92.最低な三日間①
「いいか、開けるぞ」
「おう、準備は出来てる」
「何やってるっすか?」
組合の入口の前でゲレロと気合を入れなおす。事情を知らないカルガーは頭に?浮かべているが、こいつは別にいてもいなくてもどうでもいい。逆にいて欲しくないのがトレオンやアウグ達ベテラン組だ。あいつらいればいるだけ相乗効果で性質が悪くなるからな。
そうして気合を入れて扉を開けると・・・・・くそ!ベテラン連中ほとんどいやがる。最悪じゃねえか。
「厳しいぞ」
「大丈夫だ。俺の言った通り相手にすんなよ」
早速ゲレロが泣き言を言ってくる。俺もそう思うけど、俺まで言ったらお終いだ。周囲に目を配るとニヤニヤと俺達を見ているベテラン連中。何故か怯えた顔で見ている新人や移籍組、ゴミを見るような目で見てくる女組合員と受付嬢。
・・・・・やっべ、心折れそう。
けど俺が折れる訳にはいかねえ。それにあいつらも依頼完了までは仕掛けてこねえはずだ。
って事でリリーのいる受付に向かうが・・・
「カナ、少し席を外します」
俺達が近づくとリリーはあからさまに避けやがった。
「えええええ!先輩ズルいですよ!!!・・・・あ!私も用事思い出した!ラルダ、ちょっと席外すね」
「ええええええ!カナ先輩!逃げないで下さいよ!私じゃ無理ですううう」
■
「ヒグ、ウグ。ヒック。」
俺は依頼完了の手続きしに来ただけなのに、何で受付嬢が泣くんだろうな。一応泣きながらもラルダはちゃんと対応してくれたけど、俺が渡した依頼書や俺とゲレロの員証を指で摘まむように持つのやめてくれねえかな?何も汚くないぞ?
「手続き・・ヒック・・終わり・・・ヒック・・・ました」
「なあ、ラルダ。一応誤解を解いておきたいんだけどよ」
馬鹿ゲレロ!今の状況じゃ何も信じてもらえねえぞ!まずはここを乗り切って組合長に助けてもらうって話だろ!
「手続きは終わりました。まだ何か?」
ゲレロがラルダに話しかけると、別の受付嬢が割って入り、ラルダを助けに来た。もう態度が完全に敵意むき出しだから、何を言っても無駄だろう。まだ何か言いたそうなゲレロの腹を肘で小突いて止める。
「・・・あ・・・いや、何でもねえ」
それで話は終わりだ。これからその足で組合長にお願いに・・・行かしてくれる訳ねえよな。振り返れば、トレオン、アウグ、ハイーシャ、ヒビット、ペコーが物凄い嫌な笑顔で待ち構えていた。
「よお、お前らちょっと話がある」
「アーリットにとんでもねえ難問だしたんだって?」
「ちょっと、俺達にもその問題教えてくれねえかな?」
「ああ、今日は俺達の奢りだ」
「そうそう、お前らが今日の主役だ。席も特別に用意しといたぜ」
そう言ってペコーの指差す先には布が懸けられた何かが置かれていた。そんでその脇にはこれまたいい笑顔のクワロとロッシュが立っていて、俺達の視線に気付くと、その布をとっぱらったんだ。・・・・出来れば隠したままにして欲しかったぜ。
その布に隠されていたのは、どこから持ってきたのか、前にコムコムのキングが座っていたのに似た豪華な長椅子。そしてその真ん中には、リアルな全裸のオークが描かれた一枚の板が置かれていた。ご丁寧に汚ねえもんまでしっかり描かれてやがる。
この絵の上手さ・・・マーティンか!
