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61.調停者ジーク

 これが、俺とモレリア&エルメトラ師弟が争い、コーバスが半壊したと後世で語られる「コーバスネバネバ事件」の真相だ。その中では争いの原因については詳しく言及されていない。まあ原因はくだらねえから、わざとぼかしたのかもしれない。それに街が半壊ってのも間違いだ。俺達は建物を何一つ壊しちゃいねえ。実際は街全体がネチャネチャしただけだ。これはこの後の出来事が、いつの間にか混同してしまったんだろう。


 そして一番話が盛られてんのは組合長の手柄だ。盛られた話の中では、争う俺達の間に立って、その怒りを鎮め仲を取り持った『伝説の組合長』とか『調停者』とか聖人扱いされてんだよ。


 実際の所は、暴力で全て解決しただけだ。




「おいおい、この扱い酷くねえか?囚人かよ」


 目が覚めたら、俺は手と足に拘束具を嵌められ、そこから伸びる鎖は柱に繋がれていた。

色々酷い扱い受けた事はあるが、ここまで酷いのは初めてだ。取り敢えず俺をこんな風にしただろう組合長に、文句を言いたいが姿が見えない。


「おっ!ようやく起きたね。全くベイルのせいで、僕までとんだとばっちりだよ」


 横を見ると、モレリアが俺と同じように拘束されて口を尖らせていた。そして、その隣には拘束されてないけど、見ただけで落ち込んでいるのが分かる、暗い顔したエルメトラ神が座っていた。


 モレリアの奴は何で拘束されてんだ?良く分かんねえけど、人のせいにすんな。どうせこうなった原因は、いつもみたいに自分自身だろ。


 まあ、いいや。モレリアなんて放っておいて、この状況をどうにかしねえとな。 


「カナ、組合長どこ行った?・・・いや、呼ばなくてもいいから、俺を自由にしてくれねえ?」


 たまたま書類を抱えて近くを通りかかったカナに、助けを求めるが、呆れた顔をされちまった。


「ベイルさん達は組合長が対応するから、ほっとけって言われてます」


 それだけ言うとカナは小走りでどっか行っちまった。俺は組合長からは逃げられねえみたいだ。ああーくそ!また説教かよ!


 横でモレリアがブツブツ文句言ってたが、それを聞き流しながらしばらく待つと、ようやく組合長が姿を見せた。後ろには貴族連中とアーリット達が続く。


 まーた、貴族連中と打ち合わせかよ。何をそんなに打ち合わせる事があるか知らねえが、さっさと俺を解放してくれねえかな。


 何てことを言いたいが、組合長不機嫌オーラ出しているから言ったら、殴られるな。ここは大人の対応だ。言いたい事をグッっと我慢する。


 でも意味なかった。こっちにズンズン近づいてきた組合長は、何も言わずに俺の頭にゲンコツを落としやがった。


「いってええええ!」

「この忙しい時に、くだらねえ仕事増やすんじゃねえ!次逃げようとしたら、牢にぶちこむぞ!」


 痛みで悶絶する俺に厳しい言葉を吐き捨てる組合長。それを見て周りの野次馬共が大喜びしやがる。


「人が説教食らっている姿を肴にエールを飲むなんて、こいつら性格悪すぎだろ」

「君、人の事言えないでしょ。他の人が怒られている時、一番大喜びしてるじゃん」


 隣のモレリアが何か言っているが、多分勘違いだ。俺はそんな事していない・・・・・はず。


「とにかくだ!ベイル!お前何でいきなり逃げようとした!」


 イライラした様子の組合長が俺に詰め寄ってきた。そういう事するから若い受付嬢に恐れられるんですよ。慣れてる俺でもここまで距離詰められたら、食われそうな気がして怖いもん。


「えーっと。まあ、アレっすね」


 そう言ってチラリと貴族連中に視線を送る。貴族連中も、さっさとどっかに行けばいいのに、何故か俺が怒られているのを見て、楽しそうに笑っている。やっぱり貴族ってのは、どいつもこいつも性格が悪いな。


 ・・・・よく見れば小デブ貴族は違うな、あいつはまだ夢の国から帰ってきてねえ。虚空を見つめてグフグフ言ってる。



俺の視線の意味を察してくれたのか、ヤレヤレって感じで首を振る組合長。


「ったく!しょうがねえなあ。お前もうちょっとその辺どうにかしろ!」


 ガキの頃から貴族は碌なもんじゃねえって体に刻まれたから、貴族嫌いを直すのは無理だ。強制で全員参加でも、特例で俺だけ関わらせないでくれると、喜んで宿に引きこもってるんだけどな。


 目の前に貴族がいるから、今は言えねえけど、今度お願いしてみるか。


「そっちの話は終わったかい?だったら僕の方から言わせてもらうけど、こんな大量生産で安物の鋳造品の拘束具なんて、コーバスの程度が知れるから使わない方がいいよ。トティとまでは言わないけど、せめて鍛造品を使いなよ」




