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75.報告

「驚いたな。本当にどこにも傷は残って無いのか?」

「ありません。ボスも私の顔のケガ見ましたよね?今の私の顔に残っていますか?」


 その言葉にボスと呼ばれた美形の男エルフが静かに首を振る。


「僕だって両手両足溶かされたけど、この通りさ」

「『微笑』のケガは直接見ていないが、報告は受けている。街でも噂は聞いているが、それでも信じられん。その秘薬はどうにか手に入らないか?」


 ボスの言葉に二人のエルフは首を振る。


「無理ですね。今は組合長が管理しています。しかも組合長は全部飲み干すまでしっかり確認してましたので、飲んだ振りして誤魔化すのは無理です。かといって組合長から余った秘薬を奪おうとしても難しいでしょう。それだけあの人は強い。挑んでも良くて私達の正体がバレて賞金首でしょうか。悪ければ全滅。そうなればここでの『ドルーフおじさん』の調査は終わりです」

「そうそう、この間の工作員狩りで僕達引っ掛からなかったんだから、下手に動かない方がいいと思うな。僕らの任務は秘薬の入手じゃなくて『ドルーフおじさん』の情報を集める事なんだから」

「・・・・そうだな。我々の任務はそうだったな。ただ、秘薬については本国に報告はしておく。ちなみに何本残っているのか知っているか?」

「治療は私が最後でした。残りは分かりませんが、『何とか足りたな』と組合長が言っていたので、残っていたとしてもそんなに本数は無いと思います」


 その言葉にボスは顎に手を当てて、どうにか秘薬が手に入らないか考え込む。そこに『微笑』が手を挙げて発言を求める。


「どうした?」

「もうこの娼館での報告やめた方がいいんじゃないかな?」


 その言葉にボスが眉をしかめる。


「なぜだ?」

「ほら、僕もリーダーも借金生活なんだ。それなのに娼館通っているっておかしいでしょ」

「・・・うむ、言われてみればそうだな。だが、ここが一番都合が良かったんだが・・・」

「報告に都合のいい場所と言っても娼館は流石に私も嫌でしたよ。任務だから我慢して娼館通って怪しまれないようにしていましたけど」

「それを言えば、私も客が選べる訳ではないから嫌だったぞ。任務だから我慢していたが」


 その二人の言葉に『微笑』が疑問を口にする。 


「そう?リーダーもボスも楽しんでなかった?おかしな店は全部僕担当にしてたよね?おかげで僕はおかしな性癖を持つ美少年好きの変態って思われているんだけど?」

 

 その言葉に慌てる二人。


「そ、それは私は客にそういう店があると、教えてもらってだな。それに私は男だからそういう店には行けば目立つだろ」

「わ、私はそういう特殊な店は見た目で断られるから、仕方ないじゃないですか」

「まあ、情報収集の為だから今までは良かったけど、これからは僕は娼館に通わないから。そっちの情報は二人で集めてね」

「いや、私も借金しているからしばらく無理ですね。今日も結構無理やり来たんですから」


 その言葉にボスはまた顎に手を当てて考え込む。


「仕方ない、本国に言ってそっち担当を一人派遣してもらおう」

「ハルツールからだと二月はかかるかなあ」

「そうですね。それまではボスは引き続き男娼として情報収集。私達は借金返済優先でいいですか?」


 リーダーのその言葉に誰も異論なく首を縦に振る。今後の方針が決まったので、ボス以外の二人は立ち去ろうとするが、リーダーが足を止めて申し訳なさそうに話かけた。


「・・・モレリア・・・ごめんなさい。あなた結構気にしていたんですね」

「うん?ああ、変な性癖の事?別に前までは気にしてなかったし、自分でもそう演じていたからね。シリトラも気にしないでいいよ」

「うん?これからは気にするのか?『微笑』のお前が?」


 二人のやりとりにボスが少し驚いて聞いてくる。というのも、この『微笑』はどんな厳しい訓練でも言葉を言われても、薄ら笑いを浮かべて何も気にしてない様子から、その名で呼ばれるようになったと聞いた。実際、行動を共にするようになってからその名の通りだと思っていた。