「王都はいいぞ」
「うるせえ!くそ蜥蜴!」
おっと、思わず頭に血が昇っちまった。落ち着け、冷静にクレバーにだ。怒ったらこいつらの思う壺だ。
「おいおい、ベイルうう。何怒ってんだよ?今日は俺達の奢りだぜ、取り敢えずそこに座れよ。あ!ゲレロはこっちな」
「「・・・・・・」」
ノリノリのトレオンに我慢して俺とゲレロはオーク絵を挟むような形で長椅子に座らされる。そして座った瞬間、連中から噴き出る笑いが聞こえる。
「ブフッ!」
「ちょ、無理ww」
「駄目だ・・グフ・・・お前ら・・ブフ・・・笑うな」
ふうううう。落ち着け。怒っちゃ駄目だ。クールに切り抜けろ。じゃねえと傷が修復不可能なぐらい広がっちまう。
チラリとゲレロを見ると、禿げ頭が真っ赤になりいくつも血管が浮いている。あの馬鹿キレるんじゃねえぞ。
「おいおい、まずは乾杯しようぜ」
ゲレロを牽制するように俺は努めて明るくみんなに声をかける。何人か下向いて肩震わせているが、気にしねえ。俺は今、菩薩になって悟りを開いたんだ。
「おう、そうだな」
お!良かった。ゲレロも冷静になったみたいだ。
そうして乾杯すると、連中が面白おかしくオークと盛っていただろ聞いてくるので、俺とゲレロは内心ムカムカしながらも冷静に話を否定していく。
「・・・・チッ!何かこいつらつまんねえな」
「折角のネタが台無しだぜ」
こいつら、好き勝手いいやがって。何でお前らを喜ばさねえといけねえんだよ。
「この絵なんてマーティンに一万で書いて貰ったってのによお」
・・・・一万!こんなくだらねえ絵に金出したのか?こいつら人を揶揄うのにどんだけ金かけてんだよ!
「そうそう、この長椅子なんて娼館から借りてきたんだぜ。結構重かったからみんなで協力して運んだのに・・・」
こいつらの無駄な行動力は何なんだよ。ただ、まあ、俺もいい加減キレたぜ。このまま組合長に頼んで穏便に収めようと思ってたんだけど、作戦変更だ。こいつらも地獄に叩き落してやる。
「流石にマーティンは絵が上手いな。けどなあ、オークのこいつはもっとデカかったぜ」
そう言ってオークの絵の股間部分をコンコンと叩く。
「嘘だろ」、「これ以上かよ」、「マジか・・・・」
俺の言葉に驚く面々。
「って、やっぱりお前らオークと盛ってたんじゃねえか」
「だから違うって言ってんだろ。何回言えば分かるんだよ。捕獲する時に暴れて腰の葉っぱがどこか行ったって説明したじゃねえか。そんで寄ってきたザリアにでも反応したんだろうって。同じ事言わせんな。・・・・まあ、いいや。それでな、それを見たゲレロが『俺のは娼婦からオーク並とか言われてんだ。で、実際こうやって見るとその通りだな』とか言い出したんだよ」
「はあ?」、「ねえだろ」、「嘘じゃねえか」、「娼婦の営業トークだろ?」、「真に受けてんじゃねえよ」
「な、お前らでもそう思うだろ?俺もそう言ったんだ。そしたらゲレロが脱ぎだしたんだ。で、見た瞬間俺は思った。『マジかよ!!』ってな」
・・・・・・・
俺の言葉に沈黙が訪れる。みんな何故か自分の股間に視線を落としているので、その隙にゲレロに目で合図をすると、ニヤリと笑ってくれた。俺の意図に気付いてくれたんだろう。
「お前ら、ベイルのが『ユニーク』や『賞金首』って言われてるの聞いた事あるだろ?」
「ある!」、「そう言えば聞いた事あるな」、「股間にこん棒隠し持っているって話だ」
最後の噂は誰が流した?流石に話盛り過ぎだろ。
「だから俺もそん時にベイルの確認させてもらったんだ。そしたら・・・・」
「「「・・・・そしたら?」」」
