77.得意属性
「落ち着いたか?クロ」
鏡を見ながらずっと泣いていたクロが、ようやく落ち着いたみたいなので声をかける。
「ああ、見苦しい所を見せた。・・・・・・・おい!それは我の物ではなかったのか?」
少し恥ずかしそうに言ったクロだったが、俺とジジイを見るといきなり怒って殴り掛かってきやがった。
「おい!やめろ!お前が飲んで良いって言ったんじゃねえか!」
「我がそんな事言うか!」
凄い長い時間クロがボロボロ泣いて暇だったから、お土産飲んで良いかってちゃんと聞いただろ!それにクロはちゃんと頷いてくれたじゃねえか!
それなのに・・・クロの奴!マジで殺す気で殴ってきやがる!サクラちゃんの姿で暴れんな!
・・・・・ジジイは・・・・死んだふりしてやがる!殴りてえ。
ジジイを殴りてえがクロの奴、マジで殴り掛かってきてるから俺も余裕が無い。お前さっき初めて変身したばっかりなのに、何でそんな体動くの?
そうやってクロの攻撃を捌いていると、いきなりクロが大口を開けた・・・・・ブレスか!その姿でも吐けるのか?ゲロにしか見えねえぞ!女の子がそれは駄目だろ。
俺の心配なんて分かる訳なく、躊躇いなく黒いゲロを口から吐き出してきやがった。見た目ゲロだけど、ただのブレスだ。俺は落ち着いて土の壁を生成してそれを防ぐ。・・・・・死んだふりしていたジジイがいつの間にか俺の近くまで寄って来てるのがムカつくぜ。
「おい!クロ!その姿でブレスはやめておけ!サクラちゃんがゲロ吐いているみたいだぞ!」
「貴様!サクラ様を侮辱するか!」
チッ!ったく面倒くせえなあ!
俺の言葉に頭に血が昇ったのか、ブレスをやめて隙だらけでクロが俺に殴り掛かってくる。それを軽く躱してから地面に叩きつける。
「落ち着け!これ以上言う事聞かねえと、マジで俺も手加減出来ねえぞ?大体俺はお前に喧嘩売りに来た訳じゃねえ。サクラちゃんの墓参りと血の礼だって何度も言ってるだろ。酒もお前が飲んでいいって言ったんだ!そこのジジイに聞いてみろ!」
そう言うとクロはジジイをジロリと睨みつける、目を向けられたジジイは物凄い速さで首を上下に振って俺の言葉に嘘が無い事を証明してくれる。
「・・・・・ふん!だったら最初かそう言え!」
「言ってるっての!話ちゃんと聞けよ!それとサクラちゃんのその姿で無暗に暴れるな!お前は今、サクラちゃんの姿なんだ。サクラちゃんならエール盗られて怒るなんてするか?」
知らねえけど、話を聞く限りだと怒らない人だと思う。
「・・・・・・・・・・・怒る」
怒るのかよ!サクラちゃん器ちっちぇええ。
「だが、貴様の言う通りだな。我は今サクラ様の姿なのだ、それに相応しい行動をしなければならないな」
「おう!そうしろ!それでいきなり暴れたりするな。そんでクロは何でそんな痣だらけなんだ?」
クロっていうかサクラちゃんだな、体中痣や傷だらけなんだ。サクラちゃん野山を駆け回る野生児だったのかな?なんか聞いていたイメージと違うなあ。そんな事を考えていたらクロがイチャモンつけてきやがった。
「これは貴様にやられた傷だ。まったく、サクラ様のお美しい顔が貴様のせいで台無しだ」
「はあ?!俺とやり合ったのは8年ぐらい前だから俺の訳ねえだろ!」
とんだ言いがかりだぜ。
「あの時言ったであろう!この傷を癒すのに10年はかかると!」
言ってたか?俺はクロの血入りポーションであん時は速攻完全回復したのは覚えてんだけど、その話は覚えてねえ。
「全く貴様と言う奴は・・・貴様はすぐに回復したから我にも同じように血入りのポーションを差し出してきたではないか!その時、我は自分の血では回復出来ないから、自然に癒えるのを待つしか出来ん。10年は寝ると言ったぞ!」
・・・・・・・
「・・・・・・・おお!思い出した!そう言えばあん時、お前そんな事言ってたな」
・・・ってあれ?それじゃあこいつ8年近く経ってまだ完治してねえの?