「ボスは何を言っているんだい。僕に感情なんて無いとか思ってたの?僕もあんまり顔に出る方じゃないけど、ちゃんと感情はあるんだ。しかも練習して、感情を顔に出すようにしたんだ」

「何故そんなものを練習した?どちらかと言えば訓練では感情を失くせ、顔に出すなと教えられたはずだ」

「前にある組合員に『薄ら笑いばっかり浮かべておかしい奴だな。もっと感情を表に出せ』って言われたからかな。工作員がおかしいと思われたら駄目だろう?だから練習したんだ」

「そ、そうなのか?」

「ボスには『微笑』が『キレた』事は報告していましたけど?」


 信じられないという感じで疑問を口にするボスにリーダーが答える。


「そ、それは『キレた』振りをしていたのだと思っていたが、違うのか?」

「コーバスに来た頃はそうでしたけど、いつからか本当にキレるようになって『アレ』使おうとするので、大変なんです」


 

 その言葉を聞いてボスはジロリと『微笑』を睨みつける。


「大丈夫だって。それはリーダーの勘違い。流石に『アレ』は使わないよ。使えばハルツールの工作員だってバレちゃうじゃないか」

「どうだか」


 リーダーはジト目で睨んで、『微笑』の言葉を全く信じている様子はない。


「それに僕が工作員だって知られて、彼に失望されたくないしね」

「・・・・・・も、モレリア、それは・・・私、言いましたよね?」

「分かってる。僕は工作員だ。でも想うくらいはいいだろう?」

「おいおい、まさか『微笑』が誰かに惚れたとでも言うのか?」


 二人の話を聞いていたボスが驚いて話に割って入ってくる。


「フフフ、聞いてよボス!彼だけなんだよ。アシッドスライムにやられた僕を見ても態度を変えなかったの!しかも『これから一生食わせてやる』って言ってくれたんだ!アレは感動したなあ」


 『微笑』の話に驚いてリーダーを見るが、目を伏せて首を振っている。


「かなり話が誇張されてます。私の記憶違いじゃなければ、あの時は『もし娼婦になったら、しばらくは食うのに困らないぐらいは指名してやる』って言ってたはずです」

「・・・・全然違うじゃないか」


 話を聞いてもう一度『微笑』を見ると、体をくねくねして顔がだらしない事になっている。これが感情が無いと言われていた『微笑』かとその姿にボスは驚く。


 これは本国に報告するべきか・・・いや、報告しても任務に支障が出ない限り、何も言ってこないだろう。なら、当分はこのままでいいか。


「そう言えば『微笑』の惚れた『彼』とは誰の事だ?一応こちらを探る工作員かもしれないので私の方でも調べてみよう」

「あ、それなら大丈夫です」

「何故だ?リーダー、何故そう言い切れる」

「僕が惚れたのがベイルだからだよ。3級組合員のベイル。『3落ち』ベイル。彼はとっくにシロって結論だったでしょ」


 ・・・・・



 ・・・・・よりにもよってあいつか・・・コーバス一の問題児。


 組合員をクビになれば確実に野盗堕ちする見た目や言動。目つきの悪いチンピラ組合員の顔を思い出す。自分達と同じ時期にコーバスに来たからどこかのスパイかと思ってしばらく調べたが、全くそんな事はなく。逆にあれがスパイだったら、その国の頭を疑うレベルで頭のおかしい人物。それが『微笑』の惚れた相手・・・・・・。


