63.森の中の襲撃
「よお、姉ちゃん。悪いがここの組合長にこの手紙渡しておいてくれねえ?」
俺はそう言うと、机に向かって書類仕事をしている受付嬢に手紙を渡す。これでこの街での俺の仕事はおしまいだ。この後は適当にこの街の名物でも食って、明日の朝、次の街に出発すればいい。
コーバスを出て9日目。最短で向かえば明日には王都の一つ前の街に到着していたんだけど、少し遠回りで王都に向かうように指示されたので、到着予定は4日後。必要経費は貰ってて立ち寄る街という街で名物食っているから、グルメ旅行みたいな感じだな。貴族の巣の領都や王都にも寄らなくていいし、貴族の絡みもねえし、思っていたより楽な依頼だ。
・・・・ただなあ。
「てめえ、見ない顔だな?コーバス?知らねえ。どこの田舎だよ。ガハハハッ」
別の領に入ってから、組合で必ず絡まれるようになったのは何でだろうな?
・・・いや、クライムズ領でも絡まれたよ。絡まれたけども俺の員証見たら、
「げえっ!コーバス?ハハハ、絡んで悪かった。まあ、この街楽しんでくれや」
「げえっ!コーバス!?しかも『3落ち』・・・すみませんっした。これで許して下さい」
こう言って、謝る奴や無条件で財布渡してくる奴しかいなかったんだよ。多分領内でコーバスの変な噂が流れてるんだろう。多分あいつらが、また何かしでかしたんだ。ほんっとうに、コーバスの組合員っての碌な奴がいねえ。
領内はそんな感じで穏やかに過ごせたんだけど、別の領に入ったらこれだよ。
「しかも見ろ!このきったねえ員証。こいつ3回も級落ちしてるぞ」
首から下げた俺の員証を乱暴に引っ張り出して、馬鹿笑いする目の前の男とその取り巻き。俺も負けじと、目の前の男の員証を乱暴に引っ掴み確認する。
「ふん、そういう、てめえは4級か。少しは俺を楽しませろよ」
そこからは流れるように殴り合いが始ま・・・殴り合い・・・じゃねえな。俺が一方的に殴ってただけだ。こいつら弱えええ。これで4級?まだコムコムのキング達の方が強えぞ。しかも弱いのはこの街だけじゃねえ。どの街の連中も弱いんだ。
別の領に入って最初の頃は、絡まれて喧嘩になっても良い運動だなって思っていたけど、こうも弱いと逆にストレスが溜まる。で、そうなってくると、弱いから財布とるのが可哀そうになったので、何もせずにその場を立ち去っていたら、後日『コーバスの辻殴り』とかおかしな噂が流れちまった。
噂じゃあ、俺はふらりと一人でやってきて、果たし状(多分組合長に渡す手紙だと思われる)を叩きつけると、組合の連中を殴って気絶させて、颯爽と去っていく頭のおかしい奴になっていた。
まあ、そんなイベントとも言えないようなイベントをこなして、王都手前の街まであと二日って所の森の中を歩いていると、いきなり襲われた。
「・・・・・・うおっ!!」
森の中から、いきなり殺気と共に飛んで来たナイフを、間一髪躱す。気配察知は苦手だけど、殺気に反射で動けるのは、故郷で何度も暗殺者に襲われた経験があるからだ。
どこで何の恨み買ったか知らねえけど、連日襲われて時期もあったからな。
そんな事を思い出しながら、地面に刺さったナイフを見れば刀身がテカっているのが見えた。
毒付きかよ。殺す気満々だな。
この国に来てから、ターゲットにされた事もされる理由も無いんだが、人気も無い、見晴らしも悪い、この場所で襲ってきたって事は人違いって事じゃねえんだろう。・・・気付けば囲まれているし。相手は見える限り、目しか出してないアサシンスタイルの奴が9人。前に3人、後ろに3人、左に3人。ご丁寧に右側の森には人が配置されていない。こっちに逃げて欲しいのかそれとも罠か。
恐らく前者。人に見られたくねえんだろう。まあ、罠があってもぶっ飛ばせばいいだけだ。それに俺も誰かに見られてると全力出しにくいしな。
誘いに乗って右の森に飛び込み走り出すと、挟み込むような動きで後をついてくる暗殺者。攻撃してこないのは俺をどこかに誘い込みたいのか?
