67.コーバスへの帰還①
「お待たせしました。ベイルさん。って何で街の外で待っているんですか?」
「おいおい、約束の時間に俺が待ってたら不思議か?俺はコーバスで一番、時間を守る男だぞ」
「ええー。信じられねえぜ」
お?クイト喧嘩売ってるのか?自慢じゃねえが組合員になってから、約束の時間を破った事は無いはずだ。
「ああ、でもゲレロさんが『あいつああ見えて時間守るんだ』とか言ってたっす」
「だろ!あのハゲたまにはいい事言うじゃねえか。帰ったら一回だけタダでエール冷やしてやろう」
「それって1回10ジェリーっすよね。ショボくないっすか?」
かあー。スタイルだけじゃなくて、味覚もお子ちゃまのカルガーには冷えたエールの美味さはまだ早えか。
「ショボくねえよ。ゲレロ泣いて喜ぶから見とけよ」
「・・・いや、流石に泣きはしないと思うっすよ」
「・・・そ、それで何で街の外で待っていたんですか?」
アーリットはしつこいな。少しは察しろよ。
「ああ?お前らを待ってたからに決まっているだろ?」
「それは嘘ですよ。ベイルさんギャンブルで負けてお金全部無くなったんですよ。で、宿に泊まるお金も無いから、昨日からここで野宿していたんですよ」
チッ!バードラーの奴余計な事を・・・。
「・・・ええっと。あなたは?」
さっきから俺の隣に立っていた、眼鏡イケメン知性キャラぽいバードラーが気になったのかアーリットが不思議そうに聞いてくる。
「ああ、こいつは俺の依頼主バードラーだ。コーバスまで護衛依頼受けた」
「ええ?ベイル、それって組合通さないと駄目じゃない?」
全く、エルメトラ神は真面目だなあ、そんなん色々裏技があるんだよ。
「それは金銭報酬がある時だけだ。今回の報酬はコーバスまでの旅費を、たまたま出会った街で意気投合したバードラーが奢ってくれるって事にしているから問題ない」
「す、すごい、そんな抜け穴が・・・流石先生」
エフィルの奴が感心しているけど、金銭報酬が絡まなきゃ手数料が取れない組合は何も文句は言えねえ。そこを逆手に取った手段だ。ただ、あんまりやり過ぎると説教部屋行きだけどな。そして、これは組合が絡まないから依頼者側も途中で依頼投げ出される危険もある。
「ちょっと待つッス!バードラーさんよりも『ここで野宿』って方が気になったッス。ベイルさん、街の入口で野宿したっすか?」
入口じゃねえよ。少し外れているだろ。
「門番にちゃんと確認したから大丈夫だ」
「ええー。それにしても目立ちまくりっすよ」
「門限ギリギリで街を出たんだ。野営の準備には、暗くなりすぎてたから仕方ねえだろ。ここなら街の灯りで何とかなったしな。それに街で火を炊いちゃ怒られるだろ」
「そうか、色々合理的な理由があったんですね」
「流石ベテラン冒険者だぜ」
俺の言葉に感心するアーリットとクイト。
だろう?まあ、これはトレオンから教えてもらったんだけどな。あいつはしょっちゅうギャンブルで有り金全部溶かすから、今じゃ門番さんも慣れたもんだって言ってた。
「合理的じゃないわよ。まずお金の管理しっかりしないと駄目じゃない」
「そうっす。ここで野宿している時点でダメダメっす」
エルメトラ神とカルガーはしっかりしてんな。でもな、この駄目具合が組合員って奴だ!他にもアウグ、ヒビット、ペコーなんかもたまにやってるって言ってたしな。
「・・・敵陣営の目の前で陣を張ってプレッシャーを与え続ける。これも卑怯技ですね」
違えよ!エフィルの馬鹿は何言ってんだよ!俺の行動を何でもかんでも卑怯に繋げるのやめてくれねえかな。そもそも敵陣営の目の前で野宿したら、速攻で攻撃されんだろ!しかも何で俺がここの門番と敵対しているって決めつけてんだ。
「後は移動しながら話をしましょう。流石にここで野宿する程、僕は肝が据わってません」
ここで野宿するのは恥ずかしいってか?アーリットにも恥ずかしいって感情あるんだな。超鈍感の馬鹿だと思ってわ。
■
