37.森の異変⑤
前の話の最後、アーリットとの会話忘れていたので追加しています。
ああ、恥ずかしかったあ。何で誰も『そういう意味か』とか『これは素直に教えるつもりは無いみたいですね』とか『ふふ、そう来ましたか』とか答えねえんだ!何でみんなアホ面してんだよ。知的キャラいねえのかよ・・・・いねえわ。よく考えればあいつらにそんなキャラ求める俺が間違ってたな。
少し遠回りしながら荷物を置いた所に降り荷物を拾うと、時間を調整しながら街へ向かう。
翌日街に戻った時には、既に戻ってきている奴がいて2匹の地竜の件は街に広まり、大騒ぎになっていた。
ただ、まだその二匹を討伐した知らせは来てないみたいだ。俺の予想じゃ、その知らせが来るのは今日の夕方ぐらいだろう。
そして、俺が慌てた様子で組合に飛び込むと、丁度『全力』が組合長室から出てくる所だった。
「よお!お前ら無事だったか!」
「おお、ベイル!お前も無事で良かったぜ。俺らの方に地竜は来なかったが、その様子だとお前の方も同じみたいだな。お互い運が良かった」
「ベイル!丁度いい、話を聞かせろ」
『全力』と話していると、組合長が顔を覗かせ呼ばれて話を聞かれたが、俺のすぐ前に戻ってきた『全力』と内容はほぼ変わらないと言われた。後はまだ戻ってきていない面子に心当たりが無いか聞かれたが、無いと答えておいた。
「しかし続々と戻ってくるな。しかも誰も地竜に追われてねえってのはどういう事だろうな?」
俺が戻ってきた後も続々とヘロヘロになった組合員が戻って来るが、誰一人地竜が追ってくる姿を見なかったそうだ。そりゃあ、ティッチ達が足止めしてたからそうだろう。しかも二匹と共既に討伐済みだしな。
「追われて逃げきれているとは思わねえけどな」
オールズの疑問に俺はエールを飲みながら答える。
「ベイルさん、流石にこの状況で酒はどうかと思いますよ」
「そう、ちょっと不謹慎ですよ」
オールズと飲んでいる所にショータンとニッシーがやってきて小言を言ってくる。
「うるせえ!別に飲むなって言われてねえからいいんだよ!」
「まあ、ベイルはこういう奴だ。他にも飲んでる奴らもいるんだ、お前らも気にすんな」
なんかオールズが知った風な口を聞く。
「それにしても『全力』と『快適』以外の4級戻ってきませんね」
ショータンの言う通り、『全力』、『快適』はここに戻ってきているが他は戻ってきていない。無事って俺は分かっているから心配はしていないが、それを知らない連中は心配だろう。
「あいつらが無事に戻ってきてくれねえとこの街守りきれねえぞ」
「この街の兵士達が協力しても無理ですか?」
「あいつらは対人専門だからなあ、魔物相手はちょっとな。まあ、俺らが言えた義理じゃねえけどな」
自虐的にオールズが笑う。なんか辛気臭くなってきたな。俺は既に大丈夫って確信持っているから気楽にエール飲めるんだけど、流石に言えねえしな。
「騎士の連中は?代官に言ってこの街の騎士団を動かすってのはどうですか?」
「一緒に戦ってくれる訳ねえよ。貴族達と領都まで逃げるに決まってんだろ!」
やっぱりどこの国の貴族と、それに仕える騎士も碌な奴がいないみたいだ。
・・・・
・・・・
やべえ、会話が無くなった。誰も話をしねえ。辛気くせえな。酒がマズくなる。
そうして誰も話を振らなくなって辛気くせえ中、マズい酒を煽っていると組合の扉が勢いよく開かれた。
組合に勢いよく飛び込んできたのはザリアとトレオンだった。そしてトレオンは何も言わず慌てた様子で、ノックも無しに組合長の部屋へ飛び込んでいった。そして残ったザリアからの報告に驚きの声があがる。