「噂は本当だった。マジで『ユニーク』や『賞金首』と言っていいぐらい立派だった」
・・・・・・・
再び沈黙が訪れみんな股間に視線を落とす。
「どっちが・・・・」
誰かが口を開き、何かを呟いた。
「あん?」
「何だ?何か言ったか?」
「・・・ベイルとゲレロどっちがデカかったんだ?」
ハハハ、この時点で俺の作戦は成功したようなもんだ。内心高笑いしながらゲレロと話を合わせる。
「お互いどっちも勝ちを譲らす決着つかずだ」
「そう言えば、ゲレロ、誰かに判定してもらって決着つけるって約束だったな?」
「お!そう言えばそうだったな。今決着つけるか?」
「望むところだ」
そう言って下だけ全部脱ぐ俺とゲレロ。
「おら、俺の方がデカいだろ!」
「ふざけんな!よく見ろ!俺の方がデカいって!」
そこにのぞき込んで確認してくる馬鹿共。
「はあー。どっちもどっちだよ。っていうかお前ら話盛り過ぎ。大した事ねえじゃねえか」
「だな、どこがオーク並だよ」
「ビビって損したぜ」
「はあ?少なくともてめえらのよりはデカいだろ」
「そうだぞ、お前らじゃ勝負にならねえからさっさとどっか行け」
そこを煽り返すとアウグが怒ってズボンを下げる。
「ふざけんな!俺の方がデカいに決まっているだろ!」
「ハハハ、アウグお前目の病気なんじゃねえ?」
「だな、医者に行ってこい。ついでに頭も治してもらえ」
「ふざけんな!俺の方がデカいだろ!」
喚くアウグに呆れた様子のペコーが今度は参戦してきた。
「喚くなよ、アウグ。小物くせえぞ。大物ってのはこうやって余裕持って出てくるもんだ。ほら見てみろ。俺の圧勝だろ?」
「ハッ!どこがだよ、大負けもいい所じゃねえか!そんなでよく勝負になると思ったな」
「何だと!トレオン!てめえ勝負から逃げてる癖に適当言うな!」
「誰が逃げてるって?大物は遅れて現れる!物語の基本だぜ!」
そう言って今度はトレオンがズボンを下げる。
「どこが大物だよ!小物も小物、てめえらしい、小童じゃねえか」
「誰が小童だ!小童なんてロッシュに言え!」
「うん?僕に勝負を挑むかい?言っておくけど小人族は背は小さいけど、あそこは巨人族って言われているんだよ?後悔してもしらないよー」
「ほう?リーダー。言っておくがドワーフ族も巨人と言われている。勝負するか?」
「臨むところだよ!」
ロッシュの言葉を聞いたユルビルも参戦し勝負を始め出す。それに乗った連中も色々な場所で下半身出して勝負をしている。
・・・・・うん。狙い通りだけど、実際見るときったねえ光景だ。そんな中、女組合員はというと、「チッ!!」、「最悪!!」、「マジで死ね!!!」、「ついてこなければよかったっす」って奴らが大半だ。
そんな中、「ええええええ!僕まだ見たいんだけど?」、「シリトラ、もう少しだけ!!」そんな事を言っているモレリアとイーパをシリトラが引き摺って組合から出ていくのが見えた。
一方受付嬢達は・・・・。
「今日の仕事は終わったようです。それでは帰ります」
「・・・え?ちょ・・・・」
リリー率いる受付嬢の圧に男の職員は何も言えず、その場に呆然と佇むだけだった。
そうして組合に残ったのは男の組合員と職員のみ。こうなるともう誰も止められねえ。新人だろうが移籍組だろうが職員だろうが、全員で誰が一番かの勝負になった。
■
「それでは!コーバスナンバーワンは・・・・・・・・『上を目指す』のリーダー!ロッシュ!!!!」
「アハハ!今度から小人族と勝負しようなんて考えないでよー」
「そして惜しくも次点は『全てに打ち勝つ』リーダーのアーリット」