「貴様が死の直前まで我を追い詰めた事を忘れたか!」
そう言われても、あん時は殺し合いだったから仕方ねえじゃねえか。って文句言おうとしたら、クロが鼻をスンスンしておかしな動きしてやがる。
「・・・・うん?貴様何かいいものを持っているな?見せてみろ」
「何でお前に命令されなきゃならねえんだよ!」
そうは言っても心優しい俺だからな、文句言いながらも素直にリュックをひっくり返し中の荷物を全部出す。そうして出てきた荷物の中からクロは一個の玉を指差す。
「こいつだ!この腐れスライムの魔石だ。我に寄越せ!」
これか?これってアシッドスライムの魔石だよな。腐れスライムって何だよ。
「こんなの欲しいのか?特に利用価値が無いからやる・・・・ぜ」
俺がそう言い終わる前にクロの奴魔石を食いやがった・・・マジかよ。
あれだけ固い魔石を飴みたいにバリボリ噛み砕いて食ってやがる。見た目サクラちゃんだから、俺の中のサクラちゃんのイメージがどんどんワイルドになっていく。
「お前、何も食わなくても生きていけるって言ってなかったか?」
「言ったぞ。我は生きる為に食事は必要としてはおらん」
だよなあ、こいつの本来の姿ならとんでもない量の飯になるもんな。何か空気中の魔力を自然に取りこんでいるとかなんとか・・・・。
「じゃあ、何で喰ってんだよ?」
「回復を早くする為だ!ほれ見ろ!痣やケガが消えただろう。貴様にしては気の利く物を持ってたな。褒めてやる」
・・・こいつ偉そうに・・・けど俺はこいつの血に助けられた恩があるからな。俺の心が広くて助かったな。俺が組合長ぐらい心狭かったらお前ボコボコだぞ?
「そう言えば、クロ。お前さっきヘンな事言ってたな?お前が食ったのアシッドスライムの魔石だぞ」
「違う。酸スライムと似ているが、お前が持っていたのは腐れスライムの魔石だ」
・・・・・・腐れスライムって何だ?聞いた事ねえ
「スライムのアンデットみたいなものだ。酸スライムとよく似ているが、酸で何でも溶かす酸スライムと違い、こっちは何でも腐らせ溶かす珍しいスライムだ。竜の腐った肉を食べたスライムがたまにこれに変化する」
「へえー。そんな奴の魔石食って腹壊さねえのか?」
俺の繊細な胃腸なら絶対腹壊すね。
「我と同じ属性なのだ。食っても問題ない」
「・・・は?お前の属性って『腐れ』なの?そんな属性聞いた事ねえけど」
属性って『火』『水』『土』『風」の4属性メインで後は『聖』だけって聞いたぞ。
「『腐れ』ではない『腐』だ!我の属性は『腐』!腐らせたり腐食させたりするのが『腐』属性だ。そんな事も知らんのか?」
「いや、聞いた事ねえよ。一応確認だけど『腐』って『┌(┌^o^)┐ホモォ…』の方じゃねえよな?」
「違う!それはサクラ様が好きなやつだ」
・・・・・・お、おう。・・・・サクラちゃん腐ってたのか・・・・どうでもいい情報がまた一つ。・・・・・・・マジでどうでもいいぞ!!
「と・・とにかく『腐』なんて属性あるんだな。知らなかった」
「貴様はアンデットを知らんのか?あいつらは大概『腐』属性だぞ?」
・・・・え?マジで?・・・いや、言われてみれば確かにその可能性あるわ。
「貴様は自分の属性の事なのに何も知らんな」
呆れたようにクロが言う。うるせえ!俺はどの属性でも得意なんだよ!・・・なんだよ?・・・うん?
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て、お、お、お、落ち着けクロ」
「貴様が落ち着け!」
「今何て言った?俺の属性?え?俺の属性『腐』なの?」
慌てて聞く俺とは対照にクロは落ち着いている・・・というか呆れている。
「そうだ。貴様は忌々しい事に我と同じで得意属性は『腐』だ!何故知らんのだ?」
・・・いや、知らねえよ。元々4属性+1としか聞いた事ねえんだ!だから一番威力のある『火』が俺の得意属性だと思ってたんだ。それが新たな属性?分かるか!そんなもん!
「・・・俺『┌(┌^o^)┐ホモォ…』とか興味ねえんだけど?」
「それは魔法の属性ではない。性的趣味の属性だろう」
性的趣味とか言うな。サクラちゃん、クロに前世の知識包み隠さず教え過ぎじゃねえか?
