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81.その頃王国では②

本日二回目です

「はあー。ようやく落ち着いてきた。本当にマズいな。最初に言われなきゃ毒だとしか思わねえぞ。これ。・・・・おお!本当に生えてやがる!何十年ぶりだよ・・・うん、動きも悪くねえ。考えた通りに動く」


 苦味が落ち着いた将軍が騒ぎ始めた事で、我に返る。


「ボートレット候、これで本物と認めるな。他に誰かこれが偽物だと言う者はいないか?」


 宰相の言葉にボートレットも誰も何も言えない。当然だ、今この目でその効果を見たからな。これでもまだ、偽物だと言う馬鹿はいないだろう。


「陛下!感謝致します。このご恩は必ずお返しさせて頂きます」

「将軍、気にするな。これは今までの将軍への功績への褒美と思ってくれてよい。さて、これが偽物だともう疑うものもいないだろう。それでは功績の話に移ろうか。宰相進めてくれ」


 これでボートレットのイチャモンも終わりだな。結局あいつの思った通りには何一つうまくいかなかった事は痛快の極み。あとでリエール侯爵たちと、これを肴に楽しませてもらうか。


「最初に、これを入手したジークよ。何か望みはあるか?」

「それでは、コーバスの復興支援を望みます。現在クライムズ伯爵にもお願いして、資金や人材を回してもらっていますが、足りていない状況です」


 ジークの答えに陛下と宰相が目を合わせて頷き合う。


「分かった、国から復興資金として100億出そう。それでもし足りなければクライムズ伯を通して追加の資金を申請するように。人員については・・・将軍、何人出せる?」

「・・・そうだな。遠征と陣地形成の訓練と言えば・・・500は出しても問題ない」

「ジークよ、他に何かあるか?」

「ございません。ありがとうございます」


 地方都市に異例中の異例の対応。それほど『秘薬』の入手は国としても重要だと言う事だ。


「そしてクライムズ伯。この度『秘薬』を3本も献上した国への忠誠心、大変素晴らしい。ただ、このような事、今まで前例も無いので褒美をどう与えればいいか、少しこちらでも考えさせて欲しい」


 私は陛下への橋渡しをしただけなのに、ここまで褒められていいのか少し不安になるな。まあ、宰相もこう言っているし、多分後で呼び出されて良い落としどころを探る事になるだろう。なんて気楽に考えていたのだが・・・


「クライムズ伯よ。まずはお主の忠義に対して、こちらを褒美として与える」


 そう言って陛下が私の前まで歩いて来て差し出したのは先程将軍も使った『高ポーション』。これを陛下から褒美として与えられた者は恐らく数十年前・・・下手したら100年以上は前の人物だ。要するに、今、生きている貴族の中では、私以外誰も『高ポーション』を褒美として与えられた者はいないと言う事だ。


「あ、ありがとうございます!今後も変わらぬ忠誠を誓います」

「それはそうとクライムズ伯には悪いが『秘薬』は国の宝物庫に入れさせてもらうぞ?」

「はい、既に陛下に献上したものです。陛下のなさりたいようにさるのがよいでしょう」


 更に献上品が宝物庫行き、これも栄誉ある事だが、少し褒美が大きすぎないか?流石に同じ派閥内からでもやっかみがありそうだと思い周りの貴族を見れば目がギラついていた。


 少しその理由を考えると、すぐに手に握った『高ポーション』を見て理解した。恐らく残った8本の『高ポーション』をどうすれば手に入れられるか頭を巡らせている。これがどれほどの功績で与えられるか分からないが、残り8本もある。全て使う事は無いだろうが、2~3本なら何かの功績の褒美として使われるだろうから、その内の1本でもと考えているんだろう。


「そうか、そう言ってもらえると、助かる。それはそうと、クライムズ伯領には魔物を使役する組合員がいると聞いたが本当か?」


 来た!息子たちの予想通り本当に陛下の耳にまでタロウの事が入っている。


「はい、私も一度見ましたが、レッドウルフのユニーク個体で、通常のレッドウルフよりかなり大きいです。ただ、ご安心下さい。そのレッドウルフ飼い主には従順でしっかりと躾けてありました」

