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66.王都では② 

本日2回目です

 結局、詳しい事は何一つ教えてもらえず、不満顔のカルガーは家の前でみんなと別れ、タロウと共に残される。ただ、その不満顔も実家の門の前に立つ老兵士を見ると、瞬く間に笑顔に変わった。

 一方の老兵士は、目の前に見た事もない大きなレッドウルフとフル装備で顔も見えない人物が家の前で止まったので、かなり警戒している。普段なら声をかけて追い払うのだが、その不審者が伯爵家の馬車の一行だった事を老兵士は見ており、貴族の可能性もあり声をかける事も出来ない。そしてその不審者がこちらに向かってきたのを見て槍を持つ手に力を込める。



「爺。久しぶり」

「・・・・・・は?」


 だが、近づいて来た不審者の言葉を聞いて、さっきまでの警戒している様子は一瞬で消えた。更に驚きの余り、握っていた槍からも手を放してしまう始末。石畳みの上に槍が落ち、音が響くが、それすらも老兵士は気付いていない。ただ、その不審者を呆けた様子で眺めている。


「え・・・ま・・・まさか、その声。お嬢っすか?」


 何で疑問形なんだろうと思うカルガーだったが、すぐに兜で顔が見えていない事が理由だと気付き、兜を脱いで顔を見せる。


「3年振り?ぐらいですね。爺は相変わらず元気そうで良かったです」


 久しぶりに見たお嬢の顔は、最後に見たまだ幼さの残る顔から、立派な戦士の顔になっていた。家を出る前一か月は、戦いのノウハウや平民として生きる為に必要な常識は教えたが、まだまだ不安はあった。だが、今、目の前に立つお嬢は隙が無く、立っているだけで歴戦の戦士だと言う事が分かる。ただ、その成長ぶりもだが、それ以上に、もう会う事は無いと思っていたお嬢が戻って来た事の喜びが大きい。


「お、お嬢!本当にお嬢っすか!マジで久しぶりっすね。もう会えないと思っていたけど、戻ってきてくれて嬉しいっす!」

「私も戻れて嬉しいです。それでご当主様に話があるのですけど、入ってもいいですか?」


 一応親とはたまに連絡をとっているが、今は平民の組合員カルガーとして行動するべきと考え、口調は戻しているが、少し遠慮している。


「何言っているっすか?ここがお嬢の家じゃないっすか、遠慮する必要なんてないっすよ。当主様からもお嬢が帰って来たら中に入れていいって言われているっす・・・ただ・・」


 明るく言う老兵士だったが、その後は何か言いづらそうに視線をタロウに向ける。


「ああ、この子はタロウです。人を襲わないように躾けてあるから大丈夫ですよ」


 さっきから隣で大人しく座っているからお嬢の言葉は本当なんだろう。ただ、爺と呼ばれる老兵士も昔は組合員だったので、タロウのヤバさは分かる。果たして中に入れてもいいのだろうかと悩む。・・・・・・が。


「・・・まあ、お嬢が大丈夫って言うなら大丈夫っすよね」


 お嬢が生まれた時から知っている爺は、お嬢が家に何かするなんて思いもしない。という事で、あまり悩まず一人と一匹を屋敷の中に入れる。爺も門番を代わってもらい、カルガーの後をついていく。そして途中出会ったメイドに当主に報告を指示する。そして二人は何故か親のいる部屋ではなく、屋敷を周りこむように移動している。


「爺。・・・ベス達は元気ですか?会いに行っていいですか?」

「親よりもベス達が先なんて、お嬢の犬好きは変わんないっすね・・・っていうか聞く前にそっち向かってるっすよね」


 カルガーの犬好きはここで暮らしていた時から爺は知っていたが、親よりも先にベス達に向かうとは。それにまさか、魔物の狼を手懐けるとは思ってなかった。昔より犬好きは悪化していると爺は思った。


「悪化って何言っているんですか。そもそもタロウの飼い主は私じゃないです。それにタロウが一番懐いているのも別の人ですよ」

「マジっすか?お嬢より上の犬好きがいるとは・・・・凄いっすねえ」

「詳しくはちょっと違うんですけどね・・・」


 あんまり詳しい事を話しても仕方ないのもあるが、それよりも目の前に飼い犬のベス達が見えた事でカルガーは話の途中にも関わらずそちらに向かって駆け出した。

 この二匹は、カルガーがまだこの家にいる時から番犬として飼っていた。特に犬好きのカルガーが、誰を差し置いても親身に世話をした事から一番カルガーに懐いていたのだ。

 だが、それもドルモルとの件で、カルガーはもう二度とベス達と会えない事を覚悟して家を離れたのだ。家を出る前に別れは済ませたが、ベス達が理解出来たとは思っていない。そんな二匹に会えたカルガーはうれしくてたまらなかった。