「・・・・趣味悪」


 そう呟いたボスの頭に容赦の無い蹴りが叩きこまれた。



王都クライムズ伯爵の屋敷


「ふう。こうやって落ち着いて休憩するのも久しぶりだな」


 私は、書斎の椅子に深く腰掛け、執事の入れた紅茶を飲みながらひと時の休息を楽しんでいる。そして楽しみの余りつい口から出た独り言に補佐官が反応した。


「そうですね。サファガリア家関連の話もようやく落ち着いてきましたし、これからはしばらくはゆっくりできるでしょう」

「と言っても1年か・・・1年後はまたゴタゴタするだろうな」

「それでもマークティック様とティガレット様の考えに乗ったのはユーアリック様でしょう?」

「まあな、息子はまだまだ幼いと思っていたが、いつの間にか成長したものだ。1年後ティガレット嬢と息子が結婚したら、私は隠居するかな」

「またまた、まだまだお若いんですから、もう少し頑張って下さい。せめて孫が出来るまではお願いしますよ」


 穏やかに笑いながら、ふと思い出した事を脇に立つ執事に尋ねる。


「そう言えばサファガリア伯との茶会はいつだったかな?」

「ご当主様、『茶会』ではなく『協議』です。くれぐれも外で言い間違えないように。『協議」については、明後日、こちらの屋敷で昼過ぎからとなっております」

「ああ、そうか敵対派閥と『茶会』は無かったな。『協議』だったな。すまん、すまん」


 そう言って執事と補佐官の3人で和やかに過ごしていると、遠くから慌ただしい足音が聞こえてきた。すぐに執事と補佐官が前にでて警戒するが、部屋に飛び込んできた人物を見て2人とも驚いて棒立ちになってしまう。


「ち、父上!た、大変です!」

「ユーアリック様!と、とんでもない事態になりました!」

 

 何故なら血相を変えて部屋に飛び込んできたのは、さっきまで話題にしていた息子のマークティックとコーバスの代官ダンオムだったからだ。そんな驚く執事と補佐官を余所に私は慌てず二人を問い質す。これぐらいで驚いていては腹黒い貴族連中とはやり合えんよ。


「二人とも何故王都にいる?ユーアリック。お前には領都を任せてあるはずだが?ダンオムも・・・・ダン・・オムも・・・・嫌だなあ・・・・絶対面倒事だよ・・・こいつの話は聞きたくないなあ」


 ダンオムいるじゃん!こいつが王都まで来るってよっぽどだよ!絶対また陛下動くレベルの面倒事だよ!


「ユーアリック様、何を言っているんですか。お二人が連絡も無しに王都に来られたと言う事はそれほど重大な事が起こったんでしょう。さあ、すぐに話を聞きましょう。今すぐに!!」

「何で、お前はそんなに嬉しそうなの?」


 だから、ダンオムが持ってくる問題って、陛下が動くレベルの奴じゃん!お前は陛下に説明しないからいいけど、こっちは国の重鎮たちの前で説明しないといけないんだぞ!


「父上。まずはこちらを確認下さい」


 そんな私達の話を無視してユーアリックが差し出したのは、真っ黒な液体が入ったポーションの容器3つ。一つ一つがとても丁寧に梱包されていた事から、恐らくとても価値があるものだと推測できるが、それが何かは思いつかない。


「何だこれは?凄く禍々しい液体だな。何に使うものだ?」

 

 容器を眺めながら息子に尋ねるが、答えは返ってこない。そればかりか、まずはその容器を机に置くように指示してくる。取り敢えず良く分からないが、容器を机に置いた所でようやく息子が口を開いた。


「父上、それは恐らく国宝の『秘薬』と同等の回復効果を持つポーションになります」





「・・・・・・・・は?」


 い、今、息子は何と言った?国宝?秘薬?


「その効果は既にコーバスの組合員が実証しています」

「そうか、実証したのか・・・・・・・使ったの!!!」


 ダンオムの言葉に思わず驚いて大声をあげてしまう。いやいや、これはどんな貴族だろうが陛下だろうが驚くでしょ。だって『秘薬』だよ。それを使った?