そうしてしばらく森を走っていると、唐突に視界が開けた。森の中に出来た開けた場所だ。ここなら少しぐらい騒いでも、街道から音は聞こえねえだろう。暗殺者も、ここに着いた瞬間、俺をグルリと囲んだから、最初からここに誘い込みたかったみたいだ。
「なあ、お前ら誰かと勘違いしてねえ?俺は暗殺者に狙われる覚えはないんだけど?」
「・・・・・・・・」
ダメ元で聞いてみるが、誰も答えてくれない。まあ、分かっていた事だ。こいつら暗殺者は基本会話してくれねえんだよ、ただ、殺すだけの根暗な連中だ。
「なあ!何とか言えよ!おい!」
ちょっと怒った振りしながら、いきなり絶無名投げたけど、それも余裕で躱される。やっぱり油断しちゃあくれねえか。
それが合図になったのか暗殺者が俺に襲い掛かってくる。手始めに全員で投げナイフ(恐らく毒付き)を時間差で投げて来やがった。しかもきれいに高さが別れているのでしゃがんでもジャンプしても食らっちまう。かなり連携とれた相手だってのはそれだけで分かった。けどなあ、前に突っ込めば、気にすればいいのは前後2本だ!
投げられた瞬間、俺は全力で前に駆け出し、前から飛んで来たナイフをこん棒で弾いて、後ろから迫るナイフは背中のリュックで受ける。そんで目の前の奴をこん棒で殴りつける。
が、
甲高い音と共に俺のこん棒は、目の前の暗殺者の剣に軽く受け止められた。
チッ!こいつ強え。
すぐにその場から横に飛び退くと、さっきまで俺がいた場所にナイフが突き刺さり、そこに上から剣を振り下ろした暗殺者が降ってきた。
こいつだけじゃねえ、他の連中もマジで強いな。これ、素のままじゃあ殺されるな。
「ああああ、ったく!面倒くせえなああ!」
そうボヤキながら、俺は手に持つこん棒と腰の大鉈を投げ捨てる。その俺の不可解な行動に暗殺者共の動きが止まった。
「一応負け惜しみ言わせてもらうぜ。俺が本気出さないといけないぐらいだから、てめえらは強えよ。ただ、まあ、相手が悪かったな。何の恨みか知らねえが、俺を殺しに来たんだ!殺されても文句は言うなよ」
「フッ」
そう言って全身に魔力を巡らせる俺に、初めて暗殺者が反応を見せた。馬鹿にしたように鼻で笑ったのは、俺が武器を捨てて負け惜しみ言ったとでも思ったか?
バーカ!俺が武器を捨てたのは、俺の本気に耐えられる武器が無いからだよ!
次の瞬間、後ろから俺を刺し殺そうとした一人の暗殺者は、パァーンと言う音と共に一瞬で肉片に変わった。
「・・・・・・はっ?」
思わず驚きの声を漏らす暗殺者。何が起こったか良く分かんねえだろ?今のは殺気に反応した俺の裏拳でこうなったんだ。固い竜種の体でさえ俺が全力で殴れば弾け飛ぶんだ、人ならこんなもんだ。
でも流石暗殺者だ。動揺したのは一瞬だけ。すぐに左右から俺に襲い掛かってくる。
が、そいつらも突っ立ったままの俺の手打ちのパンチで肉片に変える。残りは6匹か。
「チッ!仲間がいるぞ!」
俺のパンチが見えなかったのか、目の前の暗殺者が見当外れな注意をする。ただ、周りに注意したって事は・・・。
ふーん。俺の目の前の奴がリーダーか。なら、こいつから潰しておくか。
って事で一瞬で暗殺者のリーダーの前まで移動して殴りつける。当然俺の動きに反応出来る訳もなく弾け飛んで肉片に変わる。そしてそのリーダーが殺された事で目に見えて動揺する暗殺者達。そんな中、一人の暗殺者に詰め寄り気になる事を言った奴がいた。
「な、何だこれは!聞いてないぞ!」
「・・・え・・い、いや」
うん?仲間に詰め寄られている暗殺者は、俺の事知ってんのか?
