50.領都③
「おお!こりゃあまた結構な歓迎だな」
先頭を歩く組合長の前には道を塞ぐように、武器を抜いたならず者達が並んでいる。予想通り領都最強とか言う連中だろう。ただ、この前より数が多い・・・50人ぐらいか?
「一人3~4匹って所か」
「こっちは組合長入れて14人だからそんなものかな」
呑気に会話をしているのはゲレロとモレリアだ。俺達も別に緊張している訳でもなく、誰が誰を狙うか品定めしている所だ。まあ、今回の報酬も均等割りだから別に誰が相手してもいいんだけど、やっぱりトレオン達はやられた奴らを相手したいみたいだ。
俺達は別に誰が相手でもいいから、トレオン達に譲ってやる。けど、
「トレオン達はあいつらでいいのか?見るからの他の連中より装備が劣ってるぞ?」
この間コーバスに来た連中は身ぐるみ剥いでポイされたから、今の装備が見ただけで貧弱なのが分かる。・・・・あいつらから奪った装備は当然売っぱらって、みんなで金を分けた。
「ああ、いいぜ。こっちは5人で20人相手すんだ。卑怯とか言わねえだろ」
「気にしねえならいいけどよ。最初だけは俺らと合わせろよ」
「分かってるって、ここは組合じゃねえ、街の外だから何でもありって連中も分かってんだろ」
「あの数で待ってんだ。そりゃあ、分かってるだろ」
そんな事を話しつつも歩いて行くと、適当な距離で組合長が足を止めた。
「お前ら、何の真似だ?俺はコーバスの組合長ジークだ。そっちの連中はこの間ウチで見たな」
組合長が話を始めると、ニヤニヤした連中の中から一人が前に出てきた。
うん、この時点で分かった。こいつら馬鹿だ。武器抜いて道塞ぐなんて行為は、明らかな敵対行動。もうこの時点で喧嘩・・・じゃなくて殺し合いは始まってるってのに、悠長に話なんてしてていいのか?こっちは組合長以外準備終わってるぞ。
「この間は世話に・・・」
「はい、スタート!」
多分この連中のリーダーなんだろうな。話を始めたと同時にモレリアの号令でエルメトラ神や魔法が使える奴らが、連中に向かって一斉に魔法を放つ。魔法使えない連中は集めておいた石を投げる。遥か昔、原始の時代から有効な攻撃!投石だ。
「おらおら!死ね死ね!」
「馬鹿が!何のんびり構えてんだよ!」
「小物共が大物ぶってんじゃねえよ!」
「小物には石ころで十分だ!くらえ!」
うーん、どっちが襲ってのか分かんねえな。・・・おっと。魔法を防いだ連中が飛び出してきたな。
「てめえら!卑怯だぞ!」
「くそが!よくも!」
「殺してやる!死ねええ!」
まあ、当然敵さんは激オコですわ。ただ、余裕かましていた暇があれば罠でも仕掛けておけばいいのに・・・っていうか伏兵もいねえのか?マジでこいつら馬鹿じゃねえの?ただ、ぼーっと俺等を待ってたのか。
「エル!ヌルヌル!」
モレリアの声で組合長が後ろに下がり、モレリアとエルメトラ神の手から、水球が連続して飛び出していく。攻撃力皆無のヌルヌルした水球だ。敵は飛んで来た水球を当然躱すが、狙いは敵じゃなくて地面。
「うわああ!」
「く、くそ、す、滑る!」
『達磨』討伐で大活躍したこのヌルヌル水球。今回も向かってきた敵が滑って転んで大活躍だ。
で、当り前だけど、転んだ連中は、投石の餌食になる。まあ、そんな訳で地面のヌルヌル部分を避けてこっちに向かってきた敵は数える程しかいなかった。そいつらもトレオン達に瞬殺された。
動く敵がいなくなるとトレオン達が、まだ息のある連中にトドメ刺して戦闘は終わった。
「おいおい、俺等石投げただけで終わったぞ」
あまりの手応えの無さにゲレロが呆れている。俺ももうちょい頑張るかと思ったんだけど、やっぱり領都最強って嘘だったんだな。
「これが先輩達の実力・・・」
「やっぱり強いぜ」
「卑怯、卑怯、くううううう!」
「・・・私何もしてない・・・」
アーリット達は、コーバスの連中の強さに驚いてるが、別に俺達が強かった訳じゃねえ、敵が油断しまくってただけだ。
