28.ゴブリン捕獲依頼②
「ブハハハ!おい!ベイルが帰ってきたぞ!!金がないからってゴブリン襲ってたってマジかよ!アハハ!」、「ゴブリンに盛んのはマズいだろ」、「俺も色んな性癖について詳しいが流石に今回は初めて聞いたぞ」
組合に戻ると、案の定、ゴブリン捕獲依頼が間違った形で広まってた。ただ、俺はレッサーウルフの時に学んだんだ。ここで慌てて弁明すればするほど、泥沼だって事をな!
「んな訳ねえだろ。『ゴブリンの捕獲』なんて変わった依頼受けたんだよ。ゴブリン傷つけちゃ駄目って中々大変な依頼だったぜ」
ニヤケながら馴れ馴れしく肩を組んできた馴染みの3級組合員の腕を払って、少し疲れた感じを出しながら答える。
「おいおい、ノリ悪いな。こっちはその話で盛り上がってたんだぜ」
「知らねえよ。勝手に盛り上がってろ。そんで、どけ!俺は依頼達成の報告があるんだよ」
・・・ふふふ、こうやって何も反応しないってのが被害を最小に食い止められるって学んだんだ。下手に反応するとこいつら喜んで揶揄ってくるからな。
「あれ?リリーはいねえのか?」
受付に行くと、今や俺の専属みたいな扱いになっているリリーの姿が見えないので、近くにいた受付嬢に所在を尋ねる。
「今、組合長室に呼ばれています」
「へえー、珍しい。何かでかいトラブルでもあったのか?」
基本組合長とリリーは有能過ぎるから、どっちかがいるだけでトラブルはすぐに解決しちまうんだけど、二人で対応ってのは相当でかいトラブルでもあったんだろう。
「さあ?まだ私達の方に話はおりてきてませんね」
「ふーん。まあ俺には関係ねえか。悪いけど依頼達成の処理お願いしていいか」
「承知しました」
処理が終わるまで暇なんで、組合の様子を眺める。何人か俺を指差して大笑いしているが、俺は顔色を変える事なく冷ややかな目で見るだけだ。それだけで連中はヒソヒソと話ながら首を捻っている。噂が嘘だったんじゃないかとでも話しているんだろう。
そうして視線だけで噂の火消しをやっていると、組合長室の扉が大きな音を立てて開き、中から組合長とリリーが姿を見せた。そしてもう一人リリーに肩を抱かれているのは・・・カルガーか?何でいるんだ?ゲレロの所、今日から依頼受けるって言ってたよな?
「もう自分どうしたらいいか分からないっす」
「大丈夫です。落ち着きましょう。取り敢えず状況はこちらで確認しますから」
聞こえてきたリリーとカルガーの会話。何かテキパキと指示を出している組合長。
・・・俺は悟った。
おいおい、まさか、ゲレロ達がやられたのか?4級がやられるなんて大事件じゃねえか
少なくとも俺がコーバスに居付いてから4級が魔物にやられた事はない。色々無茶な依頼はあるが、4級は自分の実力を良く分かっていて、撤退の判断は正確だ。まあ、だからこそ4級まで上り詰められたと言えるけどな。それがやられるなんて多分この辺じゃ見ない魔物でも出たんだろう。大ごとじゃねえか!
「ベイル!ちょっとこっち来い!」
指示を出し終わった組合長と目が合うと呼び出しを受けた。多分今から森の調査に向かえとか言われるんだろうな。強制されるのは好きじゃねえけど、ゲレロ達がどうなったか気になるし、流石に好き嫌い言ってる場合でもねえか。
「ふうー。今度は何だ?」
俺が組合長室に行くと深く椅子に腰かけて大きな溜息を吐く組合長が、思っていたのと違う事を聞いてきた。
「今度は何だって言われても何がですか?え?ゲレロ達は?」
「ゲレロ達がどうかしたのか?それよりもゴブリンを縛り付けてただろう?カルガーが見たそうだ。あと北村からもお前の討伐依頼が来ている」
おいおい、カルガーちゃん、また目撃したのか、あいつ俺のストーカーじゃねえだろうな。そして北村の人達、討伐依頼とかひどくねえ。あれ?って事はゲレロ達は別にやられたって事じゃねえのか。
「ああ、それ?ゴドリックから『ゴブリン捕獲』の依頼受けたんですよ。また無傷でなんて無茶言うから頑張って拘束したんですよ」
「ふううううううう」
あれ?何かお気に召しませんか?しかめっ面で大きく息を吐いて目尻を揉み解すなんて組合長かなりお疲れですね。
「大体は理解できた。だがいくつか聞きたい事がある。まず拘束具は普通ので十分だっただろう。何で風俗用のなんて持って行った?」
「ああ、それゴドリックが用意したのに混ざってたんですよ。で、それを適当に袋に入れたからですね」
「それを敢えて使った理由は?」
「敢えて使ったって何ですか!こっちは動き抑えるのに必死で拘束具を選んでいる余裕なんて無かったんですよ!」
「じゃあ、その付属パーツまでしっかり使ったのは?必要な所だけで十分だっただろう?」
「・・・・・・そ、それは・・・・完成するとどうなるかなあって・・・少し好奇心が」
「・・・」
「もう、嫌だよ。俺、こんなのに対応するの分かってたら組合長にならなかったよ」
あれ?組合長が恐らく初めて俺の前で弱音を口にしている。これは慰めて好感度アップイベントだ!
