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9.コボルト討伐依頼③

「ふあああ。暇じゃのう」

「まあ、そうだけど、この時間も金が貰えていると思えば文句も無い」


 トレオンのパーティ『上を目指す』のメンバー、ドワーフのユルビルと蜥蜴人のマーティンの会話にムカつきながら、俺たちはさっき狩ったコボルト達を1か所に集めている。 あの二人はこっちで言うジャンケンみたいな奴に勝って、周囲の警戒という楽な仕事をしている。俺もそっちがいい。

 警戒のはずだけどユルビルの奴、途中まで作られた木彫りの人形の続き彫り始めてるし、マーティンの奴は風景画書き始めやがった。あいつらちゃんと警戒してんだろうな?


「あーあ。全く面倒くさいな!っと!」


 俺達が集めたコボルトを面倒くさがりながら捌いているのは小人族のロッシュ。トレオンの所のリーダーだ。こいつもトレオンに匹敵する働きたくない病を患っている可哀そうな奴だ。


「そう言いながらしっかり手は動いてるじゃねえか?」

「ベイル。これ終わらせないと仕事が終わらないんだよ?自分のノルマはさっさと終わらせて憂いなく休みながら、ノルマ終わってない奴を見て笑う。最高じゃないか」


・・・・・・


 うん、やっぱりトレオンの所のリーダ―なだけあるわ。こいつは依頼受けていない時は他のパーティが頑張っているのを安全な所から酒飲みながら見るのが趣味というかなりの性格の悪さだ。

 何でトレオン達がロッシュをリーダーにしているのか最初分からなかったけど、今なら分かる。面倒くさがりのロッシュはパーティメンバーを基本放置なんだよ。で、メンバーの誰かが金欠になったら招集かけて依頼に行くってのが今の『上を目指す』スタイルだ。昔は違ったらしいけどな。

 その考えが刺さった連中だけが残って、嫌になった連中は去っていった。それが『上を目指す』ってパーティだ。

 そうは言っても3級でもかなりのベテランの連中だ。腕や知識は4級レベルで4級の連中からも一目置かれている。そして普段からサボっているように見えて注意すると、実は○○なんだぜ‥‥って意味深な事言って、サボっていると思わせない。でもマジでサボってるような連中だ。


 ‥‥何で俺はこいつらと組まされてんだろ?もう一つのティッチとゲレロの所の余りの組に入れてくれよ。




「・・・・・・あーあ。マジかよ。‥‥みんな追加の仕事だよ。適当に頑張れ。死なないでね」


 死んでいるコボルトを集めているとロッシュの奴が意味深な言葉を口にした瞬間、それを聞いて木を彫っていたユルビルと絵を描いていたマーティンが慌てて片づけを始めた。


「ったく。巣に潜った奴ら何やってやがんだ?」


 トレオンも引き摺ってきたコボルトを死体の山に放り投げた後、武器を抜いて辺りを警戒しだす。


「悪い!ちょっと分が悪いから撤退した。すまんが、手伝ってくれ!」


 そう言いながら巣から飛び出してきたのはティッチの所のメンバーだ。その直後に巣に潜っていた奴らが次々に巣から飛び出してくる。そうしてティッチとゲレロ、クワロの3人が最後に巣から出てきた後は、今度はコボルト軍団が巣から飛び出してきた。


 おいおい、思っていたより数が多くねえ?更に外にいたコボルトよりも装備の質がいいぞ。


「おい、あのホブコボルト。あの鉈見ろ」

「マジかよ!賞金首の『大鉈』じゃねえか!」

「おい!あっちのでかい杖持ちも見ろ。あれ『巨杖』だろ」

「賞金首2匹かよ。この巣やべえぞ」


 特徴的な武器を持つ2匹のホブコボルトが巣穴からその姿を現すと仲間達が騒ぎ出す。この2匹は何人もの組合員を殺していて、その殺し方も甚振るようなやり方でかなり性格が悪く、結構な額の賞金が懸けられている奴らだ。確かティッチの所が探していた奴らだったはず。


