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76.黒竜の住む島

「ふーん。ふふふん。あー。風が気持ちいいぜ!」


 空を全力で飛んでいると、気持ちよくて思わず叫びたくなってくる。そんな俺は今、クロの住処に向かって飛んでいる。あいつの家は俺の故郷から遠く離れた海の孤島の山の中腹だ。遠く離れたと言ってもクロの家からだと俺の故郷が一番近いんだけどな。

 

 そうして全力で飛び続けると、ようやくクロの住む島が見えてきた。見えてきたが、以前と比べて様子がおかしい。


 あれー?あの島クロしかいないって言ってなかったか?それなのに赤竜に地竜、緑竜、が見えるんだけど・・・うん?海に水竜もいるな。住み着いたのか?


 不思議に思いつつも島に近付くと、当然のように竜共が攻撃してきやがった。


「おいおい、やめろよ。今両手塞がっているし、魔力消費したくねえから戦いたくねえんだけど!」


 竜共にそうは言ってもやめてくれる訳がねえ。次々襲い掛かってくる竜どもを空を飛びながらヒョイヒョイ躱していく。


「ったく、てめえらこのエールの樽壊したら翼もいで売り飛ばしてやるからな!」


 流石に両手に握った樽に攻撃が当たらないように逃げるのは面倒くせえな。言葉が分かってないと思うが一応竜共に警告だけはしておく。そうやって襲ってくる竜共を躱してクロの家に進むと、ある地点から竜共が襲ってこなくなった。


 うーん。凄い忌々しそうに睨まれてんな。竜共ってこんな顔すんだな。でも何でいきなり襲ってくるのやめたんだ?・・・まあ、いいや。襲ってこねえならクロの所行こう。


「ギェー!!ギェー!」、「グワー!グググ!グギャー!」、「グルルルル!キュウン!」


 そう思ってクロの家に向かうと、襲ってはこないけど竜共が騒ぎ始める。


「何だ?お前ら?言いたい事があるならちゃんと言えよ!」

「ギェー!!ギェー!」、「グワー!グググ!グギャー!」、「グルルルル!キュウン!」


 何言ってるか全然分かんねえ・・・。もういいや、こいつら無視して先に行こう。


 そう思って背を向けた瞬間、何か重い物が地面に落ちる音が辺りに響く。今度は何だ?と思い振り向くと、そこには竜共が腹を見せて無防備な姿を晒している驚きの光景が広がっていた。


 えー。何これ?何でタロウ達みたいに服従のポーズしてんの?何かの特殊行動前の動きか?キモッ!やっぱり無視して行こう。


 そう言って背を向けると、今度は「オーウ!オーウ!オウ!オウ」と声を揃えて大合唱を始める。オットセイかよ!くっそ、うるせえんだけど。マジでこいつら何が言いてえんだ?


「うーんと、取り敢えず『この先に行くな』って言いたいのか?」


 俺が聞くと全員首を上下に振って肯定する。ただ、全員腹見せた状態で首を振るのでなんか見た目がキモイ。手のひらをクルっと回すと俺の言いたい事が分かったのか、全員ひっくり返り元の状態に戻る。


「で?何でこの先言ったらダメなんだ?この先にはクローディアがいるんだ。知っているか?黒竜のクローディア?」


俺が聞くと、今度はさっきより勢いよく首を振って肯定する。・・・こいつら言葉理解してるな。


「知ってんのか。だったら話は早い。俺とクローディア友達!OK?」


今度は全員首を横に激しく振る。


何でだよ!!お前ら俺の事知らねえだろ。


「クローディア引き籠り」


 そう聞くと首は上下に頭は左右に振る。どっちだよ!


「俺、クローディア遊ぶ」


 何故か片言外国人みたいな言い方になる。今度はみんな揃って首を横に振る。だから何でだよ!


「お土産、エール、美味しい」


 今度は握っている樽を持ち上げて聞くと、みんな首を上下に振って肯定する。こいつら何で酒の味知ってんだ?


「エール、クロ、お土産」


 今度は全員横に首を振る。もう本当に訳分かんねえ。こいつら何が言いたいんだよ!何とかしてこいつらの言いたい事が分かんねえかな・・・・そうだ!仮面被せて人に変身させれば意思疎通できるんじゃねえか?