「とにかく貴様の属性は『腐』だ。これは間違いない。さっきも私のブレスを簡単に止めただろう?普通、我のブレスは魔法ごと腐らせていくのだ!」
「そうなの?じゃあ、何で腐らなかったんだ?」
「出来なかったのだ!貴様は土魔法で壁を作ったつもりだろうが、大本は貴様の『腐』の魔力だ。だから防いだ。それぐらい貴様の『腐』力は強い」
・・・・うーん。良く分かんねえけど、褒められてる感じしねえな。言われれば言われるだけホモ好きだと言われてる気がする。腐力って何だよ。
「『腐』魔法って何があるんだ?」
取り敢えず聞いた事無い新たな属性が俺の属性なんだ。今の内に色々聞いておこう。・・・これってよく考えたら俺しか使えねえ特別な魔法って事じゃね?物語なんかでよくある展開だ。そうするとこいつは多分ぶっ壊れ魔法だ。
タダでさえ最強の俺が、ぶっ壊れ魔法を習得して更なる高みへ・・・って奴だな。ただ、そうなると話の展開的にメッチャ強いのが敵として出てくるはずだ。そん時は面倒くせえからアーリット達に押し付けよう。あいつらなら喜んで突っ込んでいってくれるだろ。
なんて軽く考えていたんだけどな。
「ブレスしか知らん」
「・・・おい」
え?クロの奴、今何て言った?ブレスのみ?俺に口からブレス吐けってか?吐ける訳ねえだろ!
「後は体に纏って『腐』属性を叩きこむぐらいしか我は使わん」
おいおい、良い使い方あるじゃん!
「お!それそれ!いいじゃん。そういう俺でも使えるようなものを聞きたかったんだよ。で?それどうやって使うんだ?」
「別に体に魔力を纏わせるだけだ。貴様も我と戦った時にやっていたではないか」
・・・え?それって・・・まさか『身体強化』の事?
「これの事?」
『身体強化』を使ってクロに聞くと、頷いて肯定された。
「はあ?これが?今まで何回も使っているけど、『腐』属性っぽい事なんか起きた事ねえぞ」
「そうなのか?普通は相手の耐性を上回れば触れた部分が弾け飛ぶのだが・・・貴様のイメージが悪いのではないか?」
「『魔法はイメージ』!そんなん誰だって知っているっての!そもそも俺は『腐』属性がどういうもんか今初めて聞いたんだぞイメージなんか出来るか!・・・おい、ちょっと待て・・・今何て言った?弾け飛ぶ?」
「そうだ。貴様がその状態で殴れば大抵の奴の耐性を上回り、貴様の魔力が触れた部分が即座に腐る。更にその上から殴るんだ。当然弾け飛ぶ事になるだろう?」
だろう?って言われても知らねえよ。でも実際魔物でも野盗でも殴れば弾け飛んでた気が・・・あれ?
「俺、ゴブリンや野盗殴った時に『身体強化』発動していないのに弾け飛んだぞ?これってどう説明すんだ?」
「それは貴様の素の力が馬鹿力なだけだ」
ああ、そう。凄い分かりやすい答えありがとよ。
「じゃあ、前に地竜と戦った時に殴ったら弾け飛んだけど、踏みつけた時は弾け飛ばなかったぞ?そいつはどう説明すんだ?」
「貴様がそういうイメージしていなかったからだ」
ああ、確かに首踏みつける時に弾け飛べなんて考えてなかったもんな。・・・あれ?って事は俺無意識に『腐』を使いこなしてる?『身体強化』使って弾け飛ぶイメージ持ちながら殴ったり蹴ったりしてればいいって事だろ?いつも通りじゃん!
「取り敢えず理解したぜ。そんでブレスなんてどう使うんだ?クロの真似すればいいのか?」
そう言いながら俺は口から黒いブレスを吐くシーンを想像してみた。
組合長にボコられて絶対絶命のピンチ。後ろには俺が守るべき大事なエルメトラ神。膝をついて肩で息をする俺にトドメとばかりに大きく拳を振りかぶってくる組合長。
死んだ!
誰もがそう思い、エルメトラ神の悲鳴が響き渡る。
だが、俺はブレスと言う奥の手を隠し持っていた。勝ったと思って油断していた組合長が俺のブレスをくらい、腐れ落ちてゆく。そんで、まあ、その後はエルメトラ神と宿でお楽しみだ。グヘへ。
クイト?あいつは俺のブレスに巻き込まれて死んだ。ついでにコーバスの連中もみんな巻き込まれて死んだ事にしよう。生き残ったのは俺とエルメトラ神のみ。
やべえ、最高かよ!コーバスはこれから名前をエデンに変えて、俺と神の楽園にしよう。
と、最高の未来を想像していたんだけど、クロの余計な一言で台無しになった。
「別に我の真似をする必要もない。ゾンビでもブレスを吐くだろう?人ならそっちのほうがイメージしやすいのではないか?」
「・・・・・は?ブレス?ゾンビが?」
ゾンビがブレスなんて吐かねえよ!吐くのは、白い汚くて臭い液体だけだ!みんな『ゲボ』って呼んでる。・・・え?嘘?あの汚ねえのがブレス?
