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52.貴族イベント発生と逃亡

「あん?ここどこだ?」


 気付いたら見た事ねえ場所にいた。


「何で、こいつらと相部屋なんだ?」


 周りを見ると、ゲレロとトレオン、アウグ、ハイーシャ、ヒビット、ペコーが雑魚寝している。周りの様子から格安の雑魚寝宿に泊まったってのは分かるが、何でこうなってんだ?


 昨日、確か領都に着いて、何かそこの組合長と話をして、話が終わって部屋から出たら誰か絡んできたから、喧嘩になって・・・ああ!思い出した。まーた俺、組合長にやられたのかよ。で、ここに放り込まれたって所か。


 俺が動き出した気配を感じたのか周りの連中も目を覚ましだす。


「ああ?ここどこだ?」、「痛え。体痛え」、「何で雑魚寝してんだ?」、「お前ら何でここに?・・ま、まさか」、「ねえよ!ケツを抑えんな!気持ち悪い!」、「うるせえな。寝れねえだろ」、


 好き勝手言いながら起きだす連中だったが、しばらくすると、何故こうなったかを理解したみたいだ。


「領都の組合長強かったな。カスリもしなかったぜ」

「組合長って事は5級だったんだろ?やっぱり強さが桁違いだ」

「領都の連中は雑魚だったけどな」

「負けたお前が言うな」

「あ?てめえも負けただろ!」

「やめろ、やめろ、朝から喧嘩すんな。鬱陶しい」


 寝起き1分もしないうちに喧嘩始めようとするな。


「まあ、いいや、取り敢えず丁度日が昇った所か、適当に朝飯食って各自好き勝手するでいいな?」


 そうするつもりなので、ゲレロの言葉に誰も反対しない。


「って何でアーリット達がいるんだ?馬一緒に行くか?」


 宿から外に出ると、アーリットとクイトが待っていた。誰かと約束したから待ってましたって顔じゃねえ。少し深刻な話っぽいな。


「朝からすみません。少し僕らを手伝ってもらえませんか?」


 深刻そうな顔したアーリットは、唐突に変な事をお願いしてきた。


「手伝い?」


 まあ、アーリット達は飯奢ってくれた事もあるし、手伝うぐらいはしてやってもいいが、内容によるかな。


「はい、昨日宿を探している時なんですが、ちょっと面倒事に巻き込まれまして・・・今、女の子を保護してるんですよ」


 おいおい、アーリットの奴、早速イベント発生してんじゃねえか。こいつやっぱりイベント吸引体質の主人公だ。ダイソンアーリットだ。


「面倒事ねえ。俺達を頼るなんてワケありって事か?」


 普通余所の街で頼るなら、その街の兵士か組合だ。女の子がこの街の住人なら兵士の仕事だ。組合は依頼さえ出せばどうにでもなるしな。なのにそうしねえって事はゲレロの言う通りなんだろう。コクリと頷くアーリット。


「はい、今回の依頼主って言うか雇い主というか・・・まあ、その女の子なんですが、彼女がこの街の人間は、信用出来ないと言い出すので、皆さんに手伝って貰えないかと考えて来ました」


 この街の人間を全員信用出来ねえなんて穏やかじゃねえな。言っちゃ悪いが、俺達の方がよっぽど信用出来ねえぞ。


「それで俺達に手伝って欲しい事は何だ?」

「まずはその女の子の護衛と、この街の領主へ極秘に連絡とる手段がないか考えてもらいたいです」


・・・・・・


・・・・・・・領主って貴族じゃねえか!しかも王国貴族!すげえ、大物だ。


 こいつ、いきなり貴族イベント発生させてやがる。やっぱりこいつ連れてきておいて良かったぜ。全てのイベントがアーリットに吸い寄せられていく。ダイソンアーリットの本領発揮だ。


 そして手伝ってやろうと思っていたけど、貴族となると話は変わってくるぜ。


「護衛はいいが、領主って無理だろ。俺達が出来るのは、ここの組合長に話を持って行くくらいだ」


 トレオンの言葉に俺達はうんうん頷く。


「それはやめて下さい。彼女が言うには誰が敵か分からないので組合長も駄目みたいです」


 ええー。それじゃあ手詰まりじゃね?


