関わりたくないからね。
こうしてコーバスナンバーワン決定戦から始まった最低な3日間は幕を閉じた。元々は俺とゲレロを揶揄ってきた連中を地獄に叩き落そうとしただけなんだけどな。何故か俺達も引き摺りこまれて、地獄の底の底まで転げ落ちちまったから、誰も原因が俺達だって思う奴はいない。単純な連中で助かったぜ。
■■
後に『英雄』となったアーリットとクイトが一番辛い出来事だったと語るこの一連の出来事。詳しい話を聞こうとしたが二人は口を閉ざし、多くを語らず、ただ一言、
「辛かった」
と言うだけだった。当時からの仲間だったエルメトラやザリア、カルガー、エフィルもこの事については堅く口を閉ざし語る事は無かった。後に仲間になるシュアルはタイミング悪く領都に行っていたらしく、彼も何も知らなかった。
そして当時を知る者に話を聞きに行った者もいたが、誰一人、口を開く事は無く真相は闇に包まれたままだった。
そうして『英雄』も『4賢人』も当時を知る者全てが亡くなり、真相は闇のままだと思われていた時、コーバスのとある民家の屋根裏から歴史的にとても貴重なメモが発見された。
『ティッチの書』
『英雄』や『4賢人』と同じ時代をコーバスで生きた彼女は大変なメモ魔で、事細かに日常や仕事の事をメモに残していた。それを時系列にまとめて書物にしたものが『ティッチの書』と呼ばれる。
そこには誰も語らなかった出来事についてもしっかりと書かれていた。そのメモの束には、あまりにも馬鹿げていると上司から突き返された当時の報告書も挟まれていたが、内容があまりにも荒唐無稽な話だった為、真偽については現在も結論が出ていない。
ただ、その他の内容については『英雄』達の語った内容と符合する所も多く、当時を知る貴重な資料として厳重に管理されている。




