60.コーバスネバネバ事件
「みんな、お騒がせして申し訳ないっす」
・・・・・
貴族共が組合長室に引っ込んだ後、カルガーがこっちに戻って来て頭を下げる。カルガーはいつも通りだけど、周りの連中はどう扱えばいいか分かってないみたいだ。誰も返事しねえ。だけど、こういう微妙な空気で切り込んでいくのが、マイペースモレリアだ!
「カルガー様とでも呼べばいいのかい?」
こいつにはもうちょい空気読むって事を覚えさせろ、シリトラ。
「やめて下さいよ、モレリアさん。いつもと同じで問題ないっすよ。っていうかみんなまともな敬語使えないっすよね」
「うるせえな!4級になったら覚えるからいいんだよ!」
「俺はベイルと同じで貴族依頼受けるつもりねえからな」
「あれだろ?うっす、うっす言っとけばいいんだろ?」
「それよりもお前が貴族とかってマジかよ」
「俺、こいつにどつかれたんだけど・・・」
みんなモレリアとのやり取りで、いつもの調子に戻り、カルガーに群がり好き勝手言っている。そうして聞こえてきた話から、カルガーのあの兵士口調は、実家で雇っている奴から教えてもらったそうだ。貴族っぽさを失くすのに、あの話し方は手っ取り早かったらしい。
そしてみんなが一番気になるカルガーが貴族だって話だ。しかもこいつ男爵家と言っても地方貴族じゃなくて王国貴族だから、その権力は絶大だ。
「いえ、家を出た時点で自分は貴族じゃないっす。その辺は王国法で明確に定義されているっすから間違いないっす。だから不敬とか絶対言わないっす。もし不敬罪が適用できるなら、ベイルさんとゲレロさんは10回は首が飛んでるっす」
ゲレロの馬鹿なら仕方ないにしても、俺が10回は・・・冤罪も含まれてねえ?多分悲しいすれ違いが生まれてるな。今度カルガーとしっかり話をしておこう。将来貴族に戻ったカルガーが、過去の勘違いを思い出して俺を処刑しないようにな。
「アーリット達にも礼を言っておかねえとな」
「そうっすね。でも何で助けてくれたんでしょう?」
そのアーリット達は、貴族と一緒に組合長室に入っていったから後で聞くしかないな。
「そう言えば、令嬢は分かるが、何でここの領主の息子まで最後、あんな事言ったんだ?」
誰かがカルガーに尋ねる。
ああ、嬢ちゃん貴族と同じで社交界に3回誘うってやつか。
「うーん。恐らくっすけど、自分の領で襲われた二人の心象を、少しでもよくしようと考えたんじゃないっすかね?一人は同格の貴族、もう一人は王命で同行した貴族っすからね。これはやりようによっては、クライムズ家にかなりのダメージが入るっすよ。他にもあるかもしれないっすけど、自分が思い浮かぶのはこれぐらいっす」
よく分かんねえ、あんまり知りたくもねえし、もういいや。カルガーの説明を適当に聞き流して、お開き・・・・出来ねえええ!今一応護衛任務中だった。・・・・いや、俺の交代無しだったから、帰って寝ても文句は言われねえだろ。って事で、タロウを連れて帰るって言って抜け出して、ゴドリックの家に泊めて貰った。コーバスだと嫌がらせのように俺の宿を探して起こされそうだったからな。
翌日、組合に行くと、流れるように組合長から怒られた。しかも貴族達のいる前でだ。あんまり目立ちたくねえってのに、組合長は俺が嫌がる事ばっかりしてきやがる。
それを見る嬢ちゃんとイケメン貴族が、喜劇でも見ているかのように仲良く楽しそうに笑っている。
見せもんじゃねえぞ!
