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56.再びの貴族イベントと逃走

 誰かの呟きで俺はようやく気付いた。


 おいおい、待て待て。あの嬢ちゃん!仮面付けたら、俺が変身した悪役貴族令嬢にそっくりじゃねえか!あんなん現実にいるのかよ!


俺が気付いたと同時に他の連中も気付いたようだ。


「れ、令嬢だ」、「白の令嬢だ」、「マジでまた見れるとは・・・」、「白パンツの令嬢・・・存在したのか」、「スカート長いよ!パンツは?白パンツは?ねえ!」、「貴族・・・しかも王国貴族かよ」


 若干一名おかしな事言っているトラスは放っておいて、周りの連中の反応からも、そっくりな事は間違いねえ。しかし、何でコーバスにそっくりさんが現れたんだ?流石に俺と同じぐらい強いって事はねえよな。


「みんな、混乱していると思うから説明するわね」


 令嬢の隣に立つエルメトラ神が、説明してくれるみたいだ。近くにはエフィルもいるが、ザリアは姿が見えない。案内してきたシリトラはみんなと一緒に離れたようだ。


「まずティガレット様は『令嬢』ではないわ!『令嬢』の話を聞いて、この街に視察に来られたの」


 そういう事か。俺も自分に似た奴がどこかの街で話題になったら気になって仕方ねえもん。


「何だ、『白パン令嬢』じゃないのか?」、「本当かよ、マジでそっくりなんだけど?」、

「いや、あのスカート長さは偽物だ」、「似てるけど違うのか?」


 みんなも違うと言われて、困惑している。


「で、その途中で賊に襲われた所を、たまたま通りかかった私達が助けたって訳」


 うーん。そこに偶然通りかかるってのが、凄いな。やっぱりアーリット達は主人公体質だと思う。


「賊については、そこまで強くなかったけど、私達が加勢したらすぐに撤退した。その動きはかなり訓練されていたわ。だから、もしかしたら野盗じゃなくてティガレット様を狙った刺客の可能性も考えているわ」


 だから襲撃に備えろって言ったのか。若い組合員は、野盗について詳しくねえだろうが、そこそこの規模になると、中々組織だった動きをするんだよ。まあ、そこまで大きくなる前に、この辺のはティッチ達が狩ってたから、知らねえのも仕方ねえんだけどな。


 そこまで話を聞いて、みんなそこまで警戒しなくてもいいだろうと気が緩んだ瞬間だった。組合の扉が勢いよく開かれ、小綺麗な格好のオッサンが飛び込んできた。そしてその後ろにザリアが続く。


「こ、こちらにサファガリア伯の令嬢が来ていると聞いたが本当か!」


 おっと、このオッサンも多分貴族だ。やべえ、組合に貴族が3人も集まりやがった。どうにかバレずにここから逃げ出したい所だ。


「こっちだ!無能!こちらがサファガリア伯のご令嬢ティガレット様だ!貴様がこの街の責任者か?」


 おいおい、小デブ貴族がしゃしゃり出てきやがったぞ。


「そ、そうですが・・・あ、あなたは?」

「き、貴様!責任者の癖に私の事も知らないのか!私はドルモル・ケバールシ!王国貴族の子爵だ!クライムズ領の連絡体制は一体どうなっている!」


 そう言って、小デブ貴族はオッサン貴族を蹴り飛ばした。その光景に周りはドン引きしているが、俺は逆に貴族ってこういうもんだよなって一人納得して頷く。

 蹴られたオッサン貴族はすぐに頭を床につけて、小デブ貴族に弁明しているが、小デブはオッサンの頭を足で踏みつけ、聞く耳を持ってくれない。


「そ、そうではございません。ドルモル様が来られる事は既に連絡を受けております。今のは確認の為です」

「うるさい!連絡の不備はどうでもいい!それよりも王国貴族の私が襲われたんだぞ!クライムズ伯は王国への反意でもあるのではないか?」


 おお!久しぶりに聞いた!貴族の謎理論だ。何でこいつが襲われたら、王国に反意があるって考えになるんだ?って普通の連中なら考えるだろう。それは俺にも分からねえ。ただ、貴族ってのは、こういう、よく分かんねえ思考回路の持ち主だと思って納得するしかない。そこに理由を求めたら駄目なんだ。これこれ、こういうのが貴族なんだよ。懐かしいな。そして・・・