 で、更に一際でかくて立派な装備をしたコボルトが巣から出てきた。恐らくこいつがこの巣のボスだろう。賞金首2匹も従えてるなんて相当な強さと想像できる。

 

「クワロとゲレロは『巨杖』をロッシュとトレオンはそのフォローを頼む。分かっていると思うが『巨杖』の魔法には気を付けろ。こっちのボスは私達が相手をする。残ったメンバーは周囲のコボルトやホブの相手をしてくれ」


 ティッチから全体へ指示が飛ぶ。・・・が一匹忘れてねえか?


「おい!ティッチ!『大鉈』はどうすんだよ?」


 『大鉈』への対応を誰がするか指示が無い事に気付いた誰かがティッチに大声で尋ねる。


「『大鉈』はベイル!君が相手してくれ」


 マジかよ!何で俺なんだよ。っていうか俺一人で相手すんのか?


「馬鹿野郎!俺じゃ勝てねえぞ?足止めで精一杯だ!」


 本気出せば瞬殺できるけど、『3級組合員のベイル』にそれは求められてないし、俺もそれを見せるつもりもない。まあ、一緒に依頼を受ける時は強い奴の足止めを求められる事が多いからいつもの事か。


「それで十分だ!私かクワロの所が倒すまで時間を稼いでくれ!頼んだぞ『足止め』」


 『足止め』のベイル。俺の渾名みたいなもんだ。カッコいいとは思わないけど、悪いとも思わない。すげえ微妙な渾名だ。まあ実際足止めばっかりしているからそう呼ばれても仕方ない。


「そんじゃあ、真面目に足止めしますか。ほら!犬っころかかってこいよ!」


 『絶無投』を投げてこっちに注意を向けると、俺を無事にターゲットにしてくれたようで四足になって駆け寄ってくる。っていうかその口に咥えた大鉈ちょっと格好いいじゃねえか。よーし、こいつ倒して俺の物にしよう。


 すれ違いざま口の大鉈で斬りつけてくるがそれをヒラリと躱す。こん棒で受けたら刃が欠けそうだから大鉈の攻撃は全部躱す事にしよう。躱した後は牙タウロスと同じで後を追いかける。


 『大鉈』もまさか追いかけてくるとは思わなかったのか、慌てて俺のこん棒を大鉈で受け止めた。・・・・・・受け止めた?


「ああ!馬鹿!お前受け止めるんじゃねえよ!刃が欠けるだろ!ちゃんと躱せよ!それが出来ねえんだったら素直に食らっとけよ!ったく」



「ベイルのやつ何言ってんだ?躱せってどういう事だよ」

「ほっとけ、あいつはあれでしっかり仕事はする。言っている事を理解しようとするな」



 誰だ?今言った奴!後で見つけたらコボルト尻噛みの刑にしてやる。


 そう思っているうちにいつの間にか『大鉈』も立ち上がり鉈を振り回してくる。


 くそ!攻撃を躱す事しか出来ねえ。しかも受けられる可能性があるからこっちから攻撃を仕掛ける事も出来ねえ。こりゃあ八方塞がりだ‥‥と普通の奴なら考えるだろう。


 だけど俺は違う。基本ソロだからこういう時でもどうにかなる方法をいくつか用意してある。その一つがこれだ『香辛料爆弾』!塩や胡椒、唐辛子みたいなこっちの世界の香辛料を適当に小袋に入れたもの。鼻が利く相手には有効だ!値段は100ジェリー程度。当然使い切り。


 そして、さっきからこっちが攻撃してこないのを良い事に調子に乗って鉈を振り回してる『大鉈』は、いつの間にか自分が風下に移動させられているなんて考えてもないだろ。それが俺と獣の頭の違いって奴よ!食らえ!『香辛料爆弾』!