「ベイルさん、あのバードラーって人、依頼主っすよね?放置してていいっすか?」
タロウの背中に寝っ転がって昼寝していたら、タロウの隣を歩くカルガーが声をかけてきた。そのバードラーは歩きながら色んな角度からタロウをスケッチしている。少し距離があるからカルガーはそれが気になるんだろう。
「大丈夫。なんかあってもタロウが助けてくれる」
タロウは優秀だからな。この程度の距離なら俺の出番は無え。魔物だろうが、野盗だろうがタロウが先に気付いて退治してくれる。俺は背中で寛いでいるだけで達成できるから、これはかなり美味しい依頼だ。
「タロウは自分がゴドリックさんから借りてきたんっすけど?」
「細かい事はいいんだよ。タロウのやりたいようにやらせるのが一番だろ。なあ、タロウ」
「ワン!」
しっかり返事をしてくれる。可愛い奴だぜ。
「うーん。タロウは良い子っすけど、将来悪い男に騙されないか心配っすよー」
「大丈夫、大丈夫。タロウはもう俺達しか懐かねえんだ。騙される事もねえよ」
カルガー曰く、仲間のアーリット達の指示もタロウは聞かねえらしい。背中に乗せるのも前から乗ってた北村の連中か俺達が頼んだ奴しか駄目で、進化してかなり気位が高くなったみたいだ。これならカルガーの心配もいらないだろう。
「・・・一番懐いているのが悪い男ってのがなあ」
カルガーがなんかボソボソ言っているけど、よく聞こえねえ。
「それよりもカルガー。お前もアーリット達の所に行かなくていいのか?」
かなり先を進むアーリット達を指差すが、カルガーは軽く首を振る。
「自分、クワロさんに斥候の基本教えられたので、今の所は大丈夫っす」
チッ!こいつも昼寝の邪魔だからアーリット達の所に行って欲しいのに、この調子じゃ行かねえな。それなら話しかけるなって言ってんだけど、聞いちゃくれねえ。
俺?俺じゃねえよ。うるせえから話しかけられても無視してるからな。俺じゃなくて、カルガーの奴、移動中ずっとタロウに話しかけてんだよ。そんで一人で笑い出したり、納得したりして、マジでうるせえんだ。こいつ友達いねえんじゃねえの?
そもそも最初は俺とタロウ、バードラーで斥候として先を進んでたから、快適に昼寝出来てたんだ。だけど途中で、エフィルの馬鹿が寄って来て卑怯技、卑怯技うるせえから、ザリアに斥候の事教えてもらえって言ったんだ。そしたら、
「え?ザリアがいれば必要なくないですか?」
って言いやがったんだ。もうね馬鹿かと。
「ザリアが足ケガしたらどうすんだ?」
「カルガーが出来るって・・・」
「じゃあ、そのカルガーもケガしたらどうすんだ?」
「・・・・」
ほらこれだ。まだまだひよっこだな。斥候の基本ぐらいは誰でも出来るようにしておくのが普通だ。盾役のカルガーでさえクワロ達の所にいた時に練習してたんだ。・・・そんで俺の痴態を見たのは・・・まあ、運が悪かったな。
「先生は出来るんですか?」
「俺?俺はソロだから必要ねえんだよ」
俺は、基本出たとこ勝負でなんとかなる。チマチマしたのは好きじゃねえし。
「それに覚えておけば、奇襲かけるのに便利だぞ」
・・・・・・・
「ザリアー!ザリアー!斥候教えて下さい!奇襲です!卑怯技です!」
「ええー。急にどうしたの?別にいいけど・・・・」
って、流れで今は話を聞いた奴らが先を進み教えてもらっている。タロウの近くだと練習にならないらしい。聞けばタロウの索敵範囲は、あれだけ先行ってるザリアでようやく範囲外になるらしい。タロウすげえな。
そんで、何とかしてカルガーもあいつらの所に追い払いたいんだが・・・
「ちょっと場所開けてもらっていいっすか?」
「おいおい、乗ってくんなよ。狭いだろ」
俺が寝てるってのにカルガーの奴タロウに乗ってきやがった。フル装備で重いのは分かるけど、ちゃんと歩けよ。
「タロウは気にしてないっすから。ねえー、タロウ」
「ワン」
「そんな訳ねえよな、タロウ。カルガー邪魔だろ?」
「・・・・」
お?何だタロウ?反抗期か?
