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38.森の異変 その後①

 その後も特にトラブルもなく街に無事に街に戻ったんだが、街の入り口には地竜を一目見ようと物凄い人が集まっていた。当然その中には素材をかすめ取ろうとか考えている連中もいるので、警戒しながら解体場に素材を運び込む。


 ここまで運び込めば、一安心だ。そして解体場には組合長やリリー、他の職員も大勢集まっていた。


「おお!お前らご苦労だったな!しかし俺も地竜は倒した事はあるが、二匹同時は初めて見たぜ。聞いてはいたが、こうやって見るとすげえな」

「こ、これが地竜・・・こんなの倒せるんですか?」

「すごーい。大きいー。」

「これ一匹どれぐらいで売れるんでしょう・・・」


 組合長が俺らに労いの言葉をかけてくれる中、職員達は地竜の素材を見ながら口々に感想を述べている。


「悪いな。職員には素材に触れないように言ってあるから、見学だけさせてくれ。王都にでもいれば見る機会もあるんだが、コーバスじゃ今後地竜なんて出ねえだろうからな」


 これも研修の一環って奴か?俺は故郷でさんざん竜種と戦ったから珍しくもねえけど、コーバスじゃ珍しいみたいだ。


「組合長!何で王都だと見る機会があるんですか?」


 組合長の言葉にアーリットが手を挙げて質問する。


「そりゃあ、王都には5級や他にも腕利きの組合員が大勢いるからだよ。もしコーバスで対応できねえってなったら王都にある組合本部に助けを求めるんだ。そうすると、本部から5級や腕利きの組合員が応援にくる。当然魔物は倒した奴のもんだから、王都まで運び込まれる。だから、普段目にしない素材も王都だと見る機会があるって訳だ」


 へえー。そいつは知らなかった。


「ここだけの話、出来ればこの街の事はこの街で、最悪領内でどうにかしてえんだ。俺も現役の時は知らなかったけど、王都に応援頼むと諸費用とかで結構金がかかんだ。そんで素材まで持ってかれるから組合としては赤字覚悟で頼まなきゃならねえからな」


 どうでもいい裏話を組合長から聞いてアーリットは満足げに頷いている。今の話なんか役に立ったのか?

 そして組合長は改めて解体された地竜の方を向くと、何かに気付いたようで歩き始めた。そして足を止めたのは、鼻がはじけ飛んだ地竜の頭の一部と、指が一本無い手首から先の部分。要するに俺が引きちぎった所と、ぶん殴った所だ。


「す、凄えな。報告は聞いたが、本当にこれやったのは女なんだよな?」

「ええ、顔は仮面でみえませんでしたが、体形から女だと判断しました」

「俺が現役の時でもこれは無理だぞ。どんだけ馬鹿力なんだ・・・」


 座ってしばらくぶつぶつ何か独り言を言っていた組合長だったが、立ち上がると近くの職員に何やら指示を出し始めた。どうやらこの二つは例の魔道具で記録して本部に送るそうだ。そうして組合長が指示を出し終わると、いよいよお待ちかねの報酬の話だ。


「よーし、お前ら!これから組合で報酬の話をする。別についてこなくても構わねえが、後で文句言ってくるなよ!」


 そう言われちゃあ、当たり前だけど全員が組合に移動を開始するに決まっている。そして、組合長から今回の報酬について発表があった。


 最初の依頼通り運搬担当の2級の報酬は一人30万ジェリー、戦闘に参加した面子は120万ジェリーが支払われるそうだ。全部で組合員は250人ぐらいだろ。そのうち運搬担当が100人ぐらいだったから、組合の取り分考えると地竜の報酬3億ぐらいか。


「俺の経験から地竜1匹3億程度だと考えている。お前らへの報酬はだいたい2億ジェリーで、1億近くが組合の取り分になっているが、戦闘組に配った上級ポーションの費用も含まれているって事を理解してくれ。まあ、俺の思っていた以上に高値がついたら当然お前らにも後日追加報酬払ってやる。逆にあんまり高値がつかなくても報酬返せなんて事は言わねえから安心しろ」


