48.領都①
「忙しい・・・くもない暇なお前らに、今日集まってもらったのは、このメンツ見れば分かるだろう」
緊急招集掛けられて組合に来てみれば、組合長からこの言葉だ。もう帰っていいか?
「俺らも暇じゃねえんだぞ!」
「そうだよ!僕とゲレロのジェリー勝負、僕が優勢だったんだよ!」
「嘘吐け、モレリア!俺の圧勝だったじゃねえか」
「俺らもまだレース残ってんだぞ!早く済ませろよ!」
「「「「そうだ!そうだ!」」」」
・・・・お前らみんな暇してたんじゃねえか。俺?俺は宿に引き籠って、例の仮面のマスク型の開発を徹夜でしてたんだよ。
「で?このメンツは何だい?僕には思いつかないねえ」
部屋にいるのは俺、ゲレロ、トレオン、モレリアと3級のアウグ、ハイーシャ、ヒビット、ペコー。こいつらはよくトレオンと一緒に新人裏試験やってる悪人面した連中だ。
「この間領都から来た連中とやり合っただろうが!」
「ああ、領都最強とか嘘ばっかり言ってた奴らか」
「嘘じゃねえよ!あいつらマジで領都最強だっての!」
「トレオン、負けたからって嘘は良くねえぞ、あんなんくそ雑魚だったじゃねえか」
「駄目だよ!ゲレロ。それに負けたのが5人もいるんだから・・・フフフ」
ゲレロとモレリアが煽る。何でこいつら余計な一言が多いんだ?
「ケッ!俺らのハイエナした奴らに言われたくねえな」
「だな、お前らが勝てたのは俺らがダメージ与えてたからだろ?」
アウグ達もそれを聞いて煽り返す。
「よし!なら今から試してやろうか?」
「相手してあげるよ」
だから何でてめえらは、そんなに喧嘩したがるんだよ。面倒くせえ。っていうかもう帰って寝ていいか?
「黙れ!てめえら!下らねえことで・・・ってあれ?ベイル?こういう時に率先して喧嘩始めるお前がどうした?腐ったもんでも食ったか?」
「食ってねえよ!徹夜したから眠いんだよ!」
組合長も失礼だな。俺は周りを客観的に見れる男だぜ。下らねえ事で言い争ったりしねえの。
「ベイルが徹夜・・・・何が原因だ?」
「エロい女と一晩ヤリまくってったんじゃ・・・・いや、そりゃあ、ねえか」
「昨日、色町に来てるなんて聞いてねえから違うな」
「賭場・・・にはいなかったな」
「分かった!最近噂の廃墟だよ!あの一家心中してその亡霊が出るって噂の!」
「ああ、あそこか。誰かに煽られて一人で突撃した」
「勢いで行ったはいいけど、帰ってから怖くなって寝れなかった」
「あるな」
「ねえよ!!お前ら!俺を何だと思ってんだ!」
アンデッドなんて聖水かければ余裕じゃねえか!前世と違って、こっちじゃ幽霊にビビんのガキぐらいしかいねえよ!
「取り敢えず話をすすめさせてもらうぞ。この前の連中は領都でもトップクラスの連中だ。まあ、あんまり行儀は良くなくて、嫌われていたらしいがな。それでも領都最強と名乗ってもおかしくねえ実力の奴らだ。そんな奴らがコーバスの連中に負けたなんて、馬鹿正直に言う訳なく、卑怯な手を使われて負けたって言ってるらしい。で、向こうの組合から呼び出しがかかった」
はあ?卑怯な手なんて、組合員なら当たり前に使うだろ。・・・まあ、あん時は使わなかったけど。
「具体的には『武器』や『魔法』使われたって言ってるらしい。こっちも魔道具でそれは無いって確認しているんだけどな」
「当り前だろ。使ったら除名されるじゃねえか」
そうそう、組合から除名されたら、こいつらゴロツキの行きつく先は野盗だ。そんで討伐されて死って未来しかねえ。みんなそれが分かっているから、組合での喧嘩のルールだけはしっかり守っている。守らなかった奴は大半が死んだ。ほとんど野盗になったから、野盗絶対殺すマンのティッチ達が殺ったんだけどな。
「それでこの魔道具持って連中の嘘を暴きに行くつもりだ。だが、俺の予想じゃこの呼び出しは組合を上手く利用した罠だ。多分道中で連中が襲ってくる。そりゃあ、この魔道具見たら一発で嘘がバレるからな。そこでお前らに護衛を依頼したい。今度は街の外だからな、何でもありの勝負になるぜ」
「よっしゃあ!受けるぜその依頼!」
「あいつらに今度は本当の実力見せてやるぜ」
あいつらに負けたトレオン達5人はやる気満々で受けるみたいだ。
「弱かったからあんまり楽しめそうじゃねえが、好き勝手言われるのも気に食わねえから受けるぜ」
「僕はシリトラに確認してからかな。ちょっと聞いてからにするよ」
ゲレロは即答、モレリアは保留か。俺は当然、
「その依頼は受けねえ」
断る一択だ。
「ええええ!な、何でだよ!ベイル!」
「お前なら喜んで受ける依頼だろ」
「人をボコボコにして、身ぐるみ剥ぐのが3度の飯より好きなお前が?」
「こいつやっぱり腐った物でも食ったんじゃねえの?」
「こいつベイルか?」
負け犬共が驚いている。俺はどういう人間だと思われてんだ。
「・・・ああ、領都か」
「・・・・そっかあ。ベイルって領都に行くと死ぬ病気だったね」
そんな病気はねえ。
「単純に貴族が多い場所に行きたくねえだけだ」
領都とか王都とかデカい街に行くと、貴族イベントが起こるってのは定番だからな。
「何だよ。貴族如きにビビってんのかよ!天下の『3落ち』様も情けねえな!」
「いやあ、ビビってる訳じゃないけど、あいつらマジで理解不能な生物だからな。関わりたくねえんだよ。っていうか天下の『3落ち』って何だよ。強いのか弱いのか良く分かんねえ変な称号つけんじゃねえよ!アウグ!」
「っていうか貴族なんて、どこ行ってもそうそう会えるもんじゃねえぞ。あいつら下町来る事ねえからな。コーバスも領都も王都も同じだぞ」
トレオンの奴、領都だけじゃなくて王都まで行った事あんのか。
「うーん。僕も王都にいた事あるけど、貴族は見た事なかったな。」
「前から思ってたけど、ベイルって異常に貴族避けるよな。昔の事はどうでもいいが、お前の中の貴族ってどんなんなんだ?」
ハイーシャの言葉にトレオンやピコ―がうんうん頷いている。聞きたいのか?