エフィルは今の戦いを思い返して身を震わせている。こいつはちょっとおかしな方に向かってんな。俺のせいじゃないぞ。
ザリアは伏兵が出たら教えろって、見張りさせてたから仕方ない。
エルメトラ神はモレリアと話ながら、普通の水球を出して地面のヌルヌルを洗い流している。
こいつら死体が転がっているのに動じてないって事は、大分組合員らしくなったな。これなら3級に上がっても大丈夫だろう。
「おおーい。終わったら穴掘りと身ぐるみ剥ぐ奴に別れろ」
「ええー。やっぱり埋めないと駄目なのかよ」
組合長の指示に面倒くさそうにトレオンが言う。俺も面倒くさい。道の脇にポイでいいじゃん。
「馬鹿野郎、流石に50人近い死体が道の脇にあったら、通行人がビビって騒ぎになる。それにこれだけの死体をこのまま放置すると、変な病気が生まれそうだしな。分かったら文句言わずにやれ」
そう言うと、組合長も穴を掘り始めたので俺達も仕方なく手伝う。身ぐるみ剥ぐのはアーリット達だ。特に表情変えずに黙々と作業しているから、こりゃあ、マジでもう心配する必要ねえな。
「モレリア、この辺魔法で柔らかくしてくれ」
「はーい」
この間のゴブリンホイホイと同じ要領で穴を掘って、死体を投げ込んでいく。全員放り込むと今度はその上に土を被せて終わりだ。
「エフィル。頼む」
「はい、分かりました」
終わったと思ったら、アーリットがエフィルに何か頼んでいる。その頼みに頷くとエフィルは一歩前に出て今埋めた土の上に手を翳す。しばらく待つと手の平から光の粒が生まれ土に降り注いでいく。
「へえー。あれが聖魔法か。初めて見たな」
「あれがそうなんだ。僕も初めて見たよ」
そう言えば、エフィルって卑怯技好きの変態って以外に、聖魔法使える珍しい奴だったな。ティッチの所の奴がアンデッドに使ってんの見た事あるが、こういう風に死体を浄化するのに使うのを見るのは俺も初めてだ。
「今のは死体の浄化じゃないですよ。全部の死体を浄化する魔力はありませんから、被せた土を浄化しておいたんです。そうすればもしアンデッドになったとしても、浄化した土が滅ぼしてくれますから」
アンデッドになった瞬間から身動きとれずに浄化されていくのか。結構えげつねえな。
珍しい聖魔法も見せてもらった後は、順調に進み、予定通り5日で領都に到着した。
■
「へえー。ここが領都か。でけえな」
「キョロキョロすんな、ベイル。田舎者丸だしじゃねえか」
うるせえなあ。何回も来てるって言っても、トレオンも俺と同じコーバスから来た田舎者じゃねえか。
「おーし、じゃあ、全員組合までついてこい。今日中には解放してやるから行儀良くしてろよ!特にベイル!」
「何言ってんすか、組合長。俺は余所の街じゃ借りてきた猫ぐらいお利口さんにしてますって」
全く心外だなあ。俺とアーリット達以外の連中の方が、よっぽど危ない奴らだって組合長知らねえのかな。言わばこいつらは抜き身のナイフ、いつでも人を斬りつける危ない連中だ。
「コムコムで大暴れしたのはどこのどいつだ?」
「ああ?あれはキング達が仕掛けてきたから仕方ねえだろ」
ハイーシャの奴、俺を悪いと決めつけるなんて酷い野郎だ。
「ちっ、まあいい、取り敢えず組合に行くぞ」
「「「「ういーす」」」
もうね、この時点で俺達、街の人達から怪訝そうな顔されてんだよ。だって一つ目オーガが、ガラの悪いのを何人も引き連れてんだ。当然と言えば当然だな。俺は少し離れて歩こう。
そうしてゾロゾロと街を歩きながらも、俺は周囲を警戒している。
「ベイル。お前何をそんなにビビってんだ?」
「だねえ。こっちが気になって仕方ないよ」
「別にコーバスと変わらねえよ」
ゲレロ達が何か言っているが、無視だ。俺は今、全神経を集中して、おかしなイベントが発生しないか警戒している。何かあれば隣を歩くアーリットを即投げつけて、その場を離脱だ。
む!あの身なりのいいオッサンは・・・・多分貴族だ!