「地竜討伐しました!!」
「「「「はあ!!!!?」」」
「ど、どういう事だよ」
「倒したってマジか!」
途端にザリアは組合員に囲まれて質問攻めにされる。俺も驚いたふりをしつつ、囲みの後ろの方に加わる。そして事情を説明するザリア。
・・・・・
「何だよ。その女バケモンじゃねえか」
「嘘だろ。地竜相手に一方的に勝つって信じられねえ」
「いや、それよりもティッチ達何で逃げてねえんだよ。撤退の笛鳴らしたのあいつらだろ」
「全員無事なら良かった。ってあの状況から誰もやられてねえって奇跡じゃねえか!」
ザリアの話を聞いて、驚く奴、怒り出す奴、ホッっとする奴、反応は様々だ。そして更にザリアが質問攻めされていると、組合長が部屋から出てきて大声で叫んだ。
「地竜は討伐された!お前ら荷馬車を持って素材の回収に向かえ。今から鐘一つで準備して出発だ。遅れた奴は報酬無しだ!急げ!」
それだけ言うと、組合長は再び部屋に戻っていった。その後はひっきりなしに職員が入れ替わり部屋に入ると、色々指示を貰ったのか慌ただしく動いている。
そして、当然金にがめつい組合員も、気付いたらいなくなっていた。
俺も大八車とりに行ってくるか。
宿に戻って大八車をとって戻ってくると、組合前は荷馬車でごった返していた。これ多分、戻ってきた組合員全員だろう。
「おいおい、ベイル。組合長は荷馬車って言ったんだぜ。お前のその一人用の荷車じゃ大した量運べねえだろ」
俺を見つけた組合員が絡んでくる。言っている事は良く分かるがこれには理由がある。
「バーカ。お前らの荷馬車じゃ行けても最後の休息地までだろ。その点俺の大八車はどこまでも森の中に入っていけるからな。地竜の素材を休息地まで運ぶのに使えるって訳だ。手で運ぶよりマシだろ」
「おお、言われてみればそうだな。ベイルの癖に良く考えてんじゃねえか。もしかして『コーバス一の知将』の称号でも狙ってんのか?」
「い、いや、そんなの狙ってねえよ。あげるって言われてもいらねえし」
『癖に』って言い方が気になったが、それよりも俺がヘンな称号狙ってるなんて噂が流れない事が大事だ。ここはしっかり否定しておいた。
「それじゃあ、時間になりましたから出発します」
「ザリアだけか?トレオンはどうしたんだ?」
出発時間になったが姿を見せたのがザリアだけでトレオンの姿は見えない。その事に組合員の一人が質問する。
「トレオンさんは疲れたので休むそうです」
「トレオンの奴、2級のザリアに仕事投げて情けなくねえのかよ」
「違います。トレオンさんここまで索敵や道案内、野宿の時の見張り、全部やってくれたんです。疲れて当然です」
組合員の言葉を慌ててザリアが否定する。それなら疲れてても仕方ねえって事でみんな納得して出発した。当り前だけどまだ魔物の縄張りは滅茶苦茶で、目的地に真っ直ぐ進んでいる事もあり、道中色んな魔物に襲われた。どれぐらいの数かと言うと、魔物で一杯になった荷馬車が1台引き返すぐらいだ。組合員が大勢いるから襲ってきた魔物が可哀そうに思うぐらい蹂躙されてたけどな。
そして最終休息地に辿り着いた俺達は目の前に積まれた地竜の素材に目を丸くした。
「おっ!ようやく来たね。到着早々悪いが、まだ全ての素材を解体して、ここまで運べてないんだよ。解体と運ぶの手伝ってくれないかい?」
素材の見張りをしていたのは『ちょっと賢い』の連中だ。その中からモレリアが声を掛けてきた。
他の連中はまだ解体してるみたいだ。
不思議に思ったけど、血塗れのアーリット達が肉を手に抱えてやってきたのを見て、時間がかかっている理由を理解した。地竜倒した所から、ここまで手で運んでくるしかねえのか。こりゃあ、俺の大八車が大活躍するぜ。
