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74.旅行に行く

 そこで話を終えてコーバスに戻ったが、北村でやる事を思い出したので、旅に出るのは明日にして、暗くなってから再び俺は北村に向かった。今回は空を飛んでだけどな。


 新しく作った改良型マスクの匂いの検証の為だ。これでタロウ達に匂いでバレなきゃ、こいつは十分使える。今はマスクの効果でドルーフおじさん仮面なしバージョンになっている。


 さーて、結果はどうなるか。タロウ達寝てるかな・・・・は?


 空を飛んで北村に着いた俺は、ゴドリックの家の上空に浮かび、タロウ達の様子を伺う。そこには空に浮かぶ俺に気付いて警戒しているタロウ達がいた。まあ、それは匂いがちゃんと誤魔化せているって分かっていいんだが、タロウの周りにいきなり火球が無数に現れこっちに向かってきたので、ビックリした。

 

 ま、魔法?うっそだろ!タロウ魔法使えんのかよ!聞いてねえぞカルガー!


 慌ててこっちも水球を生み出しぶつけて相殺する。


 慌てて作った俺の水球と威力が互角かよ!赤竜のブレス並じゃねえか!よく考えれば普通のレッドウルフも魔法使ってたな。タロウが使えても不思議じゃないが、タロウのは威力も数も桁違いだぞ。



 な!?


 タロウの火球に気を取られた隙をついて、ジロウ達が横から襲い掛かってきた。慌てて体を捻って躱す。


 空飛べんのか?・・・いや、違う、土魔法で足場作ったのか!くそ!ジロウ達も魔法使えるのか!


 そこからタロウも加わり4匹が連携して襲ってくる。しかもどんどん土魔法で足場を広げてくるから、連携に幅が広がって躱すのが厳しくなってくる。


ちぃ!一回上に逃げるか・・・・ぐお!


 更に上に飛んで距離を取ろうとしたら、上から何かの圧力があり、地面に叩き落される。


 くそ!今度は風魔法かよ!一体どいつだ?


視線を巡らすとサブロウに乗ったゴブ一が手を翳しているのが目に入った。


 ゴブ一も魔法使えんのか!ゴブリンキングが魔法使うなんて聞いた事ねえぞ。あいつもうゴブリンキングじゃねえだろ!


 油断したとはいえ、空を飛ぶ俺を叩き落すなんて、クロ以外で初めての事だ。こいつらマジで強いな。


ハハハ、やる気出てきたぜ・・・・って違う!やり合ってどうすんだよ!


 戦いに来た訳じゃなかった事を思い出して、慌てて被っているマスクを外す。

 すると、攻撃をしようとしていたタロウ達が、俺に気付いたのか動きを止めた。凄く困惑しているのが分かる。


「悪い、悪い、ちょっと、実験してたんだ。ほら、もう大丈夫だ。こっちこい」


 俺がそう言うと、尻尾を振り回しながら俺に駆け寄ってくるタロウ達。これでマスクの効果に疑問は無くなった。


「ハハハ、悪かったな。明日から俺はしばらく留守にするから、後は任せたぞ。お土産に美味しいもんでも買ってきてやるからな」


 分かっているとは思えないけど、俺に体を擦り付けてくるタロウ達を撫でながら、そんな約束をする。


「ゴブ一も後は任せたぞ。人を襲って討伐されたとか悲しい報告は聞きたくねえからな。ゴドリックとカルガー、後はシーワンと組合長の言う事聞いておけば大丈夫だ」

「ギャギャ」

 

 相変わらず俺の前で膝をついて指示を待つゴブ一の頭を撫でながら指示を出すと、しっかり返事をしてくれる。こいつ俺の言っている事理解してるよな?


