84.筆頭
「・・・・・あれ?嬉しくないのか?だったらこの話は無しってことで・・・・」
「「「「「「ちょっと待てえええええええ!!!」」」」」」
組合長の突然の発表に沈黙が広がる中、首を傾げながら組合長がそう言った途端、俺以外の連中が口を揃えて止めにかかる。
「く、く、く、組合長。しゃ、借金チャラってどういう意味だ?」
「そのまんまの意味だ、アウグ。お前が借りた500万の借金は無くなった」
「り、理由は?何でそんな事が?」
「シリトラか。お前がそんなに慌てるなんて珍しいな。理由は簡単だ。お前らの借金は領主様が全て支払ってくれた」
・・・・・・
冷てええ!!アウグ驚き過ぎてエールをダラダラ零しやがるから、肩車している俺がビチャビチャだ。こいつは投げ捨てておこう。
アウグを投げ捨てた所で、固まっていた連中が動いた。
「「「「「「何でえ?」」」」」」
「アシッドスライム討伐の報酬だ。詳しくは言えん。この事に関してお前らに後で強制的に何かさせるつもりも無いと、この紙にしっかり書かれているから安心しろ」
組合長の掲げる紙をみんなマジマジと見つめる。確かに組合長がの言った通りの事が書かれているな。
「それじゃあ、今まで返済していた金はどうなるんだ?」
投げ捨てられても驚きの方が勝っているアウグが、机に突っ込んだ状態で組合長に尋ねる。
「当然返却する」
「うっそだろ」、「ヒャッホーイ!」、「俺、200万ぐらい返してたんだけど、それが戻ってくる!」、「マジかよ、しばらく働かなくていいじゃねえか!」
組合長の言葉にみんな大喜びだ。当然俺も騒ぎに乗って大喜びだ。
「ヒャッホー!!」
「ベイル!お前には関係無いぞ!」
俺が喜んでいる姿を目ざとく見つけた組合長が注意してくる。
「何でだよ!俺にも500万くれよ!」
「お前は借金してねえだろ!しかも今まで遊び歩いてたんだ!何で貰えると思ってんだ?」
「俺だってアシッドスライムと戦ったじゃん!」
「「「戦ってねえよ!!」」」
てめえら盗み聞きだけじゃなく会話に割って入ってくんなよ。
「全て終わってから、てめえがノコノコ戻って来たって、こっちは知ってんだよ!」
「お前がピンチの時に助けに入ったのに、もう忘れたのかよ!薄情な野郎だ!」
「来てねえだろ!記憶を捏造するな!」
何とかゴリ押しで500万貰えねえかなあ。
「ベイル、ごねた所でお前に渡すもんはねえ・・・いや、一つあったな」
マジで?何?何?組合長、金でも宝石でもいいぜ。
渡されたのは一枚の封筒。中には紙が一枚入っていた。
・・・・何だこれ?依頼書だな。
『腐れ花の採取』って書いてある。腐れ花って言えばラフレシアみたいなデカい花で、すんげえ臭い花だ。こいつの採取依頼は2級なんだが、その臭さのせいか不人気依頼となっている。けど、この花、専門家が調合すれば凄い良い匂いに変わるらしく、貴族連中からはその香水は高くで取引されている。
それで何でそんな依頼書が渡されたかって話だけど、当然俺に受けろって事だろう。
・・・バーカ!受ける訳がねえ!こいつの匂いは三日はとれねえから、その間、宿も宿泊拒否、店も出禁になるから外での野宿確定になる。しかも報酬もそこまで美味しくねえ。
「これ何っすか?」
「見れば分かるだろう。依頼書だ」
「『腐れ花の採取』とか受けるつもりないんですけど?」
「ならお前は2級に降格だ」
「はああああああ??何でだよ!依頼失敗してねえだろ!」
「失敗してねえけど、二か月以上依頼も達成してねえ。規約には依頼を受けていない期間が一月で注意、二月で降格、三月で除名とある。これでもチャンスは与えてるんだぞ。こいつを達成すれば降格は勘弁してやる」
・・・・・規約なんて読んでねえよ。失敗しなきゃ降格しないんじゃないのかよ。まあ、降格ぐらい別に何とも思わねえけど、ニヤニヤしている組合長がムカつくな。この顔は『答えなんて一つじゃねえか、さっさとハイって言えよ』って顔だ。よーし。だったら受けてやるよ!強制的にやらされるのは好きじゃねえけど、良い事思いついたからな。そんで組合長に目に物見せてやるぜ!