という訳でザリアに案内されて地竜の所までやってきたら、他の連中が頑張って地竜の解体をしている所だった。既に1匹は骨だけで、もう1匹は残り半分と言った所か。男だろうが、女だろうが血や脂まみれで解体している。
「おーい。手伝いにきたぜ」
「おお!ようやくか、助かる。代わってくれ」
「すげえ、マジで倒してるじゃねえか」
「ガハハハッ俺らにかかればこれぐらい楽勝よ!」
和気あいあいとしている連中が多い中、一部の組合員がティッチに詰め寄っていた。
「これって討伐報酬どうなるんだ」
「撤退の合図でたから俺達は撤退したのに、残った連中で倒すとかこれって横取りになるんじゃねえか」
「お前ら最初からそのつもりだったのか?」
「・・・いや、そんなつもりは無かったんだ。報酬については私からは何も言えない。戻ってから組合の判断を仰ぐつもりだ」
・・・あれ?ティッチの奴元気ねえな?疲れてんのか?・・・・そりゃあ疲れるか。こいつらまとめあげて、地竜と戦い、その解体までやって、更に今文句言われてんだからな。俺ならこいつらぶん殴って終わりにするけど、流石ティッチそんな事しない。
「まあ、お前ら落ち着けって、そうやってティッチに詰め寄っている間にも素材が悪くなるんだからよ。取り敢えずその件は置いておいて素材をさっさと持って帰ろうぜ。じゃねえと肉がどんどん悪くなって報酬が少なくなるぜ」
見かねたのかゲレロが割って入ってきた。ゲレロの言う事は最もなので文句を言っていた奴らも大人しく引き下がって真面目に素材の解体や運搬を始めだした。
最後の休息地までの素材運搬に、俺の大八車が大活躍だったのは言うまでもない。何組かのパーティが荷馬車に積んでおくか?みたいな相談してたからな。ようやく大八車の素晴らしさにみんなが気付き始めたようだ。っていうか気付くの遅くねえ?かれこれ5年は使ってるし、たまに『大八車はいいぞ』とか勧めてたりもしてたんだけど?
そうして地竜の解体を終え、全てを素材を荷馬車まで運んだ時には辺りは暗くなっていた。
「今日はここで一泊して明日街に戻る事にする。というわけでここで野宿する事になるんだが、多くの連中から要望があった地竜の肉を全員に一切れずつ配ろうと思う。今晩の食事にしてもいいし、残しておいて売ってもいい。竜の肉なんて貴族達にしか出回らない貴重品だからな。私個人としては、ここで食べておくことを勧めておく」
ティッチの言葉に全員から歓声があがる。物凄く美味いと噂の竜の肉だ。食べたい奴も多いだろうが、売ればかなりの高値で売れるのでどうするか悩む所だろう。俺?俺は当然今食べるに決まってる。
「うめえええ!」
「すげええ!貴族連中はこんな美味い肉を毎日食ってんのか?」
「流石に毎日じゃねえだろ。でもこの美味さなら貴族が買い占めるって理由も分かるぜ」
「今食べてねえ奴らは絶対食べておいた方がいいって!マジでこの先自慢できるぞ」
「そ、そうかあ、まあ、そこまで言うなら・・・」
躊躇う事無く肉を食べる連中の言葉に、売ろうと思って残していた連中も、肉を食い始めその美味さに満面の笑みを浮かべる。そんな中、
「カルガーは食わないのか?マジで美味いぞ」
「・・・うっす。自分は我慢するっす。タロウ達と食べるっす」
カルガーだけは肉を食おうとはしなかった。聞けばタロウ達にも肉を食わせたいそうだ。こいつタロウ達の事好きすぎるだろ。
「でもよお。それまでに肉腐るんじゃねえか?」
「多分大丈夫っす。噂じゃ竜種の肉は腐らないって話っす。自分も毎日腐ってないか確認するつもりっす」