「そんじゃあ後は任せた!って言ってもこの前みたいにヤバけりゃ逃げろ!命令だからな!」

「「「「ワン!!!」」」」、「ギャ!」


 ちゃんと返事するし・・・・こいつらマジで俺の言葉理解してそうだな。





 翌朝、俺はコーバスを後にしてまずは、クロに会いに行く事にした。何でか?そりゃあ組合長から貰った金が少なくなって、海の幸を満喫できないからだ。白金貨?あれは金額がデカすぎて簡単に使えねえ。あんなもんで支払いしたら、まず間違いなく偽物だと思われて捕まる事になる。

 取り敢えず残った金で手土産としてエールを二樽ばかし持って行こうと酒屋に向かう。この後は、真っ直ぐクロの所に向かうつもりだから、当然マスク使って『嬢ちゃん貴族』に変身してからだ。

 白い仮面はつけてねえが、どう見ても貴族っぽい令嬢が娼婦みたいな短いスカートでエールを二樽買いに来るとか怪しすぎるだろう。酒屋の親父は凄い困惑した顔をしていたが、金はしっかり払ったから樽を二つ荷車に乗せて運んできてくれた。


「荷車は返してくれよ」

「あら?要りませんわ」


 親父の言葉にそう言って、荷車に置かれた樽の上部分の出っ張りを掴んで持ちあげる。


「う、嘘だろ」


 それを見て酒屋の親父が驚くが、気にせず外に向かう。


 ・・・まあ、バレるよな。


 外に出ると、遠くから組合長や兵士達が走ってこっちに向かってくるのが見えた。一応誰か呼ばれるかもとは思っていたから驚きはない。なら、別の街で買えよって話だけど、単純に移動が面倒くせえし、捕まらない自信があるからな。

 

 そしてこっちに走ってくる集団だったが、その先頭を走るのは何故かトラスだった。そのトラスは俺が樽二つ握って歩く姿を見つけると大声で騒ぎだす。


「見ろ!あれは本物の『白パン令嬢』だ!この間来た偽物じゃねえぞ!あのスカートの短さ見てみろ!イヤッホーイ!お前ら見たな!見たよな!アレが本物だ!俺達が崇める『白パンツの令嬢』だ!!」


 トラスの馬鹿のテンションが高く、暴言とか訳分かんねえ事言っているけど大丈夫か?特にこの間来た『嬢ちゃん貴族』を偽物とか言って大丈夫なんだろうか。あれマジもんの王国貴族なんだけど・・・。あと、最後の崇めるって何だよ!勝手に崇めんな!


「白い仮面は無いが、地竜の時と同じ奴・・・」


 トラスの次に駆けて来たのは兵士になったティッチとその仲間達。こいつらはアシッドスライムの時は住人の避難させていたらしく、ケガは無く借金はしてないと聞いた。

 そしてティッチ達に取り囲まれてしばらくすると、ドシドシ音がして組合長が姿を見せた。組合長、足遅えな。


「チッ!やっぱり潜んでやがったか!」


 足は遅いが息を切らしている訳じゃない。組合長は俺を見ると忌々しそうに言葉を吐き捨てた。


「ティガレット様ではないですよね?」

「な訳ないだろ!リリー!あのスカートの短さ見てみろ!あの偽物と全然違え!この人こそ本物の『白パンツの令嬢』だ!」


 組合長と一緒について来てたリリーが当然の疑問を質問をすると、何故かトラスの馬鹿が全力で否定した。


・・・・こいつスカートの長さでしか判断できねえのか?・・・あ!組合長に殴り飛ばされた。馬鹿だなあ。取り敢えずリリーの疑問に適当に答えてまた引っ掻き回すか。


「そう思いたければ、そう思って構わないですわ!私の名前はティガレット!ティガレット・・・ティガレット・・・」


 あれ?嬢ちゃん貴族の名前何だっけ?サ、サファ・・・・・・!!」


「ティガレット・サファダリアですわ!!」


 確かこんな名前だったはず!


「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」


 あれ?違った?


「サファガリアって言ってなかった?」


 よし!トラス!ナイスアシストだ!


