93.最低な三日間②
翌日
朝一のシフトのカナが組合にやってくると、同じシフトのラルダが組合の入口前で蹲って泣いているのを見つけた。
「おはよー、ラルダ!・・・ってどうしたの?」
「ああ!カナ先輩!助けて下さい!私もうどうしたらいいか・・・」
泣きじゃくりながら組合の中を指差すラルダに従い、カナは警戒しながらゆっくりと入口を開け中を確認する。
・・・・・ああ、これ無理だ。私じゃ手に負えない。リリー先輩か組合長が来るまでどうしようもないなあ。
組合の中を覗き込んだカナはすぐにそう結論づけたが、そこでタイミングよくティッチ達、街の兵士が巡回で歩いて向かってくるのが見えた。
「ラルダ!急いであそこの兵士達呼んできて!!」
泣いていたラルダだったが、カナの勢いに押されて慌てながらティッチ達の元に向かう。そのラルダの尋常じゃない様子に急ぎ組合まで走ってくるティッチ達兵士。
「どうした?カナ!!」
「ティッチさん、みんな!助けて下さい!私の手に負えません!」
そう叫びながら組合の奥を指差すカナ。それに従い警戒しながらゆっくりと組合に入っていく兵士達だったが、すぐに出てきて、大きくため息を吐いた。
「カナ、これをどうしろと?」
組合から出てきたティッチが呆れた様子で組合の中を親指で指しながら、カナに尋ねる。
「全員牢屋にぶち込んで下さい(ニッコリ)」
ティッチの問いに物凄く良い笑顔で答えるカナだったが、それを聞いたティッチは再び大きくため息を吐く。
「はあー。カナ、お前の気持ちは良く分かるが、別に道の往来で汚いものを晒している訳じゃない。組合内にいるから無理だ」
「うーん。じゃあ、これならどうです?」
ティッチの答えに少し考えこんだ後、カナは組合に戻り一人の組合員を引き摺って外に放り投げた。
「・・・・・・・・・ああ・・・うん。これならまあ道の往来だし、牢屋にブチ込めるな」
困った様子で答えるティッチ。
「え?は?どう言う事?」
放り投げられて目が覚めた組合員は、周りを兵士に囲まれている状況に訳が分からず戸惑っている。
「よし!ラルダ!『ちょっと賢い』のハウス行ってシリトラさん達呼んできて!その時他の女組合員も手分けして集めるように言って!!」
「は、はい!」
カナの指示に従いラルダは姿を消した。その間にも、ちょこちょこ女組合員がやってくるので、カナの説明を聞きみんな協力して、下半身丸出しの男組合員をどんどん外に放り投げていく。
「カナ!どうしました?急ぎの案件と聞き・・・・・」
「すみません『ちょっと賢い』のみなさん!この中の粗大ごみの掃除を手伝って下さい」
「・・・ああ、いい判断です」
「こいつらいい加減どうにかしたかったんです。みんな頑張りますよ!」
一瞬だけ戸惑ったシリトラとミーカだったが、すぐに気を取り直して他のメンバーと共に作業に加わる。
「モレリアさんは?」
「あの子はまだ寝てます」
■
俺が目を覚ますと、全てが手遅れだった。
「んあ?・・・・・な、何だこれ?」
何か騒がしい音で目が覚めると、そこは見慣れたコーバスの組合前の広場だった。・・・・何で俺こんな所で寝てるんだ?
「んん?っと・・・・どういう状況?」
周りには見慣れた組合員が座った状態で固められて、その周囲を兵士が囲んでいる。
「良く分かんねえけど、俺達牢屋にぶち込まれるみたいだ」
「はあ?意味分かんねえよ!何で俺が牢屋にぶち込まれなきゃいけねえんだ!おい!ティッチ!どういう事だよ」
丁度近くにいたティッチを問い詰める。
「自分の格好をよく見てみろ。道の往来で汚いものを晒してるんだ、捕まって当然だろう」
言われて自分の格好見れば下半身丸出しじゃねえか!・・・あれ?昨日コーバスナンバーワン決定戦やって・・・その後どうなった?
