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83.シリトラの奢り

「ハハハハハ!久しぶりの酒は美味いぜ」、「美味いなあ。明日からまた頑張らないと駄目だけど」、「はあー。いつになったらこの借金生活終わるんだ」


 聞き慣れた連中の愚痴が聞こえてきた気がして目を覚ます。そして目を開けると目の前には壁が広がっていた。


??何だここ?天井滅茶苦茶低くねえ?頭のてっぺんも壁に当たってるし、俺昨日どこで寝たんだ?瞼をこすりながら、もう一方の手で低い天井に触ろうと手を伸ばしたが、触れる瞬間に物凄い嫌な予感がした。


 こ、これは多分絶対触れちゃ駄目な奴だ。俺の勘がそう囁いている。


「お!ようやく起きたかい?」


 目の前に広がる天井の向こうから何故かモレリアの声が聞こえる。何でモレリアが?と思ったけど、耳を傾ければ聞き覚えのある連中の声が聞こえてくる。


 あれ?俺、組合で潰れたのか?ううん?良く分かんねえ。


取り敢えず触るとマズそうな天井に触れずに横にゴロゴロ転がって、天井がかなり上に見えた所で体を起こし、周囲を確認する。



 ・・・・・



 うーん。いつもの見慣れた奴らがジョッキ片手に騒いでいるいつもの組合だなあ。


「何でそっちに転がってから起き上がるのさ」


 不満そうな声に目をむければ、何故かモレリアが床に座っていた。



・・・多分状況的に考えて俺はさっきまでモレリアに膝枕されて寝ていたらしい。何でえ?と言う前に・・・さっきの天井みたいなのモレリアの乳かよ!下から見たらそのデカさは思っていた以上だ。そんでもし触りでもしたら、そのままボディプレスで圧死させられていただろう。多分そう言う嫌がらせだ。


「それよりも何で俺こんな所で寝てるんだ?」

「いやあ、びっくりしたよ、ベイル、いきなり気を失って倒れるんだもん」


 ええ?俺が?何で?



・・・・



・・・・・!!


「ああ!思い出した!モレリアてめえ!俺にいきなり膝蹴りとか喧嘩売ってんのか!気を失ったのもてめえの膝蹴りが原因じゃねえか!」

「まあ、まあ、ベイル。エールでも飲んで落ち着いて下さい」


 思い出して怒る俺に、シリトラがジョッキを渡してきた。


「え?いいの?奢り?」 

「ええ、今日は私の奢りです。どんどん飲んで下さい」


 ・・・・何で?


 戸惑う俺とは逆に、今の言葉が聞こえた連中が大騒ぎしだす。


「イヤッホー!!」、「シリトラ、お前は良い女だぜ」、「酒が美味ええええ。シリトラ何度も言うがありがとうな」


 ええ?こいつらの分もみんなシリトラの奢り?


「ほら、ベイルもどんどん飲んで下さい」


 ・・・・あ、怪しい。普段、女組合員としか飲まないシリトラのこの行動は流石に怪しいぞ。そもそもこいつに奢られる理由が無いし、こいつが奢るのは女組合員だけだって話だ。


「・・・・あ、怪しい。シリトラ。お前何企んでやがる?」

「企んでいるとは心外ですね。別に何も企んでませんよ。そもそもベイルってこういう時率先して後先考えずに飲み始めるタイプですよね?」

「そりゃあ、そこで騒いでいる連中が言うならな。馬で勝ったとか金拾ったとかくだらねえ理由で奢ってくれるんだ。企むなんて考えるオツムねえんだよ」

「確かにその通りだと思いますけど、思っていても口にしては駄目じゃないですか」

「いいんだよ、こいつらそんぐらいじゃ何も思わねえからな」

「・・・・・・酷い」


 俺の言葉にシリトラはボソリと呟く。


 大丈夫。こいつらの心臓は鋼で出来ているからな。なんならきったねえ毛もボーボーに生えているはずだ。


「こいつらの事はどうでもいい、それで?何企んでいるんだ?」

「だから別に何も企んでませんって。私だって嬉しくてバカ騒ぎしたい時もあるんですよ」

「お前が?何があったんだよ?」


 シリトラがバカ騒ぎしたくなる程、嬉しい事って何だ?