「・・・・・・あ、あのベイルさん。凄く歩きにくいんですけど?」
「うるせえ、黙って歩け。それであの貴族のオッサンから俺を守れ!」
アーリットの体の陰に隠れてオッサンをやり過ごす。ふう、なんとかやり過ごしたな。
「貴族がこんな所歩いてる訳ねえんだけど?普通馬車乗ってるだろ」
「うるせえ、ペコー。もしかしたら野良の貴族かもしれねえだろ」
「野良の貴族って何だよ。もうそれ貴族じゃねえだろ」
そうして貴族に絡まれそうな危ない場面を何度も躱した俺は、ようやく領都の組合に辿り着いた。
「何かやり切った顔しているけど、貴族なんて一度も見なかったよ」
うるせえ、モレリア。俺が貴族だって思えば全員貴族なんだよ。
「うお!何だあいつら?」
「移籍か?」
「見た事ねえ連中だ」
「14人か、中々でかいパーティじゃねえか」
いつもと逆でここじゃ俺達が見ない顔だからな。組合に入ると組合中から注目される。まあ、一番ガラの悪くてデカいのが先頭歩いているから嫌でも目立つしな。しかもトレオンとかハイーシャが周りに威嚇しまくってる。その姿は正にチンピラ。恥ずかしいから仲間と思われないように離れてよう。
「よう」
受付まで行くと組合長が左腕を机の上にドン!と置いて受付嬢に声をかける。
「はい。どう・・・・・しま・・したか?」
書類仕事をしていた受付嬢が笑顔で顔をあげたけど、組合長の顔を見た瞬間その笑顔が引き攣った。目の前に組合長の顔があったら怖いもんね。ウチも未だに新人ちゃんは顔が引き攣るから仕方ないね。
そんでアウグとペコーは組合長の両隣から受付嬢を睨みつけて何がしてえんだよ。やめろよ。受付嬢威嚇すんな。ほら、組合長からゲンコツが落ちた。
「こらああ!馬鹿共!コーバスじゃねえんだから受付嬢を試すな!」
こいつら、新人の組合員だけじゃなくて、受付嬢にも試験みたいな事してんの?
「ウチのモンが悪いな。俺はコーバスの組合長ジーク。そっちの組合長のチャタルに会いに来た。呼んでくれるか?」
「は、はい。すぐに聞いてきます」
慌てた様子で受付嬢は席を外しどこか行った。
「待ってる間に、依頼処理しておくぞ。姉ちゃん達、悪いな、こいつらの護衛依頼達成処理しておいてくれ」
こちらをチラチラ見ながら様子を伺っていた別の受付嬢二人に、組合長が声をかけると、引き攣った笑顔でこちらに来て、処理をしてくれる。そんな顔されるとこっちが悪い事している気分になってくるぜ。
「アーリット!お前らは処理が終われば解散だ。コーバスに戻ったら3級の手続きをしておけ」
「やったぜ!」
「よし!」
「でもどうする?このまま帰るのも勿体なくない?」
「明日一日ぐらいはゆっくりしたいですね」
「いいね!それで明後日帰ろうよ」
昇格に喜ぶアーリット達。俺達にもあんな時期があったなあ。ここにいる連中はもう上なんて目指してねえから、あの姿は眩しいぜ。俺等は今じゃ日々適当に暮らして今の地位を維持しているだけだ。多分、降格しても『あちゃあ、落ちちゃったか』ぐらいにしか思わねえ。まあ、アーリット達もいずれ俺たちみたいになるんだろう。
・・・・そう言えばあいつら6級目指してるんだったな。っていうか3級にあがんの早くねえ?まだあいつら組合員になって1年ぐらいだろ。
「なあ、トレオン。アーリット達3級にあがんの早くねえ?」
「そう言えばそうだな。でも聞いた話じゃ、あいつら結構休みなしで、連続して依頼受けてるみたいだから、そんなもんじゃねえ?」
マジかよ。無級や1級はそういう奴らも多いけど、2級でやってる奴はほとんどいねえぞ。だいたい次の依頼までに1日は休みを入れるのが普通だ。俺なんて3日はのんびりしてる。
「あ、あの組合長がこちらにと・・・」
驚いていると、最初の受付嬢が戻って来て、俺達をどこかに案内してくれる。そうして案内された場所は会議室だった。その奥には中々ダンディな髭のオッサンが座っていた。俺達が部屋に入ると、ニヤリと笑い組合長に話しかける。
