69.コーバスへの帰還③
「え?またかよ?」
「またですか?」
翌朝、バードラーと飯を食べていたら、昨日と同じようにここで待っているようにアーリットから伝言を残されていた。
・・・・いや、ちょっとおかしくねえ?
「なあ、バードラー。お前の常識で良いんだが、知らない奴から助けを求められたらどうするのが正しいんだ?」
もしかして俺の常識がおかしいのか?と思いバードラーに聞いてみる。
「騙されるので相手にしませんよ。普通」
即答だよ。国が変わっても、俺の常識が間違っている訳じゃねえんだよな。
「だよなあー。・・・でも何であいつら助けに行くんだろう?」
■
「困っている人がいたら助けるの当り前じゃないですか!」
昼前に戻って来たアーリットに聞いたら、真っ直ぐな目でこう答えられた。
ええー。そんな当然みたいに言われても・・・うん?もしかしてアーリットって前世の記憶持っててその倫理観で行動している?俺はそんなんとっくに捨てたぜ。
そう思って聞いてみたんだ。そしたら、
「え?何ですかそれ?ゼ、ゼンセ?」
と、こう答えてきたんだ。別に嘘吐いたり誤魔化したりしてる感じはねえ。マジで分かってねえみたいだ。結果『アーリット達の頭のねじが緩んでいる』って俺の中では結論になった。
で、今回は薬師のババアを助けて採取の手伝いしてきたんだとよ。これも使い古された手口で、採取させるだけさせて報酬無し、採取品はババアの物になるってのが普通だ。なのにアーリットの奴ら・・・・
「ええ!!上級ポーションですか?また凄いものもらいましたね」
「おいおい、マジかよ。見せてみろ」
驚くことに上級ポーションを一本もらったそうだ。こいつは地竜の時に各自一本大判振る舞いされたけど、普通に買うと50万ジェリーだ。そんなんポンとくれるなんてその薬師のババア何者だ?
「別に普通のお婆ちゃんでしたよ。これも採取と長話に付き合ってくれたお礼だって」
いや、それ絶対普通のババアじゃねえよ。
とまあ、こういう事があったんだが、それ以外にも道中アーリット達は訪れる街で必ず何かしらのイベントを起こしやがる。それで助けを求めてくる相手が組合員や商人、街の住人、旅人だったりするのは、まあ、そこは珍しくはない。ただ、こいつら常に当たりしか引いてねえ。必ず何かしらお礼を貰っている。
こういうイベントは基本詐欺で騙されるのが普通だ。俺なんてハズレしか引いた事ねえし、コーバスの連中も同じだ。なのにアーリット達は一度も騙されてねえ。どういうカラクリだ?
「いやだなあ、ベイルさん。世の中そんなに悪い人ばっかりじゃないですよ。助けを求めている人は本当に助けて欲しいんです。そんな捻くれた考え方して生きるの辛くないですか?」
タネを暴いてやろうとアーリットに話を聞いたら、頭お花畑だった。タネも仕掛けもマジでねえ、こう信じ切って生きている。
「辛い辛くないじゃねえんだよ!世の中そうやって騙そうとする奴らばっかりなんだって!」
「フフフ、ベイルさん。ちょっと拗らせてますね」
「ふざけんな!拗らせてんのはてめえだよ!いいか!先輩として一つだけ忠告だ!そうやって人を信じていると、絶対いつか騙されて心が折れるからな!」
もう本当にバッキバキに折られる。特に故郷にいた最後の頃は、話しかけてくる奴全員詐欺師にしか見えてなかった。けど、そう見えていても、『ああ、また騙されるんだろうなあ』って思いながら、何故か助けてたあの頃の俺は心が死んでて本当にヤバかった。そんな経験を持つ先輩からのアドバイスだってのに、聞いちゃくれねえ。
「そんなに言うなら試してみます?」
「ああ?何をだ?」
「人助けですよ。次誰か助けを求めていたらベイルさんが助けに行ってください。それでどちらの考えが正しいかはっきりさせましょう」
・・・・ええ、嫌だよ。面倒くせえ。
・・・って思ったけど、これってもしかしてアーリットの引いた当たりを譲ってもらえる可能性高い?・・・・おいおい、そうなりゃ報酬で金貰えて、この無一文生活からオサラバじゃねえか。
「・・・・よし!お前がそう言うなら仕方ねえ。次何かあったら俺が動いてやる」
・・・・何て考えたんだけどなあ。
「ケケケ。さっさと有り金出しな」
「馬鹿だな、お前」
「お前たち!さっさとやっちまいな!」
俺の周りには、ならず者5人が武器を構えている。助けを求めていた女はその5人に指示しているから、この女がこいつらのボスみたいだ。
取り敢えず俺は声を大にして言いたい。
「何でだよ!!!」
何でハズレ引いたんだよ!・・・いや別に珍しくねえ。これが普通だ。ただ当たり100%のアーリット達と代わった途端ハズレ引くってどういう事だよ!