 組合長上手い言い方すんなあ。これなら俺ら組合員に不満が出る事はねえ。


「そしてもう一匹の方は、残って戦った奴らに250万の報酬を支払う」


 こっちの方は当然だけど色んな奴から不満の声があがった。


「組合長!何でこいつらだけなんだ!不公平だろ!」

「そうだ!俺らは撤退の合図に従っただけだ!」


「お前らへの依頼報酬は今、言った通りだ。戦闘に参加しなかった奴にも平等に報酬は渡したはずだ。そしてもう一匹については、誰が倒した?」

「え?謎の女だろ?」

「そう、横槍入れてきたから交渉の余地があるが、本来であれば地竜は丸ごとその女のものだ。話を聞く限り、その女がいなければ全滅してたって話だしな。ただ、その女は倒した地竜をその場に残してどっか行ったんだ。そうすると、その地竜は見つけた奴のものになるよな。だからあの時、あの場にいた全員に平等に配るだけだ。俺は何かおかしい事言っているか?」


 そうか、俺が消えたからあの地竜は落とし物扱いになるんだな。死んだ魔物や組合員見つけたら、その素材や装備は見つけた奴のものってルールだからな。それなら誰も組合長に文句は言えねえはずだ。唯一文句言えるのは俺こと謎の女だけだけど、言うつもりねえしな。


 組合長の説明に納得したのか引き下がる連中に、組合長が低い声で脅しをかけてきた。


「分かっていると思うが、この件で組合員同士でトラブル起こして、『二刀』の時みたいに俺をキレさせるなよ」

「わ、分かってますって」

「そ、そうそう、報酬はちゃんと貰えるんですから変な欲かきませんって」

「流石に組合長の怒りは買いたくねえ」


 引き下がる連中の中で、俺よりベテランの連中がひきつった顔で組合長に答える。


「なあ、モレリア。『二刀』の時って何かあったのか?」

「ああ、その頃ベイルはまだ無級だったか。それなら知らなくて当然だけど、『二刀』の話って知っているかい?」

「ああ、何か強いオーガで、王都周辺にいたって話なのに、いきなりコーバスにでて大騒ぎになった奴だろ。それを組合長が倒した」

「そう、当時この街所属の4級がたまたま全員街から離れていたから、引退直後だった組合長がでて討伐したんだ。それでその報酬の分配で揉めに揉めたんだよ。当時はまだこの街はヤンチャな組合員も多くてね、報酬に不満を持った連中が他の組合員から金を奪おうとするトラブルが多発して、激怒した組合長がそいつらボコボコにして街から追放したって話さ」


 へえー。揉めてたのは知ってたが、俺が草むしりとか頑張ってた時にそんな事があったんだな。今じゃそんな事したら組合長じゃなくてティッチ達が喜んでボコボコにするだろう。そんでそのティッチ達なんだが、なにやら暗い顔をしている。まだ疲れてんのか?