小デブ貴族は、昨日と、うってかわって今日は上機嫌で、ペンが転がるだけでも大笑いしている。ただ、他二人と違って周りに誰も護衛がなく、一人でいきなり笑い出すから頭のおかしい奴にしか見えない。
そんな狂った組合の空気を一変させたのは、これまた狂った女の代表ティッチ先生とその愉快な仲間達だ。
もうね、入ってきただけで、ティッチ達を知らない連中はみんな黙ったよ。だって持ってきた荷車に血塗れの男が倒れてんだもん。
「久しぶりにいい運動になった。組合長感謝するぞ」
そんな空気だけどティッチ達は良い笑顔だ。日頃の鬱憤を晴らしてきたんだろう。まあ、俺等も見慣れた光景だから何も思わないけどな。けど、それを知らない貴族達と新入りが固まったまま動かない。
それを見ない振りして組合長がティッチ達に近付く。
「おお、お疲れ。腕は全く鈍ってねえみてえだな。やっぱり組合員に戻ってこねえか?」
「組合長、悪いが私達は兵士の方が性に合っています。まあ、たまにならこういう事があってもいいですけどね」
そう言って二人和やかな空気出しているけど、隣に血塗れの男いるんだよなあ。
「それで、何が分かった?こいつがこの程度で済んでいるって事は口を割ったんだろ?」
和やかな空気から一変。組合長が真面目な顔で血塗れの男を指差しながら、ティッチに尋ねる。
「ええ、それは本人に聞いた方が早いでしょう。おい!起きろ!もう一度聞かせろ」
ティッチはそう言うと、荷車を蹴って、血塗れの男に命令する。
「ああ、あああああ。頼む。もう、殺してくれ」
ああ、こいつモレリアの心配した通り、心折れてんな。それも仕方ねえか、片目くりぬかれて、耳も片っぽ削ぎ落されて、両足首から先はぺちゃんこになっているし、右腕も肘から先がねえもんな。
見た事ねえ新入り共がこれを見たらドン引きするのは仕方ない。俺も最初は同じようにドン引きしたからな。でも今では慣れた俺等ベテランは、もっと酷い格好になった野盗を何度も目にしているから、これぐらいじゃもう驚いたりしねえ。
「んん?聞こえていないのか?質問にはちゃんと答えろ」
「あぎゃあああああああ!分かった!分かりました!」
男の絶叫が組合内に響く。と同時に焦げた匂いが充満する。俺の所からじゃ見えねえけど、ティッチの奴、あの男の耳の辺りを火魔法で軽く炙ってんだろうな。
「黒い男です!目しか出してないフードを被った、見た事無い男が馬車を襲えと依頼してきました。報酬は前金で500万、成功すれば追加で1000万と言われました!」
たっか!報酬たっか!1500万の仕事かよ!そりゃあ、報酬に目がくらんで、貴族だろうが関係無く襲うな。みんなもそれを聞いて驚いている。
「報酬高え!1500万の依頼って見た事ねえぞ」
「昔組合長が倒した『二刀』が1000万ぐらいだったからそれ以上かよ」
「って事は『三刀』で同じぐらいって事か?」
「馬鹿か!刀の数じゃねえんだよ!そもそも3本目の刀どうやって持つんだよ!」
「そりゃあ、ケツに挟んでおけば背後の敵への牽制になるだろ」
「ならねえよ!・・・・いや、待て、そんなヤベえ奴いたら、俺は逃げるな」
「おいおい、戦う前から逃げんのか?情けねえ野郎だ!」
「ああ!?てめえは、そんな頭のヤバそうなオーガ目の前にして戦えんのか?」
「余裕、余裕!逆に刀奪ってケツにブッ刺してやんよ!」
「口だけなら誰でも言えるっての。普通のオーガでさえ倒せねえ奴がよく言うぜ」
「ああ!?てめえ、喧嘩売ってんのか!」
・・・・
おいおい、まーた喧嘩始まっちまったよ。そもそも、こいつら沸点低すぎんだよ。俺みたいに、もうちょっと広い心持って生きてこうぜ。
よく考えてみりゃあ、こいつら、貴族の前で喧嘩始めてるけど大丈夫か?間違って貴族殴ったりしないでくれよ。
・・・・あ、組合長が動いた。これなら一安心だ。
「お前ら!うるせえぞ!少しは静かにしてろ!」
喧嘩を始めた4人は、近づいてきた組合長に殴られて、強制的に静かにさせられた。いえーい。暴力万歳。
あれ、よく見りゃあ、組合長何か渋い顔してんな。うん?貴族連中もか。さっきまで危ない人だった小デブ貴族までしかめっ面してんぞ?組合員にも何人か困った顔してる奴らがいるな。
「組合長どうした?怖い顔して?新人受付嬢でも泣かせたいのか?」
空気読まずにアホな事言ったペコーにゲンコツ落とした後、組合長は口を開いた。
「お前ら、今こいつが言った意味分かってねえのか?」
そう言って組合長は、血塗れの男を指差す。
意味?意味は分かるぜ、1500万の美味しい仕事だろ?違うのか?