同じ様に下半身丸出しの連中に聞くと、コーバスナンバーワンは組合長に決まった直後、組合長に全員殴られて気絶させられて、朝、組合にやってきた女達に外に放り出され今に至るそうだ。
「ティッチ、これで最後です」
そう言いながらシリトラとミーカがゲレロを引き摺ってきて、放り投げる。扱い雑じゃねえ?ゲレロを放り投げるとシリトラは呆れた目で俺達を見て組合に戻っていく。ミーカは今にも俺達を殺しそうな目で睨んだ後、組合に戻っていった。
「ミーカ、メッチャ怒ってなかった?」
「そんなキレるような事したか?」
「あいつはいつもあんな感じだ。気にすんな」
下半身丸出しで周りを兵士に囲まれているってのに呑気に話している連中。
「よーし、全員立て!今から兵舎に向かう。くれぐれも逃げようなんて考えるなよ。この街の組合員の顔は全て覚えているから逃げても無駄だぞ」
そこに手続きを終えたティッチが指示を出す。
「お前らから逃げようとは思わねえよ」
「ここで逃げたらお尋ね者確定じゃねえか。俺等もそこまで馬鹿じゃねえ」
「その恰好で馬鹿じゃないと言われてもなあ」
兵士の誰かがごもっともなご意見を言ってくれたが、こいつらに響かねえだろうな。
「おい!ティッチ!まともな牢屋なんだろうな!」
「さっさと案内しろ!」
だって、下半身丸出しでこんな事言ってるんだぜ。まともな牢屋って何だよ。
「はあー。暴れはしないが、こいつら普通の犯罪者より面倒くさいな」
ティッチがぼやきながら兵舎まで移動を開始する。
「うわ!何だあいつら」
「最悪!」
「あいつら組合員か?この間まで真面目に働いてたから、見直したらすぐこれだ」
「やっぱり、組合員ってのは駄目だな」
「ママー。あれ何?」
「見ちゃいけません!!」
周りを兵士に囲まれた下半身丸出しの集団が歩いてるんだ。住人のこの反応は当然だな。色々言われているが、ベテラン組は誰も気にした様子はない。逆に新人や移籍組は慣れていないのかビクビクした様子だ。
・・・
うん、この状況に気にしていないベテラン連中の方がおかしいな。
そうしてゾロゾロ歩くとすぐに兵舎まで着いて、牢屋に案内される。
「ほら、入れ」
「ったくよお。何で俺等が牢屋にいれられねえといけねえんだよ」
「はあーあ。ここには二度と入るつもりは無かったんだけどな」
「よく言うぜ。お前、すぐに一般人ぶん殴ってぶち込まれるじゃねえか」
みんなボヤキながらも続々牢屋に入っていくが、大体の奴らが入った所で俺はおかしい事に気付いた。
「おいおい、ティッチ。ちょっと詰め込み過ぎじゃねえか?」
もう既に牢屋は組合員で一杯だ。それなのにティッチ達はここから更に詰め込もうとしてるんだけど?
「今は牢屋が埋まっている。我慢しろ」
「我慢って、隣一人しか入ってねえじゃねえか!そっちにも入れたらいいだろ!」
「隣は善良な犯罪者だ。お前ら色に染め上げる訳にはいかない」
「善良な犯罪者って何だよ!犯罪者に良い奴なんていねえよ」
「ベイルは相変わらずゴチャゴチャうるさいな。みんな、ベイルが入るのを手伝ってやれ」
ティッチがそう言うと、周りの兵士が俺を牢屋に押し込んでいく。満員電車じゃねえんだぞ!
