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78.黒竜との買い物

「やめだやめだ。ブレスなんて使いこなす頃には俺はジジイか、死んでる。練習しても意味ねえ」

「まったく、人とは愚かですねえ」

「貴様は、たかが50年も練習できんのか」


 うるせえ。お前らの寿命で考えるんじゃねえ。


「ブレスなんて出来なくても、よく考えたら俺は最強だからいいの!」

「いずれ貴様は足元を掬われるな」

「おう!出来るもんならやってみろってんだ!俺は誰の挑戦でも受けて立つぜ」


 俺の言葉に呆れるクロとジジイ。この話はもうここで終わりだ。ここからは俺の作戦に付き合ってもらうぜ。一応こっちも目的の一つだったからな。


「取り敢えずエールが無くなりそうだな。クロ、ちょっと買いに行こうぜ」

「何故、我が行かないといかん?貴様一人で買ってくればいいだろう?」


 へへへ、そう言うと思っていたぜ。だけどなそれの答えはもう考えてあるぜ。


「お前、サクラちゃんへの酒、これからどうすんだ?多分俺が死んだらもう誰もここに来ねえぞ」

「・・・そいつらに持ってこさせる」


 そう言って指差すのはジジイだ。だけどこいつも本当の姿は赤竜だろ。そう簡単に持ってこれねえと思うぞ。


「そりゃあ街を襲うって事か?それこそサクラちゃんは怒るんじゃねえか」

「・・・・・・」


 へへへ、黙りやがったな。聞いていた通りサクラちゃんはそう言う事を許さないタイプだからな。


「だからそうならない為にクロが自分で買いに行けばいいんだよ。クロの買ってきた酒とか絶対サクラちゃん喜ぶぞ」

「・・・・・・・ほ、本当か?」


 おっとお!その姿でちょっと上目遣いでそんな事言われたら、少しドキリとしたじゃねえか。こりゃあ同世代の男ならそんな風に言われたらイチコロだな。


「そうそう、別に悪い事して手に入れた酒じゃねえんだ。ちゃんと金を払った酒だ。誰にも迷惑かけてねえからサクラちゃんも喜んでくれるはずだ」

「・・・・・・・うーん。そうか。それなら行くのもアリかもしれん。・・・いや、ただ、金が無いぞ?サクラ様のお金も朽ち果ててしまったからな」

「それなら俺が出してやるよ」


 そう言って白金貨4枚を取り出してクロに渡す。


「これは白金貨ですね。一枚1億ジェリー。あなた何を企んでいるんです?人の社会ならこれってかなりの大金ですよね?それを4枚って」


 クロに視線を向けられてジジイが会話に入ってきやがった。引き籠りのクロと違ってこのジジイは白金貨の価値を知っているな。


「これはクロの血を売って手に入れた金だからな。それならクロに返しても不思議じゃねえだろ。まあ本音を言えば、今度また血が必要になったら分けてくれねえかなと思ってだな」

「断る。サクラ様より我の血は100年に一度分け与えるように言われているからな」


 へへ、そう言われる事も予想通りよ。ただ、アーリットみたいなお人よしのサクラちゃんが100年に一度『だけ』血を分けろなんて言うはずねえと俺は思っている。これは賭けだが、かなり俺に有利な賭けだ。


「違うだろ、クロ。サクラちゃんは、そんな限定的な事は言ってねえはずだ」

「貴様がサクラ様の何を知っている?」


 少し感情が高ぶったのかクロの目の瞳孔が竜のように変化する。けどなあ、絶対こう言い残していると思うぜ。


「その他にも『困っている人がいたら』とか、『助けを求められたら』とか、『クロが望めば』とか、言われてねえのか?」

「・・・・・・・・」


 俺の言葉にクロが目を丸くして言葉を失くす。


 へへへ、思った通りだぜ!