「分かってねえのが多そうだな。問題は依頼されたって事だ!今回貴族様が襲われたのは偶然じゃねえ、依頼主がいるって事だよ。明らか貴族に敵対行動とってんだ、これがどういう意味かもう分かっただろう?」
「え?どういう事?」
分かってねえのはトラスの馬鹿だけか、こいつは無視でいいや。取り敢えず組合長の言いたい事は分かった。この件は、ティッチ達が野盗倒して『おしまい』ってならねえって事だ。これ絶対また襲撃あるって事だろ。しかも貴族を襲う依頼なんて、依頼主は貴族しかいねえじゃねえか!これって貴族同士の争いに俺達巻き込まれたって事か。面倒くせええええ。
・・・・
・・・・
よし、これ以上巻き込まれる前に、逃げよう。それがいい。そう言えば海の幸でも食おうとか考えてたな。そっち側に行ってしばらくのんびりしよう。
そうと決めた俺は、逃げるタイミングを図る。周りを見れば、さっきと違い何故かイケメン貴族から距離をとっている嬢ちゃんと小デブ貴族。そしてそれを庇うようにゲレロとモレリア達が立っている。
「な、何だ?わ、私ではないぞ。この件にクライムズ家は一切関わっていない。本当だ!信じてくれ!」
イケメン貴族が弁明しているが、俺でも一番怪しいのがイケメン貴族の家だって分かる。
「私は護衛もつけずに、あのレッドウルフに乗って単身ここまで来た。クライムズ家の騎士団には領内の警戒を命じている。もし私が犯人だったら、既にティガレット嬢とドルモルの命は無いはずだ。ここは我が領内、どうとでも出来るが、今も何もしていない事で私の身の潔白は証明できないだろうか?」
イケメン貴族の弁明が正しいのかどうか俺には分かんねえ。勝手にやっておいてくれ。ただ、みんなそっちに注目している今がチャンスだ。ここでコソッと抜け出そうとすると、目ざとい連中に気付かれて終わりだから、ここは堂々と行こう。
俺はクルリと背を向けて扉に向かって、いつもと何も変わらない足取りで歩く。
「あ?ベイル、どこ行くんだ?」
やっぱり気付かれるよな。
目ざとく見つけて来たのはハイーシャか。だけど、俺は慌てる事なく、面倒くさそうに答える。
「この状況だ。話がまとまるまで時間かかるだろ。俺は方針が決まった頃にまた来る」
「おう、分かった」
よし、ハイーシャ周りの数人も会話を聞いていたが、俺の返事を聞いて、みんな興味を失くし、すぐにイケメン貴族達の方に向き直る。
イエーイ!作戦成功!後はこのまま逃げれば終わりだ。まあ、護衛依頼の報酬は貰えねえだろうが、貴族のゴタゴタに巻き込まれるよりはマシだ。
そして後、数歩で扉に手が届くって距離で、手を握られる感触があった。見ればニコニコと笑っているエフィルが俺の手を握っていた。
・・・・・
取り敢えず無言で手を振り払おうとするが、エフィルの奴、頑なに手を離そうとしないんだけど・・・・何だこいつ?俺に惚れたのか?
「お前にはアーリットがいるだろ。こういう事は俺よりもアーリットにしてやれ」
先輩からの優しいアドバイスだ。日頃からこういうスキンシップが大事だぞ。
「大丈夫です。彼とは毎晩仲良くしてます」
そういう事は聞いてねえよ。・・・って!毎晩!?こいつら依頼中も外でヤッてんの?
・・・・
いや、今はそんな事どうでもいい。取り敢えずここから逃げねえと。エフィルは無視して動こうとすると、ポツリと言われた。
「今、みんな強制護衛依頼中ですよね?」
「・・・・・・」
・・・・っとマズいぞ。これは。
「逃げるんですか!またあの時みたいに!私達を見捨てるんですか!」
「ちょ!声がでけえ」
慌ててエフィルの口を押さえるが、時、既に遅し。みんなこっちをがっつり見てんよ。キャー!一つ目オーガがこっち来たー!