「ベス!ダズ!ごめんね。ごめんね。いきなりいなくなってごめんね」


 思わず泣きだしたカルガーが、抱きしめようと近づくが、二匹はカルガーに背を向けて逃げ出した。


「・・・アハハ・・・・そうですよね・・・ベス達から見れば私はいきなり、いなくなった薄情な飼い主ですもんね」


 昔は呼ばなくても駆け寄ってきてくれた二匹の動きに、かなりショックを受けるカルガー。


「いや・・・お嬢、ベス達、後ろのデカい狼にビビってるだけっすよ?」

「ううん、そんな事ないです。昔のベス達なら気にせず駆け寄ってくれたはずだもん」

「『だもん』って・・・思い出かなり美化されてないっすか?それなら試しにタロウをベス達に挨拶させてみればいいじゃないっすか」

「分かりました。タロウ!お姉ちゃんのベスとお兄ちゃんのダズです。挨拶しておいで」


 カルガーにそう指示され、二匹にノシノシ近づくタロウ。そのタロウに怯えて二匹とも「キュウン、キュウン」鳴く。 


「・・・あれ?」

「『あれ?』じゃないっすよ。普通こんなデカい魔物見たら人だろうが犬だろうが怯えるっす」


 言われてみればそうかもと思うカルガー。思い返せば説明されただけで、タロウ達を普通に受け入れる人が多いコーバスが、おかしい事に今更気付いた。


 そう言えばそうっすねえ。普通ジャイアントレッドウルフなんて誰が見ても驚く。ゲレロさんやクワロさんはそれ以上の珍獣のベイルさんがいるからだって冗談言ってたけど・・・流石にね。・・・いや、あの人本当に突拍子も無い事するからなあ、あながち間違いじゃないかも。


 今は大人しく待ってくれているだろう人を思い浮かべて苦笑いを浮かべていると、タロウ達はすぐに仲良くなって3匹で走り回っていた。そんな3匹の様子を微笑ましく眺めていると、後ろから声がかかった。


「か、カルガーラか?」


 振り向くと、カルガーの両親と兄が立っていた。


「父様、母様。兄様」


 最後に見た時から、父は白髪が増えただろうか、母は皺が目立つように見える。兄は父に似てきたが、仕事が忙しいのか少しやつれた感じがする。少し心配になるが、もう二度と会えないと思っていた家族に会えて、再び涙が頬を伝う。今すぐ3人に駆け寄りたいが、何故か3人は引き攣った顔でカルガーを見ているのに気づいた。それを見てカルガーは暗い顔で俯く。


「やっぱり、今更か。家を出て平民になった娘がノコノコ戻ってきても困るだけですよね」

「いや、お嬢、違うッス。そうじゃないッス。当主様達タロウに驚いているだけッス」


 爺に言われて振り返れば、さっきまで遊んでいたタロウが、カルガーの後ろで警戒していた。恐らく知らない人間が3人も現れたので、何かしてくるんじゃんないかと思ったのだろう。


「そうか。苦労をかけて申し訳ない」


 カルガーが家を出てからの事を話し、聞き終わった3人が頭を下げてきたので、慌てて顔をあげさせる。


「顔を上げて下さい。あの時は家族で話して、みんな納得して、そういう結論になったじゃないですか。それに今の生活も楽しくて、結構気に入ってますよ」


 明るく笑うカルガーラを見て3人は少し安心した顔を見せる。


「それに私は今、3級組合員ですから、生活に困ってません。むしろドルと結婚していたら、そっちの方が大変だったかもしれません」

「ありがとうカルガーラ。あなたがそう思ってくれているなら、こちらも少し気持ちが楽になりました」


 そうしてしばらく家族と和やかな団らんをし、話題が無くなった所で父親が口を開いた。


「それで?明日両伯爵家がお越しになるのは聞いたが、用件は分かるかい?」

「はい、恐らくはタロウだと思います」


 そう言って外を見れば、ベス達と楽しそうに走り回っているタロウが見える。そしてその首には両伯爵家の家紋が書かれた布が巻かれている。多分明日はタロウにどちらの家の紋章を付けさせるか決めるのだろう。もしかしたら寄越せと言われるかもしれない。そう言われたら普通は逆らえないけれど、幸い飼い主はゴドリックなので、その時は何とかなる。


 ただ、納得してくれるまでが大変なんだろうなあ。


 

「おお!ティー!よくぞ無事だった!報せを聞いた時は気が気では無かったぞ」


 娘のティガレットが戻ったと聞いて迎えに行けば、ケガもない無事な娘の姿にほっと一安心する。だが、私とは違い何故か娘は浮かない顔をしている。


「お父様、申し訳ございません。大事な騎士を全滅させてしまいました」


 その事か。ティガレットと同行したドルモル以外は全員死んだと報告は聞いている


「ティーが謝る必要はない。彼らは仕事を全うしただけ・・・と言いたいが、あいつらは私が信頼していた騎士達だ。割り切る事は出来んなあ。残された家族の面倒を見るのは当然だが、それだけではあいつらも浮かばれないだろう。仇はとる。・・・まさか貴族紋の書かれた馬車を襲う馬鹿がいるとは私も考えが甘かった」


