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87.香水と一張羅

 いつものように何てこと無い風に組合の扉を開けて中に入ると、働きもせずダラダラと酒を飲んでいる駄目組合員の姿が目に入る。まあ、見慣れた光景なので、気にせずいつもよりゆっくりと足を進めていくと早速誰かが俺に気付いたようだ。


「お、おい、あれ・・・」

「ああ?・・・って何だあいつ?」

「アレって髪型違うけどベイルじゃねえか?」

「本当だ馬鹿だ。ったく今度は何の遊びだ?」


 俺の姿を見たベテラン組はそう言うとまた、さっきの日常に戻っていく。


 誰か俺に絡んでこいよ!こいつら、何でそのままスルー出来るんだ!


「え?・・・いや、先輩達・・・それで終わり?」

「お、おかしくねえ?気にならないのか?」

「い、いや、普通気になるだろ。何で普通にジェリーに戻ってんの?」

「あの服何だよ。何であんなにビラビラくっついてんだ?」


 お!移籍組や新入り共はいい感じの反応だ。そのまま絡んでこい!


「おい、お前らあの馬鹿の事は気にすんな」 

「え?でも気になりません?」

「それがあいつの作戦だ。絡めばくだらねえ自慢話聞かされるだけだ。だからああ言う時の馬鹿には絡まねえ方がいいんだ」


 それだけ言うとアウグはペコーとのジェリー勝負に戻っていく。クソが、手口バレてるとやりづれえな。


「ええー。筆頭も大概だけど、ここの人達もヤバくねえ?」

「気にならねえの?」

「こうなりゃ俺達の誰かが行くしかねえだろ」

「でも筆頭だぞ。一人ジェリーとかする人に絡んで大丈夫か?」


 ふふふ、お前らいい感じだ。さあ!さっさとどうした?って聞きに来い!


「ああ、お前ら行くな、行くな。ほら、あの歩き方見てみろ。馬鹿が『牛歩』とか言ってる歩き方だ。絡んで欲しい時によくやる歩き方だ。大概あの歩き方する時は面倒くせえからな。しかもあの服装と髪型はタダ事じゃねえ。絡んだ事を後悔するから無視しとけ」


 くそー!ゲレロの奴余計な事を!チッ!それなら作戦変更、先に受付嬢を落とすぜ。


「よお、リリー。依頼達成の処理を頼む」


 いつものように何でもないようにリリーに依頼書を手渡す。そうして依頼書を受け取ろうと書類から顔を上げた所で、リリーは固まった。


「・・・・・・・・・・今度は何の遊びですか?」


 すぐに金縛りが溶けると胡散臭そうな目で俺を見てくる。


「何がだ?一体何の事言ってんだ?リリー」

「そのおかしな格好です。まず髪型。普段後ろに撫でつけてませんよね?そしてその訳分からないビラビラが一杯付いた服は何なんですか?」

「ああこれ?あちゃあー。リリーぐらい付き合い長いと分かっちゃうかー」

「変な小芝居はいりません。普通誰だっておかしいって分かります」

「いや別にこれが普段の俺?みたいな感じジャン?取り敢えず先に処理を頼む」


 そう言って少し動きを大きくしながらリリーに依頼書を手渡す。


「はあー。今度は何を・・・・」


 呆れた様子で渡された依頼書を見ていたリリーがいきなり止まった。と思った次の瞬間、俺は受付の机に叩きつけられていた。


「いててて・・・リリー、いきなり何・・・・・してるん?」


 文句言おうと目を向けると、まーたリリーが光の無い目で俺を見つめていた。怖すぎて語尾が大阪弁になったじゃねえか!っていうかリリー、俺に分からないぐらいの速さで叩きつけるの凄くねえか?


 で、そんなリリーはと言うと、俺の質問には答えず首の匂いを嗅いだ後、こう言った。


「・・・・何・・・だと・・・・」


 えっと・・・もしかして卍解使える?