俺の叫びを勘違いした女ボスが、性格悪そうな笑顔で俺に話しかけてくる。さっきのか弱い感じはどこ行った?
「フフフ、もしかして助けたお礼に私を好きに出来るとでも思ったかしら?」
「ケケケ。その偽物の員証で俺等がビビって逃げるとでも思ったのか?」
「馬鹿が!既にその手口は広がってんだよ。しかも、ここはクライムズ領じゃねえぞ」
・・・・・・あん?何言ってんだこいつら?員証が偽物?クライムズ領ってどういう事だ?
首から下げた員証を見下ろす。普段は服にしまっておくが、こういう時は見せると、ビビって逃げていく事が多いから、敢えて取り出したんだが。偽物って言われたのは初めてだ。いや、たまに偽の員証見せつけてビビらす奴もいるって聞いた事はあるが、クライムズ領は関係ねえよな。
まあ、いいや。こいつら殴れば素直に話してくれるだろうから聞くのはその時だ。
「ひぃいい。す、すみませんでした」
取り敢えず女ボス含めて殴り飛ばした後、一番近くに転がっていたならず者から話を聞こうと起こしたら、メッチャ怯えてる。
普通だったらならず者だろうが、一般人が組合員に絡んだらこうなるって分かってるよな。だから員証見せて争いを避けるつもりだったんだぞ、こっちは。
「なあ、何で俺の員証偽物だって思ったんだ?一応そう言う詐欺っぽい事している連中がいるのは知っているけど、それにしては偽物って決めつけたの早くねえか?」
「そ、それは、あなた様の員証がコーバスの物だったし、コーバスで有名な『3落ち』の物だったからです」
・・・・?俺って有名人なの?コーバス関係あるの?
「いや、全然分かんねえ。理解出来ねえんだけど?」
「ひぃいい。すみません。すみません。許して下さい」
俺が怒ったと勘違いしたのか頭を何度も地面に叩きつけるならず者。話が進まねえな。
「取り敢えず顔を上げろ」
「はいいいいい」
「今の話じゃ何が何やらさっぱりだ。もう一度順を追ってしっかり説明しろ」
そう言うと怯えながらも分かりやすく説明してくれてようやく納得した。要するに俺等が地竜やキング、領都最強と言った連中を倒した事で、今やコーバスの組合員はやべえ連中の集まりだと思われているらしい。実際頭がヤベえのしかいねえから否定は出来ない。まともなのは俺だけだな。
特にクライムズ領ではガチで恐れられているそうだ。で、今じゃコーバスの員証見れば組合員でさえ逃げるって事で、偽物のコーバスの員証ぶら下げている奴が増えたそうだ。で、その手口も広まってきて、適当な名前だと本物だと思われないので、今度はコーバスの連中の名前を使った員証が増えてきたらしい。使われる名前は4級の奴が多いらしいが、ティッチの物が出回っているのはどうなんだ?あいつ引退したぞ?それで4級と同じぐらい使われているのが俺のなんだって。自分で言うのもアレだけど、一度見たら忘れられないぐらい記憶に残る員証だしな。
こいつらも俺の事をそんな連中の一人とでも思って逃げなかったそうだ。
「ったく、面倒くせえな。おい、今度からコーバスの員証ぶら下げている奴がいたら、『一つ目オーガに言いつけるぞ』って言っとけ。それでビビればそいつは本物のコーバスの奴だ。ビビんねえ奴は偽物だ。分かったな」
「は、はい!」
これが広まれば少しは偽物も減るだろう。取り敢えずならず者たちから金を巻き上げてアーリット達の待つ宿に向かった。
「アハハ!てめえら本当にコーバスの組合員かよ!」、「逃げてばっかりじゃなくてかかってこいよ」、「やれやれ!やっちまえ!」
宿についたら、アーリット達は喧嘩の真っ最中だった。こいつら常にイベント発生させねえと死ぬ病気にでもかかってんの?
「あ!ベイル。ちょっと喧嘩止めてくれない?」
「先生。アーリット達を助けて下さい」
俺に気付いたエルメトラ神とエフィルが駆け寄って来て、助けを求めてきた。
別に助けるのは構わねえけど、それは当人たちにそう言われた時だけ。勝手に混ざるのはルール違反だ。そう言えばアーリット達が喧嘩してんの珍しいな。もしかして初めてか?クイトもだけど動きがぎこちねえ・・・って良く見りゃ、あいつら手出してねえな。何やってんだ?