「ティガレット・サファガリアですわ!!」


「「「「・・・・・・・・・」」」」


 おいおい、みんな何でそんな疑わしい目をしてんだよ。ちょっと間違えただけだろ。


「えほん、ごほん。ちょっと喉の調子が悪いですわ!」


 これでイケる!誤魔化せる!


「あれ?何だろう?このやり取り・・・なにか・・・」

 

 おおっと!リリー!何言ってんだ!・・・チッ!仕方ねえ。金は勿体ないが、その違和感をぶっ飛ばす方が大事だ。俺は泣く泣く白金貨を一枚だけ指で弾いてリリーに投げる。


「それはあなたに差し上げますわ!どう使ってもらっても構いません。『爺』が言うにはあなたがこの街で一番冷静な判断をできると聞いてます」

「・・・・・・え?それは・・・どういう?・・・・・っ!!」


 俺が指で弾いた白金貨を何も考えずに受け取ったリリーは、俺の言っている事がわからなかったみたいだが、その手にあるのが白金貨だと気付いて固まった。


「はわわわわああああああ」


 固まったけどすぐに硬直を解除して手に持つ白金貨を地面に落とし、手を上下に振って慌てるお嬢さん(笑)。・・・凄い可愛い。男どもはみんなほっこり見てるぐらいには可愛さ抜群だ。


「それでは失礼させていただきますわ!」


 ほっこりしている空気の中、俺は樽二つ握って空に浮かび上がると、組合長が声をかけてくる。


「ま、待て!どこに行く!」

「お友達の所ですわ!お友達の血のお礼に行ってきますの」


 友達とはクロの事だ。ガチで殺し合いしたけど、今じゃ友達だ。クロとは仲良く・・・仲良く・・・うん、仲良しだ。ちょっと塩対応が気になるけどな。引き籠りだし、人との接し方良く分かってないんだろう。


「ほら見ろ!白パンツだ!やっぱり本物は白パンツだ!」


 組合長に殴られたってのにトラスの馬鹿は元気一杯だ。また俺のパンツ見て大喜びしてやがる。こいつはまあ、どうでもいいや。・・・あ!今度は結構強めに殴られた!馬鹿だなあ。


 他にも色んな奴が好き勝手聞いてくるけど、俺はそれを無視して飛び去った。




■■■

「くそ!また逃げられた!」


 『令嬢』が空を飛び消えた後、舌打ちをするジーク。


 ロッシュ達がアシッドスライムの調査に行ってなけりゃ何とかなったかもしれねえが、タイミングが悪い。・・・まさか・・・そこも?・・・・いや、考え過ぎは良くない。


「友達って言ってたな。伝説と言われている黒竜と友達・・・だから血を貰えたのか・・・これもう、俺の手に負えねえぞ」

「し、し、し、白金貨・・・・ど、ど、どうしましょう」

「落ち着けリリー。いくら何でも白金貨は一般人が扱うには額がデカすぎる。周りからも見られているから、こいつは取り敢えず組合で保管しておく」

「・・・はっ!そうですね。取り乱してすみません」

「仕方ねえさ。白金貨を躊躇う事無く渡されたんだ・・・この間もそうだけど、連中の価値観は俺等とまるで違うな」


 そう言いながら白金貨を拾い上げるジーク。


「でもいくつかまた分かりましたね。『ドルーフおじさん』は彼女からは『爺』と呼ばれている事。黒竜から血を分けて貰える・・・かどうかは分かりませんが、少なくとも伝説の黒竜は存在し、彼女達はその居場所を知っている。そして彼女はティガレット様ではないこと」

