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58.組合で待機

「組合長。ベイル連れてきたよー」

「おお、悪いなモレリア。ベイル!てめえ寝てねえで、真面目に働け!・・・って何だその腕?新しい装備か?」


 組合に行くと早速組合長に怒られたんだが、何故か俺の腕の鎖に興味が行ったみたいだ。


「そうですよ。ただの鎖と思わないで下さいよ。これ伸ばせば遠距離攻撃も出来るんですから!」

「へえー。ただの鎖だけど、攻防一体でよく考えてんじゃねえか。しかも見た目も中々良いじゃねえか」

「ほら見ろ!モレリア!分かる奴にはこの格好良さは分かるんだよ!お前の感性がおかしいんだよ」

「ええー。絶対おかしいと思うけどなー。僕、隣で歩くの恥ずかしかったもん」


 こいつ微妙に俺から距離とってたのは、それが理由か。


「まあ、いい。取り敢えず二人とも、指示があるまで組合にはいろよ」


 そう言えばパッと見渡した所、貴族たちが見えねえな。


「令嬢は俺の部屋にいる。今はアーリット達が中で護衛して、外は男どもが見張っているから大丈夫だ」

「男の方は?」

「そっちはゲレロに任せてある。大方賭場か娼館だろう」


 ああ、うん。あの小デブ、典型的な貴族だもんな。そう言う場所で、厭らしく笑っている姿が目に浮かぶ。


「そう言えば組合長。今回のこの騒ぎって俺等、報酬貰えるんですか?」


 タダ働きは御免だぜ。って言いたいが貴族がまともに金を出すとも思えねえ。


「それは問題ない。今回一人一日5万の報酬をくれると、代官様が約束してくれた。そして何か事が起これば追加報酬もありだ。悪くはねえだろ?」


 ボケっとしてるだけで毎日5万ってマジ?しかも恐れていた貴族からの絡みも、ほぼゼロみたいなもんだ。それなら喜んで組合でダラダラしてるぜ。逃げようとしても、もう俺の顔は貴族に覚えられちまったから、下手な事して怒りを買いたくねえしな。


 組合長の言葉に満足した俺は、机に座って駄弁っている連中の所に向かった。


「よーす。お前ら何してんの?暇人?」

「暇じゃねえよ!護衛の割り振り考えてたんだよ」


 リエンの奴がプリプリ怒りながら返事してくれた。こいつこの程度で怒んなよ。俺なんて警備の交代なしでも怒らなかったんだぞ・・・・あれ?って事は俺の交代無しにしたのリエンか!


「てめえ!俺の交代無しってどういう事だよ!」

「何の話だ?忙しいから絡んでくるんじゃねえよ!」

「嫌だね!俺はここでお前をぶん殴らねえと気が済まねえ!」

「ちょ!マジでベイル、何言ってんだ?おい、誰かこいつの言ってる事分かる奴いるか?」


 リエンが聞くと、ショータンがゆっくりと手を挙げた。


「ベイルさん、昨日の割り振り考えたの、組合長らしいので、リエンさんは関係ないですよ」


・・・・


 おいおい、じゃあ、この振り上げた拳はどこに降ろせばいいんだ?一つ目オーガか?流石に今、それするとブチギレるだろうな。いや、あのオーガは、いつやってもブチギレそうだ。


「はいはい、その挙げた拳はさっさと降ろそうね」


 いつの間にか隣に立っていたモレリアが俺の腕を強制的に下げようとする。力で負けてる訳じゃないけど、モレリアの奴、おかしな関節技使うから、動きに逆らわない方がいい。


「ちっ!許してやるよ!」

「いや、リエンさん。何一つ悪くないですよ?むしろベイルさんが謝るべきじゃないですか?」

「だねえ。何で上から目線なのか分からないけど、性格の悪さはコーバス一だね」

「謝るぐらいならエールでも奢れ」


 こっちも見もせずリエンが吐き捨てるように言う。マジで割り振り考えるのに忙しいみたいだ。悪い事しちまったな。


「ち!しゃーねえ。奢ってやるよ。これでチャラな」


そう言って給仕の姉ちゃんにエールを二つ頼む。


「あ、それなら僕も奢ってもらおうかな」

「何でだよ!お前に奢る理由なんかねえよ」

「酷いなあ、起こしに行ったし、僕の手料理までご馳走したじゃないか」


 それは組合長に頼まれたからだろ!そしてアレを、手料理と言い張るその度胸は凄えわ。そう思って言い返そうとすると、周りの連中が驚いた顔をしているのに気付いた。


「も、モレリアさんが朝起こしに来てくれたのか。そういう仲なのか」、「モレリアの手料理・・・二人はいつから」、「やっぱりくっつくと思ってたんだぜ。賭けの結果が出たから、誰かトレオン呼んで来い」


・・・・・・は?何かおかしな勘違いされてねえ?