「はいはい、受けますよ。受けたらいいんでしょ」
「言っておくが、その依頼を達成するまでは他の依頼は受けさせねえからな、フリー討伐も買取拒否だ。分かったな!」
ちくしょう。そこまで手を回すか?このオーガ絶対とっちめてやる。
「よーし。ベイルとの話はこれで終わりだ。お前ら!明日の夕方には全員集まっておけ!領主様の奢りでメシと酒が食べ飲み放題だ」
「「「「うおおおおお!!!!」」」
「マジかよ、今日も、明日もタダメシ、タダ酒!」
「一体どうなってんだよ?幸運続きすぎだろ!」
「やべえ、人生で最高の二日間だ」
「生きてて良かった」
今まで、借金返済で死に物狂いで働いていた奴らが、いきなり借金チャラで今日明日と奢りだもんな。嬉しくなる気持ちも分かるぜ。そんな嬉しそうな連中に俺も便乗するぜ。
「今日明日奢りで、500万手に入るとか最高かよ!」
・・・・・・
「いや、ベイル、お前さっきから何500万貰おうとしてんだ?」
「お前マジで今回何もしてねえだろ!何で貰えると思ってんだよ!そもそも貰えるんじゃなくてチャラになるんだぞ」
「流石のごり押しも無理があるだろ、俺等でさえ流石にここでゴリ押しできる程、神経図太くねえぞ」
・・・チィ!流石に厳しいか。今ならゲレロやトレオンとかうるせえのがいねえから強引に行けばイケると思ったんだけどな。
「チッ、同じコーバスの組合員だってのにケチくさい連中だ」
「おいおい、今度は俺等にケチつけてきやがったぞ、こいつ」
「この馬鹿、本当に最低だな。いい加減黙ってろよ」
「やっぱりこいつが一番頭ヤベえって」
「はあーあ。けち臭いてめえらと飲んでても酒がマズくなる。別の奴と飲ーもうっと」
「ああ、そうしろそうしろ!」
「二度と絡んでくんなよ」
「おう、てめえら『清めの灰』撒いとけ!」
アウグの奴酷えな。俺はアンデッドかよ。・・・・確かに属性は同じらしいけど俺には効かねえぞ!
さーて誰に絡むか・・・お!あいつらまだまだヒヨッコの奴らだ。よーし、俺がしっかり相談にのってやるか。
「よう、お前ら移籍してきた1級の連中だろ?俺はベイルってんだ。3級組合員だ。宜しくな」
「「「「・・・・・ヴぇ・・・・・べ、ベイルさん?」」」」
お!何だ俺の名前ぐらいは知ってるのか?