「久しぶりだな。ジーク」
「忙しいのに呼び出すんじゃねえよ。チャタル」
「いやあ、疲れたぜ。姉ちゃん悪いけど、エール持って来てくれねえ?」
そう言って案内してくれた受付嬢に100ジェリー渡す。
「おい!ベイル!こういう時は全員分金出せよ!何、自分だけ飲もうとしてんだ?」
「うるせえ!何でお前らに奢らねえといけねえんだよ。そんなに言うならハイーシャが金出せよ!」
「ふざけんな!何で俺が奢らないといけねえんだよ」
「まあ、待て、落ち着け。こういう時は級が上の奴が奢るって決まってんだ。って事でゲレロかモレリア。どっちが金出す?」
「死ね」
「ペコーから奪ってあげようか?」
「おい、ジーク。こいつらは普段からこんな感じなのか?」
「ああ、ふてぶてしい連中だろ?・・・てめえら、俺が金出すから大人しく座っとけ!!」
「イエーイ!」、「流石、組合長」、「話が分かるぜ」、「タダ酒だー」
「まるで子供だな」
「だから俺がお守でついてきたんだよ。こいつらに貴重な魔道具運ばせるなんて出来ねえからな」
「魔道具持ってこいって話なのに、わざわざお前が来た理由がそれか?職員でも良かっただろ?」
何だよ。組合長が来る必要無かったんじゃねえか。
「お前の所のが待ち伏せしてんのが分かってんのに、任せられる訳ねえだろ」
「それについては悪かった。一応あいつらの言い分を信じない訳にはいかなかったからな」
「まあ、組合の規定だからしょうがねえよ。ただ、あんなんが領都最強ってどうなってんだよ?」
「悪いな。周りにライバルがいなくなったら増長した。よくあるパターンだ。何度も注意はしてたんだけどな。まあ、それでも流石に余所の組合長に手は出さなかったようで安心したぜ」
ああ?領都の組合長何言ってんだ?
「それなら襲ってきた連中は、全員野盗として処理したぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・は?」
「トレオン、見せてやれ」
組合長からの指示でトレオンは荷物から取り出した袋をひっくり返し、中の員証を机にぶちまける。雑だなあ。もうちょっと、丁寧に出せよ。
「う、嘘だろ。・・・・これ全部ウチの連中の員証か?」
「さあ、お前の所のかは知らんが、『さらに先へ』がいたのは確かだ。まあ、見た方が早いだろ」
そう言って組合長は例の記録できる魔道具を手渡す。見終わるまで俺達待ってないといけないのか?
「お前ら、これなら今日中に解放できそうだ。そしたらどうする?」
「俺は5日ぐらい遊んでから帰るぜ」
ゲレロは領都の夜を満喫するつもりだ。
「僕もゲレロと同じくと言いたいけど、お金借りれなかったから、明日のんびりして明後日には帰るよ」
「俺たちは賭場と馬で遊んでから帰るぜ。帰りはいつになるか分かんねえ」
モレリアは大人しく帰るみたいで、トレオン達残りはギャンブルか。そんで俺か、俺は・・・
「俺は明日帰る」
これだな。やっぱり貴族が怖えからな。さっさとコーバス帰ってゆっくりした方がマシだ。
「はあ?何でだよ。ベイル。俺と馬行く約束だろ」
「まあ、チラッと見るぐらいはするさ。でも、知らねえデカい街は貴族が怖えからな。さっさと帰らせてもらうぜ」
まあ、この点に関しちゃビビりだと思って貰っても構わねえ。俺はそんだけ貴族がトラウマになってんだよ。
そんな話をしているうちに、領都の組合長が記録を見終わったみたいだ。
「見終わったぞ。ジーク」
「そうか、それで何かいう事あるか?チャタル」
「一つだけ、今回の件、こっちが全面的に悪い。謝罪させてもらう」
そう言って領都の組合長が頭を下げた。
「うん?って事はこれで僕らは自由にしていいって事かい?」
「ああ、そうだ。もうお前ら好きにしていいぞ。俺はもうちょいこいつと話がある。帰りは俺は馬車で帰るから、お前ら気にせず気を付けて帰れよ」
って事で、俺等は無事解放される事となった。長引かなくて良かったぜ。