「だな。しかし今回仮面無しとはどういう事だ?もう顔を隠す必要は無くなったのか?何故?ティガレット様にしか見えなかったが本当に他人の空似か?」

「仮面については理由は分かりません。ティガレット様本人に見えたのは、あの服装や髪型が理由でしょう。あれなら多少の違いは誤魔化せるはずです」

「裏の奴らならそういう変装は得意だろうな。一応、代官に連絡してティガレット様の所在を確認しておこう」


 その後はティッチ達兵士に礼を言って、組合に戻る二人。その場には白目を向いたトラスだけが転がっていた。


「そう言えばリリー。『令嬢』が名前間違えた時、何か言ってなかったか?」

「・・・・私何か言いました?その後の白金貨が衝撃的すぎてちょっと、その辺記憶が混乱してます」

「・・・まあ、そりゃあ、仕方ないか」





■■■

「『令嬢』が出たんだって?」


 組合長の部屋に集まった『上を目指す』の面々。組合長が防音の魔道具を起動させると、ロッシュが口を開く


「ああ、お前らがアシッドスライムの調査でいない時にな。タイミングが悪かった」

「ったく『ドルーフおじさん』の時は俺等もケガしてたから仕方ねえけど、今回はどうにかならなかったのか?」

「そうは言っても今回は仮面無しだったから、本物かどうかまずは確認を優先した。お前らの調査も大事だったし、結局呼んでも間に合わなかったしな」

「まあ、過ぎた事を言っても仕方ないじゃろ。取り敢えず報告だけさせてくれ」


 ユルビルがそう言うと、部屋に少しだけ緊張が走る。


「アシッドスライムの痕跡を辿ったら、地竜を倒した所までは辿れたよ。けど、その先は痕跡は全く無かった」


 ロッシュの報告に首を傾げるジーク。


「つまりそこでアシッドスライムが発生したって事か?」

「そう、俺等の予想じゃ普通のスライムが地竜の肉食って突然変異起こしたんじゃねえかって結論だ」


 トレオンの言葉にジークは手を向けて止める。


「地竜の肉って全部回収したはずだろ?」

「いや、『令嬢』が殴って弾け飛んだ肉については、全て回収出来たとは思ってない」


 マーティンの言葉に納得がいったジークは頭を抱える。


「それじゃあ、また似たような事が起こるのか?」

「あの辺一体に残った肉が無いか調べた後、周辺を焼いて、ついでに魔法で地面をひっくり返してきたから大丈夫だと思うぜ」

「それなら大丈夫か・・・それで結論としては自作自演か自然発生かどっちか分かったか?」

「特に新しい足跡やそれらしい痕跡は無かったから、たまたまスライムが地竜の肉を食べてアシッドスライムになったんじゃないかな」

「そうそう、組合長は考え過ぎだぜ。流石に『ドルーフおじさん』の自作自演はないだろ。それなら『黒竜の血』をあんなに安値で売った理由が分からねえ。この街をどうにかしたいなら、『黒竜の血』を売る必要は無いし、金が欲しいならもっと高値で売る。唯一考えられるのはアシッドスライムの魔石だけど、それも有用な使い道は無いって話だ」

「一応そっちは本部に調べて貰っているが、多分分からんじゃろうな」

「我らの知らない使い道があるのかも知れないが、それを言いだしたらキリがないぞ」


 そう畳みかけるように言われて口を閉ざすジーク。


「そうだな。キリが無いな。分かった。今回の件は自作自演って考えは今は消しておく。そうすると、『黒竜の血』を提供したのは協力者の為か?」

「アシッドスライムの魔石が目的かもしれんが、そっちも可能性としてはあるじゃろうな」

「だね。最後に『この街の連中に使え』って言ったんでしょ?可能性は高いと思うな」

「と言う事は、今回ケガした奴を中心にもう一度調査した方がいいか」

「面倒くせええな」

「そう言うな、トレオン。やみくもに探していた時と違って今回100人ぐらいだ。そこまで苦労はない」

「・・・いや、マーティン、俺ら借金してんだぜ。それを返しながら調査とかキツくね?」

「こっちとしてはお前らの借金無しにしても構わんが?」

「そうなると色々怪しまれるから却下。僕の方で上手く依頼こなしながら、調査を進めるから、ジークの方ではこの街からいなくなった女を調べてよ」

「俺は『令嬢』か。まあ、兵士や代官に協力して貰えば何とかなるか。分かった。それでいこう」

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