「き、貴様!何故それを・・・・」

「俺の前世とサクラちゃんの前世が結構近い時期だって前に言っただろ?だから分かるんだよ」


 本当は違うけどな。話に聞いたサクラちゃんはこの世界に似合わないぐらいのお人よしだったから、それぐらいは言い遺しているとは思ってたんだ。


「・・・・・チッ!そう言えば貴様はサクラ様と同郷だったな。・・・そうだ、確かに貴様の言う通り我が分け与えたいと思えば好きにしていいと言われている。だが、我がそう思った奴は誰もいないし、これからも誰もいないだろう」


 かあー。ボッチこじらしてんなあ。これはリハビリがかなりかかりそうだ。


「まあ、それならそれでいいよ。今は血が必要じゃねえしな。ただ、金は置いていくぞ。それでもし血が必要になった時にお願いに来るのだけは認めろよ。それよりも酒買いに行くのか行かねえのか?」

「お願いしに来るぐらいなら別に構わん。絶対に認めんと思うがな。あと、酒は買いに行く!買い物の仕方を教えろ」


 よしよし、これで作戦が一歩進んだ。次は・・・


「それじゃあ二人ともマスクと仮面を外して俺に返してくれ」

「何故だ?買い物に行くのに元の姿はマズいのは我でも分かるぞ」

「そうだ、だからジジイの仮面はクロが、クロのマスクは俺が被るんだよ。俺も顔知られたくないからな」

「それならそいつの仮面でいいではないか。その無粋な仮面でサクラ様の顔を隠す事は許さん!」


 おい!我儘言うな!クロの使っているマスクは今後俺が使うつもりなんだ。クロには仮面の方で世界各地に出現してもらって、コーバスから貴族達の目を逸らす役をやらせるつもりだったんだけど作戦失敗か?と思ったら、


「あのー、私も外で人の世を見て周りたいのですが・・・・」


 なんとジジイが恐る恐る手をあげて発言してきた。そのジジイをクロがジロリと睨みつける。


「貴様!この島に住む許可を与える代わりに見張りをするという約束を破る気か?・・・殺す」

「ひいいいいいいいいいいい!!!!」


 ジジイに近付くブチギレたクロの前に慌てて割って入る。


「ちょっと待て!この島には竜が何匹もいるから別にいいだろ!」

「何匹いようが関係無い。我との約束を破るんだ。殺しても構わん」


 こいつ、ちょっと頭固いな。ティッチじゃねえんだから、もっと柔軟な考えしろよ。


「こいつらが人の世に紛れ込めば、この島に攻め込もうとしている情報は集めやすいぞ」

「・・・む」

「あと、お前が動きたくない時とかエール買いにいかせたりとか出来るぞ」

「・・・・むむ・・・それなら悪くないか」


 ふう、ジジイの余計な発言での修羅場はこれで収まったか。けどジジイの今の発言でかなりいい案が生まれたぜ。


「取り敢えずクロ。そのマスクはそのままお前が使っていいや。ジジイ!お前の仮面は返せ。そんで俺とクロが買い物している間に、今から俺が言うものを集めてろ」

「・・・」


 俺の言葉に黙って聞き入っているって事は聞いてくれるって事だな。


「まずはお前らの骨とか爪とか牙だ。生きてる奴から持ってこいって訳じゃねえ、死んだ奴とか抜け落ちた奴を集めてこい。それと次は擬態出来る魔物の死体だ。それがあれば仮面が作れる。それで作った仮面は譲ってやるから頑張って集めろよ」


 俺がそう言うとジジイは仮面を返して元の姿に戻ると、物凄い速さで外に走っていった。どんだけ仮面欲しいんだよ!


「全く、アレがクロの護衛で大丈夫なのか?」


 ジジイが去った後、呆れたようにクロに聞くと驚きの答えが返ってきた。


「一応あいつが我以外の竜の中で一番強いそうだ」


・・・うっそだろ?あいつに全然威厳なんて感じ無かったぞ。


「お前にやられて瀕死だった我に、手下率いて喧嘩売ってきた奴だ。そこそこ頭は回るんだろう」

「卑怯者じゃん!ボロボロのクロに多勢で襲いかかるって卑怯者以外の何者でもねえよ!何で許したの?お前逆らう奴に容赦しねえだろ。」


 俺なら速攻襤褸雑巾にして、海の真ん中に捨てるレベルだぞ。


「ボコボコにしたら、泣きながら足を舐めてきて気持ち悪かった。それで殺す気も失せた」


 ・・・・そりゃあ気持ち悪いな。あのジジイ竜としてのプライド無いのかよ。


「そんな事よりもさっさと行くぞ。早くサクラ様を喜ばせてあげたい」

「ここからなら俺の故郷が一番近いけど、俺はあの国には行きたくねえから、ちょっと離れた国に行くぞ。あとは・・・そうだ!クロのその話し方だと偉そうに聞こえてトラブルになりそうだ。お前ちょっとサクラちゃんのモノマネしてくれ」