 ・・・・・この馬鹿は何言ってんだ?あ!組合長が無言でモレリアにゲンコツ落とした。


「コーバスの程度が知れるとはどういう事だ?」


 ぎゃああ!今のモレリアの言葉が聞こえていたのか、イケメン貴族が絡んできやがった。俺はすぐさま平伏してやり過ごす。全然自慢できねえけど、この辺は体が覚えてくれてる。

 そうなると、モレリアは頭を抑えてゴロゴロしてるから、答えなきゃならねえのは組合長しかいねえ。珍しく組合長が慌てている。


「マークティック様、こいつは拘束具に並々ならぬ拘りを持っている奴なので、どうか気になさらずに」

「む、そうか?でも、コーバスの沽券に関わるのではないか?」


 関わんねえよ!拘束具の質で街の程度を判断するってどんなんだよ。


「拘束具で低く見られる事は無いかと思いますが?もしかして貴族社会では拘束具の知識も知っておかないといけないのですか?」

「い、いや、そのような事はない。そ、そうか、よく考えればジークの言う通りだな」


 すげえ!組合長。軽く貴族を退けやがった。あっ!貴族が背中見せたら、もう一発モレリアにゲンコツ落とした。


 そんでそのまま元の位置まで戻ればいいのに、イケメン貴族は何故か俺の前を通り過ぎた所で、足を止めやがった。おいおい、勘弁してくれよ。絡んでくんなよー。


「この者は何故こんなおかしな格好をしているのだ?」


 ・・・・あれ?この国じゃ平民は、貴族に話しかけられたら平伏しなくていいの?


「え・・・え・・あ!そうだ!こいつ腹をよく壊すんですよ。そうだよなベイル?」


 そう言いながら俺の背中を擦ってくる組合長。


 おーし、ナイスフォローだ。組合長。このナイスパス俺がバッチシ決めてやんよ!って事で腹痛の演技だ!


「は、腹が・・・昨日食った、ゴブリンが・・・」

「ええええ!ゴ、ゴブリンって食べれるのか?」


 呻くように言った俺の言葉に驚くイケメン貴族。


 しまった!何でゴブにしたんだ。いつもの豚か牛か鳥にしておけばよかった。いて、いて、いてええええええ。背中に置かれた組合長の手に力が入り俺を押し潰そうとしてくる。


「い、いえ、マークティック様、こいつは悪食なので」

「あ、悪食ならゴブリンは食べるのか・・・平民は凄いな」


 お!ナチュラル貴族目線。貴族ならゴブリンは絶対食べねえって言いたいのか?スラムの連中でも食わねえよ!あれは火を通しても、吐くほどマズいからな。


イケメン貴族は「平民ってのは凄いなあ」とか言いながら、嬢ちゃん貴族の所に戻っていった。


「お前ら!今度から貴族の前で余計な事を言うな!分かったな!」


 貴族の興味が俺達から無くなった途端に、組合長からアイアンクロ―される俺とモレリア。そうして貴族に聞こえないように、小声で凄むとかいう器用な事をする。ただ、俺もモレリアも組合長に何度も怒られてるからな、これ結構マジの怒り方って知ってんだよ。二人して赤べこみたいに黙って首を上下に振って何とか許してもらえた。


「取り敢えずモレリアとエルメトラは街のヌメヌメを水魔法で洗い流してこい!それで今回の件は許してやる。ただし、エルメトラ!今回はモレリアからの指示だって事で俺のゲンコツは許してやるが、次からは容赦しねえ。次、モレリアからの指示に従うにしても、よく考えて動け」

「・・・・・・はい、すみませんでした」


 組合長に怒られて、更に肩を落とすエルメトラ神。ここは俺が明るく声をかけて好感度アップのイベントだな。


「エルメトラ神。ウチの組合長は、ちょっと短気なだけだから気にすんな。大体、こんな事ぐらい日常茶飯事だってのに、細かい事をグチグチとうるせえんだよ。まあ、慣れりゃあ、鳥の糞落とされたぐらいにしか思わなくなるから安心しな!」


 ちょっと拘束具ついて格好悪いけど、親指立てて、自分でも中々爽やかな感じで言えたと思う。いずれクイトじゃなくて俺を選んでくれるように、今からちょいちょいポイント稼ぎしておくぜ。


 ・・・・・ってあれ?エルメトラ神の顔色が更に悪くなったのは何でだ。


 「て、てめえ・・・・久々だ・・・・俺をここまでキレさせた馬鹿は、本当に久しぶりだ」


 ぎゃあああ。組合長がいるの一瞬で記憶から消し去っていたああ!この怒り具合はマズい。デバフのリリーは・・・いねえ!どこ行った?けどなあ、俺にはまだ秘策がある!ここから回避はまだ可能だ!


「・・・・ってモレリアが言ってたぜ」

「おおーい!僕を巻き込まないでよ!」


 うるせえ!前に似たような事言ってただろ!てめえも同罪だ!