「お前らが何言いたいか分からねえ」


 そう言うと全員首を下ろし、悲しそうな顔をする。竜共ってこんなに感情豊かなのか?ちょっと、これから殺すの躊躇いそうだな。


「けど、こいつを被れば、もしかしたら意思疎通できるかもしれないって言ったらどうする?」


 俺の声に今度は首を挙げて目を輝かせる竜共。これは、もうこいつら言葉理解しているって事でいいだろう。


「取り敢えず誰でもいい!代表者以外は後ろに下がれ!」


 俺がそう叫ぶと、一匹のデカい赤竜を残して全員後ろに下がった。


「よし、じゃあ、頭に被せ・・・れねえな。取り敢えず頭に置くから、そうしたら成りたい人物を頭に浮かべながらこの仮面に魔力を流せ!もし、攻撃してきたら、話し合いは無しだ。俺はもう無視してクロの所に向かうからな!」


 俺がそう言うと、納得してくれたのか頭を地面に置いて目を閉じる赤竜。


 ・・・竜ってこんなに人間くさいのか?


 不思議に思いながらも仮面を赤竜の頭にのせ、合図をすると、赤竜が輝く。うお!まぶし!


 そうして光が収まるとそこには赤い髪で赤い衣を着たジジイが立っていた。これが白髪で普通の服なら村長とか長老とか言われてそうな見た目だな。


「よし!成功だな!取り敢えず自己紹介・・・の前にお前ちゃんと話出来るか?」


 自分の姿を不思議そうに見ているジジイに問いかけると、俺に気付いたが、うまく言葉が出てこないのか発生練習を始める。


「あー、ギャー、グワー。いーえー。どー、あー。練習中。練習中」

「もういいか?」

「あ!すみません。私の言っている事分かりますか」

「お・・・おう」


 見た目の割に若い声と喋り方に思わず戸惑う。


「おお!通じた!この仮面凄いですねー。どうやって作ったんですか?いくつか譲ってくれません?あとお兄さん、強いですねー。本当に人?」


 おお?!何だこいつ?メッチャ話しかけてくるじゃん。クロと全然違え。


「おいおい、質問したいのはこっちだ。まずはこっちの質問に答えろ。まずはさっきから何が言いたかったんだ?」

「・・・・あー。えー。これより先は行かないで欲しいなってのが私達の総意です」

「そりゃあ、この先がクロの家だからか?」


 そう聞くとジジイが何故か顔を顰めた。


「すみません。『あのお方』の名前を気安く呼ばないで頂けますか?あと、『家』とか言う人の言葉で言わないで下さい。ここは『あのお方』が『安らぐ場所』です」


・・・・はあ?クロに何でここまで言うんだ?ちょっとこいつらの相手するの面倒くさくなってきたな。さっさとクロに会えばこいつらの勘違いも解けるだろ。


「ああ!もう面倒くせえな!俺が全部責任もってやるからさっさとクロの所に行くぞ」


 そう言って樽を握ってジジイを無視してクロの家に向かう。何か竜やジジイが騒いでいるけど無視だ!



 そうしてクロの家の入口となる山の中腹にある洞窟の入口に立つと物凄い禍々しい気配を感じる。


 うお!相変わらず、すごいプレッシャーだな。あのボッチの近寄るなオーラ凄いな。


 けど、ただの引き籠りに遠慮はいらねえ!何故かついて来ているジジイが何か喚いているが気にせず先に進む。




 ・・・寝てんのか?


 近寄るなオーラは感じるが、順調に洞窟の奥に進むと規則正しく呼吸をして、目を閉じている馬鹿でかい黒竜が広い空間で体を休めていた。


 そう!こいつが黒竜のクローディアだ。こいつとは昔、故郷で死闘を繰り広げた仲だ。



  ・・・



 軽く言ったけど、こいつとはマジの死闘を繰り広げ、俺が唯一『死』を意識したぐらいには強い。結果は俺の勝ちだったけど、そん時は俺は右腕を失い、体中血まみれになりながら辛くも勝利したって感じだった。そん時に色々あってトドメを刺さずに見逃した事でこいつとは仲良くなった・・・・はず。


「おーい!クロ!起きろ!遊びに来てやったぞ!」

「ヒィイイイイイ」


 そう言って寝ているクロの鼻先をべしべし叩いて目を覚ませる。俺のその行動を見て、ついて来ている赤竜のジジイがめっちゃ怯えている。


 構わず俺がペシペシ叩いていると、ようやく目を覚ましたのかゆっくりとクロが目を開いた。


 ・・・・・・!っと危ねえ!!!