「モレリアが元気になりました」


 はあー?そんな事?・・・・・いや、あん時のモレリアの顔はマジでヤバかったな。


「そんなにヤバかったのか?」


 俺の言葉にシリトラは大げさに頷いて答える。こいつがこうも大きなリアクションするってだけで、相当だったんだろう。


「今まで見た事がないぐらい落ち込んでました。もしかしたら最悪の事態もあるかと心配で、毎日パーティメンバーが交代で一緒に寝ていたぐらいです」


 うっそだろ。モレリアが?信じられねえ。


 まだ口をつけていない俺の持つジョッキに、さっきから自分のジョッキをガンガンぶつけて楽しそうに笑いエールを飲んでいるモレリアが?っていうかこいつさっきから勢いよくぶつけ過ぎなんだよ。エールがめっちゃ零れるじゃねえか。


「借金なんて気にしねえ奴だと思っていたけど、意外な一面があるんだな。まあ、払えなかったら奴隷落ちだから少しはその気持ちも分かるか」

「・・・・・・・・・」


 俺がそう言うと、シリトラの奴何か言いたげにこっちをジッと見ている。言いたい事あれば言えよ。


「何だ?何か言いたいのか?」

「・・・・・・・・いえ、それよりも何も企んでいない事は分かったでしょう?後から何か言う事もありませんからどんどん飲んで下さい」


 本当に何も企んでねえみたいだな。それならたっぷりタダ酒堪能させてもらうぜ。


「そんじゃあ、ありがたく飲ませて貰うぜ!・・・・モレリア!てめえさっきから勢いよくぶつけ過ぎなんだよ!エール半分になっているじゃねえか!」

「おお!凄い。もしかして魔法かい?」

「馬鹿野郎!酒を減らす魔法なんて何の役にも立たねえだろ!お前がさっきからガンガンジョッキぶつけるから酒が零れるって言ってんだ!」

「そうかい、それなら僕のを分けてあげるよ」

「おま、ふざけんなよ!雑に注ぎ過ぎなんだよ!泡だらけになったじゃねえか!」


 モレリアに怒っていると、誰かが馴れ馴れしく肩を組んできやがった。


「おい、ベイルー。俺等が一生懸命働いていたってのに、お前二か月以上もどこ遊び歩いてたんだ」

「鬱陶しいな。絡んでくるんじゃねえよ、アウグ!・・・??・・・アウグ!てめえ俺の事覚えてるじゃねえか!」

「ああ?てめえぐらい強烈な馬鹿を忘れる訳ねえだろ」

「いや、忘れてた!お前、っていうかお前ら全員俺の事忘れてた!・・・うん?今俺の事馬鹿って言わなかった?」

「そんな訳ねえよ。脳をやられるぐらいしないとお前の事は忘れられねえって」

「そうそう」、「うんうん」

「やられてた!お前ら全員脳をやられてた!・・・ったく、お前らただでさえ頭おかしいんだからこれ以上おかしくなるなよ」

「お前に言われたくねえよ、お前の頭のイカレ具合はコーバス・・・いや、この国一だからな」

「ばっかやろう!俺ほどまともな組合員はどこ探してもいねえぞ」

「ええー。ベイルがまともならこの国の人は全員まともになっちゃうんだけど?」

「うるせえぞ、モレリア!お前も大概イカレてるからな!」

「ええー。僕はまともだよ」

「どこがだよ」、「ねえな」、「うーん。ないない」

「酷いなあ、みんな」


 楽しそうに笑うモレリアを見て、シリトラが優しく微笑む。


 心配でしたけど、元気になって良かった。まさかベイルがいなくなっただけで、あそこまで落ち込むとは思いませんでしたけど、もう大丈夫そうですね。モレリアったら、あんなに楽しそうに笑って・・・ベイル、ありがとう。




