85.天才画家マーティン
翌日
夕方に見知った連中が粗方集まると組合長が大声で叫ぶ。
「よーし。お前ら今日は領主様の奢りだ。たらふく飲んで、たらふく食って帰れ。そして明日からは街の復興だ。しばらく外の依頼は無し、街の復興に手を貸せ」
「「「「「「ええーー」」」」」」
組合長の言葉に、聞いていた連中から不満の声があがる。
「お前ら頑張り過ぎて今じゃ3級の縄張りでもほとんど魔物や素材がねえみたいじゃねえか。別に好きにしてもいいけど、明日からは街の復興作業の手伝いは無級は5000、一級は1万、2級は2万って感じの依頼になるぞ」
「「「「「何でだよ!!!!」」」」
普通は頑張っても5000ぐらいだろ。
「国から補助が出た。さっさと復興しろって事だ。その代わり瓦礫運びや力仕事は頑張ってもらうぞ。魔法使える奴は適材適所で作業してもらうけどな」
・・・・・
組合長の言葉に周りがザワツキ始める。
「あ、アリだよな。これ」
「あったり前だろ。この依頼スカがねえ。確実に報酬貰えるんだぞ。俺等は3級だから3万だろ。普段より報酬少ねえけど、武器防具の手入れ費用無し、命の危険なしってのも考えると、3級だけじゃなくてどの級でも破格の依頼だぞ」
「おいおい、これなら喜んで受けるぞ。別に瓦礫運びなんてどうって事ねえからな」
「組合長!それって石や木材の運搬でもいいのか?」
「当然、その依頼も張り出される。何て言っても人手が足りてねえからな。なんなら建築の手伝いなんてのもあるぞ。取り敢えず復興依頼にパーティは関係ねえ。自分の興味のある依頼や出来そうな依頼を受けてみろ」
組合員にとっちゃ安全マージン考えなく良いってだけで、相当惹かれる。しかも報酬も中々だ。多分、4級の護衛依頼報酬で、ようやく悩むレベルになるぐらいだ。当然3級以下は全員受けるだろうな。そんで4級もモレリアの所の「ちょっと賢い」とゲレロの「守り抜く」は、残るだろう。「全力」と「快適」は商人達との付き合いがあるだろうから無理そうだけど。
「ただし、貴族街の方は王国の騎士団が作業しているから、近づいて変なトラブル起こすなよ!特にベイル!」
ったく、何で俺なんだよ。王国の騎士団って事は貴族だろ。俺は貴族嫌いだからわざわざ絡みにいかねえよ。むしろ飛んで逃げるっての。
「貴族に触れると死ぬ呪いにかかってるんで、近づきませんよ」
「・・・・まあ、いい、お前の貴族嫌い『だけ』は信用できるからな」
『だけ』って何だよ!それ以外にも信用出来る所あるだろ!このオーガ絶対ぎゃふんと言わせてやる!まあ、それは後で考えるとして今は、酒と飯を堪能するぜ。
「ハハハ、いやあ、こうやって4人で飲むのも久しぶりだねえ」
隣に座るモレリアがエールを美味そうに飲みながら、こってりタレの付いた肉をつまんでいる。エルフは素材の味を楽しむって話はどこ行った?
「本当なら昨日そうなっても良かったんだけど、モレリアが珍しく他の連中に捕まってたからな」
「本当だよ。なんか僕がおかしかったから心配してたんだって。別におかしくなんてなかったのに、失礼しちゃうよ」
こいつ明らかにおかしかったけど自覚ねえのかよ。
「ああ!俺らも毎日真面目に仕事しておかしいって言われてたぜ」
「俺も娼館の姉ちゃんたちに会ったら、似たような事言われたな」
まあ、こいつらは普段からおかしいから別に言われてもおかしくねえ。っと!マーティンだ。確かこいつに何か頼もうと思ってたんだ。・・・・何だったかな?取り合えず声だけかけておくか。
「おい!マーティン!ちょっとこっち来い!」
俺が声をかけると、マーティンは飲んでる面子を見て、眉間に皺を寄せやがった。まあ、モレリア、ゲレロ、トレオンと碌でも無えのばっかりだからな。でも一人はお前のパーティメンバーだぞ。
「王都はいいぞ」
「ああ、分かった、分かった。そいつはどうでもいいんだよ。それよりもマーティンに頼みがあるんだ」
「「「「頼み?」」」」
俺がそう言うと、何故かトレオン達も興味深々で話に聞き入っている。
「ああ、ちょっと絵を描いて欲しいんだ」
「・・・・・ベイルのドヤ顔はちょっと・・・悪いが他を当たってくれ」
「違えよ!何で俺のドヤ顔の絵って決めつけてんだ!」
「裸の絵じゃねえのか?」
「げえ。気持ち悪い。それを飾って一人ニヤニヤしながら酒飲んでるベイルを想像したじゃねえか」
「いや、僕は局部の似顔絵だと思うな」
「そんなん書かされるマーティンが可哀そうだろ。そもそもそこだけ書いたのを似顔絵って言うのか?顔要素何一つ入ってねえぞ?」
「まあ、ある意味男の顔みたいなものでしょ」
「・・・・まあ、そうだな」
こいつら馬鹿じゃねえのか?何で俺がそんなもん書いて貰わねえといけねえんだよ!