聞いてみたいけど、経験上暗殺者ってのは、どんだけ拷問しても口を割る事は無いからなあ。
殺した後、顔だけ確認ぐらいにしておくか。
そう決めると、すぐに2匹に距離を詰めてから、腹に腕を突き刺して二枚抜き。
それを見た残り3匹が慌てて逃げ出すが、逃がす訳がねえ。
背を見せて逃げる暗殺者の一匹に魔法で作った石礫を投げておいて、もう一匹は一瞬で距離を詰め、腹に蹴りを入れて上下に分断する。その別れた上半身を、逃げるもう一匹にブチ当てて肉片に変える。この時既に石礫を当てられた一匹は、体の内部から多数の土の棘に貫かれて絶命しているので、これで終わりだ。
残ったのは腹を貫かれた二匹の死体と下半身の一部、体から土の棘が生えた死体だけ。他は全部ミンチになっている・・・人相手に本気出して、五体満足の死体が3.5匹も残っているから、俺も大分上手く手加減が出来るようになったと思う。
取り敢えず気になっていた暗殺者のお顔を拝見させてもらいましょうか。
で、のこのこ近づくと、体が爆散した暗殺者もいたので、警戒してこん棒で体をつついてみるが特に反応は無い。それならと、近づいて顔を隠していた布を外し、お顔を拝見。
・・・・・・・・
誰だっけ?こいつ?どっかで見た気がすんだよなあ。黒髪前髪パッツンで目が隠れるぐらいの長さ。胸も身長も小さくも大きくもなく、あんまり特徴がねえ女。
「うーん。思い出せねえ。それとも俺の勘違いか?・・・あんまり考えても時間が無くなるから移動しながら考えるか」
そう決めた俺は立ちあがり、地面を足でトンと叩くと、俺を中心に森の開けた辺り一帯の地面が大きく波打つ。その波は大きくうねりながら、暗殺者達の死体や肉片を飲み込んでいき、波が収まった後には、戦闘の痕跡や死体等、何もかもが無くなっていた。
「よし!証拠隠滅終わり!」
そっからは特に襲われる事も無く、順調に街道を進み、予定通り、王都の一つ前の街メーバシュペーって街に到着した。こっからはカルガー達が来るのを待って、情報交換って流れだ。
■
「順調だな」
「順調に行って満足ですわ」
「あのー。マークティック様もティガレット様も何でタロウに乗るんっすか?ドルみたいに馬車に入っていて下さいよ」
この護衛が始まって何回同じ注意したか分からないが、カルガーは諦めずに二人にお願いをする。
「フフフ。ずっと馬車だと息が詰まるの」
「馬車だと周りの景色がよく見えないからね」
そう言って目の前で楽しそうに笑う二人を見て、カルガーが大きなため息を吐く。
それは唯の言い訳っすよね?どう見ても二人惹かれ合っているっすよね。年頃の男女二人っきりで馬車はマズいのは分かるっすけど、タロウを利用するのやめてくれないっすか。奇襲対策は2重、3重でやっているけど、万が一があるっすからねえ。
溜息を吐きながら、そんな事を思い浮かぶカルガー。
そしてもう一人の護衛対象で、カルガーの元婚約者のドルモルと言えば、一人馬車に籠って各家の令嬢の名前と、教えて貰った情報を紙に書いて一人、デュフデュフ言っている。騎士やアーリット達も気味悪がっているが、大人しく馬車に籠ってくれている分、まだマシだ。
そして順調に進む一行は、最後の襲撃予想地点手前では、二人には馬車に入ってもらってから、最大級の警戒をしながら足を進める。
今から通るこの森を抜けたら、王都まで道は開けているので、全員ここでの襲撃があると考え、必然口数は少なくなる。そんな中、動きを見せたのはタロウだった。