 クロの奴目を開けたと思ったら、寝ぼけてんのか、いきなり俺に向けてブレスを吐いてきたので、慌てて土魔法で壁を作ってブレスを防ぐ。


「ひいいいいいいいいいいい!!!!」


 後ろのジジイがうるせえな。大丈夫だっての!


 そうしてしばらく待つとブレスも終わったので土魔法の壁を解除する。そうすると目の前には寝起きで機嫌悪そうなデカい黒竜が俺を睨みつけていた。


「よお!クロ!寝ている所悪いな!遊びに来てやったぜ!」

「・・・・・・・チッ!やはり効かんか。・・・・貴様、何の用だ?次は100年後に来いと言ったはずだ」


 機嫌悪そうだなあ、こいつ絶対低血圧だろ。それに100年後って俺死んでんじゃん。


「そんな事言うなって!ボッチのお前の唯一の友達の俺が遊びに来たんだ。照れんなって!」

「誰がボッチだ!我は一人が好きなだけだ!それに貴様を友達だと思った事等無いわ!」

「そんな照れんなって!ほら!サクラちゃんへのお土産のエールだ!持って来てやったぞ!」

「・・・・・・・・・サクラ様への・・・・・仕方ない。許可してやろう」

「墓参りだから別にクロの許可はいらねえんだけどな」

「貴様さっきから馴れ馴れしくないか?私の名は『クローディア』だ!この名を呼ぶのを許しただけでもかなりの譲歩なのに、『クロ』等と気安く呼ぶな!」

「あー、はいはい、そんでクロ、この島に竜が一杯いるんだけど、何かあったのか?」

「・・・貴様・・・もういい!・・・人間どもが前みたいにこの島に来たら面倒だからな。こいつらに守らせていたが、とんだ役立たずだったな」


 そう言ってクロはジジイをジロリと睨む。睨まれたジジイは体を小さくして肩身が狭そうにしている。


 各属性竜をあんだけ集めて番犬代わりとは、クロの奴、贅沢な事しやがる。まあ、それも仕方ないっちゃ仕方ないか。


 というのも、昔、俺の故郷が『黒竜の血』欲しさにこの島に攻め込み、クロに喧嘩売ったんだ。当然、攻め込んだ連中は怒ったクロに全滅させられたんだけど、クロの怒りは収まらず、俺の故郷まで攻め込んできた。ブレス一つで街を壊滅させるクロに、故郷の上層部は慌てに慌てた。そこで別の仕事中だった俺を急遽呼び寄せて対応させたって訳だ。その時の教訓としてクロは竜共を番犬代わりに使っているって事だな。


「そう言うなって。来たのが俺だったからな、相手が悪かったぜ」

「自分で言うな!」


 そんなやり取りをしつつ、俺は洞窟の更に奥に足を進め、明らかに人工的に建てられた一つの巨岩の前で足を止める。そのデカい石には『クロノサクラ』と彫られている。


「よお!先輩。遊びに来たぜ。今回はちゃんと土産を持ってきたぞ。あんたが生きてた頃と味は違うかも知れねえが、これが今のエールだ」


 そう言って樽を傾けて巨岩にジャバジャバ、エールをかけていく。


 『クロノサクラ』・・・クロの育ての親でご主人様。俺は会った事が無い。なんせクロの話だと1000年ぐらい前の人らしいからな。ただクロの話だとこの人は前世の記憶が残っていて、どうやら俺の前世とかなり近い時代の記憶があった人みたいだ。

 それもあって、俺と違い前世の倫理観を捨てず、困っている人がいれば、躊躇いなく手を差し伸べて助けながら色々旅していたそうだ。そんで最後はこの島で寿命を迎えた。

 なんで最後をこんな絶海の孤島にしたのか理由ははっきりとは分からねえ。ただ何となくクロの為だろうなとは思う。こいつは今もサクラちゃんの墓を守る為、この島に住み着いて暮らしているからな。

 もし、こいつが人に見つかれば、当然俺の故郷みたいに欲を出した連中に狙われるだろう。そんでこいつが暴れれば国の一つや二つ消し飛ぶからな。だから人もクロも守る為にサクラちゃんは、最後をここにしたんじゃないかと勝手に考えている。


 そして、この引き籠りが島の外に出るのは100年に1度、その血を分け与える時だけ。サクラちゃんのお願いだそうだ。クロにとってはたったの一滴だけど、その凄い効果は自分でも確認済だ。だというのにこいつは100年に一度島を出て、一番最初に出会った人にその血を与える事にしているらしい。人選適当過ぎねえ?