「違えよ。書いて欲しいのは、とある女の顔だ!なんかどこかで会った気がすんだけど、誰だったか全然思い出せねえ。だからマーティンに書いてもらってお前らにも聞いてみようと思ったんだよ」
王都の近くで俺を襲ってきた暗殺者の女だ。マーティンを見て気になっていた事を思い出したぜ。
「女?どこの娼婦だ?」
「娼婦じゃねえよ!女ってまずはそこが最初に思いつくのかよ!」
「じゃあ、牝か。何歳ぐらいだ?どのレースの話だ?」
「てめえが言っているのは馬の話だろ!トレオン!違えよ。れっきとした人間の女だ」
「ふうん。どこの組合員かな?」
「・・・・・えっと、モレリアさん。何でそんなに笑顔なん?・・・・まあ、組合員じゃねえな。どっちかって言うと暗殺者だったな」
「「「「暗殺者?」」」」
うお!マーティン含め、でかい声出すなっての。その声で俺がびっくりしたじゃねえか!
「お、お前それ結構な大事じゃねえか。どこで暗殺者に狙われるような恨みかったんだ?」
「いやあ、心当たりがあり過ぎて分かんねえ。多分俺が殴り飛ばした奴だと思うんだけど、多すぎて全然絞り込めねえ」
俺の言葉にみんな納得した顔をする。いや、お前らも余所の街行くと大概だろ。
「ああ、それなら納得だ。っていうかお前色んな所で喧嘩しすぎなんだよ」
「うるせえ、俺から売ってるわけじゃねえんだよ。向こうが絡んでくるんだから仕方ねえだろ」
「とは言っても暗殺者とは穏やかじゃないね。ちなみにどこで襲われたんだい?」
「あれは『先触れ』依頼の時で、王都の近くだったな。多分道中のどこかで殴り飛ばした奴が暗殺者雇ったんだと思う。返り討ちにしてやったけどな!」
「それで、その暗殺者の顔に見覚えがあったという訳か」
そうそう、マーティン、分かってくれたか。
「そう。ただ、その暗殺者が誰か分かってもどうもしねえけどな。俺が気になって仕方ねえってだけだ」
「ふむ、我も話を聞いたら気になったから、いいだろう。描いてみよう。ただ、我は風景画しか描かないから少し練習させてもらう」
そう言って、マーティンは絵を描く準備を始める。こいつ何で絵を描く道具持ち歩いてんの?
そうして絵を描き始めたマーティンだったが、何やらトラブルが起こったようだ。
「んん?いや、これは」
おいおい、何かトラブルか。
「どうした?一応頼んだ手前、出来る事ならしてやるぞ」
「おお、それなら酒のお代わりを頼む。いつも外で描いていたが、こうやって部屋の中でエール飲みながら描くのもアリだなと思ってな」
・・・く、くだらねえ。心配して損したじゃねえか。いや、頼んでる手前、ちゃんと酒のお代わりは持ってきてやるけど・・・。
マーティンに酒のお代わりを持っていきながらマーティンを見ていると流石慣れているだけあって、マーティンはテキパキと絵を描いていく。しかも人描くの苦手とか言っておいて、結構うまいじゃねえか。誰描いているか俺でも分かるぐらいにはうまいぞ。
「ほら、出来たぞ。一応人も初めて描いてみたが感想を聞かせてくれ」
「・・・いや、これ普通に上手いよねえ?」
「うん、上手いな。マーティンお前意外に絵描くの上手いんだな」
「何でトレオンは同じパーティなのに知らねえんだよ」
本当、ゲレロの言う通り、何で知らねえんだ?お前らのパーティまとまりが無いのは知っているけど、これぐらいは知っておけよ。
「風景はどうでもいい。いつもの事だからな。それよりも人の方の感想を聞きたい」
「いや、人も相当上手いよ。これってエルたちでしょ?」
「・・・こっちのでかいのはクワロだな。顔描いてねえけど、装備や体格、あと動きの特徴で分かるな」