「そうか、余も一度見てみたいものだ。時にこれも噂で聞いたのだが、何やらそのレッドウルフを巡ってサファガリア伯と揉めているらしいな?」


・・・これも耳に入っていたか。・・・ティガレット嬢の頭脳は優秀だな。最初は向こう見ずな小娘だと思ったが・・・。


「余が仲裁に入ってやろうか?」


 陛下がサファガリア伯の方をチラリと見ながら囁くように言ってきた。陛下が仲裁に入れば、サファガリア伯は引かなければならない。流石にそれは勘弁願いたい。出来ればギリギリまで周りには揉めていると思ってもらった方がいいのだ。陛下の提案をどうやってうまい事断ろうかと考えていたら、宰相が助け船を出してくれた。


「陛下!貴族同士の揉め事に無暗に関わって色々遺恨を残します。私も両家の揉め事は知っていますが、両者の主張はどちらが正しいとも言い切れません。それに両家は未だ何度も『協議』をし互いの妥協点を探っている段階です。このまま平和に終わる可能性もあるのに陛下が口を挟めばそれも無くなる。なので陛下は口を挟まないで下さい」

「・・・うむ、宰相にそう言われれば仕方ない。ただ、クライムズ伯よ何かあれば余を頼ってくれ。『秘薬』を献上したそなたの忠義に少しでも報いたいのだ」

「ありがたきお言葉。では、そのお言葉に甘え何かありましたら、その時は陛下を頼らせて頂きます」


 そう言うと、陛下も納得してくれたのか、満足そうに頷いて部屋から退出された。


 はあー。疲れたー。疲れたけど今度はリエール侯爵達への事情説明が待っている。誰か代わってくれないかなあ。ジークは将軍に連れていかれたから、無理か。



「くそ!やられた!全てクライムズとジークの手の平で転がされていた!くそ!」


 部屋に戻ってくるなり、怒り心頭で喚き散らすボートレット侯爵。今までこういう時は少なからず成果があったので、久しぶりの成果なしだと言う事も怒りが湧いてくる原因だろう。そうしてしばらく喚き散らし、落ち着いてくると、横に立つ補佐官に指示を出す。


「おい、クライムズは無理でもジークはイケるだろう?」

「いえ、不可能との事です。闇ギルドに話を持って行きましたが、ジークを確実に殺せる手練れはいないとの事です。かと言って数を増やすとジークなら必ず感づくからそれも無理だそうです」

「チッ!役立たずどもめ!それでは『影部隊』の再編は?」

「まだまだ、先になります。少なくとも形になるには1年はかかると思います」

「ああ!イライラする!それでは『第一部隊』の行方は?」

「依然行方不明です。最終襲撃地点の地形確認に向かったのは確認しましたが、そこから先の消息はさっぱりです。死体も痕跡も何も見つかっていません」

「逃げ出した可能性は本当にないのか?」

「ありません。『第一部隊』ですよ。あの8人が裏切るとは到底思いません」

「・・・『第一部隊』には『第五部隊』の生き残りが一人ついていたな?そっちは何か分かったか?」

「そちらも行方不明です。『第一部隊』と行動を共にしていたので、同じくついて行ったと考えています」


 その答えに頭を掻きむしるボートレット侯爵。


「やはり、『第一部隊』だ。あれが消えてから何もかもが上手くいかん!連中さえいればクライムズの『影部隊』にこちらが負ける事も無かったはずだ。ジークも楽に暗殺できるはずだ。・・・よし!決めたぞ!最優先は『第一部隊』の行方だ。全力で調査しろ!」


 指示を受けた補佐官が部屋を退出する。部屋に残ったのは執事とボートレット侯爵のみ。


「サファガリアの動きは?」

「やはり、娘を狙ったのがバレているのでしょう。目に見えて我が派閥の会合等への参加が減っております」

「そうか、馬鹿だと思っていたが、流石にそれぐらいは分かるか」

「当然他の貴族達からの当たりも強く、会合等に出席しても早々に退席している様子。リエール派閥とは接触していないみたいなので、このまま中立派になるつもりかと」


 執事がいれてくれたお茶を飲みながら、頭を落ち着かせて考える。


 流石にこのままサファガリアを派閥から出すのはマズいな。陛下も言っていた通り、今はクライムズと相当強い魔物を取り合っていると聞く。クライムズならサファガリア如き、強引にどうとでも出来るはずだが、領地で娘が襲われた負い目があって強くは出れんみたいだ。なので、もし私が強引にでも奪おうとすれば、あちらもなりふり構わず強気で出てくる・・・もしかしたらそれが狙いかもしれない。そう考えるとやはり、窓口はサファガリアでやってもらおう。

 

 魔物の件で両者、何度も『協議』しているみたいだが、今回の件で、クライムズはかなり有利になるはずだ。今回の件で今後しばらくクライムズ領に商人や人が集まり豊かになるからな。それを見越して金で解決してこようとするだろう。既にサファガリアの財政状況が厳しいのも把握済だろうしな。