「『噂のコーバスか、偽物野郎!』と、いきなり言われて殴り掛かってきたの」
「アーリット達も理由が分からないので手が出せないみたいです」
そう言う事か。さっきならず者が言ってたのが理由か。コーバスってだけで絡まれるとは、面倒くせえな。
「おいおい、こっちにもいやがるぞ。しかもこいつ『3落ち』だ!ギャハハハ、その員証今日だけで3人は見たぞ!おい!」
服にしまうのを忘れていた俺の員証に、気付いた馬鹿が絡んできやがった。・・・この街に俺の偽物がいるのかよ。この調子じゃ4級の奴らもそれぞれ3人はいそうだ。あいつらが3人もいるとか災害級だぞ。せめて被らないようにしろよ。
まあ、勝手に利用する分には俺の知るところじゃねえが、こうやって絡まれる実害があると、黙ってもいられねえな。
「おい!その今日会った偽物共に『3落ち』使うなら俺に許可とれって言っとけ」
「ハハハ!てめえも偽物だろうが!」
そう言って絡んできた奴が、笑いながら殴り掛かってくるが俺は敢えて避けずに受ける事にした。素人なのか殴られても全然痛くねえ。
・・・・まあ、こんなもんだよな。
「・・・・あれ?」
まともに殴ったのに平然と立っている俺を見て絡んできた奴が戸惑っている。一般人だろうけど、先に殴ってきたのはそっちだ。目撃者は大勢いるし、これで俺が殴り返しても罪にはならねえ。って事で思いっきりぶん殴ると、そいつは吹っ飛び壁に叩きつけられる。
・・・流石に一般人相手に大人気なかったか?ピクリとも動かねえけど、死んでねえよな?
「ザリア!そいつ死んでねえか調べろ!」
どこにいるか見えねえけど、多分どっかに隠れているだろうザリアに指示する。すぐに姿を見せたザリアは俺がぶん殴った奴を触って状態を確認する。
「大丈夫です。生きてます」
「なら、いいや」
俺がそう言うと、ザリアの姿が消える。ザリアの奴マジで速いな。動きが見えねえぞ。
・・・・・・・
気付いたら宿全体が静まり返っていた。喧嘩を煽っていた奴も、アーリット達に殴り掛かっていた奴も動きを止めて、俺を見ている。
「あ、あ、あんた、もしかして本物?本物の『3落ち』?」
「本物って意味が分からねえけど、この員証は本物だ」
他の街にも『3落ち』っているかもしれねえからな。こいつらの言っている本物が俺の事とは限らねえ。
「う、うわあああ!マジだ!マジもんの『3落ち』だああああ!助けてくれえええ!」
「やべえええ、逃げろ!!!!」
「って事はこいつらも本物のコーバスの組合員だ!殺されるぞ!逃げろ!」
と、思ったけど、どうやら俺の事だったらしい。宿にいた連中が必死になって逃げだし始める。そして、残ったのは俺達と隠れて震えている宿の親父だけ。
「な、なんかコーバスの事誤解されてません?」
「俺達一般人を殺したりなんてしないぜ」
■
「そ、そんな事になっているんですか」
「風評被害も甚だしいわね」
「自分がバードラーさんの宿探している間に何やっているっすか」
「取り敢えず俺達の所属がコーバスだってのは黙っていた方がいいと思うぜ」
「先生、この状況って何か卑怯技に利用できませんか?」
「今回みたいにタロウと別行動しなきゃ大丈夫だろ。さっき逃げた奴の一人とっ捕まえて話聞いたら、タロウ達の事も知られているみたいだったしな」
噂じゃあコーバスはバケモノみたいにデカい狼を複数飼っていて、街の住人以外は噛み殺されるって話だ。それだと、余所モンが誰もコーバスに来れなくなるんだが、噂ってのはそんなもんだ。
「それと、あんまり面倒事に首を突っ込むなよ。基本助けを求めてきても無視しろ」
「それは無理です。困っている人がいたら僕は迷わず助けます」
「ったく、アーリットは面倒くせえな。何でそんなに人助けしたがるんだよ。放っておけばいいじゃねえか」
「僕は6級組合員を目指しているんです。僕の知る6級組合員はどんな人にも優しく、困っている人がいたら、無償で助け、誰からも愛されてた人なんです。だから、僕も助けを求めている人を見捨てる事はしません」
・・・・・
「はあー。アーリットがそういう考えなら俺はもう何も言わねえ。ただ、それでコーバスに戻るのが遅くなるなら、俺はお前ら置いてとっとと帰るからな」
金はならず者達から巻き上げたのがあるから、万が一バードラーが消えてもなんとかなる。明日にはクライムズ領に入るだろうし、7日もあればコーバスに着くしな。
翌日からも相変わらずアーリット達はイベントを起こしているみたいだが、俺はもう関知しねえ。バードラーと自分のペースで進んでいる。って言ってもアーリット達もその日のうちに俺達の泊る街に追いついてくるんで、話は聞かせてもらっている。結局、最後は一緒に行くか。ってなってみんなで移動してたんだ。
そして見えてきた俺等の拠点、コーバスの街は・・・・・・・・
半壊していた。