「ドルモル、やめなさい」

「はっ」


 貴族の嬢ちゃんから注意され、オッサンを踏みつけて喚いていた小デブは、その場を離れる。


 そうそう、爵位が上の者には基本逆らわない。うーん。この小デブ、俺の知っている典型貴族ですわー。懐かしい。


 って懐かしがってる場合じゃねえ、何がきっかけで目を付けられるか分かんねえから、とっとと、ここからトンズラしねえとな。


 幸い、これからどうするかオッサン、小デブ、嬢ちゃんの3人の貴族が話し合いを始めて、みんなもその会話に聞き耳立てている。逃げ出すなら今だ!


 俺は出入口に向かって、ゆっくりと移動を始める。貴族連中は会話に夢中で、組合員はそれに集中しているから、結構簡単に出入り口まで辿り着いた。後は、気付かれないようにゆっくり扉を開いて出るだけだ。そして俺が扉に手をかけた瞬間だった。


「ベイル先生!どこに行くんですか!」


 貴族の会話よりデカい声が組合内に響き渡った。お前!それ不敬極まりないぞ!エフィル!


「ベイル?」


 おいー!嬢ちゃん貴族がこっちに興味持ったじゃねえか!


「そうです。ティガレット様、道中お話した件です。あちらに見えるのが、コーバスの3級組合員ベイルさんです。私達に色々教えてくれた先生です。『3落ち』のベイルです」


 やめろよ!エフィル!しっかり紹介すんな!あいつ何考えてやがる、嫌がらせか?


「そう、話はエフィルより聞いていますわ。とてもお強いらしいですね。警戒、宜しくお願いしますわ」

「はいっす」


 おいおい、貴族に話かけられたじゃねえか!これもう逃げられねえ。しかも兵士時代の口調が出ちまったし。


「うん?貴様何故扉に手をかけている?まさか、逃げ出すつもりではないだろうな?」


 今度は小デブ貴族まで絡んできやがった。勘弁してくれ。ただ、俺も貴族の扱いには慣れてんだよ!


「違うっす。外の様子の確認の為っす」


 そう言って扉を開けて、大声でトレオンを呼ぶ。


「トレオーン!トレオーン!」


 助けてええええ!トレえもん!


「何だよ?デカい声で呼ばなくても聞こえてるっての」


 屋根の上から警戒していたんだろう、トレオンが飛び降りてきた。


「異常は?何か異常はないか?あるだろ?何でもいい」


 あるって言ってくれえええ!そしたら俺が真っ先に飛び出して、野盗だろうが、一つ目オーガだろうが蹴散らしてやる。そんでそのまま逃げてやる。頼むぜトレオン!付き合い長いんだ、俺の目を見れば言いたい事は分かるだろ?






「異常?ねえよそんなの。あったらちゃんと呼んでやんよ」


 そう言って扉を閉めやがった。


 あああああああああああああああ!トレオンの馬鹿ー。あの野郎覚えてろよ!


 今度木に縛って、腹パン10発ぐらいぶち込んでやる。だけど取り敢えずそっちは後だ、扉の方を見ているが、未だに全員から注目集めてるのが背中越しでも分かる。先にこっちをどうにかしねえと駄目だ。


「外は特に異常はないみたいっす」


 振り返って小デブ貴族に報告すると、鼻を鳴らして貴族同士の話を再開した。


 よ、良かったあ、俺から興味失くしたみたいだ。しかし、あぶねえなあ、マジで。俺を巻き込んでエフィルは何がしてえんだ?