 正確には襲わせたが正しいな。報告では依頼主が誰か不明との事だが、見当はついている。

 娘が襲われたと聞いて、当初は騎士を率いて私もコーバスに向かうつもりだった。他領に騎士を入れるには色々手続きが必要だが、同じ派閥ならその辺はかなり緩くしてくれる。それなのに今回はどの領も私達が通るのに全く融通を利かせてくれなかった。通常通りの時間のかかる手続きをしろとの事だ。

 逆に敵対派閥のクライムズ伯は、娘が襲われた報せが来た日にこちらに出向いて、領内へ入る手続きは全て不要と約束してくれたぐらいだ。それに娘の襲撃についてもクライムズ伯にはメリットはほとんどないと言っていいだろう。逆に領内の治安維持はどうなっているんだと会議でチクチク突かれる事は確実だ。陛下の派遣した役人も襲われたので、事を大きくして国への叛意があると、話を持っていかれるかもしれない。噂ではクライムズ伯は今も火消しに忙しくしていると聞いている。


「お父様、今回私は捨て石にされたと考えてよいのでしょうか?」


 流石にそこまでは、考えらるようになったか。ティーの言葉に軽く頷く。


「お父様は、それでもボートレット派閥に残りたいのですか?」

「いや、このまま残っても更にいいように利用されるか切り捨てられるだけだ。ただ、いきなり抜けると、完全に孤立してすぐに潰されてしまうからな。派閥のパーティや会合等少しずつ参加を見送りながら、中立派になるつもりだ」


 既に派閥内ではサファガリア家がどういう立ち位置にいるか知れ渡っているだろう。それに気づかないふりをして、パーティなどに参加するつもりなのは、裏で笑われても家を残す為だ。それまでは道化でも演じてみせるさ。


 そう覚悟を決めていたのに突然ティーが突拍子も無い事を言い出した。


「お父様、リエール侯爵派閥には、入りたいとは思いませんの?」

「望んでも出来る訳がないだろう」


 クライムズ伯の所属する敵対派閥だぞ。入れる訳がない。


「私がマークティック様と結婚すればどうでしょう?」


 ふん、子供の浅知恵だな。


「周りからはクライムズ伯が今回の騒動の火消しの為に決めたと思われるだろう。一番簡単な火消しは当家が騒ぎ立てない事だからな。ただ敵対派閥の令嬢と結婚など、あちらの派閥も認めん。強引に進めれば派閥内でクライムズ家は孤立するだろう。うちは更に酷いぞ。派閥内でつま弾きにされたから、敵対派閥に尻尾を振った貴族のプライドの無い家と言っているようなものだ。完全に孤立し、徹底的に潰されるぞ」

「今ならそう思われるでしょうね」


 い、今なら?な、何だティーは何を言っている?


「お父様、一年だけ我慢して道化を演じて下さいな。そうすればリエール派閥を黙らせてみせますわ!いいえ!我がサファガリア家がリエール侯爵派閥へ加入するのを賛成させてみせますわ」


 ど、どういう事だ?ティーは何を言っているんだ?一年でリエール侯爵派閥へ入れる?そんな事出来る訳ない。娘は派閥への加入を軽く考えている。どれだけ金を使えばいいか分かっていないな。うちには金が無いんだぞ。


「それをするにあたって、二つお願いがありますわ。一つはとある人物へ我がサファガリア家紋の使用許可と、もう一つその子の実家の男爵家を我が家の寄り子とするのをお願いしたいですわ」

 

 家紋の使用は少し考えないといけないが、男爵家については、向こうが首を縦に振ればそれで終わりとなる。ただ、落ち目の我が家なら断られる事も十分考えられる。


「それでは明日お昼前にその男爵家に行くので準備をお願いします」

「はあ?!明日?我等が男爵家に行くのか?」


 落ち目だと言ってもこちらは伯爵家だぞ。何故こちらから出向かわないとならんのだ。


「そうですわ。クライムズ家も同じ時間に来るのでそのつもりで」

「はああああ?ちょっと待てティー。それは両伯爵家がその男爵家にわざわざ出向くと言う事か?そんなの聞いた事ないぞ。その男爵家は何者なんだ?」

「実際タロウを見て貰った方が納得できるでしょうし、説明は明日しますわ」


 そう言って娘は部屋を出て行ってしまった。


 ・・・あれー?あの子あんなに訳分からない事、言う子じゃなかったよね?コーバスで何があった?行って帰ってくるだけで何でこうもおかしな流れになっている?



 その頃のベイル。


「うわあああ!何でそこで5番がくるんだよ!くそがああ!」

「ふふふ、私は当てましたよ」

「大穴一点買いで当てるなんてどんだけてめえは運がいいんだよ!バードラー!」

「乗り物を作るには馬の動きをよく観察しないといけませんからね。当然体調や機嫌を見抜くなんて出来て当然です」

「くそがああ!次だ!次!これ以上は負けられねえ。何とか負けを取り返さねえと」

「その考えがもう負けていると気付かないといつまで経っても勝てませんよ」

「うるせえ!次を見てろ!大穴当てて一気に逆転してやるぜ」

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