89.オーク捕獲依頼①
俺が2級になってからしばらくが経った。その間、毎日のように瓦礫運びをやって、いい加減嫌になってた頃、いつものように依頼を受けようとすると、リリーから声をかけられた。
「ゴドリックさんからの依頼です」
・・・・・・・・ああ、しばらくご無沙汰だったから、もうゴドリックからの依頼は無いって思っていたぜ。
「久しぶりだな。取り敢えず内容は?」
取り敢えず内容だけは聞いてみるか。
「オークの捕獲ですね。詳しくはいつも通り依頼主に確認と書いています。報酬は10~30万ジェリーです」
「まーた、聞くだけだと微妙な感じだな」
オーク。お馴染み性欲旺盛な豚の頭した人型の魔物だ。3級相当の魔物だが、コーバスじゃほぼ絶滅危惧種みたいなもんだ。俺でも出会ったのは数回程度。というのもコーバス周辺にオークが出たって話があると女組合員だけで臨時パーティ組んで、速攻討伐するからだ。オークの習性考えたら当然だが、それだけ女から嫌われている魔物だ。
そんなわけでコーバス周辺にほぼいない魔物を捕獲して来いって依頼。報酬は10~30万。報酬だけなら3級パーティでも十分美味しいが、オークとなると話は別だ。多分これオークが見つからねえ。確実にスカる依頼って分かるから誰も受けない。相変わらずゴドリックは依頼書だけなら、すげえ微妙な依頼を出してくる。
ただ、実際受けてみると、あいつの依頼にハズレ無しだ。そんな訳だから今回も俺は受ける事にして、北村に向かった。
「いやあ、ようやく落ち着いてきたので、新たな魔物研究に手をつけられそうです」
「タロウだけじゃなくて、ジロウ達やゴブ一の事まで王都に広まっていて、色々な問い合わせがあって大変だったんですよ」
「お、おう」
いつものようにゴドリックの家に向かい、ソファに座った途端ゴドリックとシーワンが今までの苦労を待ってましたとばかりに語ってきた。そんな二人に俺は戸惑った答えしか返せない。
何故か?
二人の勢いに押されたってのもあるが、何故か二人とも殴られた痕があるんだもん。更に言えば、二人の後ろに立つ新たな弟子3人のうち男二人も似たようなもんだ。
・・・・何?4人で殴り合いでもした?
女弟子だけは喧嘩に加わらなかったのか、顔に痣はないが、露骨に不機嫌な態度だしてんのはどうなんだ?感じ悪いぞ。
「えっと。喧嘩でもしたのか?」
組合じゃ珍しい事じゃないからな。もしかしたらこいつらも議論が白熱してしょっちゅう喧嘩しているのかもしれない。
「今回はオークの捕獲依頼をお願いします」
「チッ!!」
「・・・・・・え?スルー?」
何故か俺の質問に答えず本題に入るゴドリック。思わず驚く俺と何故か舌打ちする女弟子。
・・・・ここで女弟子が不機嫌な理由が分かった。そりゃあ、組合員じゃなくても女からすればオークなんて絶滅させたい魔物一位だからな。それを捕獲なんていい気分になる訳ねえ。
前見た時は暗いイメージあったが、今は露骨にやさぐれているから気性は激しいのかも。・・・もしかしてゴドリック達のケガは女弟子がやったのかもしれねえな。
「依頼書に書かれている通り今回も捕獲なので、こちらで拘束具は用意しました。いやあ、トティさんが村に住み着いてくれて、助かりましたよ」
そう言ってニコニコ笑いながらゴツイ拘束具を机に並べていく。
うん、こっちも気になるけど、ケガの方が気になるんだ。
「・・・・・えっと。ケガどうした?」
「それでは質問も無いみたいですね」
「いや、ある、めっちゃある。ちょっと待って。え?そっちは触れちゃ駄目な奴?」
もう一回聞いたら、唐突に会話打ち切られそうになったので、慌てて止める。おーけー。取り敢えずケガは触れちゃいけないみたいだ。俺は空気が読める子だ。