 サクラちゃんなら丁寧な話し方してただろ。買い物行く時はサクラちゃんのモノマネでいかせよう。


「・・・サクラ様のか。難しいな」

「サクラちゃんの口癖でもいいぞ」

「・・・うむ、それなら・・・『クローディア!あっちで困っている人がいるみたい!助けに行きましょう!』」


 おお!今までの重低音で機嫌悪そうな声から一気に見た目通りの声になりやがった。思った通り、こっちの方がトラブル少なそうだ。しかしサクラちゃんの口癖がこれって、本当にサクラちゃん困っている人を助けて回ってたんだな。真似は絶対しないけど尊敬はするぜ。


「おお!いいじゃん!クロ、これからその姿で買い物行く時は、サクラちゃんの話し方で頼む」

「まあ、いいだろう」


 サクラちゃんが関わるとこいつ本当に素直だな。いつもこれぐらい素直になってくれねえかな。


「おい!何故こんなコソコソ行動しなければならん」


 あれから島を離れ適当に飛んでいると、どこかの国のどこかの街を見つけた。日が暮れるまで待ち、その街に隠れて潜り込んだらクロのこの言葉だ。


「サクラちゃん、サクラちゃん」


 クロの奴慣れないのか、まだまだ、素に戻るからサクラちゃんのモノマネをするように注意する。


「・・・何でこんなにコソコソしないといけないの!」

「空から降りてきたの見つかったら騒ぎになるだろうが。帰りは別に見られてもいいが、エール買うまでは人に見られたくねえ」


 そう言う俺達は顔に黒い布を、体には黒いローブを纏っている。いわゆる暗殺者スタイルだな。行きがけの駄賃で適当に野盗のアジト潰して手に入れたもんだ。


「サクラ様の顔を隠さねばならないとは気に入らんな」

「・・・サクラちゃん」

「サクラ様のお顔を隠すなんて信じられない!」


・・・いや、今はお前がサクラちゃんだよ。どんだけ自分の顔に自信持ってんだ。


「取り敢えず見つからなかったみたいだから、もう顔隠さなくていいぞ」


 そう言って身を潜めていた物陰から姿を現し、顔を覆っていた布を脱ぐ。


「まったく、エール一つ買うのにこんな面倒だとは、ブレス一つでどうとでも出来るというのに」

「エール一つ買うのに街一つ滅ぼしてたら、すぐに人類が全滅するからやめとけ」


 取り敢えず日は落ちて辺りは暗いが、まだ商業ギルドはやっているはずだ。大体こういうのは街の中心にあるはずって事で街の中心に向かって歩くと、思った通り街の中央広場の周りに商業ギルドを始め組合や、教会、騎士詰め所なんかがまとまって建っていた。


「おい、クロ。アレが商業ギルドのマークだ。あそこに行けば大抵のものは買えるから覚えておけ」


 本当は少し手数料とられるから酒は酒屋、武器は武器屋みたいに専門店で買う方がいいんだけど、教えるのも面倒だ。それに今日は白金貨使うから商業ギルドじゃねえと、多分額がデカすぎて使えないと思うからな。


 そうしてギルドに入った俺達は空いている受付に向かう。


「はい、いらっしゃい!ご用件・・・・・は?・・・え?・・・・『ドルーフおじさん』?本物?」


 俺が受付の椅子に座ると気配を感じたのか書類を睨んでいた受付が笑顔で顔を上げたけど、最後まで言い終える前に固まってしまった。


 どうやら今の俺が変身している『ドルーフおじさん』の姿を知っているようだ。


 ここはコーバスのある国じゃねえのに、『ドルーフおじさん』の情報は他国にまで広まっているのかよ。商業ギルドの情報網甘く見てたぜ。


「エールを樽で4つ欲しい」


 けどまあ、今更気にしても仕方ねえ。そのまま話を続けさせてもらうぜ。


「え、エールですね。4つとなると44000ジェリーになりますが、宜しいですか?」


 おお、流石商人。戸惑いながらも普通に対応してくれた。ただやっぱりギルド通すと高いな。手数料で一割はぼったくりだろ!と言いたいが、大抵のものはギルドで何でも揃うからな。専門店を回って買うのが面倒な時は便利だ。