「タロウは良い子っすねー。ワシャワシャワシャ。それにさっきタロウのやりたいようにやらせろってベイルさんが言ったっす」
チッ!そう言われたら何も言い返せねえ。仕方がないので少し下がってスペースを開けてやると、カルガーは遠慮なくそのスペースに座ってくる。
「カルガー、お前そこで屁こいたら蹴り落とすからな」
俺が寝っ転がってる頭のすぐ先にカルガーのケツがあるからな。屁こかれたら直撃コースだ。
「な!・・・な!する訳ないっす!ベイルさん、失礼すぎるっす!レディに向かって何て事言うっすか!」
ただ注意しただけなのにカルガーの奴、何をそんなに怒ってんだ?いや、それよりもだ・・・レディ?実家帰って淑女扱い受けて成長した気にでもなってんのか?なら現実を突きつけてやる。
「レディ?カルガーが?まだまだお子ちゃまじゃねえか」
普段はこう言えば、カルガーは怒るんだが、今日は違った。
「ふふん。自分がいつまでも子供体形だと思わない方がいいっすよ。これでも日々成長してるっすから」
え?カルガーの奴、胸成長したの?シリトラとの無乳コンビは終わりって事?ミーカ達の貧乳グループに加入すんの?シリトラ泣くぞ。
「あん?全然成長してねえじゃねえか?」
確認してみるが、つるっつるで膨らみは一切ねえな。と思った瞬間、盾でぶっ飛ばされた
「ベイルさん。そこ背中っす。しかも鎧。ぶっ飛ばされたいっすか?」
「いてえええ!ぶっ飛ばしてから言うな!冗談じゃねえか、そんなに怒んなよ」
「ふん!別にベイルさんが何言おうが気にしないッス。今の自分はスーちゃんのおかげで心が広いっすからね」
俺をぶっ飛ばしておいてよく言うぜ!絶対まだ気にしているだろ。・・・ん?スーちゃん?
「スーちゃんって何だ?」
「この子の事っす」
そう言ってカルガーは軽く鎧を叩くと隙間から赤い物体がドロリと出てきた。
「ぎゃあああああ!な、な、な、何それ?内臓?内臓だろ?カルガー内臓取り出せるの?貴族の固有能力?気持ち悪いから俺に近づかないでくれ」
「違うっすよ。この子がスーちゃんっす。ザリアが見つけたスライムっす」
・・・・・ああ、あん時のスライムか。すっかり忘れていたぜ。っていうかこんな色してたか?
「スライムってこんな色じゃねえだろ?何こいつユニーク?」
「多分そうっす。この子お肌綺麗にしてくれるベイルさんよりも有能なスライムっす」
そうそう、このスライム、確かスキンケア出来るとか無駄な能力持ってたんだった。興味ねえから記憶から消していたぜ。・・・うん?カルガーの奴、俺がスライム以下って言わなかったか?