「それから!話を聞きたいから、明日は依頼を受けずに全員街から出るな。飯は組合で出してやる。呼べばいつでもパーティで来れるようにしておけ」


 全員に話を聞きたいって俺も呼ばれんのかよ。面倒くせえな。かといってこの調子じゃ依頼受けれねえだろう。最悪買取拒否されるかもしれねえから言う事聞くしかねえか。



 翌日、俺らは順番にパーティ単位で呼ばれて組合長から話を聞かれた。俺は一回話をしているから、同じ事を話すだけだ。


「・・・ってわけで『全力』と別れてからは街道目指して、街道出たらまっすぐ戻ってきたんすよ。途中何も変な事は無かったはずですよ」

「うーん。まあこの間聞いた通りか、『全力』の報告とも違いはねえな。問題は『全力』と別れてからだ。ベイル、お前本当に何もおかしな奴とか見なかったか?」

「うーん。マジで見てないですね。話に聞いたその謎の女、見かけりゃ絶対忘れないですよ」

「その女以外でもだ!何かの違和感でも構わん。取り合えず思い出したら報告しろ。そして最後に一つ。あの時のメンバーの中で妙に荷物が多い奴とかいなかったか?」

「・・・うーん。特に気になる奴はいなかったかなあ」


 話はそれで終わった。組合長の様子からだと、あんまり情報が集まってるようには見えなかった。よしよし。


 そんで組合長室から出ると、馬鹿どもが下らねえことで白熱した議論を交わしていた。


 一つのグループは謎の女の通称を決めていた。


「だから『白』はいれねえと駄目だろ!」

「だな、あの姉ちゃんの代名詞と言えば『白』だしな」

「そうすると『白の女』とかってなるのか?」

「それってどっかの組合員でそう呼ばれている奴いなかったか?」

「その『白』が何を示しているか分からねえと駄目だろ」

「あと、あの高そうな所も分かるようにした方がよくねえ?」

「そうすっと『貴族風、白パンツ女』とか『高級白下着の女』とかか?」


・・・・


 ああだ、こうだ議論を交わしている連中を見て、俺は思った。


 こいつら馬鹿だ。


「お前ら何で白パンツに拘ってんだ?もし次黒パンツ履いてたらどうすんだ?」

「そんな訳ねえ。あの姉ちゃんは白パンツしか履かねえ、俺には分かる!」

「ベイルはあの女見てねえから、そんな事言えんだよ。あの姉ちゃんは白パンツに異常な拘り持ってんだ!」


 持ってねえよ。こいつらに何が分かんだよ。


「特徴的なのはパンツだけじゃねえんだろ。髪型もかなり特徴あったって聞いたぞ」

「はあ、これあだから素人は・・・」

「まあ、ベイル程度ならそう考えるだろうな」


 マジでこいつらムカつくな。メッチャ殴りてえ。でもここで喧嘩すんのも下らねえ。こいつらは放っておいて、もう一つの暗号解読している連中の所に行ってみるか。


「はあー。わかんないなあー」

「僕の方もお手上げだねえ」

「これって誰かが言ってたけど、分かる奴にしかわからねえんじゃねえのか?」

「言葉自体に意味は無いって事か」


 こっちはロッシュとモレリアを中心に、俺が適当に残した例の言葉を真剣に考えている。言った本人でさえ意味分かってねえから、当たり前だけど解読出来ていない。


 そうして全員が考えている中、一人の組合員が慌てた様子で組合に入ってきた。


「おーい!トートーに聞いてきたぞ!即答しやがった!やっぱりあいつ凄えよ」

「おお!何て言ってた?」


 話の内容からコーバス一の知将と呼ばれているトートーに暗号の解読を頼んだみたいだ。流石にあいつでも答えのない暗号なんて解けねえだろ。


「あいつが言うには『同じものは不要。その後変化を』だってさ。意味分かるか?」

「どういう意味だろ?」

「・・・『同じものは不要』ねえ・・・うん。もしかして!」


 トートーのよく分かんねえヒントに悩む中、ロッシュが何か思いついたみたいで例の言葉を紙に書いていく。


『私はどこにでもいてどこにもいない』