「手持ちはこれしかないけど、大丈夫か?」


 そう言ってクロから預かっていた白金貨を渡すと、商人の目が丸くなった。


「こ、これは・・・す、すみません。これが本物か確認の為、少しお時間を頂きたいのですが・・・」

「当然だな」


 まあ、これは予想通りだ。ただ待っている間暇だからギルド内を見させてもらおう。


「そ、それでは私が商品のご説明をさせて頂きます!」


 白金貨を別の職員に渡して色々指示すると、受付の人が案内役をかって出てくれた。


 ええー。普通勝手に見てろって感じなのに、何で今日はこんなにVIP待遇?


 

「こちらからは武器の展示になります。見た所お二方とも武器をお持ちじゃないようですが、如何ですか?」


 案内の説明を欠伸混じりに聞いていたら、案内の提案にクロが反応した。


「うむ、そう言えばサクラ様は剣を使っていたな。今の姿に少し違和感があったのはそれだったか」


 そう言えば俺の仮面やマスクって着ている物までは再現するけど、武器は再現してねえな。まあ、出来た所で見た目だけのハリボテだからあんまり意味ないか。


「お前は素手で十分だろ。それに剣なんて使えねえだろ」

「使う使わないの問題ではないのだ。サクラ様の腰に剣が無いのが問題なのだ」


 こいつ、意味分かんねえ拘りだしやがって・・・あとサクラちゃんのモノマネはどうしたよ!


「そ、それでしたらこれなんてどうでしょう?細く軽いので女性でも扱いやすいですよ」


 俺達の話を聞いていた受付が展示されているレイピアを指差し勧めてくる。


「細すぎる」


 クロの感想はそれだけだった。確かにこいつにレイピアの扱いは無理だ、すぐにぶっ壊すだろう。


「なら、こん棒にしとけ。何も考えず振りまわしてればいいから扱いも簡単だぞ」


 こん棒はいいぞ!こいつはマジで俺のおススメだ!


「そ、それなら、この金剛棒は如何でしょう。職人が鍛えに鍛えた逸品でございます」


 話に乗って受付が展示品のこん棒の説明を始めるが・・・


「美しくない」


 お?何だ?こん棒使いの俺に喧嘩売ってんのか?こいつ妙な拘りだしやがって面倒くせえな。


「それじゃあ、サクラちゃんはどんな武器使ってたんだ?」

「・・・・うーん。あの辺だな」


 そう言ってクロが指差したのは面白みの欠片も無い普通のロングソードのコーナー。


「普通過ぎてつまんねえ。それだったら横の大剣にしようぜ」


 大剣はロマン。昔俺も使ってたぜ。変な力の入れ方したら、割れたからもう使わねえけど。


「無骨過ぎる。サクラ様に相応しくない」


 この野郎。我が儘だな。


「なら、さっさと決めろ」

「・・・・・うむ、それならこれにするか。サクラ様が使っていたものによく似ている」


 そう言ってクロが手にしたのは、マジで何の変哲もないロングソード。けどお値段は500万と中々のもんだ。


「そんじゃあ、こいつも一緒に買うから引いといてくれ」

「ありがとうございます!」


 俺の言葉に丁寧に頭を下げる受付の人。うん、中々心地いい接客だ。これが組合員の姿なら凄い塩対応されるんだよな。・・・だって組合員は基本専門店で少しでも安く買うから、ギルドには冷やかしで行くぐらいだもん。仕方ねえと言えば仕方ねえ。更にコーバスの組合員の中にはギルド出禁にされてる奴もいる。マジで何したんだろうな。


「ふん。ふん。ふーん。『クローディア!誰か助けを呼んでいるわ!行きましょう!』」


 クロの奴は嬉しいのか鏡の前でご機嫌でサクラちゃんごっこをしている。まあ、暴れないだけマシだな。けど剣を振り回すのは危ないからやめろ!