「それで、パーティの女子で毎日交代しながら、綺麗にしてもらっているっす。昨日はエルの日だったから色が赤くなっているっす」
おいおい、この魔物、女神の柔肌に触れてんのか?俺でさえ触れた事がねえってのに、こいつ不敬罪で死刑だな。
「ちょっと!何でこん棒構えるっすか!言っとくっすけど、この子殺したらコーバスの女組合員全員を敵に回すっすよ!」
マジで?このスライムそこまで人気あんの?肌きれいにするだけで、戦いの役に立たねえんだろ?いらなくねえ?
「ちなみにリリーさん達受付嬢にも人気っすから」
・・・・そいつは流石に敵に回したくねえ。組合員なら酒奢ればどうとでもなるが、受付嬢は酒じゃ機嫌直してくれねえから、面倒くせええんだよ。
お菓子を連日配ってなんとかって所だ。この間、モレリアが空飛ぼうとして組合を滅茶苦茶にした時は、5日ぐらいお菓子の差し入れして許して貰ったらしい。
「そう言われたら仕方ねえ。許してやる。それよりも『赤になる』って事はこいつ色が変わるのか?」
「そうっす。今日は自分の番なので、明日には茶色になっているっす。ザリアは緑、エフィルは白になるっす」
なんだよ、その習性。意味あんのか?
「多分、この子、肌をきれいにしながらその人の魔力吸っているっす。だから得意属性の色に変わるんだろうってエルが言ってたっす」
嘘くせえけど、女神の言葉だ、信じるしかねえ。
「じゃあ、俺は何色になるんだろうな?」
そう言って指で触ると、スライムが弾け飛んだ。
「・・・・・・は?」
「・・・・・・え?・・・・ちょっと!ベイルさん!何しているっすか!殺さないでって言ったじゃないっすか!」
「え?いや??え?指で触っただけだぞ?」
マジで何もしてねえぞ。もしかしてスライムの秘孔でもついたのか?いつの間に俺は北斗神拳習得したんだ?胸に七個も傷もってねえぞ。それっぽいのは乳首の二つしかねえ。
マジで何でこんな事が起こったのか訳分からず考えていると、飛び散ったスライムの破片がどんどん集まってきた。スライムは核壊さねえと死なねえから核は無事だったみたいだ。
「良かったー。核まで壊れてなかったな」
「良くないッスよ!攻撃もしてないのに、何でこんな酷い事するっすか!」
ほっとしたのも束の間、カルガーがガチギレで詰め寄ってくる。
「えっと、悪い。俺も良く分かんねえけど、このスライム俺が触らない方がいいな」
「当然っす!ベイルさんは今後二度とスーちゃん触っちゃ駄目っす」
流石の俺もカルガーの勢いに負けて謝るしかない。スライムも体を上下に伸び縮みさせて何か怒ってるっぽいな。
もうそこからはカルガーが俺を威嚇してきて面倒くせえから歩き始めたんだ。そしたら今度はバードラーが話しかけてくる。
「ベイルさん。外からのスケッチは満足しました。今度は乗ってみたいのですが、いいですか?」
それぐらいなら依頼主だから、別に構わないって事でカルガーにも話してタロウに乗せたんだ。そしたら全力で走った所を体験してみたいとか言い出しやがった。タロウの全力疾走は、俺やカルガーでさえ振り落とされないようにするのが精一杯なのに無茶いいやがる。
でも、それでもと言い張るから、まずは散歩レベルで慣れさせることにした。って事で先を行くアーリット達にカルガーが大声で声をかける
「アーリット!ちょっとタロウとこの辺散歩・・・じゃなくて見回りしてくるっす!ザリア!偵察任せたっす!」
「分かった!ベイルさんはどうする?」
「放っておけばいいっす!」
おい!・・・って文句言う前に既にタロウが走り出していなくなってるし。あいつどんどんゲレロに似て俺の扱い軽くなってねえ?ゲレロの悪い所ばっかり真似しやがって、少しは良い所も・・・良い所?・・・ゲレロに良い所なんてねえな。敢えて言えば何も無いのが、良い所か。・・・・田舎のキャッチコピーみたいな奴だな。