「ベイルの奴、めっちゃ慌ててんな」

「あいつマジで貴族苦手なんだな。話し方まで変になってたぞ」

「『っす』とかカルガーの真似かよ」


 周りのクスクス笑っている連中を殴りたいが、また貴族に目をつけられても困るからな。今は我慢だ。


そうしていると、話がまとまったのか組合長が呼ばれて色々指示を受けている。


「・・・領都迄急ぎ連絡となると馬・・・いや・・・ベイル!タロウ達なら領都の往復何日かかる?」


 おっと、いきなりこっちに話を振られた。でも組合長だから特に緊張はしねえ。タロウ達の足の速さもこの間で十分分かってるからな。


「タロウ達なら今から出れば、明日の夕方には余裕で戻ってこれるんじゃないですか?」


 俺の答えを聞いた組合長は今度はオッサン貴族に向き直る。


「ダンオム様。領主様にすぐお目通りできるようにするには、どうすればよいでしょうか?」

「これを門番に見せ、緊急の用件だと言えば、すぐに取り次いでくれるだろう」


 そう言って指に嵌めていた指輪を渡す。めっちゃ高そう。


「ベイル、これを持って領都まで行って領主様に今の状況を説明してこい」


 組合長が指輪を渡して俺に指示してくる。軽く言ってくれるけど、それって領主と会話しろって事だろ?断固拒否したいが、流石に貴族3人の前では言えねえ。けど、俺は閃いたぜ!ここから逆転の一手をなあ!


「組合長、俺よりカルガーの方が適任だ。あいつタロウ達としょっちゅうバトスル辺りまで行ってるからな」


 悪いな、カルガー。俺がここから逃げる為に利用させてもらうぜ。


「あ、あいつ、コーバスから出るなって注意しただろ。・・・・だがまあこうなっては都合がいい。分かった。カルガーに行かせろ。ゲレロ!カルガーは今どこにいる?」

「カルガー?今日はオフだからいつもみたいに北村にいるんじゃねえ?」


 あいつマジで暇さえあればタロウ達の所で遊んでんな。どんだけ動物好きなんだよ。


「よっしゃ、組合長、俺がちょっくら北村まで行ってくるぜ」


 これでもう勝ったも同然だ。声が弾むのが抑えられねえ。そしてそれに反応したのがエフィルだ。


「組合長!ちょっと待ってください!北村なら足の速いザリアやトレオンさんに向かわせた方が早いです」


 こいつはどうしても俺を逃がしたくねえらしい。だけど、甘いな。


「北村にカルガーがいなきゃ、俺がタロウに乗って領都に行くしかねえじゃねえか!だったら最初から俺が北村に向かった方がいい」

「・・・ベイルの言う通りだな。カルガーがいなかったら余計に時間がかかる。ベイルが向かえ」

「そ、そうですか・・・それではベイル先生。お願いしますね」


 そう言ってエフィルがにっこり笑うんだが、目が笑ってなくて怖いんだけど。更にエフィルが後ろに組んだ手を見たクイトが目を丸くしてるのは何でだ?アーリットはさっきよりも若干距離とってるし。


 まあ、そんなのは些細な事だ。俺は大喜びで、大手を振って組合から飛び出して、北村に向かった。


 そしてゴドリックの家には、思った通りカルガーがタロウ達と走り回って遊んでいたので、カルガーに状況を説明して領都に向かってもらった。


 これで俺の仕事は終わった。後はどこかの街に一月ぐらい逃げてれば落ち着くだろう。どこ行くかなあ。コムコムは近すぎるから、もうちょい遠く・・・前にゲレロ達に誘われた護衛依頼で行った海辺の街にでも行くか。久しぶりに海鮮が喰いたくなってきたぜ。

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― 新着の感想 ―
こういうガチで目立つことを避ける+事件が結構おきる小説は少ないので嬉しい 主人公が馬鹿では務まらないから読んでて心地よい よくある目立ちたくないのに〜とかいって目立つことをしてしまういらつかせるあんぽ…
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