「あの女が言ったのはこの言葉でしょ。それに『同じものは不要』って言葉から、同じ文字は消していく」


そうしてロッシュが同じ文字に斜線を引いて消していくと、残った言葉は・・・


『私はでてない』


 何やら意味ありげな言葉だけが残った。


「おおー!」、「すげえ!」、「流石コーバス一の知将」


 ・・・いや、素直にすげえわ。何で言った本人が分かってねえ暗号を解読出来てんだ?意味わかんねえんだけど。


「でもこれどういう意味だ?『私はでてない』って」

「『でてない』ってうんこの事か?」

「お前馬鹿か!何で便秘なのを暗号化してんだよ」

「そりゃあ、便秘って知られると恥ずかしいだろ?なあ、モレリア?」

「何で僕に振った?ぶっとばされたいのかい?」

「そもそも何で暗号化してそれをわざわざ言いふらすんだよ。あの姉ちゃんはお前と違うんだよ」

「バカヤロー!人を便秘扱いすんじゃねえ!俺は毎日快適快便だよ!今日もケツ拭かなくてもいけるぐらいキレはバッチリよ!」

「聞いてねえよ!」

「汚ねえなあ。ケツぐらいちゃんと拭けよ」

「拭いてるつうの!今のは例え話なの!そんなのも分かんねえのか!頭便秘かよ!」

「ああ?そりゃあどういう意味だ!ケツ拭かず!」

「てめえ、ふざけた呼び方してんじゃねえ!」


 ・・・・おいおい、下らねえことで喧嘩始まっちまったよ。本当、組合員って馬鹿しかいねえな。


 周りで喧嘩が始まったけど、いつもの事なので、他の連中は気にせず暗号解読を続けている。


「『わたしはでてない』・・・これが仲間に向けた暗号なのか?」

「いや、これ自体が何か意味があるのかも・・・うーん。分かんねえ」

「ちょっと、待て!トートーの言葉に続きがあっただろ!『その後変化を』だ!って事はここからこの言葉を変化させねえといけねえって事じゃねえのか?」

「その変化ってどういう事だ?変えていいって事は文字か順番ぐらいしか思い浮かばねえぞ」

「・・・『わたしは泣いてで』・・・うーん違うなあ」

「・・・『わたし履いてなで』・・・この『で』が『い』に変わればいいんだけどなあ」

「そうすると『私履いてない』になるじゃねえか!馬鹿か!あの姉ちゃん白パンツ履いてただろ!」

「・・・『儂は出て泣いた』・・・意味が分かんないから違うかな」

「『師は出て泣いたわ』・・・これも意味が分かんないな」


 こいつら珍しくマジで考え込んでんな・・・答えなんて出る訳ねえのにな。


 そんな事を考えていたら、2級組合員のトラスが大声で叫んだ!


「分かった!分かったぜ!これは『は』を『を』に、『で』を『だ』に変えると『わたしをだてない』になるだろ。それを入れ替えると・・・・『私を抱いてな』ってなる!つまりあの姉ちゃん、次会った時、抱いてくれって俺達にお願いしてたんだよ」

「「「・・・・・」」」

 

・・・トラスって馬鹿で問題児だとは聞いてはいたけど、ここまでだったのか。今のトラスのやり方なら自分の都合の良いように変えられるじゃねえか。呆れる俺だったけど、組合員ってのは馬鹿しかいねえってのを忘れていたぜ。


「おいおい、トラス、お前天才かよ」

「普段は馬鹿っぽく見せて、ここぞとばかりで賢さアピールなんてお前中々やるな」

「コーバス一の知将の称号はお前のもんだ。これからはそう名乗っていいぞ」


 馬鹿どもが口々にトラスを褒めたたえるし、褒められたトラスも満足げな表情してやがる。もう、そっちはそっちでやっておいてくれ。


 呆れる俺に気付いたのかモレリアが話しかけてきた。


「こういう時に一番騒ぐベイルが珍しく静かだね。何かあったのかい?」

「いやー。だってよお、モレリア。話を聞いた限りだと、その謎の姉ちゃんって貴族の可能性が凄く高えって話だ。そんで今の話が耳にでも入ったらどうなるか分かんねえだろ。そんなん怖くて適当言えねえじゃねえか」