「おい!押すなって!」
「兵士達が押し込んでくるんだから仕方ねえだろ!」
「うぎゃああ!汚ねえもん押し付けてくんな!!!」
もう阿鼻叫喚の嵐だ。ここまで酷い光景は生まれて初めてだ。だと言うのに兵士達は更に残った連中を押し込んでくる。
「おい!もうちょっと詰めろ!」
「もう行けねえよ!」
「もう無理だって!」
みんな無理って言っているのに兵士達は聞いちゃくれねえ。本当に全員を押し込んで扉に鍵をかけて満足そうな顔している。
「何とか全員入ったな。よし!」
「『よし』じゃねえんだよ!どこにもいい所ねえよ」
「ふざけんな!早く出しやがれ!」
みんながティッチ達に罵声を浴びせるが、犯罪者で慣れているんだろうな。気にせずその場を立ち去ろうと動きだす。
「ちょ!ちょっと!待ってくれ!これって用を足す時ってどこですればいいんですか?」
誰かの悲痛な質問にティッチが足を止めて振り返る。
「うーん。おい!ゲレロ!手をあげろ!全員ゲレロの位置を確認しろ。あの辺の床に穴が空いている。そこで用は足せ」
なんかすげえ事言ってるんだけど・・・・・。
「おま、ふざけんな!出来る訳ねえだろ!大体詰め込みすぎなんだよ!あそこまで辿り着けねえよ!」
うん。ヒビットは扉の近くだからな。一番奥のゲレロの所までは、ちょっと絶望的な距離だ。そしてそれを皮切りにみんなが再びティッチ達に罵声を浴びせるが、今度こそ本当に牢屋のある部屋から出ていきやがった。
「・・・マジかよ」
「・・・・おいおい。これどうすんだ」
「・・・・いつまで閉じ込められるんでしょう」
「ガハハハッ、なーに、何だかんだみんな優しいからな。鐘二つぐらい我慢すれば出してもらえるだろ」
「ゲレロ!てめえ穴の近くだから笑えるんだぞ!こっち来てみろ!絶望しかねえぞ!」
そりゃあ、そうだ。ヒビット君正論だよ。
ヒビットがゲレロにキレ散らかしていると、ついに最初の一人が現れちまった。
「わ、悪い。ションベン出そう」
・・・・・・・・・・
ハイーシャのその一言に全員が沈黙する。
「取り敢えず通してくれ」
ハイーシャの無茶な要求に沈黙していた連中が口を開く。
「てめえ!まだ牢屋入れられて鐘半分も経ってねえじゃねえか!もうちょい我慢しろ!」
「通せって言われても通れねえよ!ミチミチに詰め込まれてんだぞ!」
「うるせえ!朝起きたら牢屋直行でやる暇なかったんだよ!てめらも状況は同じだろ!すぐに第2、第3の俺が現れるぞ!」
「お前みたいなのが2人も3人もいたら大惨事じゃねえか!」
誰かがハイーシャに文句を言うが、ハイーシャの言う通り次々に第2、第3のハイーシャが声をあげる。
「すみません、今のハイーシャさんの言葉で、自分も朝してなかったの思い出しました」
「俺もハイーシャさんの言葉で急に来ました」
・・・・・・・
「てめえ!ハイーシャ!余計な事言うな!馬鹿かお前!」
「馬鹿はお前だ。現実をちゃんと見ろ!」
「ああ、てめえら喧嘩してんじゃねえ。取り敢えず用を足したい奴は手を挙げろ」
言い合う二人をクワロが宥めて、指示を出し始める。流石ゲレロを従えているパーティのリーダーだ。
「よーし。全員でゆっくり回りながら、今手を挙げている奴を奥まで運ぶぞ。手を挙げている奴は動きながら何とか外側まで出てこい。それじゃあ行くぞ。せーの!」
「イッチ・・・アイテテ。何でこっち来るんだよ」
「普通左だろ!」
「俺の普通は右なんだよ!決めつけてんじゃねえよ」
クワロがどっち周りか決めてないから、あちこちで衝突が起こり言い合いが始まった。グダグダじゃねえか!