「これ、後ろ姿だけど、カルガーだろ。よく特徴捉えてんな」
うん、3人が言うように特徴をよく捉えてるから、誰が誰か分かるな。でもなあ・・・
「で、これが俺達か?こいつらは似ているけど、俺は目つき悪すぎだろ、俺はもっと優しい目してる」
ちょっと俺は目つき悪すぎるだろ。俺は仏のようなもっと優しい目をしているぞ。
「いや、これベイルそっくりだから。何少し格好良く書いてもらおうと考えてんだ」
「本当だよ。ベイルはこれで十分だ。俺はもうちょっと髪が整ってるだろ」
「いやいや、手入れもしてない髪のボサボサ具合トレオンそっくりじゃないか。僕はもうちょっと大人の色気を出して描いてほしいな」
「そんなんお前からでてねえよ!俺はもうちょっと筋肉あるだろ」
「お前ら好き勝手言うな。取り合えずそこそこ似ているレベルには描けていると言う事でいいな」
うん、まあ俺の絵は少し納得いかねえが、他は100点レベルで上手いな。
「それではベイルの言う女の顔を描いてみる。今回は風景画ではなく、似顔絵だからまた勝手が違うな。・・・まあ、やってみるか」
そう言いながら先程描いていた絵を雑にカバンに突っ込むマーティンだったが、この絵が、英雄アーリット達を実際に見て描いた最古の絵として、歴史的価値が高いものになるなんてこの時の俺達は誰も思っていなかった。
天才画家マーティン。3級組合員。英雄アーリットや4賢人と同じ時代を生きた人物。最初彼は風景画しか描いていなかったが、ある日、4賢人の一人の提案で人物画も描き始めるようになった。その時の最初の一枚が『コーバス復興』と呼ばれる絵。
この絵は英雄アーリットとコーバス時代のパーティ全員、そして4賢人が共に描かれている歴史的にも大変価値があり、その複製画はどの街の組合にも飾られるぐらい有名な一枚となる。
■
「それで、その女の特徴は?」
紙を机の上に広げると、エール片手に聞いてくるマーティン。そう!聞かれてもマジで特徴が無え女だったから伝えるのがすっげえ難しい。
「・・・マジで特徴がねえ女だった。顔は覚えているんだがどう伝えればいいかマジで分かんねえ」
俺がそう言うと、マーティンも困った顔で俺を見る。だよなあ。こう言われてもどう書いていいか分かんねえよな。
「まず髪の長さと色は?」
「ああ!色は黒だ!長さは短かったな」
「短いって言っても色々あるよね。カルガーぐらい?、ミーカぐらい?」
「!!おお!それならミーカぐらいだ!肩までは無かった」
「次は輪郭だな。丸かったか?細かったか?」
「・・・どっちとも言えねえ、普通ってのがしっくりくる」
「うーん、ここは普通ぐらいにしとくか」
「次は眉と目だな」
・・・・何か、トレオンやモレリア、ゲレロに上手い事質問されながらマーティンが描いていくって流れになって出来上がったのが、本当に特徴もねえ黒髪前髪パッツン女だ。
「おお!こいつだ!メッチャ似てる!凄いなマーティン。俺の記憶にかなり近い絵が描けてる」
マーティンは、兵士になって手配書描く人になっても金貰えるんじゃね?ってレベルだ。
「お、お前・・・こいつは・・・」
「まさか・・・いや・・・でも」
あれ?マーティンもトレオンも知っている人?
「あれ?俺もこいつ見た事あんな」
お!ゲレロも知ってんの?って事はコーバスの奴って事?
「・・・・うーん。これって・・・あれじゃないかな。『沈黙の闇』にいた暗い魔法使いの子」
・・・・・・・ああ、あいつか。『待て』が出来る奴らにいた陰キャ女。・・・・言われてみれば確かに似ている・・・・か?