「タロウ?」
不安そうに声をかけるカルガーに反応せず、急に鼻をスンスンし出し、何かの匂いを捕えた動きを見せるタロウ。
「全員警戒!」
先頭を進むタロウの様子がおかしい事に気付いた護衛のリーダーが、全体に注意を促す。
「ザリア、何か匂うかい?」
「・・・嗅覚はタロウの方が上だから、私はまだ何も・・・」
「俺達は警戒するだけだぜ」
アーリット達がそんな話をしている最中にも、タロウは匂いを嗅ぎながら、どんどん先を進んでいく。そしてとある場所で森の中に入っていこうとするので、慌ててカルガーが止める。
「ちょ!駄目っすよ、タロウ。そっちに何があるっすか?」
普段ならそれで言う事を聞くタロウだったが、今日は違った。カルガーが止めるのも聞かずに森に入っていく。
「みんな!私は気にせず先に行ってるっす!ザリア!先頭お願い!エフィル逆を警戒っす!」
そう言い残すと、タロウの背中に乗ったカルガーは森の中に消えていった。
「先頭お願いって・・・タロウの代わり出来る自信ないなあ」
「そちらに注意を向けて、背後から・・・なかなか卑怯ですね」
「タロウがカルガーの言う事聞かないなんて珍しいわね」
■
「タロウ、本当にどうしたっすか?」
言う事を聞かずに森の中を進むタロウを、カルガーは戸惑いながら声をかける。普段であればカルガーの言う事に必ず従うタロウ。だが今は全く言う事を聞かない。
ただ、カルガーには思い当たる事が一つだけあった。カルガーがどれだけ世話をしたり遊んでも、タロウ達の中でカルガーよりも上に位置している人物。その人物が絡んだ時だけ、タロウ達はカルガーの言う事を聞かなくなる。
「ベイルさんっすか?・・・私の方が遊んだり世話してるってのに、ずるいっすよねえ。あの人。・・・でも何で森の中に?・・・ま、まさか・・・あの人が」
思わず最悪を想像してしまうカルガーだったが、
「うん?ここっすか?タロウ?何も無いっすよ?」
タロウが立ち止まった所は、森の中の開けた場所、その真ん中あたりだった。その周辺の匂いを懸命に嗅いでいる。見渡してみてもベイルの死体が転がっているでも、何か装備品が転がっている訳でもない。戦闘があった痕跡もない、特に何も無いただの開けた場所。
「うーん・・・あっ!」
タロウが言う事を聞かずに、こんな所まで来たという事は、ベイルは確実にここに来たんだろう。ただ何故こんな所に立ち寄ったのかが分からず、悩むカルガーだったが、突然一つの可能性が閃き、思わず顔を赤くする。そして、地面を掘り返しているタロウを慌てて止める。
「タロウ!やめるっす!それ以上は駄目っす!とんでもない物が出てくるっす!!」
それでも止まらないタロウに、カルガーはおやつで釣って、ようやく止める事が出来た。そしておやつを食べて満足したのか、興味が無くなったのか、街道に向かって歩き出すタロウ。
そんなタロウの背中に乗って一呼吸吐いたカルガーは、ふと、後ろの開けた場所を最後にもう一度振り返り、首を傾げる。
普通もっと茂みの中とかっすよね?街道から離れていると言っても、こんな開けた場所の真ん中でするってベイルさんやっぱりおかしいっすよ・・・そもそもこの場所、結構街道から離れているけど、ベイルさんってそういうの気にする人だったんすね。一目気にせずどこでもやる人だと思ってたっすけど、流石にそれは失礼過ぎたみたいっす。