「捕獲については、このゴツイ拘束具があれば大丈夫だろう。で、当然今回も無傷でって訳か?」
「そうです。無傷なら30万。ケガの具合によっては10万になります」
あ、依頼の事ならちゃんと答えてくれるのね。
無傷かあ。ちょっと今回は厳しいな。討伐なら楽勝なんだが、オークは3級相当の魔物だから無傷で捕獲ってのはなあ。頭でシミュレーションしてみるが、『身体強化』使えばオークを殺す未来しか見えない。かと言って素の状態だとどう考えてもオークを瀕死にしねえと捕獲は出来ねえ。そうなると報酬は10万。多分俺も無傷とはいかねえ。そうすると・・・答えは一つだ。
「その依頼ゲレロに手伝ってもらってもいいか?」
ゲレロに手伝ってもらう事にした。あいつとなら無傷の捕獲は出来るだろうし、報酬分けても15万だ。ゲレロの答えは聞いてねえけど、多分暇しているから誘えばついてくるだろ。
「ゲレロさんなら構いませよ。ただ、この依頼はあんまり広めないで下さい」
学会に発表するネタだろうからな。ゲレロも注意すれば言い触らしたりしねえから大丈夫だろ。
「それとゲレロさんを誘ったら必ずこちらに顔を出して下さい」
「何でだ?」
そのままオーク探しに行きてえんだけど。また北村に来るのは少し遠回りになって面倒くせえ。
「少し試して欲しい事がありましてね」
「チッ!!」
・・・・・・・・
えええ?何であの女弟子今のタイミングでキレた?キレるポイントなくね?
「その試して欲しい事は次に来た時に教えますね」
うーん、ゴドリック達は聞こえていたんだろうけど、無視してる。・・・・これはブチギレ女弟子には触れねえほうがいいみたいだ。俺は空気読めるぞ。
「分かった。取り敢えずゲレロに聞いてくる。この時間だし、来るのは明日になるからな」
って事でまたコーバスに逆戻りだ。
■
「ゲレロどこにいる?」
そう言って情報屋に1000ジェリーを払う。
「快楽亭だ」
まあ、組合で待っていればゲレロは来る可能性はあるが、娼館梯子して捕まらねえ時があるからな。そうなると待ったり、探したりするよりも、こうして情報料払って教えてもらった方が早い。
情報屋に礼を言って、コーバスでもトップ3に入る優良娼館『快楽亭』に足を踏み入れる。
「悪い、客じゃねえんだ。ゲレロいるだろ。俺が来たって伝えてくれねえか?」
俺も羽振りがいい時に何度かゲレロと来た事あるから、受付は顔を覚えてくれているはずだ。申し訳なさそうにお願いすると、隣の見習いっぽい奴が奥に消えた。
普通はこんなん対応してくれねえが、ゲレロは特別だ。だってこいつ捕まらねえ時はマジで捕まらなくてクワロ達からガチギレされた過去があるからな。そういう訳で店が顔を知っている組合員だけはこうやって呼び出してくれる。
「ベイルさんももうちょっと来てくれよ。最近景気悪いんだよ」
受付近くでゲレロを待っていると受付がボヤいてくる。
「この間降格したからしばらく無理だ。っていうかこの店娼婦のレベルは高いけど、3級組合員じゃちょっと高えんだよ」
「そう言ってもこっちは結構ギリギリなんだぜ」
そんなん俺に言われても知らねえよ。もうちょい営業努力しろ。
「『健やかな宿』と『夜中の夢』と、どうして差がついたんだろうなあ」
『健やか宿』、『夜中の夢』どっちもコーバスでは有名な高級娼館だ。これに『快楽亭』を加えた3店がトップを争っていたけど、最近ちょいと2店に負け気味らしい。
「原因は分かんねえのか?」
「分かんねえ。こっちから何人か偵察に行かせているが、ウチと大きな違いはねえって話だ。実際俺も行ったが何でウチが選ばれないのか分かんねえ」
「そうなると、店の隅々の綺麗さとか、酒や料理の美味さとか、そう言った微妙な部分で差が出てんじゃねえか」
・・・・・・