「そもそもその女の子は何者なんだ?何でこの街の人間を信用してねえんだ?」

「だな。まずはそこを教えてもらわねえとな」


 おいおい、このままじゃマズい。名前まで聞いちまったらもう引き返せねえ。手伝わざるを得ない流れになっちまう。


「ちょ、ちょっと待て!お前ら!流石にこんな道端で、この話はヤバくねえか?」


 慌てて口を挟むと、みんなも流石にここで話す内容じゃないと気付いたみたいだ。


「それなら、僕たちが泊っている宿に行きましょう。今はザリア達が残って依頼人を護衛してくれていますが、心配なので」


 そういう事ならと、アーリットの提案に従い、全員ゾロゾロ連れだって動き始める。



が、



「おい、ベイルどこ行くんだ?」

「ああ、ちょっと朝のウンコ忘れてたから、先に行っててくれ」

「直接的な表現で言うな。もうちょっと包んだ言い方にしろ」


 なんだよ、ペコーはうるせえな。


「ちょっとトイレでうんこ頑張ってくるぜ」


 これならいいだろ?


「変わってねえよ」

「汚いぜ、ベイルさん」

「うるせえ!さっさといけ!その前に宿の名前だけ教えろ」

「僕らが泊っている宿は『快適で静かな宿』っていう名前です」

「よし、分かった。うんこしたら追いかける」

「だから汚ねえって。ちゃんと拭いてこいよ」

「拭くに決まってんだろ!俺はアウグと違うんだよ!」

「ああ?ちゃんと拭いてるっての!ベイル、てめえ『白パン令嬢』の時みたいに俺を怒らせてえのか?」


 あん時は俺じゃねえ。怒らせたのハイーシャじゃなかったか?


「まあまあ、このままだとベイルが漏らすかも知れねえから、さっさと行くぞ」


 ヒビットの奴、すげえ失礼な言葉を残していきやがった。漏らさねえっての!


そして連中と別れて角を曲がり姿が見えなくなった瞬間、俺は全力で向かった。



どこに?



トイレ?



そんな訳ねえ。






俺が向かったのは門だ。


そこから街の外に出て、全力でコーバスに走った。


 途中襲ってきたゴブリンは蹴り飛ばし、黄黒蜘蛛は足を全部もいで頭を潰し、単眼ゴブリンは『絶無投』で目を射ぬく。そうして全力で走って、日が暮れる頃にようやく足を止めた。


「フハハハハハ、アーリット達よ。悪く思うな。俺は貴族案件には絶対関わらねえ。勝手にてめえらでやっておいてくれ」


 領都の方を振り返り、絶対に聞こえてねえと思うが、領都にいるアーリット達に高々と宣言する。そうしてコーバス方向へ振り返ると、しょぼくれたドワーフのオッサンが一人こちらを見て立っていた。


ペコリ。


あ、どうも。ペコリ。

 