「悪い。どっち回りか決めてなかった。全員俺を見ろ。こんな感じで動くぞ」
そう言ってクワロが手を挙げて手振りで回る方向を指示してくる。時計がないこの世界じゃ時計回りって言っても通じねえからな。何なら右左も分からねえ組合員も中にはいる。
「よーし。全員分かったな。それじゃあ、行くぞ!せーの!」
「「「「イッチ、ニ。イッチ、ニ」」」」
そうしてクワロの指示を理解した全員が掛け声と同時に動き出す。
普段協力なんてしねえ連中が、この時ばかりは息ピッタリだ。協力しねえと大惨事になるから当たり前と言えば当り前なんだけど。
「よーし。ついた!みんな助かったぜ」
「うるせえ!ハイーシャ!さっさと済ませろ!後がつかえてんだぞ!」
「ったく、少しは落ち着いてやらせろよ」
そのハイーシャのボヤきの後にジョボジョボと聞きたくねえ、きったねえ音が牢屋に響く。
「ちょ!ハイーシャさん!飛沫が飛んだ!しっかり狙ってくれよ」
「狙ってるっての!」
「おい!ハイーシャ座ってやるぐらい気を利かせろよ。そんなんだからお前は駄目なんだよ」
「だったら、座るスペース開けろよ!」
いやあ、傍で聞いてると酷い争いだ。頼むから俺の近くの奴は催さないでくれよ。
「ヒック。・・・・グス。・・・・コーバスに一攫千金狙ってハルドンから移籍してきたのに、何でこんな目にあうんだ」
おいおい、誰か泣いてんぞ。近くの奴慰めてやれよ。
何て・・・・・・・そんな事を考える余裕があったのはここまでだった。
ふと俺のすぐそばで液体が床に落ちる音が聞こえ、足に液体がかかる感触がした。
それが何か理解する前に目の前のトラスが大声をあげる。
「うわあああああ!ベイルさんが漏らした!最悪だ!」
「はあああああ!ふざけんなよ!ベイル!お前何やってんだよ!」
「うあ!って事は足元に流れてんのベイルのションベンか!きったねえだろベイル!殺すぞ!」
「・・・・・え?いや。ちが・・・」
いきなり犯人扱いされて混乱する俺は上手く言い返せない。
「お前!みんなで協力して大惨事回避しようとしたのに台無しだよ!」
「こいつ普段からこういう事すんだよ。マジで死んでくれねえかな」
「だから、俺じゃ・・・・・」
「ベイルさん。素直にみんなに謝りましょう」
訳も分からず漏らした犯人扱いされて混乱している俺にトラスが語りかけてきた。ただなあ、一瞬だけニヤリと笑ったのは見逃さなかったぜ。犯人はトラスだ!こいつ床が見えねえぐらいミチミチに詰め込まれてるから、バレねえと考えたんだろう。しかも俺に罪を擦り付けてくるとは何て野郎だ。こんな状況じゃなきゃぶっ飛ばしている所だ。
「俺じゃねえ!犯人はトラスだ!この馬鹿、見えねえのを良い事に漏らしやがった!」
・・・・・・
あれ?何で静かになるの?
「嘘吐け!てめえ人のせいにすんな!」
「こいつ、最低だよ」
「ベイルさん、それは酷いですよ」
「グス、ヒック。ベイルさん酷いよ」
おい、何で誰も信じてくれねえんだ?トラスの馬鹿はウソ泣きして更に俺を追い込んできやがる。
「おい!何で信じてくれねえんだよ!俺じゃねえって言ってんだろ!」
「お前の普段の行い見たら信じられる訳ねえだろ!」
「こいつマジで最悪だよ」
「後輩に罪を擦り付けるとか、組合員の風上にも置けねえな」
えええええ!俺の信用ってこんなに低いの?一応自分でやらかした事はちゃんと責任とってるはずだけどなあ?
そうして俺一人悪者にされていると・・・・
「おいおい、音するぞ、誰だよ!漏らしてる奴!」
「うぎゃああ!こっちも誰か漏らしやがった。マジで最悪だ」
俺たちのやり取りを聞いた馬鹿が開き直ってあちこちで大惨事を引き起こし、牢屋の中は混沌とし始めた。
・・・・・
そんな中、
・・・・・今の状況では絶対に聞こえてはいけない炸裂音が牢屋内に響いた。
何故、元旦からこんな話を書いているんだろう・・・