 私の知っている限りこの『秘薬』を使ったと正式に記録が残っているのは3代前の王のみ。彼は若くして王になったが、後継ぎが出来る前に重い病気にかかり、更にその病気で両足が壊死したので、やむをえず使ったと書かれていた。ただその『秘薬』の効果は絶大で、『秘薬』を飲んだ直後、信じられない事に足が生え、その日から元気に政務を行ったそうだ。更に臣下の悩みの種だった後継ぎ問題もすぐに妃が懐妊した事で、解決。正に国宝に相応しい薬だと読んだ当時の私は思ったものだ。


 そして当時の王がそこまで使用を躊躇っていた理由は、恐らく『秘薬』は1本しか残ってなく、もし病気が自然回復し、その先万が一があったら・・・とでも考えもあったんだろう。

 この『秘薬』伝聞では過去に何度か使用され、その眉唾物の効果は伝わっているので、過去には複数存在したはずだ。


 そしてそれを裏付ける証拠が、歴史の長い貴族の家に代々伝わる『高ポーション』。昔功績のあった貴族に褒美として与えられたものだ。平民たちからは『貴族ポーション』と呼ばれている。巷では我等が買い占めてるから出回らないとか言われているが、そもそも出回るのはどこかの貴族が何かしらの理由で元々持っているものを売り、そしてそれを聞きつけてすぐに他の貴族が買い取るからだ。

 この『高ポーション』は『秘薬』を薄めて作ると言われている。そんなものが、昔は褒美とされていたと言う事は『秘薬』が複数あった事に違いない。


 今では恐らく一本も残っていない『秘薬』と同じ効果のそんなポーションを使ったのか。




・・・・・・・




 いや、駄目でしょ。



 取り敢えずまずは二人から詳しく話を聞いてみた。


「話は分かった。ただ、アシッドスライムの件は聞いてないぞ?」

「父上、そちらは私の方で被害状況をまとめてから報告しようと思っていました。ただ、その前に『ドルーフおじさん』が・・・・」


 そう言う事か。・・・ジークの奴、知られる前に必要な人に使ったのは確信犯だろう。まあ、過ぎた事を言っても仕方ない。何とでも言い逃れできるし、そもそも罪には問えないからな。それよりも残った3本のこいつらだ。『3本しか』と言えばいいのか、『3本も』と言えばいいのか良く分からんな。取り敢えずこれは私の手に負えん。陛下に報告して判断を委ねよう。それよりも問題は・・・・


「『ドルーフおじさん』とは何者だ?」


 『秘薬』の原料が『黒竜の血』だと知り、それを持っていた。更にそこに価値を見出していない。何者かさっぱり分からん。


「全く分かりません」


 まあ、そうだろうな。聞いている私でも明確な答えが返ってくるとは思っていない。それなら、


「何故『黒竜の血』を売りに来た?タイミングが良すぎないか?」

「ジークが言うにはコーバス内に協力者がいて、その協力者がアシッドスライムにやられたからでは?と言っていましたが・・・」


 それは納得できるな。ただ、コーバスに協力者?何を協力してもらっている?・・・いや、今は考えても分からんだろう。


「協力者はジークの方で調べているそうです。私達が下手に動くと、感づかれて逃げられるかもしれないから、手を出さないで欲しいとお願いされましたが、どうしますか?」

「うむ、確かにジークの言う通りだ、あいつに任せよう。ただ、コーバスにはもう少し騎士の数を増やす。それと騎士から何人か平民に紛れ込ませて街を調べさせろ」


 指示を聞いたダンオムが頭を下げて、部屋から出ていく。このままコーバスに戻り、準備するんだろう。


「ユーアリック。お前も戻り、騎士を・・・向こうに警戒されないだけの数、コーバスとその周辺の街に配備しろ。私は今からこの件を陛下に報告してくる」

「分かりました」


 そう言って息子が部屋を出ると、大きなため息がでた。


「やっぱり、面倒事じゃないか。はあー。また陛下に報告かー」

「何を言っているんですか!ユーアリック様。『秘薬』ですよ『秘薬』これを陛下に献上すれば、我がクライムズ領はどれだけ優遇されるか。恐らく伯爵家の序列一位に躍り出る事間違い無しです!」

「お前なあ、序列って別に公的に決まっているものじゃないんだぞ、何となくそう言われているだけだって知っているだろう」

「当然です。ですが、商人はそう言うのに敏いですからね。話が広まれば我が領に商人が集まって街が発展します。今から忙しくなりますよー」


 その前に陛下への報告があるんだが・・・こいつが代わりに報告してくれないかなあ。

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