「確かにベイルさんの言う通り、その微妙な差の積み重ねかもしれねえな。ちょっともう一回考えてみる」
そんな話をしていたら、ゲレロが寝ぼけ眼で受付にやってきた。
「何だ?ベイルがわざわざ来るなんて珍しいな」
「よお、楽しんでた所悪いな。ゲレロ明日俺と一緒に依頼受けねえ?」
「ああ、明日は無理だ。今日はここに新人ちゃんが来るからな」
「よーし!大丈夫だな。明日朝起こしにくるから用意しとけよ」
「あれ?俺無理って言ったよな?人の話聞けよ」
騒ぐゲレロは無視だ。ボヤく受付に明日朝ゲレロ迎えに行くと伝えて俺は宿に戻った。
■
翌朝
「ふああああああ!眠い!ベイル、てめえマジで来るとか信じられねえ」
娼館で寝ているゲレロを叩き起こして北村に向かう道中、同じ事をグチグチ文句言ってくる。
「だから昨日起こしにくるって言ったじゃねえか。文句ばっかり言ってんな!それより昨日の新人どうだった?」
これ以上ゲレロにグチグチ言われたくねえから強引に話題を変える。
「ああ、良かったと言えば良かったんだが、『快楽亭』じゃ色々厳しいかな」
良く分かんねえけど、『コーバスの夜の帝王』の異名を持つゲレロは新人ちゃんに何か納得いかねえらしい。話題逸らしだから俺は全く興味ねえけどな。
「ふーん。昨日受付に聞いたけど『快楽亭』結構厳しいんだって?」
「ああ、俺も他の店行ったが、違いが良く分かんねえ。良く分かんねえが『快楽亭』行くなら他の二つに行こうかなぐらいには思うから何かがあるんだろう」
うーん、受付にも言ったけど、多分細かい所で差が出てんだろう。知らんけど。
そんな、他愛のない事を話しながらゴドリックの家に着いた俺達は、当然のようにいつもの応接室に案内された。
「すみません。お手数おかけして・・・それでゲレロさんがいるって事はお二人でって事で宜しいですか?」
「ああ、今から探してくる。それで昨日も言ったけど、オークはこの辺じゃ滅多に見つからねえ。だからタロウ達借りるぞ」
昨日少し考えていた、オークは多分この辺にはいねえから森の奥まで見つけに行く必要がある。そうなると、鼻の利くタロウ達がいればどうにかなるんじゃないかってね。
「いえ、今回タロウ達は駄目です。その代わり、特別なアイテムを使ってもらいたいです」
「「・・・・・・特別?」」
タロウ達駄目って言われたけど、特別なアイテムの方が気になるじゃねえか。ゲレロも興味深々だ。
「ええ。二人には特別なアイテムを使ってオークを捕獲してもらいたいんです。取り敢えずそのアイテムを木でも吊るしておいて、一日観察してみて下さい。そこでオークを釣れれば捕獲をお願いします。釣れなければ一度戻って来て下さい。その場合でも10万は支払います」
・・・・・・・・・・・・・
「「はあ!!??」」
うっそだろ。捕獲できなくても10万?何だその依頼!意味分かんなくて驚くってレベルじゃねえよ!見ればゲレロも口を開けて馬鹿面晒してやがる。
「え?依頼内容と違くないか?」
「ええ、だってこの依頼ベイルさんとゲレロさんが受けたから、もう一歩踏み込む事にしたんです。お二人ならこの検証を追加しても文句は言わないだろうって思ってますから」
・・・いや、俺もゲレロも文句ねえよ。だってこれ、言ってみれば見つからなくても10万もらえるってことだろ。やっぱりゴドリックの依頼は破格だな。
「色々聞きたいが、多分学会関係とかであんまり詳しく聞かねえ方がいい奴だろ。ゲレロも気になるだろうけど気にすんなよ」
「・・・・・・お、おう。すげええ気になるけど、聞かねえでおく。まあ4級の貴族依頼には、そう言うのもあるから口の固さは信用してくれ」
俺達がそう言うとゴドリック達は良い笑顔だ。女弟子だけが更に険しい顔になったんだけど?