・・・・・



 俺の言葉に何故か全員沈黙する。


「馬鹿が!何が『私を抱いてな』だよ」

「え?」

「俺は何も言ってねえからな。トラスが一人で言ったことだからな!」

「え?え?」

「俺はその考えは間違っているぞってちゃんと言ったからな!」

「え?え?え?」

「取り合えずその助けてくれた美人で儚げなご令嬢が、お貴族様だった時はトラス一人で責任とれよ!俺らを巻き込むんじゃねえぞ!」


 俺とモレリアの会話が聞こえた手の平ドリルの連中が、さっきまで褒めていたトラスを見捨て始める。こいつらいい性格してるぜ。


 まあ、当たり前だけど暗号解読も、この調子ならどんどん明後日の方向に向かっていくから、安心していいだろう。


「そもそも『私はでてない』って、まだ『表にでてない』とか『正体は出てない』とか、そんな所なんじゃねえのか」

「おいおい、ベイルが珍しくまともな事言ってやがる」

「言われてみればそれが一番納得出来るな。こりゃあ『コーバス一の知将』の称号をベイルも狙ってんな」

「い、いや、俺はそんなの狙ってねえ。興味もねえからな」



 そうして俺が狙って無い事をしっかり否定して、周りが納得したので、ほっとしたのも束の間、ゲレロが服を持って組合に入ってきた。その両頬には何故か手の跡がはっきりわかるぐらい赤く腫れていた。


「お前ら!『例の物』手に入れてきたぜ!」

「おお!マジかよ!流石ゲレロだ!ってその顔どうしたんだ?」

「ちょっと、名誉の負傷って奴だ!そんな事よりこれを見ろ!『快楽亭』のメグから借りてきたもんだ!」


 そう言って机に広げたのは・・・まあ、あれだ、俺が変身した時に着ていたスカートと同じぐらいの長さのスカートだった。そして、もう一つ、こっちもあれだ。俺が変身した時に履いていたのと同じぐらい高そうなパンツだ。


 ゲレロの奴、何を考えてこんなもん持ってきたんだ?


「うおおおお!『快楽亭』って言えばコーバスでも一、二を争う高級娼館!その店のメグって売り上げトップ3常連の女じゃないっすか!そんな女の衣装と下着!ゲレロさん凄ええ!流石娼館を渡り歩いているだけの事はあるぜ!」


 ゲレロの説明を聞いて男たちが大喜びなんだけど・・・そんなにそのメグって女、有名なん?高級娼館って一晩15~20万ぐらいだから、俺でも数えるぐらいしか行った事ねえんだけど?何でこんなに知っている奴が多いんだ?


「ガハハハッ!まあ、そいつは今はどうでもいい。とにかく、お前らに言われたブツはちゃんと用意してやったぜ。そんでこれがあの謎の姉ちゃんの正体暴くのに役に立つんだろうな?」


 いや、これでどうやって正体暴くつもりなんだ?


「バッチシだ!あとはこれを着てくれる奴なんだけど・・・シリトラ・・・じゃあ、このスカートの短さの良さが消される。おめかししたガキにしか見えなくなるから駄目だな」

「よーし、トレオン!魔法を打ち込んであげるから表に出なさい」


 遠巻きに様子を伺っていたシリトラが、怒りだしたんだけど・・・。トレオン、ちゃんと責任とれよ。


「そうすると・・・モレリア!・・・じゃあ、スカートの下品さが乳の下品さに打ち消されちまうな」

「お!オールズ!喧嘩売ってるのかい?ぶっとばしてあげるよ」


 だから!何でこいつらは一言多いんだ?喧嘩売らないと生きていけねえのかよ。


「ちょっと待て!この衣装的に一番合うのはカルガーじゃねえか?確かにあの女より身長は低いが服のサイズ的にはピッタリだろ」

「・・・まあ、言われてみればそうか」

「ちょ、待つっす!何で自分が着る流れになっているんっすか!そんな娼婦みたいな恰好絶対しないっすからね!」

「何だよ!出し惜しみすんなよ!どうせ惜しまれる体してねえから、ちょっとぐらい良いじゃねえか!」

「よーし。ゲレロさん。泣くまで盾で殴りつけてやるっすから、覚悟するっすよ」


 だから、何でどいつもこいつも喧嘩売ってんだよ。


 結局、当たり前だけど、スカートを着てくれる女は無く、ゲレロ達が無駄にケガしただけの結果に終わった。・・・馬鹿じゃねえのか。


 そんで今はゲレロの持ってきた高級パンツと、モレリアが提供してくれた平民が履いている布切れパンツを並べて、みんなでパンツの検証に入っている所だ。・・・いや、もうこの状況に俺は何も言わねえぞ!