「おい!ベイル!お前まさか依頼すっぽかそうなんて考えてねえだろうな?」
「ハハハハハ、そんな事ないですよ。受けた依頼は確実にこなす。コーバス一真面目な組合員の鑑みたいな男ですよ!俺は!」
「嘘です!ベイル先生は依頼放り出して、何か卑怯な事しようとしてました!」
卑怯な事って何だよ?エフィルはちょっと黙っててくれねえかな。そしてエフィルが組合長に駆け寄った今がチャンスだ。組合長はバケモンだけど、足が遅えって欠点は知っているぜ。組合長達に背を向けて駆け出し、勢いよく組合から飛び出す。
チッ!外にトレオン達がいるの忘れてたぜ。
既に中の騒ぎが聞こえていたのか、すぐにトレオン含む4人に囲まれた。ここで狙うは当然弱点を熟知しているトレオンだ。俺はジェリーを指で弾いてトレオンに駆け出す。
「裏だ!」
「お?お?表?」
ギャンブラートレオンの注意が、ジェリーに向いた隙をついて、脇を抜ける。
「チッ!しまった!俺とした事が!ザリア!止めろ!」
「はい!トレオンさん!」
今度はトレオンの指示でザリアが俺の目の前に立ちはだかる。ザリアの奴、めっちゃ動き早くねえ?今どこから来たのか見えなかった。いきなり目の前に現れやがった。
こいつはちょっと気合いれなきゃな。
そう思って気合を入れてザリアと対峙したが、どうも様子がヘンだ。ザリアの奴、目がめっちゃ泳いでいる。・・・こいつもしかしてまだ、俺にビビってんのか?それなら・・・。
「・・・・・犬か」
俺がザリアのトラウマを呼び覚ます為にポツリと呟く。それだけでタロウ捕獲の時を思い出したのか、おもしろいようにザリアが動揺する。そこに更に追撃を加える。
「・・・・拘束具」
「う・・うう・・・うにゃあ!犬じゃない!犬じゃないにゃあ」
たった二言で限界を超えたのか、ザリアは耳を抑えてどこかに走り去ってしまった。ふん。まだまだだな。
と、余裕かましていたら、全身に水を浴びせられた。しかもこの水、妙にネチャネチャしてやがる・・・モレリアか!
「フフフ。ベイルもこれでもう逃げられないね」
振り返ればモレリアが得意げに立っていた。
ドヤ顔で立っているけど、ネバネバ水球何発か狙い外しただろ。トレオン達がツルツル滑って転んで、面白い事になってるぞ!
まあトレオンはどうでもいい、これからモレリアのムカつくドヤ顔を絶望させてやるぜ。
「ククク。馬鹿が!いつまでもこんな化石のような古い手に、やられる俺様じゃねえんだよ」
「へえー。それなら口だけじゃないって所を見せてみなよ」
モレリアの奴、ハッタリだと思っているな。でもなあ、俺には秘密兵器があるんだ。それがこれ!乾燥スライムだ!モレリア達とやり合った時に、こいつが大活躍したのをもう忘れたか!
足元に落とせば、あっという間に地面の水を吸い取り大きくなり、そこに体をダイブして立ち上がれば、体についたネバネバはきれいさっぱりだ。
「う、うそおおおおお?」
ドヤ顔から一転間抜け面に変わるモレリア。
「ハハハ!馬鹿が!何度も見れば対策も思いつくってもんよ!俺は日々着実に進歩してんだよ!」
「あああああ!僕の考えた最強の魔法が!ベイル如きに・・・いや!まだだ!まだ僕の魔法は負けてない!エル!行くよ!全力で僕と一緒にネバネバ水球を撃ちこむんだ!」
「え?ええ?わ、私?」
おおーい。エルメトラ神を巻き込むなよ。しかもモレリアの奴、無茶しようとしてんぞ。
「エル!取り敢えずネバネバ水球を広範囲にばら撒いて!師匠命令!」
「は、はい!」
師匠命令じゃねえんだよ!エルメトラ神も勢いに流されてんじゃねえ。
そして二人で所構わず、ネバネバ水球をばら撒くから、何発か食らっちまった。その度に乾燥スライム使ってたんだけど、そこまで数が無えからすぐに無くなっちまった。
「フフフ、どうだい?やっぱり僕のネバネバ水球は最強だろう?いい加減負けを認めたらどうだい?」
しっかり俺の後をついてきていたモレリアが、得意げな顔で、そのでけえ胸を張って偉そうに聞いてくる。その油断が命取りだ!