「ちょっと、先輩何してるんですか・・・ってえええええええ!!!ベイルさん?どうしたんですか?ついに頭が・・・・・」


 おおーい、カナ。助けにきてくれて感謝するけど、俺の頭は問題ねえぞ。


「えええええええ!!!あのリリー先輩が呆けているうううう!凄い!流石ベイルさん!どうやったらリリー先輩をこう出来るんですか?」


・・・・あれ?ラルダ?君慣れたら結構言うねえ。新人の頃のおどおどした感じどこに置いて来た?


「・・・ハッ!!!し、失礼しました。ベイルさん。ま、まさかベイルさんが・・・ベイルさんが香水つけてるなんて思わなくて・・・」


「「「「「香水!!!!!」」」」


 我に返ったリリーの言葉にカナとラルダだけじゃなくて、他の受付嬢まで反応して椅子から跳ね上がるからビビったじゃねえか!


「どうしたんですか?誰から奪ったんですか?」


 奪ってねえよ。


「もしかしてベイルさん、香水付ける系組合員ですか?」


 何だよそのユーチューバーみたいな肩書き。そんな系統の組合員はいねえよ。


「その服装格好いいですね」

「お!分かる?これはちょっと拘りがあってな。この香水に似合うように選んでもらったんだ」


 この子はあんまり絡んだ事ねえ受付嬢だけど、めっちゃいい反応だ。高い金だして服買ったかいがあったぜ。


「香水どうしたんですか?」

「ああ、これ?ちょっと依頼人から貰ってな。試しに使ってみたんだ。結構いい匂いするだろ?」

「凄い良い匂いー」

「私も使ってみたいー」


 うはあ。やべ、美人な受付嬢から両側から挟まれて幸せだ。前世で上司に連れて行ってもらったキャバクラ思い出すぜ。香水の効果凄いな。


「ああ、いいぞ!使え使え!依頼人も受付嬢に広告塔にして欲しかったみたいだからな!」



・・・・・・・・



・・・・あれ?どうした?みんな急に黙り込んで?しかも殺気が溢れてない?


 不思議に思っていたら、まーた受付に頭を叩きつけられた。しかも今度はリリーみたいに優しくねえ、暴力の固まりみたいに乱暴に叩きつけられた。


「グハッ!!!!!!だ、誰だ?」

「僕だよ、ベイル。君は一体何をしているんだい?」


 そ、その声はモレリア?叩きつけられたと思ったけど、頭と背中を抑える感覚からしてこいつ俺を踏みつけてねえ?


「さて、ベイル、長い付き合いなのに水くさいじゃないですか」

「うん、冷たいと思う」


 今度はシリトラとイーパか?俺の手を押えて何がしてえ?俺が何をした?


「皆さん。ベイルさんは多分何も分かってないッス」


 今度はカルガーか。こいつは何で俺の周りを歩きながら話しているんだ?


「それでも死刑だろう?」

「おいいいい!モレリア何言ってんの?何で俺が死刑なんだよ!意味分かんねえよ!」

「何で受付嬢だけなんだい?」

「ああ?どう言う事だ?」


 モレリアの奴何言ってんだ?こっちは依頼人から受付嬢に使ってくれって頼まれただけだぞ。


「あなたは普段私達のお世話になってないと言いたいんですか?」


 ・・・今度はミーカか。なんか声から不機嫌なのは分かるけど、顔が見えねえから怖いんだけど。


「え?いや、なってる、なってる。めっちゃお世話になってる。毎日感謝してるって!」


 いや、マジでこう言わねえと本気で死刑執行されそうだからね。良く分かんねえけどクロ以上の圧を感じて怖えんだよ!