「モレリアが言ったかどうかは問題じゃねえ。てめえが俺をキレさせたってのが問題なんだ」


 ・・・・あっ、これ駄目な奴じゃん。


「おい!お前ら!俺は今からこの馬鹿と訓練場で運動してくる!貴族様の護衛は任せたぞ!もしサボった奴がいたら、この馬鹿と同じ目に遭わせるからな!」

「「「「ういーっす」」」

 

 今まで俺達の説教を楽しんで見ていた奴らも、組合長の言葉に慌てて立ち上がり、手をあげて返事する。


「このならず者達をここまで統制するなんて、組合長流石っすねえ」


 作戦変更。組合長ヨイショ作戦だ。


「そうだろう?ここまで俺も結構頑張ったんだぜ。ただなあ、あともうちょっと何だよ。あと4人、躾しないといけねえのが残ってんだ。またこいつらの躾が難しくてな。今日はちょっとやり過ぎちまうかもしれねえけど、まあ構わねえよな?」

「え?いや、ちょっと・・・飴と鞭。そう!飴と鞭ですよ。組合長、厳しくばっかりしても言う事聞きませんよ。たまには可愛がらないと!」

「ああ、それなら大丈夫だ、今日はお前と俺の手首を鎖で繋いで、仲良く運動だからな。なーに、いつもみたいに一撃で沈めねえよ。出来るだけ可愛がらねえとな」

「きゃああああ!誰かあああああ!リリー!デバフのリリー連れてきてー!殺される!じゃないと俺殺されるうううう!」

 


「組合長。そろそろいいのでは?」

「・・・リリーか。ふん、まあいい運動にはなった。それにしてもこいつ思っていた以上に打たれ強いな。まだ立ち上がる根性もある。これで頭がもうちょい何とかなれば5級も狙えるだろうな」


 リリーから渡されたタオルで、汗を拭きながら訓練場を出ていく組合長を見て、俺は勝利を確信した。

 

 ふうー。耐えた、耐え抜いたぞ俺は!ったく、陰湿なんだよあのオーガはよ!馬鹿力と耐久だけじゃねえ、喧嘩の経験も明らか俺より上だってのに、俺が気を失わねえギリギリでボコボコにしてきやがってよ!


「はあ。これだけやられて、まだそこまで元気があるんですか?いい加減負けを認めたらどうです?」


 組合長が消えたので、出ていった扉に向かって、中指立てて煽りの舞を舞っている俺に、リリーが呆れている。


「俺はまだこうして立ち上がってるから負けてねえよ!逆に敵前逃亡した、あのオーガの負けだ」

「はあー。本当に何で組合員ってのはそんなに負けず嫌いなんですか?」


 そりゃあ、組合員は基本、負け=死だからな。負けず嫌いにもなるってもんよ。気を失ったら流石に潔く負けを認めるけどな。


「組合員のそういうのには、もう慣れましたけどね。取り敢えず、いいからこっちに来て座って下さい」

 

 訓練場に置かれた椅子に座るリリーが目の前の空いた椅子をポンポン叩くので、大人しく従うと、まさかのリリーが手当てを始めた!噂じゃあ、リリーが結婚してからは、こういう事はしなくなったと聞いた。実際、俺が組合員になってからリリーが治療している姿は見た事も聞いた事もねえ。


 実は書類仕事は有能だけど、治療はクッソ下手くそなんじゃねえか、なんて噂も流れていたリリーだったけど、その手際は見事だった。俺の知る限り職員で一番と思っているカナより手際がいい。


「当り前じゃないですか。私がカナに教えたんですよ?色々あって緊急時以外私がするのは禁止されましたけどね」


 そんな疑問が浮かんで聞いてみたら、手を止める事無く答えるリリー。頭に包帯を巻く為に俺の頭に両手を回すんだが、こりゃあヤベえ。禁止された理由分かる!目の前にはいい感じの大きさの二つの膨らみ、そしてたまに当たるリリーの髪から、すげえ良い匂いがする。こんなん付き合いの長い俺でさえドキドキしちまう。これ、リリーが未婚でフリーの時はヤバかっただろう。もしかしてリリーって伝説のパーティークラッシャー新人とかじゃねえだろうな?


 ただ、残念な事に、あっという間に俺の治療が終わった。もったいねえ。


 そんなアホな事考えている内に、完成したのがミイラ男のベイル様だ!マジで見えている部分は目だけで他は全て包帯巻かれている。


「はい、これで終わりです。ポーション使いましたけど、腫れがまだ引いてないので、引くまで安静にしておいて下さい」


 それだけ言い残してリリーは訓練場から出て行ってしまった。いやあ、良い経験したぜ。こういうご褒美あるなら何度でも・・・・いや、やっぱり陰湿オーガの扱きは二度と受けたくねえな。

理由を教えて下さった方、ありがとうございます。



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