「俺の中の貴族は、目についた平民を斬り殺してるイメージだな」
・・・・・
「おいおい、辻切りかよ」
「そりゃあ、怖ええよ」
「ベイルの中の貴族やべえな。そりゃあ貴族避けるわ」
「俺でもそんな貴族がいたら、危な過ぎて近づかねえよ」
こいつら信じてねえが、マジで俺の故郷の貴族がこれなんだよ。気まぐれに平民を斬り殺したり、女は強引に屋敷に連れ込んで、楽しむだけ楽しんだら後はポイッってしてたんだよな。
「そんな貴族いねえって」
ヒビットさんよお。信じられねえと思うが、俺の故郷には、そんな貴族がわんさかいるんだよ。
「まあ、そんな貴族いたら、即逮捕だな」
「マジで?貴族って逮捕されんの?」
何しようが貴族が逮捕されたなんて聞いた事ねえんだけど。あいつら平民に対しては『不敬罪』の一言で全てが許される存在だと思ってた。
「当り前だ!貴族は色々特権は持っているが、正当な理由なく人を殺せば俺達と同じで裁かれる」
マジかよ。組合長が言うなら、そうなんだろうけどちょっと信じられねえな。
「ベイルってどこで育ったんだ?」
「知らねえ。気付いたら俺の言う貴族が大勢いる国のスラムにいた。そこから適当に街から街へ移動して住み付いて、居心地悪くなったら移動してを繰り返してたらコーバスに着いたからな」
そういう設定にしている。
「まあ、ベイルの過去はどうでもいいが、お前とゲレロには絶対ついて来い」
「ええー。何でですか?」
「お前らがリーダー倒しただろ。向こうの組合長が詳しく話を聞きたいそうだ」
「それならゲレロが倒した事にしていいぜ。それで俺が行く必要がなくなる」
俺って頭いい。しかも手柄をゲレロに譲ってやるなんて組合員の鑑だな。
「あんな雑魚倒した手柄なんていらねえよ。譲られる方が情けねえ」
おい、遠慮すんな。素直に受け取っておけ。
「馬鹿野郎、既に領都の組合にも話が知られているから、今更変えられねえよ」
そうか、そう言えば、領都最強とか嘘吐き共が嘘報告してんだったな。面倒くせえ。何とか行かなくて済む方法はねえかな?
「逃げようとしても無駄だぞ。ベイル。お前は縛ってでも連れていく。なあに心配すんな。お前の言う貴族なんて、この国にはいねえよ・・・・・・多分」
おい!最後!
「いいじゃねえか。ベイル。領都の馬や賭場はここと規模が違うから、楽しみにしとけ」
・・・トレオンの誘いに乗るのはムカつくが、ちょっと気になるじゃねえか。でも、こいつ王都や領都までギャンブルしに行ってるのか?引くわー。ギャンブル好きじゃなくて中毒者だな。
「領都かー。最高級娼館通うと貯金減るなあー。どうすっかなー」
「シリトラからOK貰えたら、お金借りに行かないと」
ゲレロとモレリアは領都の夜を満喫するつもりだ。でも悩んだり、借金するぐらいなら我慢しろよ。
「って訳で、明日出発だ。朝、門が開いたと同時に出発だ」
「早くねえ?っていうか受けるなんて言ってねえんだけど?」
「既に依頼の処理は終わっている。もし明日来なかったら依頼は失敗で罰金払ってもらうからな」
ええー。ちょっとこの一つ目オーガ横暴じゃねえ?
「この忙しい時に俺が領都から呼び出し受けたのは誰のせいだ?」
・・・・・・・だ、誰だろうな。強いて言えば領都最強の馬鹿共のせいだな。うん。
「ちくしょう。分かったよ。受けますよ。でも組合長、俺からも一つ我儘言わせてもらいますよ」
俺の言葉に組合長が目を細める。そんなに警戒しなくても大した事ではない。
まあ、俺にとってはとっても重要な事だけどな