「やっぱり、こうやって並べて見ると全然違うな」

「そうだな。でも実際履いた時の違いも見たくねえか?」

「だなあ。カルガー、ちょっと履いて見せてくれねえか?」

「うん?ゲレロさん。まだ殴られ足りないっすか?」


 カルガーにセクハラしたゲレロは、再び盾で頭をどつかれる。学習しねえな、こいつ。


「この高そうなパンツって結局の所、いくらぐらいなんだ?」

「聞いた話じゃ2~3万らしいぞ」

「マジかよ!ただの布切れなのにそんな高えのか!」


 ゲレロの答えに周りの連中が驚いている。俺もそんなに高いとは思ってなかったので、びっくりしたぜ。


「そんじゃあ、こっちの安っぽいパンツはいくらぐらいなんだ?」

「多分500~2000ジェリーぐらいじゃねえ?俺らのパンツもそんなもんだろ?」

「いや、男と女じゃ値段が全然違うかもしれねえぞ」

「女のパンツなんて値段見た事ねえからなあ」



「ミーカ!実際の所、いくらぐらいだったんだい?」


 男たちが真剣に値段を話し合っていると、モレリアがミーカに質問した。その声が聞こえたのか、ああだこうだ言っていた男たちは急に押し黙り、聞き耳を立て始める。


「え?・・・は?も、モレリア先輩!そ、それってまさかとは思いますけど・・・・」

「ミーカのパンツだよ。昨日貸しを返してもらったじゃないか。忘れたのかい?」

「え・・・いや・・・だって服を一枚貢いでもらうって話だったじゃないですか」

「うん。だから一枚貰ったよ」

「・・・・きゃあああああ!バカ!モレリア先輩のバカああ!何で私のパンツ勝手に使っているんですか!自分の使って下さいよ!」

「いや、これもう、もらったから僕のものだよ。安心して、ちゃんと洗濯済みの奴を貰ったから!」

「何でちょっと『気を利かせた』みたいな顔してるんですか!最悪なんですけど!・・・男ども!それに触ったら射殺しますからね」


 ミーカが今にも人を殺しそうな顔でこっちを睨みつけるが、今の話を聞いて男たちは再び議論を始める。


「おいおい、これちょっと話が違ってくるんじゃねえか?」

「だよなあ。ってゲレロ!こっちの高いパンツはどうなんだ?」

「こっちは新品らしいぜ。俺が2万で売ってもらった」


 それなら店に行って買ってくればよかったじゃねえか!何でわざわざ娼婦から買ったんだよ。


「って事はこっちは正規の値段でいいな。だが、こっちのミーカのパンツは流す所に流せば同じぐらいの値段で売れるはずだ」

「いや、流石にそれは言い過ぎじゃねえか?元は安物だろ?」

「お前何も知らねえな。こんだけ出所がしっかりしているブツは高くなるんだよ。そんぐらい常識だぜ」


 いや、常識じゃねえよ!俺そんな事知らねえもん。それを知っているお前は何者なんだ?トラス?

 そもそも誰が履いてたかとかどうでもいいんじゃねえのか?目的は謎の女の手がかり掴む事じゃなかったのか?こいつらどんどん目的から離れていくな。まあ、別に俺はそれでいいんだけど。


 結局、みんな本来の目的を忘れて、ミーカのパンツはいくらで売れるのかという議論に変わり、トラスが2万で買ったので、結論が出て話は終わった。



・・・・・・



 マジでみんな馬鹿じゃねえのか?


 まあ、その様子を冷たい視線で見ていた女組合員達の方が、俺より強くそう思っていただろうけどな。

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