「似ていると言われれば似ているような・・・・」
「マーティン。ちょっと書かせてもらうよ」
俺の煮え切らない言葉にモレリアがマーティンに断りを入れて、頭にフードを描き始めた。そして描き終わった絵を見て、俺は確信した。
「ああ!分かった!あの陰キャ女だ!トレオン!お前が連れてきた『待て』が出来る連中にいた根暗の女だ!」
「お、おう。そうか」
・・・・・あれ?トレオンの奴、リアクション薄くね?知り合いだったんだろ?いや、まだ、そいつ・・・・かどうかは決まってねえんだけど・・・。
「ベイル、本当にその女かどうか分かんねえだろ。何か証拠でもあったのか?」
「いや、殺した後に漁ってみたけど、金ぐらいしか持ってなかった」
「それは、本職の暗殺者だろうね。ベイル恨み買い過ぎじゃない?」
「うるせえな。絡んでくるんだから仕方ねえだろ。絡んでこなきゃ俺も殴り飛ばしたりしねえよ・・・っとペコー!お前これ誰か分かるか?」
モレリア達と話していると近くを通りかかったペコーを捕まえて似顔絵を見せてみる。
「ああ?・・・こいつはノアじゃねえか?『沈黙の闇』の暗い女。この間路地裏で殺されてただろ」
・・・・・・
「ああ!そう言えばパーティ全員殺されてたとか言ってたね」
「・・・・?あれってベイルが王都に向かう前の話だよな?そうすると、別人だったんじゃねえか?」
・・・・
そう言えばそんな話をしたな。確かあれは・・・
「トレオン、お前があいつらのパーティ全員全滅したって言ったよな?」
そうそう、確かユルビルから聞いた事をどや顔で話してモレリアに論破されてた。
「・・・ああ、そう言えばそうだったな。多分別人だろう。それよりもベイル。お前が襲われた時って、その女一人だけだったか?」
「うーん、あん時は・・・・」
その時の事を思い出そうとしていたら、組合の扉が大きな音を立てて開かれた。
「よう!ジーク!遊びに来てやったぞ!」
「しょ・・・・・しゅ・・・シュアル・・・・本当に来たのか」
乱暴に開かれた扉からズカズカ入ってきたのは爺さん・・・オッサン・・・判断微妙な大柄な男だった。組合長並の筋肉が見えるボロイ皮鎧を装備した組合員だ。けど、入ってきた時の組合長の慌てた態度、そして防具とは不釣り合いな高そうな腰の剣。
・・・俺の貴族センサーにビンビン反応しやがる。この爺さん・・・貴族だ!
嬢ちゃん貴族の時は出遅れたが、今回はそんなヘマはしねえ。すぐさま俺は動くぜ!
「ちょっと、朝のうんこしてくる」
「遅えよ!もう夜だぞ!」
「え?だ、大丈夫かい?僕の知っているお店紹介しようか?」
・・・・モレリアの言っている店はどう考えても特殊プレイの店だろ。心配してねえな、こいつ!
「ちょ、待て!ベイル!襲ってきた人数だけでも教えろ!」
「漏れそうだから、そいつだけって事にしとけ」
「てめ!適当言うな!」
トレオンはうるせえな。今は貴族から逃げるのが最優先何だよ。てめえの質問にまともに答える余裕は無え!
「トレオンさん。ベイルさんを行かせるっす。さもないと街の中央広場でやるかもしれないっす」
いきなりカルガーが会話に割って入ってきて訳分かんねえ事をトレオンに言い始める。
街の真ん中でクソなんてしねえよ!カルガーいきなり何言い出してんの?
「馬鹿野郎!カルガー!街の真ん中でするってどんなヤベえ性癖持ってんだよ!」
「大丈夫っす!ベイルさん、自分に任せて早く行くっす!間に合わなくなっても知らないっすよ!」
・・・か、会話が・・・噛み合わねえ。何でこいつ分かってますって顔してんの?・・・いや、今はそんな事よりカルガーに話合わせてここから離脱だ。
「おう!助かったぜカルガー。後で何か奢ってやるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・いえ、いらないです」
■
「ちょっと、将軍。いきなりすぎませんか?」
「細かい事言うなって。俺も暴れてえから、明日から狩りに行く。道案内をつけろ」
シュアル将軍の言葉に頭を抱えるジーク。遊びに来るから来た時は平民として扱えと言っておきながらこれだ。
「じゃあ、ロッシュでいいですか?」
「嫌だ別の奴にしろ。あいつとじゃ楽しくねえ。もっと、現場の空気を肌で感じたいんだよ」
・・・我儘ばっかり・・・それじゃあ、4級は・・・いねえ?あれ?さっきまでいたよな?うん?3級もほとんどいねえ。・・・・くそ!あいつら将軍に気付いて逃げやがったな。そうすると・・・まあ、アーリット達になるよなあ。
そう思ってジークはアーリット達をシュアル将軍に紹介する。
「初めまして。『全てに打ち勝つ』のリーダー。アーリットです」
「シュアルってんだ。明日から宜しく頼む」
自己紹介をして握手する二人。これが後に爵位を捨て、パーティに加わるシュアル将軍とアーリットの初めての邂逅だった。