 クロのサクラちゃんごっこを眺めていると、4つの樽を乗せた台車が運ばれてきた。ようやく白金貨の鑑定が終わったか。樽を持ってきたって事は本物だと信じてもらえたんだろう。ただ、前を歩くジジイが嫌な感じだ。


「ぎ、ギルド長?」


受付の人もジジイ達に気付いたみたいで驚きの声をあげる。


 ちっ、やっぱり偉いさんかよ。面倒くせえな。


「お買い上げありがとうございます。これからは私が対応致します。おい、君はもう戻っていい」


 やってきたジジイが受付を下がらせる。こうまであからさまだと逆にすがすがしいな。って言っても面倒だから塩対応で行くけどな。


「釣りは?」

「こちらになります」


 台車に乗せられた布袋の中身を確認すると、確かに金が入っている。


「数えないのですか?」


 チラリと見ただけで袋を閉じた俺に不思議そうにギルド長が聞いてくる。そうやって金を数えている間に色々話を聞こうって魂胆だろう。


「確認した。問題ない」

「!!ま、まさか今の一瞬で・・・どうやって」


 バーカ、嘘だよ。あんな一瞬で数えられる訳ねえだろ。でも『ドルーフおじさん』ならそれが出来てもおかしくないと思われてんだろうな。勝手に勘違いしてろ。


「おい!クロ!帰るぞ!」

「『いえ、お礼なんていりません。ねえ、クローディア』・・・うん?終わったのか?」

「いつまでサクラちゃんごっこしてんだよ。終わったから帰るぞ。樽二つはお前が持てよ」

「名残おしいが仕方ない。早くサクラ様に我の買ったエールを届けないといけないからな」


 帰ろうとする俺達を見て慌ててギルド長が止めてくる。


「す、少しお話だけで聞かせて頂けませんか?」

「話なんてねえよ」


 取り付く島もない俺の言葉に黙り込むギルド長。だいたい何が聞きてえんだよ。


「聞いていたのと言葉使いが全然違う。・・・偽物なのか」


 ギルド長は黙り込んだと思ったら今度は独り言を始めた。その独り言が聞こえた俺はある事に気付いた。


 あ!そういや、俺『ドルーフおじさん』の口調忘れてたな。クロの事言えねえ。けど今更口調変えるのもおかしいし、このまま行くか。


「よし、準備出来たな。じゃあ、帰るぞ」


 クロと俺が樽を掴んで出口に向かうとギルド長が行く手を遮る。邪魔くせえな。


「す、少しだけ話を!お願いします」

「話なんてねえって言っただろ。そこどけ!邪魔だ!」


 そう言ってもどいてくれないギルド長の脇を強引に抜ける。


「邪魔だ」


 俺の後ろに続いたクロは俺みたいに強引に脇を抜けずにギルド長を蹴り飛ばす。



・・・・・・・


 蹴り飛ばす?


 おいいいいい!この馬鹿何やってんの?ギルド長蹴り飛ばすとか、何考えてんだ!


「クロ!お前何してんの!暴力禁止って約束だろ!」

「邪魔だからどけただけだ。暴力ではない」


・・・・・おうふ。竜との認識の違いって奴だな。クロにとっては、どけただけなんだろう。ただ、ギルド長から見れば・・・。


「こ、こいつら!ギルド長の私を!捕まえろ!」


 まあ、そうなるわな。壁まで蹴り飛ばされたギルド長が鼻血を流しながら大声で喚くと、すぐに武器を持った連中がワラワラ集まってきた。


「威嚇だけだぞ」

「ふん。つまらんな。明らかに敵対しているのに手を出してはならんとは」


 俺との約束は覚えていると思うが一応注意だけはしておく。そしてクロがそう答えた瞬間、ギルド内の連中がバタバタと崩れ落ちる。


「殺気だけで気絶するとは、萎えるな」

「別に喧嘩売りに来た訳じゃねえんだからそう言うなって、そもそもお前の殺気に耐えれる奴なんてそうそういねえよ」

「目の前にいるが?」

「俺は特別だからいいの」


 朦朧とした意識の中、ギルド長の視線の先には楽しそうに笑う『ドルーフおじさん』と、不機嫌そうな若い女が見える。ただ、王族や貴族、5級組合員、数ある商人とも対等に渡り合ったギルド長の目にはその二人は全くの未知の存在に映った。


「・・・・化け物共め」


 その言葉を最後にギルド長の意識は闇に沈んだ。

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