「まあ、元気出していきましょう、組合長。現役の時は今よりきつい事なんて星の数程あったでしょう?」
「ねえよ!!馬鹿にしてんのか!!普通な!組合の問題児ってのは素行が悪いとか何か企んでるとかで、結局力さえありゃどうとでも抑えられるんだよ。だけどお前ら『4馬鹿』は力じゃどうしようもねえトラブルばっかり起こしやがる。特にお前はマジで何しでかすか想像もつかねえ。理由を聞いても全く理解できねえ。頼むから力でどうにかなるトラブルを起こすだけにしてくれ」
力でどうにかなるトラブル起こしたら駄目じゃん。下手したら組合から追放されるじゃん。組合長自分で言っている事分かってんのかな?だいぶお疲れだな。
「とにかく、事情は分かった。あとはこっちで処理しておくけど、組合員の噂は自分でどうにかしろ。俺は今回手伝わん。あと、カルガーにはちゃんと謝っておけよ。あいつ泣いていたからな」
そりゃあ、森の中であんな状況みたら俺でもトラウマになるわ。まあ勝手にのぞいた奴が悪いんだけど、カルガーには謝っておくか。
取り敢えず組合長との話は終わったんで、部屋から出ると、組合内が騒がしい。なんか真ん中に人だかりが出来て良く見えねえな。誰か大物でも狩ってきたのか?
「ねえ、本当にやらないと駄目?」
「駄目だよ。シリトラにはこの間の貸しがまだ残っていただろ?」
「な、なら、ミーカでもいいじゃないですか!」
「ミーカじゃちょっと大きすぎるからねえ」
なんだ?モレリアとシリトラの声が聞こえるな。何やってんだ?
「はい、多分これで完成」
「んむー!!ムー!!!んんー!!」
「おお!」、「こうなるのか」、「凄いな、考えた奴どんな頭してんだ」、「こりゃあ動けねえな」
シリトラは唸っているけど口でも塞がれてんのか?完成って何作ってんだ?
「そうっす。この状態だったっす」
「ああ、これはもう確定だなあ」、「さっきのはブラフだったって事か」、「そりゃあ、こんなんバレたくねえだろ」
・・・・・・・おいおい、カルガーの声もするじゃねえか。・・・すげえ、嫌な予感がする。
「おーい、ちょっと悪い。通してくれねえか?」
俺が声をかけると、気づいた連中が引きつった顔で道を開けてくれる。
「おい、来たぜ」、「ここまで変人だとはな」、「変人だからこそだろ」、「マジで理解出来ねえ」、「お前出来る?」、「出来る訳ねえだろ!殺すぞ!」
・・・もうこの時点で帰りたくなってきた。だけど、もう人の輪に入っちまったんだ。背中を押されてドンドン輪の中心に向かっていく。そして人の輪を抜けた先の光景は思わず目を覆いたくなる光景だった。
「んん!んー!」
まず目に入るのは四つん這いになって服の上から拘束具を付けられた唸っているシリトラだ。ご丁寧に拘束具は俺がゴブリン捕まえた時のと全く同じの使ってやがる。
「うーん。もうちょい前っすかねえ」
「このぐらいか?」
そしてその近くで上半身裸のトレオンがカルガーと立ち位置を決めている。立ち位置は丁度シリトラの尻の先、丁度俺がアーリット達に見られた時と同じぐらいの距離だ。
「こんなもんでどうだ?」
「うーん、この辺はもう少しビリビリに破れていたと思います」
更にゲレロがボロイ服を破り、それをエフィルが確認している。
「これはねえ。トティの新作なんだ。僕もまだ使った事ないけど、入荷したお店は聞いていたからね。貸してもらえてよかったよ。それにしても凄いよねえ、この辺とか・・・。しかも尻尾と耳は色んな種類に付け替えできるんだって」