「ありがとう!」
トラスの馬鹿が何故か仕切っているが、組合職員も巻き込んだ苛烈な争いは、公正なジャッジの結果こうなった。
うん、みんな酒と雰囲気に飲まれて頭おかしくなってるから、全員下半身丸出しってきったねえ光景に誰も何も突っ込まない。普段真面目なアーリットや職員でさえ馬鹿になってやがる。
ただ、俺達は忘れていた。もう一人だけ、勝負に参加してねえ奴がいるってな。
「おーい、みんな。一位のロッシュさん胴上げするぞー」
「ういー」、「悔しいが負けたからやってやるよ」、「しょうがねえなあ」
もう、みんな頭馬鹿になっているから、誰もロッシュの胴上げを疑問に思わない。みんな言われたままに動きだす。
「そんじゃあ、行くぞ!ワッショイ!ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!ワッショイ!」」」」」」
「ハハハ、ありがとー」
下半身丸出しの男達に胴上げされる下半身丸出しの小人族は楽しそうに笑っている。
そんな中、たった一人忘れられていた人物が遅れて現れたんだ。
「てめえら!!!うるせえぞ!!何の騒ぎ・・・・ええ?お前ら何してんの?」
我らがコーバス組合のトップ!組合長様だ。組合長室に引きこもっていたから、すっかり忘れてたぜ。
「おいおい、組合長忘れていたぜ」
「そうだ、この人がまだ残っていたんだ」
「この人に勝たなきゃ一位とは言えねえ」
「お前ら!胴上げ止め!」
「アイタ!!!ちょっと!急にやめないでよ!」
急に胴上げやめるから、床に落っこちたロッシュが文句を言うが、誰も聞いていない。
「そういう訳で組合長。ちょっと確認させてもらいますよ」
「何をだよ!てめえらこっちに寄るな!ぶん殴るぞ!」
ジワジワとにじり寄る俺達に流石の組合長も恐怖を感じているのか後ろに後ずさる。が、既に360度組合員が囲んでいるから逃げ場なしだ。
「お前ら!抑え込め!!」
俺の号令と共に組合長にみんなが襲い掛かる。何人かぶっ飛ばされたけど、流石に多勢に無勢アッっという間に組合長は抑え込まれる。
「てめえら!マジでやめろ!俺は組合長だぞ!組合長にこんな事するなんて聞いた事ねえ!馬鹿な真似はやめろ」
「ハハハ、その慌てよう組合長のこっちは無級組合員かな?」
「てめえ!ベイル!マジでぶん殴るぞ!」
そう言われてもみんなに抑え込まれた組合長なんて怖くねえ。ベルトをとって、ズボンを下げて、ほい、出・・・・・た?
・・・・・・・・
組合長のがデロンと出た瞬間、全員が動きを止めた。・・・・・そう、ポロンじゃねえんだ、デロンなんだ。
・・・・・・
「・・・・・・オークだ」
誰かがボソリと呟いた。その言葉と共に硬直の解けた連中が騒ぎ出す。
「すげえええ!何だこれ!」
「デカすぎイイイイ」
「何喰ったらこんなデカくなるんだ?」
「組合長は力だけじゃなくて息子もバケモンだった」
「組合長もしかしてオークの血入ってる?」
「やはりコーバスのトップはこの人しかいねえ」
「ジーク、僕の負けだよ」
「5級になるのにこの大きさが必要なのかな」
全員大絶賛の嵐の中、組合長だけはプルプル震えていた。
「・・・て、てめえら」
組合長のこの言葉を聞いた後、俺の記憶は無くなっている。後で聞いた話だと一番最初に俺がぶん殴られて気を失った。そこからは見た事ないぐらい怒った組合長が全員をぶん殴って気絶させてまわったらしい。みんな酒と雰囲気で頭馬鹿になってたからな。碌に抵抗も出来なかったそうだ。
これが初日の話。
元旦からこんな話ですみません