「それでは少し準備をします。リーゴ、お願いします」
そう言って後ろの女弟子に声をかけるゴドリック。あの女弟子はリーゴって名前らしい。
そのリーゴは何が気に入らないのかゴドリックとシーワンの座るソファを
ガン!
っと蹴っ飛ばした後、奥に消えていった。えー、マジであの女なんなん?態度滅茶苦茶悪くねえ?
「なあ、今の女・・・」
ゲレロも俺と同じ事を思ったらしく、ゴドリックに聞くが、首を振るゴドリックを見て途中で言葉を飲み込む。
「リーゴの事は気にしないで下さい。やはり女性と言う事もあって今回の検証は気に入らないんですよ」
「・・・まあ、オークだからなあ。女からすればいい気分じゃねえよな。にしてもあの態度は無くねえか?一応お前が師匠だろ?」
ゲレロの言う通り、不機嫌さを出すぐらいならまあオークだから仕方ないにしても、師匠の椅子を蹴っ飛ばすのはどうなんだ?
「あー、はい。でも今回は流石に私達が悪いので・・・」
横からシーワンが何故かリーゴのフォローをしてくる。あのリーゴの態度を庇うってこいつら何したんだ。後ろの男弟子二人に聞こうと思ったけど二人とも斜め下を向いて、俺達と目を合わせようとしてない。こりゃあこいつらから聞くのも無理そうだ。
そうしてしばらく無言が続く中、ようやく顔を真っ赤にしたリーゴが戻って来た。
おいおい、何があった?聞いた方がいい?それともスルー?
ニコニコしているゴドリックじゃ分からねえ!シーワンは・・・・・俺と目が合うと首振った。これはスルーって事だな。承知した。
「どうぞ」
顔を真っ赤にしたリーゴから渡されたのは、厳重に口を絞められた皮袋。見た目は特別なアイテムって感じじゃねえ。
「それの中に入っているものが特別なアイテムになります。これは鮮度が命だと思っています。だから必ず現地についてから中身を取り出して下さい」
・・・鮮度?肉とか生モノ系?そんなん現地で魔物から調達出来るんだけど?いや、そもそもオークって肉とかで釣れるのか?
「すっげえ中が気になるんだが、今、確認してもいいか?」
「駄目です!絶対ダメです!!!」
何故かリーゴが大声でゲレロを止める。更に・・・
「いいですか!先生が言ったように必ず現地で開けて下さい!そしてこの検証は絶対!!!他言無用です!!もし途中でこれを開封したり、誰かに話したりしたら死にますよ?」
・・・死ぬって穏やかじゃねえな。もしかしてこの特別アイテム毒とかじゃねえよな?
「おいおい、話したら死ぬって脅しか?俺とベイルはそう簡単に殺されねえぞ?」
「いえ、死ぬのは私です」
「「お前かよ!!」」
いや、マジで意味分かんねえ。なんで俺等が話したらリーゴが死ぬんだ?何かの呪物的なもんなの?すげえ気になるけど、ゴドリックは相変わらずのニコニコ顔で何も分からねえ。シーワンは目が合うと首振ってるから、これもスルーしろってか。
仕方ねえ。向こうは依頼主だ。
「ゲレロ、行くぞ」
「・・・・お、おう」
気にはなるけどゲレロも依頼人の意向に気付いたんだろう。俺が声をかけると、少し戸惑いながらも腰をあげる。
「それでは宜しくお願いします」
そう言ってゴドリック達が頭を下げる中、リーゴだけは何か言いたげに俺達を睨んでいる。
「絶対に!今回の件、誰にも話したら駄目ですよ!話したらここにいる全員を殺して私も死にます!!」
ヤンデレかな?