 袋の口を開いて『大鉈』に向かって投げつけると辺りに香辛料が舞い散る。すっかり油断していた『大鉈』はもろに香辛料を被り悶絶する。フハハハハハ。やはり犬系の魔物にはこいつはかなり有効だ。両手を目と鼻に当てて痛みに耐えている『大鉈』‥‥いや、既に大鉈を手放しているからこいつはただのホブコボルトだ。あっ!大鉈の落とし物だ!これ警察に届けておきますね。


 大鉈を拾った俺が近づくと気配を感じたのか腕をブンブン振って近づかせないようにする犬っころ。まだ目が見えていないのか適当に振り回しているだけなので当たる訳がない。ただ、こいつら普段は隠していても中々立派な爪を持っているので迂闊に近づくと危険だ。

‥‥取り敢えずもう一回『香辛料爆弾』を投げつけると、再び悶絶して苦しそうに呻いている。


 ハハハハハ苦しいかい?君にやられた組合員は死ぬまで弄ばれてもっと苦しい思いをしたんだからね。


 そうして、いよいよと悟ったんだろう、ホブコボルトは両手を振り回して近づかせないように必死にあがくが、構わず近づく俺。



・・・そこに風が生まれた。


 ホブコボルトが腕を振ると同時に発生したのでこいつが魔法を使った事は分かった。


 いくら俺が風上に立っていると言っても、魔法で生み出された風!


 それに乗って辺りを舞っていた香辛料が俺に襲い掛かってきた。その結果‥‥





「ぐあああああ!目がああああ!目がああああああ!」


 辺りに俺の叫びが響き渡る。


「な!?ベイルがやられた!あの『足止め』が?」、「ちょ嘘だろ!『ソロのベイル』が?」、「『ブンブンこん棒丸』が?」、「あり得ねえ!『痩せゴリラ』だぜ」、「『4馬鹿』の一角が‥‥」、「『大八車』だぜ、そんな訳ねえ」、「『レッサーベイル』でも無理なのか?」



・・・・


・・・・よーし。お前らが普段から俺をどう言ってんのか良く分かったぜ。今は目の痛みで悶絶しているが、これが収まったら覚悟しとけよ。特に最後に言った奴!てめえの声は覚えた!絶対に許さねえからな。


「おい、お前ら!ベイルは別にやられた訳じゃねえ。自分の『香辛料爆弾』で相打ちになっているだけだ!安心しろ!」


・・・・


「心配させるな!死ね!」、「でけえ声出してんじゃねえよ!ボケ!」、「それぐらいで喚くな!小物が!」、「真面目に働け!」


 ちくしょう。こいつらボロクソ言い過ぎじゃね?いや、まあ逆の立場なら俺も言ってたけどよ。まあ、これが組合員って奴だ。


「アオオオオオオオン!!!」


俺が悶絶していると、すぐそばでコボルトの断末魔の叫びが聞こえて来た。・・・おいおい、まさか・・・


「よっしゃあ!俺が賞金首『大鉈』を討ち取ったあああ!」


 すぐそばで喜びの声が聞こえてくる。


「ふざけんな!そいつは俺の獲物だ!あと一撃で殺せたのに!こいつ獲物横取りしやがった!」 

「おいおい、ベイルさんよお。あんた言いがかりはやめてくれよ。あんたの役目は足止めだろ?なら倒すのは別に俺でも良かったはずだ。心配しなくても賞金はみんなで山分けになる。まあ、ずっとこいつは探してたんだ悪く思うなよ」


 く、悔しい。何も言えねえ。通常なら明らかなルール違反なんだが、今回は報酬山分けだから、誰が倒しても文句は言えない。そうじゃなきゃ、欲の皮の張った組合員共だ、みんな『賞金首』かボスを倒したがって協力なんてしねえもんな。

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こーれはw貧乏ナイフwww
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