「それなら!」

「私達も!」

「香水!」

「使って!」

「いいよね?」

「・・・・・・・・・・・・いいともー」


 怖い怖い。モレリア達怖すぎて何故か俺、タモさんになったんだけど。


 で!俺がそう言った途端、圧が収まった。


「ふふふ、ベイルありがとうございます」

「流石ベイルさんっす」

「すこしだけ見直しました」

「評価あげとく」

「やっぱり君は素敵だよ」


 そう言われて5人から抱き着かれる。見た目嬉しいけど、感触的に嬉しいのは二人しかいねえ。ただ、チヤホヤされて悪い気はしねえ。


「という訳でリリー。私達も使わせてもらいますよ」

「ちょっと待って下さい。みなさん香水使えばデメリットがあるの分かっていて言ってます?」

「しばらく街の復興依頼受けるから心配しなくても大丈夫」


「「「「「・・・・・・クッ!!!!」」」」」


 ええ?受付嬢何でそんな悔しそうな顔してんの?君たち普段から男組合員を仮想敵と見なして文句ばっかり言って女組合員と楽しそうにしてんじゃん!・・・香水ってそんなヤベえ物なの?


「組合長!組合長!ちょっと助けてええー」


 怖くなって組合長に助け求めたんだけど・・・。


「ああ?何だー?てめえまたトラブル・・・お前その恰好なんだよ?ついに頭やっちまったか?」

「やってねえよ!失礼だな!・・・っとそれより組合長、ちょっと女達がヤバい感じだ」


 色々言いたいがまずは不穏な空気の受付嬢と女組合員を止めて貰わねえと!


「・・・・ああ、うん。・・・頑張れ」


 俺の指差す先を見て、状況を確認したら、扉を閉めてそれっきりだった。しかも普段しねえのに鍵までかけやがった!信じられねえ!


「フフフ」、「フフフ」、「フフフ」


 チラリと見れば女達は何故か妙な笑顔で笑い合っていて怖い。組合長が逃げるのも分かるけど、逃げたら駄目だろう!


 まあ、俺もこれ以上ここにいたら、死刑にされそうだからさっさと退散させてもうぜ。


 って事で男連中の飲んでいる場所に来たんだが・・・相変わらず酒飲んでダラダラしているダメ人間の巣窟だ。


「かあー。相変わらずここは掃きだめみたいな汚ねえ匂いだぜ」

「ああ?てめえちょっと香水つけてるからって調子乗ってんじゃねえぞ!」

「それにそのくそダセえ格好なんだよ!」


 はあー。やっぱりこいつらには高貴な服装や匂いって分かんねえんだな。俺ぐらい意識高くねえと分からねえか。・・・あれ?そう言えばさっきモレリアの奴この服踏みつけてなかったか?


「これ?別にいつも通りだろ?」

「そんな訳あるか!そんなビラビラした服なんの役にも立たねえ!むしろ邪魔だろ!」

「かあー。底辺拗らせてんな。このビラビラがいいんじゃねえか。・・・おっと、てめえらゴロツキにはこの服の良さは分からねえか?ハッハッハッ!」

「ああ?そのビラビラが何の役に立つんだよ!こんなん戦闘に耐えられねえだろ!」



 そう言いながら、一人の馬鹿が俺の服のビラビラを強引に引っ張りやがった。その結果、辺りに布の裂かれる音が響く。


「ああ!て、てめえ!ふざけんな!俺の一張羅!10万したんだぞ!」


 取り敢えず引き裂いた馬鹿をぶっ飛ばす。


 ・・・こいつ、服を破くなんてマジで信じられねえ。


「ブアハハハ!このダセえが服10万!?うっそだろ!こいつ香水貰って頭ベイルになってやがる」

「一張羅www。お前どこでそれ着るんだよ!やっべえ、香水って馬鹿を更に馬鹿にする麻薬みてえなヤバい物だったんだな」

「女にチヤホヤされて浮かれるなんて小物じゃねえか。しかも香水のおかげだろ」

「お前に香水なんて似合わねえ、肥溜めの匂いで十分だ」


・・・・・・・・・・・・・イラッ!