「馬鹿が!油断し過ぎだ!」
ネバネバ水球を吸って大きくなった近くの乾燥スライムに向けて、俺は『絶無投』を投げる。慌ててモレリアとエルメトラ神が飛びのくが、遅え!
「貧乏ナイフ?」
『絶無投』だって言ってんだろ!モレリアの奴何回言えば覚えるんだ!
「・・・・・きゃ!!」
「ぬおお」
『絶無投』がスライムに刺さった瞬間、ネバネバの水を撒き散らしながら破裂し、モレリアとエルメトラ神がネバネバに塗れて、悲鳴をあげる。
エルメトラ神は可愛い悲鳴だけど、モレリアはおっさんみたいな悲鳴だな。エルメトラ神には悪いが巻き込んだモレリアを恨んでくれ。
そして二人に背を向けて逃げようとした所で、地の底から響くような低い声が聞こえてきた。
「ベイルウウウウ。これは私達に喧嘩売っているんですかああ?」
振り返ればシリトラとイーパがネバネバに塗れていた。さっきの油断して避けきれなかったんだろう。けどな、それは俺のせいじゃねえ!
「馬鹿野郎!この魔法は元々モレリアのだろう!俺のせいにすんな!文句はモレリアに言え!」
全く罪の無い俺に因縁つけてくるなんて、あいつら当たり屋かよ。
シリトラに注意を取られた一瞬の隙をついて、再びモレリアからネバネバ水球をぶつけられた。ちぃい!モレリアとシリトラの連携に嵌められたぜ。
「フフフ、もうスライムは無いんだろう?観念して負けを認めた方がいいよ」
余裕そうに近づいてくるモレリア。だけど甘い。奥の手はまだ見せてねえぜ。
「もう勝った気でいるのか?」
「何だって?」
さっきの二の舞は御免だとばかりに、俺の言葉で一気に警戒するモレリア。そんなモレリアに背を向ける。
「逃げるつもりかい?知っていると思うけど、このネバネバで滑って上手く走れないから無駄だよ」
「走る?馬鹿言うな!この状態で走れねえなんてよく知ってんだよ!」
俺の返しに理解できていないのか首を捻るモレリア。だったら見せてやるよ。この魔法の欠点をな!
「お前の負けだ。モレリア!走れねえ?滑る?だったら滑ればいいんだよ!」
そう叫んで、俺はヘッドスライディングを決める!『斑』達との時に練習した成果がこんな所で活きたぜ!ここからは脚じゃ踏ん張れねえから、指で地面を引っ掻いて進むだけだ!
「うわあー。何あれ。気持ち悪いー」
「前脚しか無い虫」
「ちょっと!イーパ!気持ち悪い事言わないで下さい!」
・・・・
まあ、言われる通り、ちょっと、進み方が格好悪いと思うが、イーパの例えは酷くねえか?
でも、これで門をくぐって逃げればOKだ。スイー、スイーと泳ぐように地面を滑り門まで向かう。これでようやく落ち着けるぜ
・・・・ってあれええ?門閉まってる?
門が見えてきた所で、異変に気付く。この時間は空いている門が何故か閉まっていやがる。しかもその門の前には、見ただけで分かる、激おこの一つ目オーガと門番が並んで立っていやがる。
門番さん、その隣の魔物退治しなくていいんすか?退治してくださいよ。
そう叫びたいが、言っても無駄だ!俺は両の指を地面に突き刺し、ブレーキをかけ、組合長とは逆方向に逃げたいが・・・・・・止まらねえええ!めっちゃ滑る。けど、俺は諦めねえ!止まれえええええええええ!
「よお!楽しそうな遊びだな」
・・・・駄目でした。組合長に止めてもらいました。
僕を止めてくれた組合長は流石です。出来れば優しい組合長でいてくれると助かります。
そんな事を言いたかったけど、それより前にが組合長が両手を振り上げていました。
・・・・うん、無理だ。
「お、お、落ち、落ち、落ち着きましょう」
「お前が落ち着け!そんでこれ以上騒ぎを大きくするな」
そう言って振り下ろされる二つのハンマー。
俺は気を失った。
前話うpしてからPV数が10倍以上に跳ね上がったのは、何故なんでしょう?
理由が分からないので、ちょっと怖いです。