「サクラ様よりそこは指示されていない。貰った奴が悪党か善人か我には分からぬし、どうでもいい。ただ、サクラ様の指示通り、我の血を一滴分け与えたという事実が大事だ。我の血をその場で捨てようが、どうしようか我はどうでもいい」


 サクラちゃん。もうちょい指示をしっかり出してほしかったな。


「それにこの間、貴様に与えたから次はまた100年後だ」

「おいおい!俺の分もカウントされるのかよ!」

「当然だ。サクラ様の指示通り、ちゃんと人に分け与えているではないか」


 確かにそうだけど、なんかズルくねえ?俺と戦った時に出来た傷から血を貰ったんだぜ?まあ、俺が持っていても使う機会無かったからなあ。欲しくなったらまたクロにお願いすればいいか。


「取り敢えずクロの血で知り合い達を助ける事が出来た。有難うな!」

「だからどう使おうが我の知った事ではない」


 ったく、ツンデレだなあ。


「そう言えば、残ったこっちのエールはクロへの礼だ。飲んでくれ」


 そう言って残った一つの樽をクロに差し出すと、鼻で笑われた。


「ふん、たったこれだけか?この程度では一口で飲み干して、酔う事も出来んな」

「てめえ、人の礼にケチつけんなよ!と言いたいが、俺にも考えがあるんだよ」

「貴様に?どうせ碌でもない事だろう」


 この野郎!マスク貸してやらねえぞ。


「ほら、クロ。こいつはそこのジジイが被っている仮面よりちょっといいやつだ」


 さっきから黙って話を聞いていた、赤竜のジジイを指差す。


「役立たずが、さっきから奇妙な格好していると思ったが、貴様の仕業か」


 役立たずって酷い言い方だな。ジジイは何を言えず震えてるじゃねえか!パワハラだぞ。


「こっちのマスクは変身してもあのヘンな仮面は残んないバージョンだ。こいつを頭にのせて成りたい人物を思い浮かべて魔力を流してみろ。そうしたら変身できるぞ。サクラちゃんに会いたいってクロの願いとちょっと違うかもしれねえが、俺にはこれぐらいしか思いつかなかった」

「・・・・・・ほ、本当か?さ、サクラ様にまた会えるのか?」

「会えるっていうより、クロがサクラちゃんになるんだよ。俺等じゃサクラちゃん見た事ねえから変身できねえからな」

「・・・わ、我が・・・サクラ様に・・・・あまりに不敬ではないか?」


 知らねえよ!クロの中でサクラちゃんはどんだけ偉いんだよ!


 ・・・・・ああ、そう言えば全ての生物の頂点に立つお方とか、やべえカルト教団みたいな事言ってたな。


「そんな事じゃサクラちゃんは怒らねえよ」

「貴様がサクラ様の何を知っている!」


 うわあ、もう面倒くせえなこいつ。


「だったら、そのマスク返せよ。サクラちゃんに変身するのは不敬なんだろ?」

「いや、やる!サクラ様はこの程度で怒ったりしない」


 だから俺がさっきから同じ事言ってるじゃねえか!こいつ何でサクラちゃんの事になるとIQ下がるんだよ!


 それから結構長い時間葛藤していたみたいだけど、クロもようやく決心したのかマスクに魔力を流し込み、辺りが光り輝く。そうして光が収まった後には黒髪ポニーテールの可愛い女の子が立っていた。見た目女子高生ぐらいで、少し活発そうな感じから運動部の主将ってのが俺の最初見たイメージだ。 

 

「へ、変身出来たのか?」


 光が収まり、自分の手足を見て戸惑っているクロに鏡を渡すと、その両目から涙が零れる。


「おお・・・おお。サクラ様・・・」


 鏡に映る自分の姿がクロの記憶にしかないサクラちゃんの姿だったんだろう。自分の姿を見てクロは感激して涙を流している。



 多分知っている奴や感性強い奴なら感激して涙がポロリでもしたんだろうが、俺から見れば鏡に映った自分の姿に感動しているナルシストにしか見えなかった。

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