 これでモレリアが頬でも染めてたら・・・何て事はなく。すげえ冷たい目でみんなを見ていた。アレは人殺しの目だ。


「お前ら何か勘違いしてるぞ。貴族の宿で護衛してたら寝ちまって、それを組合長に頼まれたモレリアが起こしに来たってだけだ」


・・・・


「何だよ。つまんねえ」、「そんな事だろうと思ったぜ」


 真相が分かればこんなもんだ。白けた空気が流れる。そんな中、トラスの馬鹿が余計な一言を言いやがる。


「で、でも手料理ってさっき・・・」


 その呟きに、白けた空気がまた一変する。


「そ、そうだ!手料理ってどういう事だ!」、「モレリアの手料理なんて単語、初めて聞いたぞ」、「味は?うまかったのか?」


 こいつら何でこんなに必死なんだ?


「味?マズいに決まってんじゃ・・・危ねえ!」


 言った瞬間モレリアから蹴りが飛んで来たので、慌てて鎖巻いた腕でガードする。鎖巻いていても、かなりの衝撃が腕に加わった。


 こいつ本気で蹴ってきやがった。乳以外にもキレるポイントあんのかよ。


「いや、言い方間違えたな。モレリアの料理は素材の味を、しっかり楽しめる素敵な料理だったぜ」

「でしょう、でしょう。あれは僕の自信作だったんだよ」


 言い方変えたら、さっきまでの人殺しの顔から陽気な雰囲気に変わって、ご機嫌になりやがった。


「・・・・・・うん」、「・・・・・はい」、「・・・・・了解した」、「・・・・・みんなに言っとかねえとな」


 うん、みんな察しが良くて助かるぜ。ただ、出来れば何人か俺と同じ目にあって欲しいけどな。


「そ、それにしてもベイルさん、その腕の鎖何ですか?新しい装備ですか?」


 変な空気が流れる中、ショータンがわざとらしく話題を振ってきた。


「これか?これは腕に巻いておけば盾代わりにも使えるし、伸ばせば遠距離攻撃も可能な攻防一体の有能武器だ」

「おおー」


 俺の説明に周りの連中から歓声があがる。


「格好いいっすね。それ。どこに売ってたんですか?」

「ええー。これ格好いいかい?変じゃない?」


 おっと、またこれが格好いいか、悪いか論争が始まるのか?


「僕は良いと思いますけど」、「俺もアリだと思うぜ」、「攻防一体って所もポイントだよな」


 ふふふ、どうだ!モレリア、やっぱりお前の感性がおかしいんじゃねえか!


「うーん。ちょっと待って!他の子連れてくるよ」


 そう言ってモレリアが連れてきたのはミーカだった。


「ださっ!」


 こっちに来たミーカは、それだけ言うと元の位置に戻っていった。態度悪いなあ。


 続いてこっちに来たのはシリトラとイーパだ。


「何ですか、モレリア。一応今は待機なので、遊んでいてはダメなんですよ」

「シリトラ、真面目」

「ほらほら、二人ともベイルのあの腕の装備みてどう思う?」


 そう言ってモレリアが指差す先には、カッコいいポーズを決めた俺の姿!


「べ、ベイル。ついに頭が・・・」

「残念」


 あれ?こいつら俺の頭がバグったと勘違いしていねえ?


「違うよ。ベイルの頭がおかしいのはいつもの事。それよりもあの腕の装備だよ」

「まあ、言われてみればそうですね。で、あの鎖ですか?一緒に歩いていると恥ずかしいので、あんなの装備している人はパーティに入れたくないですね」

「うん、他人の振りする」


 こいつら色々好き勝手いいやがって酷くねえ?


