49.領都②
「本当にありがとうございます。ベイルさん」
「あの時の厳しい言葉から俺ら頑張ったんだぜ!成長した所見せてやるぜ」
「ベイル、ありがとう。って言いたいけど、何か裏がない?」
「ベイル先生。ここからどう卑怯技に繋がるかしっかり勉強させてもらいます」
「・・・・・・」
朝、眠い目をこすりながら門に行くと、早朝だというのに元気一杯の若者パーティ『全てに打ち勝つ』が待っていた。朝から元気だなあ。他にも昨日の連中が何人かいるが、みんな眠そうだ。
さて、何故『全てに打ち勝つ』の連中がここにいるのか・・・その答えは、昨日俺が組合長にお願いしたからだ。昨日の話で、貴族に絡まれる可能性はかなり低いと分かっていても、ゼロではない。その為のこいつらだ。こいつらの主人公体質なら、貴族イベントは全てこいつらに吸い寄せられるだろう。万が一俺の所に来ても擦り付ければいいだけだ。
こいつらには護衛試験だって言ってある。
そんな考えがあるとは欠片も思っていない、純真無垢なアーリットとクイトは素直にお礼を言ってくる。エルメトラ神は流石だ。俺の企みに感づいている。
そしてエフィル、先生はやめろ。卑怯技教えたら、妙に懐きやがって。そして、ここから卑怯技に繋げるつもりは無いぞ。っていうかどうやって繋げるんだよ、俺が知りてえわ。
そして、・・・・一人離れた所で会釈だけするザリアは、どうしたらいいんだ?
「おはよう、みんな。遅れてる奴は誰もいないな?」
アーリット達に挨拶していると、すぐに組合長達が馬車を連れてやってきた。ただ、御者がトレオンとか似合ってねえ。っていうか何で馬車あるのに護衛対象が外歩いてんだ?
「中でモレリアが寝てんだよ。シリトラ達が朝、担いできたんだが全く目を覚まさねえ。遅れる訳にもいかねえから馬車に放り込んである」
モレリアの奴フリーダム過ぎんだろ。こいつ何で4級でやっていけてんだ?そんで何で組合長ガチ装備なんですかねえ?
「久しぶりに現役時代を思い出したいからな。魔物が出ても俺がいいって言うまで手を出すなよ。馬車は使いたい奴が使っていいぞ」
そう言って護衛対象は一人で先頭を歩き始めた・・・あれ?これってアーリット達の護衛試験も兼ねるはずだよな?
「こ、こういう場合ってどうすればいいんだろう」
「俺は組合長だと思うぜ」
「で、でも依頼主は馬車の荷を大事にする人もいるわよ」
ほら、ヒヨッコ共が混乱してんぞ。今回は組合長直々に試験官するって言ったから言われた通りでいいんじゃねえ?
「なあ、これって俺ら護衛の意味あんのか?」
「良く考えれば組合長は、俺らより強いから守る意味なくねえか?」
「いや、でも例の馬鹿共が襲ってくるんだろ。それまでのんびりしとけばいいんじゃね」
「ああ、そう言えばそうだったな。それにしてもここまで意味不明な依頼初めて受けたぜ」
アウグの言う通り、護衛対象が先頭を進み戦闘し、護衛が馬車で寝ている護衛試験。マジで意味分かんねえ。
■
「取り敢えず今日の襲撃はねえだろう。って言っても油断すんなよ」
「「「「ういーす」」」」
日暮れまで移動し、今日の野営地で組合長が全員に声をかける。その顔はいつもより晴れやかだ。
「しかし本当に俺達の出番無かったな」
「マジで一人で魔物倒してくんだもん。普段の護衛もこれぐらい暇ならいいのにな」
「いやあ、馬車で寝ているだけで一日終わっちゃったよ」
「モレリアの奴、これで金貰えるなんてずるくねえ?」
モレリアの奴、昼過ぎまで寝てやがったからな。しかもその後は馬車でダラダラ過ごしているだけだし、文句言われるのは当然だ。
「あ、あの組合長。僕らはどうするのが正解だったんでしょう?」
のんびりした空気の中、ちょっと暗い雰囲気はアーリット達だ。そりゃあ、護衛対象から手を出すなって言われたらどうしていいかわかんねえもんな。
「ああ、お前らは襲撃あるまで適当に馬車でも守ってろ。『快適』や『全力』に護衛依頼はきっちり教わったって聞いたからな。この護衛試験は合格にしてやる」
ええー。組合長適当過ぎねえ?しかもそれ真面目に試験受けた連中が怒るんじゃね?