「よーし。ならお前らにも特別に俺の香水分けてやるよ!食らえ!」


 そう言って連中に向かって液体を振りかける。こいつは組合長への復讐用として採取した『腐れ花のエキス』だ。どこかで捨てなきゃと思っていたけど、役に立ってよかったぜ。


「うお!く、くせえええ!」

「な、何だこりゃあ?」

「ベイル!てめえ!」

「アハハ!!てめえら底辺連中には『腐れ花』の匂いがお似合いだぜ!」

「こいつ最悪だ!嫌がらせにしてもやり過ぎだろ!」

「もう俺は怒ったぜ。この馬鹿、マジで一回分からせてやらねえと気がすまねえ」

「おう、手を貸すぜ。この馬鹿いい加減調子乗り過ぎだからな」

「おい!ゲレロ!お前も手を貸せ!」


 お!腐れ花のエキスかけられた連中がキレたみたいだ。ったく、そんくらいでキレるんじゃねえよ。でもまあ、相手してやるぜ。


「ああ?俺は今から娼館だから、手伝う訳ねえだろ。てめえらで勝手にやってろ!」


 よしよし、ゲレロは加わらねえみたいだ。あいつが参加すると決着つかねえからな。


「ハハハ!ゲレロの力を頼るなんて情けねえ連中だ。俺に勝てる自信ねえなら吠えてねえで黙って我慢してろ!」

「てめえ!」

「死ねや!!!」

「そのビラビラ全部もいでやる!覚悟しろ!」


 そう言って殴り掛かってくる連中が10人ぐらい。全く、俺一人なのに卑怯な連中だ。



「ハハハ!俺の勝ち!!!」


 最後の一人を殴り飛ばして気を失わせると、そいつを踏みつけて両手を挙げて高々と勝利宣言だ。ただ、思ったより喰らっちまった。


 くそー。キングの卵達より数は少なかったが、その時よりダメージ喰らっちまった。やっぱりコーバスの連中は喧嘩慣れしてるぜ。折角ポーションで顔の腫れを治療したのにまーた、顔がパンパンだよ。

 取り敢えず寝っ転がっている奴の財布を漁るが、やっぱり場慣れしているだけあって、こいつら財布持ってねえ。喧嘩始まる前に仲いい奴に財布預けたんだろう。この抜け目のなさがコーバスって感じだ。おかけで俺は殴られただけだ。


 気分よく勝利宣言して辺りを見れば俺に喧嘩売った奴らが床の模様になってやがる。そして何やら見覚えのある布が辺りに散らばっている。


 うん?これって?嘘だろ!最悪だ!服のビラビラ全部引き千切られてる。・・・・・俺の一張羅が・・・。



「つ、強え」

「先輩達を相手になんつう強さだ」

「強さもだけどあのタフさもだ、あれだけボコボコ殴られて何で平気なんだ?」

「こりゃあ、先輩達も俺等が筆頭に絡むの止めるよ。あの人無茶苦茶だよ」

「しかも勝ったってのに何で筆頭は泣いているんだ?」

「引き千切られたビラビラ泣きながら拾い集めてるから勝って嬉しいって訳じゃねえよな」


 ヒヨッコ達の言う通り、嬉しくて泣いている訳じゃねえ。こいつらに勝っても今更何も思わねえもん。それよりも今日10万で買ったばっかりの一張羅をボロボロにされて悲しいから泣いてるんだ。


「うわーん。組合長」


 俺は泣きながら組合長の部屋をガンガン叩く。助けてくれー。可愛い組合員が泣いてるんだー。


「・・・何だ?」


 すっげえ嫌そうな顔で少しだけ組合長が扉を開けてくれた。


「組合長。あいつらが俺の一張羅を・・・一張羅を・・・・」

「・・・・おう、そうか。・・・って臭え・・・うん?良い匂い?何だこの不思議な匂いは?」

「匂いとかどうでもいいよー。俺の一張羅が!一張羅が!」

「うるせえ!ベイル!少し黙ってろ!!!」


 そう言うと思いっきり組合長にぶん殴られた。俺は顔がパンパンに腫れてんのにこのオーガ容赦なしだ。信じられねえ。ただでさえ喧嘩でダメージ喰らってる所に、組合長の容赦の無い一撃だ。まあ、いつものように吹っ飛ばされて俺は気を失った。

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