「あ、ど、ど、ど、どうも」
「なーに緊張してんだよ。そんなにビビんなくても喰ったりしねえよ」
「き、きき、き、緊張なんてしてないですよ」
「あ!そうだ!俺等あっちでショータンさんに聞きたい事あったんす!失礼します」
・・・・
まあ、そう言う事もあるよな。ショータン3級って言ってもこの間まで2級だったし、俺よりもあいつの方が1級の現状に詳しいからな。
・・・・
「やっべー。何であの人いきなり絡んできたんだ?」
「知らねえよ。取り敢えず逃げ方教えてもらっておいて良かったな」
「聞いていた以上じゃね?あれだけ強い先輩たちにあの態度、何で許されてんだ?」
「あの人がそれだけヤベえって事だろ。だから俺等も絡まれた時の対処法を教えてもらったんだし」
・・・・・
・・・
逃げていった1級の奴らが何か言っていたが、俺は聞こえて無いぞ!絶対聞こえてねえからな!・・・・・・取り敢えず後で俺の対処法とか広めた犯人探してぶん殴っておこう。・・・お!あいつら2級の移籍組じゃん。
「あ、自分ら『ちょっと賢い』の皆さんに話聞きに行くところだったんですよ。すみません。ベイルさん」
・・・・まあ、こいつらもシリトラと同じで魔法と遠距離主体のパーティーだからな。
「お!お前ら初めて見る顔だな?何級?お前ら何級?」
「・・・・リリーさーん」
・・・まあ、分からない事はリリーが大概教えてくれるからな。聞きに行く相手も分かっているみたいだな。うん、うん。
・・・・・・・
そして誰もいなくなった。
くすん。
・・・・・・・
「おいおい、あの人、一人でジェリーしてるぞ」
「うっそだろ。あれ一人でやるもんなの?」
「やっぱりあの人やべえよ」
「『4馬鹿』と言われていた他3人が全く大した事なかったから、大げさだと思っていたけど、やっぱり筆頭は格が違うな」
「バーカ、他3人は借金返すのに一杯一杯だったから大人しかったんだ。借金チャラになった、今からが本領発揮だぞ」
「そんな中、一人借金しなかった筆頭は、街の再興も手伝わずに他の街の名産食い歩きに行ったって聞いたぞ」
「それ考えると、あの人マジでぶっ飛んでんな」
ふん!小物共が喚いているが、ソロの俺には関係ねえ。このまま俺はマイペースで一人で!生きていくだけだ!寂しくなんてねえよ!
そう心に決めたんだが、しばらくすると、組合に聞き慣れた奴らの馬鹿笑いが聞こえてきた。
「ガハハハ!ベイル!お前一人で何やってんだよ!」
「あはははは!『一人ジェリー』とか帰って来て早々、笑わせんな」
見なくても分かるが、ゲレロとトレオンが俺を指差し腹を抱えて笑っていた。若いのは『この二人正気か?』みたいな顔して見てるぞ。
そんな周囲の視線に気付いた様子も無く、隅っこの机に座る俺の所にズカズカ笑いながら近づいてきて、許可も無く俺の向かいに座る。
「『一人ジェリー』とかまた斬新な遊び考えついたな、ベイル」
「うるせえ、トレオン。今集中してんだから、話しかけてくんな」
「集中?一人でやってるのに集中してんの?あはははは!クソ笑える!」
うるせえな、久しぶりに会ったのにトレオンの奴は相変わらずだ。
「いや、一人でやっているにしては結構一方的じゃねえか?普通互角のはずだろ?」
「ゲレロ、お前馬鹿か。俺と俺が対決したら決着つかねえじゃねえか。だから今は組合長と対戦してんだよ」
「組合長?は?え?ちょっと待て、相手は組合長をイメージしてんの?え、ちょっと待て、もしかして一方的に押してるのって・・・まさか・・・」
「ああ?当然俺に決まっているだろ!」
「ガハハハハハハ!腹痛ええええ。こいつ、ヤベえ。『一人ジェリー』で自分が圧勝するように遊んでやがる。それで一人喜んでいるって、こいつ性格陰湿すぎる」
俺の答えに二人が腹を抱えて床を転げまわる。きたねえな。
ふと目を上げると、俺等の会話が聞こえた連中が何か言いたそうにこっちを見ている。
「ああ?何だ?言いたい事があれば言えよ!」
「・・・い、いえ」、「・・・特にはありません」、「あ、ありません」
・・・
「おい、あのヤバい筆頭に躊躇う事無くあの二人が絡んでいったの見たか」
「そんで大笑いって凄い神経してんな」
「普通笑えねえよ。あんな事言われたら、俺ならドン引きする自信あるわ」