「ちょっと待て!アレがブレス?当たっても腐ったりしねえぞ?」
「それは属性が弱いからだ。ゾンビのブレスなら3日ぐらい放置していれば腐りだすはずだ。試してみろ」
「嫌だよ!何でゲボに触れて3日も放置しとかねえといけねえんだよ!汚ねえだろ!あんなん触れたら速攻洗い流すぞ」
いやとは言ったけど、ちょっと試してみてえな。今度トレオン辺り縛り付けて検証してみるか。
「取り合えずブレスだブレス!どうやって出すんだ?」
「どうと言われても、イメージしろとしか言えん。おい!貴様は何かあるか?」
ここで、今まで壁と一体化していたジジイにクロが話を振る。
「我々も特に意識した事はありません。出そうと思えば出せる。そうとしか言えません」
そうなるとやっぱりクロの言った通りイメージが大事って事だな。ブレスのイメージは湧くんだよ。実際この目で見ているしな。けど、その前がさっぱりだ。ブレスの元となるのはどこで作る?口か?胃か?口で作れば飛距離出なくねえ、とか胃でつくればどうやって口まで運ぶとか色々考える事が多い。
これがゾンビのゲボならイメージしやすい。酒飲み過ぎた時とかしょっちゅうやらかしてるからな。・・・ってあれ?胃が・・・この感覚・・・おいおい、違えよ。そっちじゃねえ。
そうは思っても何度も経験したけど、未だに慣れない感覚が胃に生まれる。
おいおい、ヤベえ。違う。俺はそっちじゃねえ!クロのブレスをイメージしてんだよ!・・・あっ!ちょっとこれもう無理・・・
イメージを変えようと、クロのブレスを必死で考えたけど既に遅かった。
「オエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
出したい訳じゃないけど、どうしても出てしまう汚い声と共に、口から汚ねえもんが吐き出された。
「ふん。やはり出来たか。だが、飛距離も威力も大した事はない。こんなのでは実戦で使えんぞ」
「色を白にしたのは何の意味が?」
「我の黒いブレスに対抗したんだろう」
「ああ!そう言う事ですか。色だけ対抗しても黒竜様のブレスの前では無意味だというのに・・・人とは愚かですね。ハハハ」
くそ、こいつら好き勝手いいやがって。特にジジイのヨイショは聞いていてムカつくぜ。
「ハァ、ハァ。てめえら好き勝手言ってんじゃねえ。今のは無しだ。俺の思い描いていたのと全然違った。今度はちゃんとやる」
そう言って再びクロのブレスをイメージする。余計な事は考えるな。胃でブレスの元をイメージしろ。そこから喉を通って・・・・あっ!これ駄目だ!さっきと同じ・・・
いやまだだ!ここで吐き出ちゃうんじゃなくて、自分から吐き出す事をイメージするんだ!そして一度に全部吐き出すんじゃなくて、長く続くように少しづつ、かといって途切れさせる事は無いようにイメージしろ!
そうして頑張ってイメージした結果。
「まあああああああああああああああ」
・・・・ブレスっぽくなったか?一応連続して口から白いもん吐いているけど飛距離が全然だ。2mも飛んでねえ・・・何かこれって・・・
「マーライオンだな」
「グボッ!ゴホッ!ゲボッ!ゲホ!・・・て、てめえクロ!ふざけた事言うな!・・・クソ!鼻に入った」
クロの一言に思わず蒸せてしまった。っていうかクロの奴何でマーライオンなんて知ってんだ?サクラちゃんどういう状況でそれを教えたんだよ!
「ふむ、飛距離は大した事ないが『腐』力は強いな。貴様らはこいつのブレスに触れると溶かされるから絶対に触るなよ」
そんな俺に気にする事なく、クロは俺の吐いたゲボに手を触れて何やら確認し、ジジイに注意している。傍から見れば女の子が俺の吐いたゲロに手を突っ込んでいるやべえ絵面だ。クロもサクラちゃんの格好しているって事をよく考えて動けよ。
「フフフ。その飛距離の出ないブレスを見ると、若い時を思い出しますね」
「ふ、私もサクラ様に『マーライオンみたい!』と褒められたものだ」
それ絶対褒め言葉じゃねえよ。
「取り敢えずコツは掴んだな。後は50年ぐらい練習すれば使えるレベルになるだろう」
・・・・・・・・
「いや!長えよ!!」