 そうなるとサファガリアを資金面で援助すれば、派閥を抜けられる事も、クライムズに金で屈したりしないな。サファガリア如きに金を使うのは気が進まんが、噂の魔物を手に入れるまでだ。手に入れたら使った金は即刻返済させよう。返せなかったらその魔物をもらい受けるだけだ。



「・・・と言う事をボートレット侯爵は考えてるだろうな」

「うむ、聞いていてボートレットの性格なら当然と思う反面、胸がムカムカする話だな」


 今は我が屋敷でサファガリア伯と『茶会』・・・ではなく『協議』の最中だ。


「それで?ボートレットよりそのような提案があったらどうするつもりだ?」

「無論断るに決まっている。『金如きであの魔物を渡してたまるか!だから支援は不要』とでも言えばいいだろう」

「それでは少し怪しくないか?」

「なーに、今の話題の中心であるクライムズ伯と対等に交渉できている事で、自分を大きく見せようとする哀れな落ち目貴族としか映らんよ」

「悔しくは無いのか?」

「無いと言えば嘘になる・・・が、娘に一年道化を演じると約束したからな。それに事は娘たちの思うように動いている。途中でやめる訳にはいかんだろう」

「ただ、想像以上に事は大きくなっている・・・」


 そう言って二人して手に持つカップを置き、大きくため息を吐く。


「『秘薬』って何だよ。そんなの予定に無かったぞ。そっちの娘はここまで考えていたのか?」

「考えている訳ないだろう!当初の予定通り、あのタロウという魔物とコーバスにいる残りの魔物だけだ。それだけで私がそちらの派閥に入るのに十分だったはずだ。それなのに『秘薬』など国宝級を出してくるとは、クライムズ家の存在感が大きくなりすぎているぞ」

「なーに、それでも対等に交渉しているサファガリア家の存在感も比例して大きくなっているから問題ない」


 そう言い合いながらもお互い疲れた顔で再び溜息を吐く。


「なあ、コーバスはサファガリア領にしないか?」


 疲れたのでサファガリア伯にちょっとした提案を持ちかけてみる。


「アホな事を言うな!領地が離れすぎている!」

「なら管理はこっちでするから、責任はそっちでとってくれ」

「出来るか!そもそもあんな魔境みたいな街の管理なぞ頼まれてもごめんだ」

「人の街を魔境言うな!」

「魔境以外何と呼べばいい。『ドルーフおじさん』の格安竜素材に始まり、『令嬢』の地竜討伐、そして再びの『ドルーフおじさん』は『黒竜の血』だぞ!今度は『神』でも連れてくるのか?あの街はかなりおかしいぞ!昔からそうなのか?」

「い、いや、本当に『ドルーフおじさん』が出る前は何も特徴の無いありふれた田舎都市だった。おかしくなったのはここ最近の事だ」

「自分でおかしいと認めているではないか。・・・気付いているとは思うが一応言っておくぞ。あの街には恐らくとんでもない化け物が潜んでいるぞ。それが人か何かは分からんが、敵対だけはするな」

「分かっている。ただその何かが分からんから注意しようもないんだ。そちらで何かわからないか?」

「一度も訪れた事もない街に分かる事などないわ」

「娘はどうだ?彼女なら一度コーバスに来ているから何か分かるかもしれん。頼むティガレット嬢に聞いてみてくれ」


 そう言って私は躊躇いなく深く頭を下げる。これは相当やられているなとサファガリア伯には見えるだろう。だがその通り。こちらも何かしら突破口を見つけたいのだ。


「分かった。娘には聞いてみるから、顔をあげてくれ。今や飛ぶ鳥落とす勢いのクライムズの当主がそう簡単に頭を下げるものではない」

「私だって飛ぶ鳥を落としたい訳じゃないわい!コーバスが勝手に叩き落してくるから処理しているだけだ!出来る事なら誰かに変わってもらいたいよー。もう陛下たちに説明するの疲れたー」

「はあー。子供みたいな事言いながらこっちをチラチラ見てくるな!まったく、もう少しだけ我慢せい。子供たちが結婚すればこのように日時を決めた『協議』の場でなくても、いつでも相談にのってやるから」


 本当か!よーし、それなら息子たちが結婚した後は、ドンドン相談して巻き込んで陛下への報告も一緒に連れて行くからなー。


 私の決意を分かる訳ももなく、サファガリア伯は乾いた笑いを浮かべていた。

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