モレリアはシリトラの拘束具を、まるでブランド物の新作のような感じで周囲の人に説明している。説明受けた連中が困ってんぞ。
おいおい、俺もう帰っていいか?っていうか帰りたい。
「おお!ベイル、良い所に来たね!このトティの新作どこで手に入れたんだい?これはお得意様にしか売らないって話だったけど?まさか、ベイルにこんな趣味があったなんてね」
「・・・・いや、俺のじゃないんだ。そんな趣味はないんだ」
「またまたあ。そう言えば最近拘束具を大量に購入した人物がいてね。供給がおいついてないんだよ。僕はねえ、その人物が誰か調べていたんだけど・・・君だったんだね、ベイル」
「いや、違うし、俺そんなもん大量に買ってねえし」
「これはとても大事な事なんだ!正直に答えてくれ!ベイル!」
落ち着け、落ち着け俺、ここで騒げばこいつらの思う壺だ。だいたい拘束具大量購入した奴調べてモレリアは何がしてえんだよ。
「おいベイル。あの時の立ち位置はこれで合ってのか?」
「『合ってるか?』の意味が分かんねえんだけど?」
だいたい何で俺に聞くんだ?そんでトレオンは何で上、裸なんだよ。
「お前があの時どこに立っていたかで賭けが成立するかしねえか決まるから、真面目に答えてくれ」
いや、何でそれで賭けが決まるんだよ。俺がどこに立ってようがあんまり関係ねえだろ。
「ほら、トレオン、これを巻いてみろ」
そしていきなりゲレロが近づいて来てトレオンにビリビリに破れた服を渡す。
「こんなもんだったか?どうだ?ベイル?」
だから何で俺に聞くんだよ。こいつら何であの時の状況を正確に再現しようとしてんの?マジでこいつらの方が理解不能なんだけど!組合長!
ふうううう。落ち着け、深呼吸だ。騒ぐな。このまま大人の対応で過ごせば傷は浅くて済む。
「カルガー、話じゃあ、この状況でベイルの息子が元気よく挨拶してたんだろ?どうだった?」
「ど、ど、ど、どうだったって言われても・・・じ、自分、と、遠くからだったんで良く見えなかったっす」
ゲレロに聞かれたカルガーは顔を真っ赤にして叫びながらどこか走っていった。ゲレロ、お前それセクハラだぞ。
「私も流石によく見てなかったですね」
エフィルは表情を変えずに答えている。
お前がっつり見てただろうが!
「ああ、ただ、アーリットが『ネームド』か『賞金首』かみたいな事を言ってました」
「「「「おお!」」」
エフィルの説明に周りから歓声があがる。おいおい、俺のは別に普通だよ、変にハードルあげんのやめてくれねえ。
「ザリアとエルメトラがあれから部屋から出てこないので、恐らく、相当・・・・」
「「「「おおーーー」」」
エフィル、お前聖職者みたいな恰好や顔して、何言ってんの!ハードルあげるのやめろよ!そして周りの連中も何の歓声だよ。
「おや、まさか身近にそんな凶悪な物をお持ちの人がいたなんて、灯台下暗しって奴だね。どうだい、ベイル。ここは一つ」
もう今まで抑えていたけど、モレリアの馬鹿な発言でもう無理だったよ。
「何が一つだ!ふざけんな!大体お前らさっきから何の再現なんだよ!俺を揶揄って楽しいのか!」
「ガハハハッ怒った!ベイルの奴怒りやがったぜ」
「ふふふ、なーにを気取ってやり過ごそうとしてたんだい?そういうのは良くないよ」
「よっしゃあ!賭けは俺の勝ちだな。まあ大体普段は人を揶揄ってのに自分の番だけ逃げようってのはよくねえわな」
クソ。こいつら最初っから俺を揶揄うために組合中巻き込んだのか。何て性格の悪い連中だ。やっぱりこの3人の方が性質悪くねえ?組合長。