マジか。それは知らなかった。故郷じゃいっつも俺が狩った竜は全部取られてたからな。
「マジかよ。カルガーそんなの良く知ってんな」
「え?・・・あ、いや、昔そんな話を聞いただけっす」
そんな肉の話もあったんだが、やっぱり話題はこっちが主役だ。
「その謎の女何者なんだよ?」
「だから分かんねえんだって!」
「地竜を瞬殺とかありえねえだろ!」
「だから!嘘じゃねえって言ってんだろ!マジであの女二発で地竜殺しやがったんだって!」
真面目に戦いについて話している奴らもいれば、
「顔が分かんねえんじゃ。何とも言えねえな」
「で、でも体は凄かったですよ!モレリアやエフィルよりは小さいですけど、あれは十分でかかったです」
「そんな短いの履いてたんか?そんなん娼婦ぐらいしかいねえだろ」
「そうなんすよ。マジで動く度にモロ見え。しかも見えてんの気にしてねえ所か、自分でスカート捲って見せてきましたからね。ありゃあ、相当な高級娼婦だと思うんすよ」
「あんな高そうなパンツ見た事ねえ」
「あ?そんなん高級娼館行けば珍しくねえぞ。これだから安宿ばっかり行ってる奴は・・」
「ばーか!見てねえからそんな事言えるんだ。それにお前が高級娼館行ったのなんて数回だけじゃねえか!そんなんで偉そうに言うな」
見た目やパンツを話題にしている奴もいる。正直こっちは聞きたくねえが、何か俺がヘマしてねえか聞き耳立てて聞いている。今の所、それらしい事を話してねえから大丈夫そうだ。
そして、謎の女の話題で中心となったのはカルガーとエルメトラだ。この二人は謎の女と会話しているし、エルメトラなんて触れていたからな。俺もこの二人の話に意識を向けている。
「そうね。手首を掴んだけど、特に変な感じはなかったわ。普通の女性の手首って感じ。」
そう言ってエルメトラは近くにいる女性の手首を握っていく。
「うーん。多分ティッチさんの手首が一番近い感じがする」
「本当か?どれどれ」
「ふーん。こりゃあ普通の女の手首だな」
「これがあの謎の姉ちゃんの手首か」
「おい!お前ら!馴れ馴れしく触ってくるな!」
ドサクサに紛れて近くの連中が、ティッチの手首を握って怒られている。美人に触りたい気持ちも分かるが、お前らそれセクハラだからな。
「自分が一番あの女の人と話したっすけど、特に変な事は言ってなかったっすね」
「あの話し方は貴族だと思うけど、家紋の入ったそれらしいものとか持ってなかったか?」
「特には見なかったっすね」
「手がかり無しか。マジであの女、何者なんだ?誰かあんな強い女の噂とか聞いたことないか?」
ゲレロの問いに全員黙って首を振るだけだった。そしてもう一つ気になる事を話しているのがロッシュ達だ。俺が残した謎の言葉の意味を何人かで考えている。
「それと最後にあの女が残した謎の言葉。えーと『私はどこにでもいて、どこにもいない』だったかな。これはどういう意味だろう。全然分かんないよー」
「『どこにでもいて』って、地竜を一人で討伐できる女なんて、どこにでもいる訳ないじゃろ」
「これ、もしかしたら、そのまんまの意味じゃなくて、仲間に残した暗号かもしれないよ」
「って事はあの時のメンバーの中にあの女の仲間がいるって事か?」
「そうかー。その可能性も考えないといけないのかあ」
真剣に考えている所悪いが、あの言葉に意味なんてマジでねえんだよ。適当にそれらしい言葉を言ってみただけ。って正直に言ったら面白い事になりそうだ。・・・絶対言わねえけど。
結局話を聞いても俺は特に正体がバレる様なヘマはしてなかったみたいで安心したぜ。