「ほら、どうだいベイル。やっぱり僕の感性はおかしくないってこれで証明されたね」

「いや、まだだ、お前ら女の組合員がおかしいだけかもしれねえ。ここは一般人代表のリリーにでも聞いてみようじゃねえか!」

「望むところだよ」








「忙しいので、くだらない事で話かけないで下さい!」

「「・・・・・はい」」


 リリーさんは絶賛デスマーチ行進中でした。俺もモレリアも、リリーと付き合い長いから、アレはガチで余裕が無い時の言い方だと分かった。それで怒られてノコノコと退散した。 


 それでしばらく暇してたら、小デブ貴族がゲレロ達と一緒に戻ってきた。もう顔見ただけで楽しんできたってのが良く分かるぐらい、昨日と打って変わって厭らしい笑顔を顔に張り付けていた。


「いやあ、楽しかったぞ。ゲレロ」

「こんな片田舎で、王都に住まうケバールシ卿に楽しんで頂けて、大変嬉しく思います」

「ハハハ、私もこんな片田舎で楽しめるとは思っていなかった。女のレベルも王都より数段下だと思っていたが、なかなかどうして・・・・グワハハハ」


 ゲレロの奴、やっぱり貴族依頼受けているだけあって、聞いた事ねえ丁寧な言葉で更に相手を持ち上げるような喋り方。流石だ。


「それで、ケバールシ卿。本日の夜のご要望等ありますでしょうか?」

「うーん、そうだなあ・・・・」


 少し考えこんだ小デブ貴族はゲレロの耳元で何かを囁くとゲレロが厭らしく笑う。


「卿もお好きですなあ。・・・承知致しました。昨日とは別の店にご案内致します。そちらもこのコーバスでは一、二を争う高級店、昨日の店とは少し趣が違いますが、お楽しみ頂けると思います。グフフフ」

「そ、そうか、ゲレロ。期待しているぞ。グフフ、フフ、グハハハ」


 きったねえ笑い声を残して、小デブ貴族は組合長室に消えていった。


「はあああああ。疲れたー」


 小デブ貴族の姿が見えなくなった途端、ゲレロ達が椅子に座り、机に突っ伏す。


「ゲレロがそんなになるなんて珍しいな」

「ベイルか。悪いエール頼んでくれ。ついでに冷やしてくれ」


 こいつがここまでなるなんて、初めて見た。どんだけあの貴族の相手するの疲れるんだ?可哀そうなので奢ってやるか。


「基本向こうの奢りなんだけど、下手な事言えねえから、緊張しっぱなしよ。高い酒も料理も全然楽しめねえ。娼館でも疲れて何もせずに寝ただけだぜ」


 やべえな、それ聞いたら、貴族の接待とか絶対やりたくねえ。


「それで今日もまた同じ事しなきゃならねえ。取り敢えず店に手を回して酒精の強い酒を出してもらうか」


 ゲレロ達は警備を免除されているが、こっちの方が大変だな。俺は警備の方で良かった。


 疲れ切っているゲレロ達はそのまま放置してショータン達とグダグダしていると、いきなり組合内の空気が変わった。見れば全員武器に手をかけている。


 ・・・敵か?何でみんな分かるんだ?俺全然分かんねえ。俺も腰のこん棒に手をかけ・・・ってあれ?無い?どこやった?武器無くすなんて間抜けもいい所だぞ。


「ああ、お前のこん棒、大八車と一緒にお前の常宿に置いてきたぞ」


 一人ワタワタしていると、ゲレロが教えてくれた。言われて思い出したけど、ゴドリックの所で大八車に積まれる時にこん棒邪魔ってんで取り上げられたんだった。


 仕方ねえから武器は現地調達でいいか。襲ってきた奴を、『人間こん棒』として使えば問題ない。稀によくある事だ。


そうして警戒している組合に飛び込んできたのはカルガーだった。


「ただいま、戻ったっす!それでサファガリアの令嬢はどこっすか?」


 元気一杯でご機嫌なのは、タロウと大手を振って、遠出出来たからだろう。組合の外からは悲鳴が聞こえてきてるけど、もしかしてタロウも外にいるのか?

 

 気になって外を見に行こうとすると、組合に見た事ないイケメンが入ってきた。そしてイケメンの身なりを見た瞬間に分かった。


・・・このイケメン・・・貴族だ。


 マジかよ、また新しい貴族がこんな所まで来たのか?何で来るんだよ。いつもみたいに街の奥の貴族街に引き籠って悪巧みでもしてろよ。


 なんて事を言えるワケも無く、黙って成り行きを見守っていると、組合長に案内されてイケメン貴族は組合長室に入っていった。そして姿が見えなくなった瞬間、カルガーが取り囲まれる。