・・・ただなあ。


「・・・・・・アレかあ」


 シリトラの視線の先にはどういう流れでそうなったか理解不能だが、アウグを肩車してエールを飲むベイルの姿。幼馴染としては止めるべきか応援するべきか非常に頭を悩ませる所だ。


 どちらにしても工作員の私達はいずれ国に帰る事になる。それまではモレリアの好きにさせてあげましょう。



「おーい!戻ったぞ」


 シリトラの奢りで酒を飲んで騒いでいると、王都に行っていた組合長が戻って来た。


「おお、組合長、ようやく戻って来たのか」

「王命だって話だろ。何したんだ?」


 組合長の姿が見えると、周りの連中もバカ騒ぎをやめてコソコソ話を始める。


「なあ、アウグ。組合長ってどれぐらい不在だったんだ?」


 俺に肩車されているアウグに尋ねる。・・・これ?なんか話の流れでどれぐらいなら頭がイカレてるって思うか検証してたんだ。今の俺達みたいに肩車して酒飲んでるのはセーフらしい。で、そういう検証していた所に組合長が戻って来たんだ。


「俺達を治療してから数日はいたから、多分二か月ぐらいだな」

「結構長えな。組合長がこれだけ不在とか初めてじゃねえ?」


 俺等と領都行った時は10日ぐらいだったはず。それ以外でもちょこちょこ不在になる事はあるが、ここまで長いのは聞いた事がねえ


「だな。けど王命だからな。組合長もしばらくかかるの分かっていたみたいだから、引き継ぎはしっかりして行ったみたいだぞ」

「けど、職員だけじゃ、もし組合員が暴れたら誰も止められねえだろ」

「いや、俺等借金返済でほとんど組合にいなかったから」


 ああ、そう言えばこいつら依頼こなすだけのbotに成り上がってたんだった。


「ああ!だからあのキングの卵みたいな奴が幅を利かせてやがったのか!」

「・・・ああ、あいつらか。依頼こなすのに必死で絡まれても無視してたら、向こうも何も言わなくなってたな。借金返したらぶっ飛ばしてやろうと思ってたけど、先にベイルの方で処理したんだな」

「ああ、って言ってもあいつら数だけは多かったけど、2級レベルだったぜ。そう言えば俺が殴り飛ばした奴らどこ行った?」


 組合を見れば、俺が気を失う前に床の模様になっていた連中の姿が見えない。


「邪魔だったから全裸にして外に放り投げた。装備は全部売っ払った。今頃ティッチ達の世話になってるだろうよ」


 酷えな。やっぱりこいつらの方が、頭イカレてるって。



「そうか、特に問題は無いな」


 リリーからの報告を聞き終わった組合長が、満足げに頷いている。いや、問題あるだろう。キングの卵だけど一応あいつらここ所属の組合員だよ!全裸にして放り出したんだよ!今頃かなりの数が牢屋にぶちこまれてんだよ!・・・それを問題ないってすげえな、やっぱり組合のトップからして頭イカレてやがる。


 リリーから組合の入口で報告を聞き終わった組合長は、受付の前まで歩くと今度は俺達の方を向き直る。これは何か重大な発表する時の組合長の動きだ。


「お前ら良く聞け!聞いたらまだここにいない組合員達にもちゃんと伝えておけ!」


 おお!やっぱり何か重大発表だ。ヒソヒソ話していた連中も黙って組合長に注目する。


「アシッドスライムの戦いの後、『完全回復』のポーションを買った連中の借金はチャラだ!良かったな!」


 そう言ってニヤリと笑う組合長だったが、誰一人意味を理解できていないのか、辺りに沈黙が広がるだけだった。

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