「組合長、そりゃあズルくねえか?試験は試験でちゃんと見ないとマズいだろ?」
それを聞いて、ハイーシャ達が騒ぎ出す。こいつらもトレオンと同じで後輩の面倒見がいい奴らだ。よく試験官の依頼受けて、公正な判断する奴らってリリーから聞いたから、組合長の判断には異論があるだろう。
「お前ら、知らねえのか?こいつら無償で『快適』や『全力』の護衛依頼ついて行って教えてもらってんだぞ?ここまでする奴聞いた事ねえだろ。実際『快適』や『全力』からも、もう十分護衛依頼受けれるってお墨付きだ」
組合長の言葉にアウグ達が驚く。俺も最初聞いた時はアーリット達馬鹿じゃねえのか?って驚いたからな。
「ええ?お前らそこまでしてんのか?」
「無償って何やってんだよ。ちゃんと飯食えてんのか?」
「そこまでしてんなら文句はねえな」
「すげえな」
「いえ、ちょっとベイルさんに厳しく指導されて、自分たちの甘さに気付いたので、色々考えた結果です。でも組合長にそう言って貰えてよかった。僕らのやり方は間違ってなかったみたいです」
いや、組合員からすれば無償で動くなんて、かなり変わった方法だぞ。こいつら兵士になった方が合うと思うな。
「それじゃあ、野盗とか出てきても大丈夫なんだな?」
「はい、もうばっちりです。もし野盗が襲ってきたら、特訓の成果をお見せしますよ」
うわー。めっちゃ爽やかな顔して眩しすぎる。これが主人公か。まあ、そう意気込んでもアーリット達だけならまだしも、見ただけでガラの悪い連中が7人もいるんだ。野盗も襲ってこねえだろう。逆に俺達が野盗だと勘違いされるまである。
そんな会話がフラグになる訳もなく、旅は順調に進み3日目野営地でいつものように寛いでいると、組合長が話を始める。
「俺の予想じゃ明日の早い時間に襲撃されると思う。明日は出発前にしっかり装備を整えておけ」
何で明日の襲撃とか分かるんだ?
「そりゃあ、向こうの狙いは組合長の持つ魔道具だと言っても、俺達への復讐が狙いだ。夜に紛れてコソコソ襲ってくると思うか?明るい所で道を塞いでるに決まってるじゃねえか」
ああ、言われてみれば想像できるな。大量の助っ人用意して、どや顔で道を塞いでいる連中の顔が。
・・・顔
・・・どんな面してたっけ?
「トレオンも組合長に説明されなくて良く分かったな」
「斥候だから当り前だっての。敵の動きを予想しねえと見つかるじゃねえか」
そういうもんなのか。良く分かんねえ。俺はいっつも出たとこ勝負だからな。
「それに今日こっちを見てる奴がいたしな」
「ああ、あれは気のせいじゃなかったんだ。僕も気づいたけど、みんな何も言わないから放置していたよ」
「組合長から指示が無かったんだ、放置で正解だ」
・・・・え?そんな奴いた?モレリアもゲレロも気付いてたの?っていうか気付いてねえの俺だけ?
「そ、そうだぞ、モレリア。そう言うのは基本放置だ」
「いえ、それは違いますよ。ベイルさん。野盗のアジトを探す場合は逆に捕まえに行かないといけません」
おい!アーリット!勝手に会話に入ってくんじゃねえ!
「・・・ベイル。君、本当に気付いてた?」
「ば、ば、馬鹿言うな!モレリア!俺が気付かねえわけねだろ!」
「・・・・何人だった?」
「え?」
「斥候の数さ。あれだけいたら正確な数は分からなかったけど、ベイルは分かったのかい?」
「あ、当り前だろ!俺はもう昨日の時点からバッチリよ!」
『あれだけいた』って事は結構な数がいたって事だろう。っていうかそんな大人数で斥候ってするもんなの?一人か二人じゃねえの?・・・・いや、待て、さっきアーリットがたまに捕まえに行くって言ってたな。って事は迎え撃つ為にある程度の戦力はいるって事か!
「う、うーん。俺も正確な数は良く分かんなかったがけど、20人ぐらいはいたんじゃねえ?」
「「「20!!!」」」
「はい、嘘吐きは見つかったね」
驚く連中とドヤ顔のモレリアの顔を見て、俺は自分の失敗に気付いた。
「ガハハハッ!斥候20人って、そんなにいて何すんだよ」
「腹痛え!20人もいたら斥候じゃなくて、そのまま襲えばいいじゃねえか」
「そんで戻ったらボスは20人から同じ報告受けんのか?」
「アハハ!報告聞き終わるだけで状況が変わるじゃねえか」
「昨日からこっち見てる20人の集団か。逆に怖えよ!」
「やべえ、俺もそんな集団見たら全力で逃げるわ」
くそー。何でモレリアに対抗心燃やして、俺はこんなすぐバレる嘘吐いたんだ。やめとけば良かった。こいつら、揶揄うネタがあると、かなり引っ張るから鬱陶しいんだよ。だから、こういう時は・・・
「うるせえ!俺はもう寝る!」
伝家の宝刀『相手にしない』だ!これが一番!
「アハハ!ベイルが怒ったぜ」
「ふて寝しやがった!」
「ここまで基本に忠実なふて寝なんて初めて見たぜ」
うるせえー。
「斥候20人・・・そう言った状況も考えておけって事ですね」
違えよ。アーリットは馬鹿だろ。
「斥候が20人。これはもう卑怯技と言ってもいいのでは?」
よくねえよ!エフィル!お前ももう寝ろ。
この話は、コーバスに戻ってから、当然こいつらが面白可笑しく話をするもんだから、全員に知られる事になった。そしてこの話は後日・・・
「○○!ちょっと先に行って様子を見てきてくれ!」
「分かった。残りの19人は誰にする?」
「仲間そんなにいねえよww」
とか言う、斥候出る前の鉄板ネタになっちまった。