「なあ、カルガー。今のイケメンは誰だ?」、「あれって貴族だろ?」、「お前領都行ってもう帰ってきたのか?」、「まだ昼過ぎだぞ、早すぎじゃねえか?」


「ちょ、みんな待つッス。ちゃんと答えるから落ち着くッス。今の人はマークティック様、ここの領主のご子息様っす。領主様は王都にいるらしく、事情を説明したら代理でついて来てくれたっす」


 やっぱりあのイケメン貴族だったか。しかも領主の息子って中々の大物じゃねえか。


「領都までの往復っすけど、道が舗装されていたので、思っていたより早かったっす。やっぱりタロウは良い子っす」

「タロウって誰だ?」

「馬鹿、お前知らねえのか?見かけても手を出すなって掲示板に貼ってあっただろ」

「ああ、何かすごいデカいレッサーウルフって言ってたな」

「レッサーウルフじゃねえよ。ジャイアントレッドウルフだ」

「そうそう、赤くてデカくて立派にそそり立っているヤツだ。カルガーにくっついてる」

「うん?今、卑猥な言い方したの誰っすか?盾で殴られたいっすか?」


 取り敢えず殴られているトラスの馬鹿は放っておいて、俺は外にいるタロウの様子を見に行く。


 うん、タロウは大人しく組合の入口前でちょこんと座って・・・・ちょこん?・・・デンっと座って待っていた。ただ、その周囲に人混みが出来て、ちょっとした騒ぎになっていた。


「べ、ベイルさん。助けて下さい。怖くて組合に入れないです」


 人混みの中に何人か無級や1級の見知った顔が見え、その中の一人が情けない事を言ってくる。


「何ビビってんだよ。タロウは人を襲わねえから大丈夫だ。外で警戒している連中も気にしてねえだろ。お前らも気にせず入ってこい」


 言いながらタロウに近付くと、座っていたタロウが立ち上がり尻尾をブンブン振り回す。


 俺としてはその様子は可愛い奴だとしか思わないが、立ち上がっただけで、周りから悲鳴があがるのはマズいかもしれん。それにここで座っていると組合に用事がある奴も入ってこれないかもしれいないしな。


 って事でタロウを連れて組合内に入る。


「あれ?タロウ?どうしたっすか?ベイルさん、何かあったっすか?」

「入口で騒ぎになってたから連れてきた。あそこに座られるとビビって入れねえんだとよ」

「ええー。タロウは人を襲わないように躾てあるっすよ」


 まあ、そう言いたいのは分かるが、見た事無い奴らからしたら、怖いものは怖いからな。


「すげえ。これが噂のジャイアントレッドウルフか。初めて見た」

「何だ?ショータン達はタロウを見た事無かったのか?」

「ええ、話に聞いた事しかありませんでした」


 そう言ってショータン達は恐る恐るタロウの体に触れる。タロウはと言うと、触られても特に気にした様子はなく、俺とカルガーに期待に満ちた目を向けている。


「タロウって本当に人を襲わないんですか?」


 恐る恐るタロウに触りながらニッシーが聞いてくる。


「ああ、トレオンで実験済みだ」

「ええ?トレオンさん可哀そうじゃないですか?」

「どうせトレオンだからいいんだよ」


 トレオンの扱いが雑?あいつも俺の扱い雑だからいいんだよ。



 そうしてタロウが組合で人気者になっていると、組合長室の扉が開かれ、貴族とアーリット達が出てきた。それに気付いたタロウに群がっていた連中も、絡まれたくないのか部屋の隅に移動する。


「おお!丁度良かった。ティガレット嬢、あれが私をここまで乗せてくれたジャイアントレッドウルフのタロウと、その飼い主カルガーです」


 なんかやけに芝居がかった感じで、得意気にタロウとカルガーを紹介するイケメン貴族。


 どっちもお前のモンじゃねえぞ。そもそもタロウの飼い主はゴドリックだっての。


 何て心の中で突っ込みを入れる俺。ふと見ると紹介されたってのに、カルガーは何も反応せず驚きの顔で、とある人物を凝視していた。


「・・・・・ど、ドル。な、何であなたがここに・・・・」


 呆然として、多分無意識のうちに言葉が漏れたんだろう。カルガーは慌てて口に手を当てる。だが、そんなカルガーの声が聞こえたのか、視線の先の人物・・・小デブ貴族は、厭らしく笑った。その顔は俺が故郷で何度も目にした、悪巧みを考えた時の貴族そっくりだ。


 この顔を貴族がすると、碌な事が起きねえんだよな。こりゃあ、また面倒くせえ事になりそうだ。

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