 今の見られていたかも知れねえけど、まあいいや。


 取り敢えずオッサンを無視してコーバスに向かおうとしたら、そのオッサン話しかけてきやがった。


「どうも、こんにちは。不躾に失礼じゃが、今のは?」


 一人旅で寂しいのは分かるが、俺は結構急いでるんだぜ。それにどこからどう見ても組合員にしか見えねえ俺に話しかけてくるなんて、このオッサン寂しがり屋なのか。


「ああ、領都に別れを告げてたんだ。大切な仲間との悲しい別れ、でも仕方なかった。お互いこれが最善だと思ったからな」

「・・・・あれが?誰かを置き去りにして逃げてきたようにしか聞こえなかったが?」

「うるせえな。人の事情にズカズカ踏み込んでくるんじゃねえよ」


 ちょっとムカついたから、失礼な物言いになった俺に怒るどころか、何故か驚いた顔をするドワーフのオッサン。


「そ、そうじゃな。儂もそう言うのが嫌じゃったのに・・・事情も知らずに失礼した」


そう言って丁寧に頭を下げるオッサン。ちょっと拍子抜けだ。組合員なら『勘違いさせる言い方してんじゃねえ』とか逆ギレして怒り出すからな。


「ま、まあ大した事じゃねえから気にすんな」


 だって、貴族が嫌で逃げて来ただけだからな。


「おお!それは有難い。お主中々心が広いではないか!」


 お!こいつ見る目あるな。そうよ!俺はコーバスで一番心の広い男よ!やっぱりこういうの分かる奴に分かっちまうんだな。


「時にお主の目的地はどこか聞いても良いか?」

「ああ?まあそのぐらいならいいぜ。俺は今コーバスに向かっている所だ」

「おお!それは奇遇じゃ!儂も今コーバスを目指しておる。お主良ければ一緒についていってくれんか?」


 ああ。こりゃあ、あれだ、偶然を装った体のいい護衛依頼だ。ただし依頼料は無し。見れば一人だし、俺に話しかけてきたのもそれが目的だな。


 馬鹿が!こっちはそんな古臭い手口しっかり教えられてんだよ!


「報酬は・・・これでどうじゃ?ドワーフの火酒じゃ」


 そう言ってオッサンは腰に下げた一つの酒壺を掲げる。


「よし!コーバスまで安全に届ければいいんだな。その依頼受けるぜ」


・・・・・・


 いや、だってドワーフの火酒だよ?メッチャ度数が高い酒だってのに、ドワーフじゃなきゃ売ってくれねえんだもん。ずっとたらふく飲みたかった酒だ。何度かユルビルや知り合いのドワーフに頼んで飲んだ事はあったが、基本一口、多くて一杯だけで全然飲み足りねえって思ってたんだ。それが酒壺毎くれるってなると、そりゃあ十分俺が動くに足る報酬になるぜ。


「おお、そうか、そうか。そう言えば名乗って無かったな。儂の名前はレルコという」

「俺はベイル、コーバスの3級組合員だ。依頼主だけど、敬語無しで良いよな?」

「今更敬語で話されても気持ち悪いだけじゃ。さっきと同じでいい。時にお主、コーバスに暮らすゴドリック先生はご存じかな?」

「ゴドリック?ああ、知ってるぜ。あいつから色々依頼受けてるからな」


 『ゴブ一』以降は依頼ないけど、研究と学会発表で忙しいって言ってたからな。


「なんと!それならゴドリック先生に会ってくれるように手配してもらう事は、出来るだろうか?」


 ああん?こいつゴドリックの押しかけ客か?そう言うのは連れてくるなって言われてんだけど?


「いや、すまん、言い方を間違えた。レルコが話をしたいと伝言してくれるだけでいい」

「まあ、そんくらいならしてやるよ。ただ、それでも会わないって言われたら諦めろよ」


 って事で火酒で契約成立だ。今日は走りづめだったから、あとは2~3日でコーバスに着くだろう。追手も来ねえだろうし、ここからはレルコに合わせて行くか。



一方その頃領都では・・・


「うわああ!ザリア!エルメトラ!私を守ってくれえええ!」

「大丈夫です。魔法攻撃は師匠たちが!他はみんなでどうにかなります!」


「ったく、守りってのは性に合わねえぜ」

「ならトレオンは少し周辺の様子見てこい!流石に終わりや先の展望が読めないと精神的にキツイ!」

「くそ!次から次へと面倒くせえな!」

「あんまり前に出るなよ」

「わーってるよ!ベイルの奴どこ行きやがったんだよ!クソ長すぎだろ!」

「ベイルさんは便秘気味なのかな?」

「そんなん知る訳ねえだろ!」

「卑怯です。手伝う風を装って来ないなんて卑怯です」

「何で嬉しそうなんだぜ?」

「組合長、ちゃんと領主に連絡とれたかなあ」



なんか大変だったみたいだ・・・・。

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