25.悩み相談
「でよお、こいつその後、シリトラとイーパに死ぬほど怒られてやんの」
「ガハハハッ。俺も見たかったぜ。シリトラはともかくあのイーパがねえ。ベイル、お前人を怒らせる才能があるんじゃねえか?」
「うるせえ、そんな才能あっても嬉しくねえよ」
「こっちは帰ってからシリトラ宥めるのに大変だったよ・・・うん?どうしたんだい?」
いつものように4人でダラダラ酒を飲んでいると、一人の若者が俺たちの机に近づいてきた。
『全てに打ち勝つ』のメンバーで最近元気のないクイト君だ。
「楽しんでいる所悪いですけど、少し話いいですか?」
おいおい、いつも語尾に『だぜ』『だぜ』つけて勢い良かったクイトはすっかり様子が変わっているじゃねえか。
「別にいいけど、僕たちの誰に用事かな?」
「・・・・ベイルさんです」
その言葉に3人が驚いて椅子から跳ね上がった。
「おいおい、まだ人生捨てるのには早えぞ」、「やめとけ、碌な結果にならねえ」、「僕もおススメしないなあ。こういうのはティッチとかシリトラが上手いから紹介してあげようか?」
・・・こいつら俺を何だと思ってんだ?でもまあ、クイト君、いい判断だ。俺を選んだ君はいい目をしている。将来有望だ。俺の全てを教えてあげよう。
「カカカ、囀るな小物ども!取り合えずクイト。お前はこの4人の中から俺を選んだから見る目がある。俺が必ずどこに出しても恥ずかしくない6級に育ててやんよ」
「うわあ、マジでベイルの奴、ムカつくぜ」
「ちょっと後輩に相談されたからって調子乗りすぎだろ」
「いやあ、魔法打ち込んでもいいかい?」
フフフ、小物共が喚きおる。
「で?小物共がうるせえから場所変えるか?」
「・・・いえ、出来れば他の3人にも相談に乗って頂ければと・・・・」
・・・・・
「何でだよお。こいつらいらねえだろ?俺が何でもビシッ!っと解決してやるよ」
「ガハハハッいい判断だ。クイト」
「そうだ、この馬鹿を止める奴必要だもんな」
「いや、トレオンとゲレロも大概だからなあ」
小物3人が何か言っているが、取り合えずクイトの話を聞く事にするか。
「姉ちゃん!エール5人分頼む。お前ら今日は俺の機嫌がいいから奢ってやる。感謝しろ」
ちょっと気分がいいから、クイトだけじゃなくてゲレロ達にもエールを奢ってやろう。しかも冷やすのもおまけの出血大サービスだ。
「・・・・えっと、すみません。ベイルさん。俺・・・酒はあんまり・・・・」
「ああ?クイトって酒苦手なのか?かあー。お前それ人生の半分損してるぞ?組合員ならエール一杯ぐらいは飲めるようになっとけ」
俺の言葉にゲレロ達も頷く。依頼達成なんかで乾杯する時にエール飲めねえとか言われると場が白けるからな。エール苦手な奴もいるけど最初の乾杯はちゃんとみんな飲むようにするのが組合員だ。
「・・・・半分ですか」
「おう、まあ酒はエールだけじゃねえから、自分が飲める酒を探すのも楽しいぞ」
俺らの中で一番酒に詳しいゲレロがフォローを入れる。酒には葡萄酒や蜂蜜酒、その他何が原料か分かんねえ酒もある。貴族なんかは度数の高い酒を手に入れてパーティなんかで振る舞うのがステータスだって聞いた事がある。
「まあ、結局一番安いエールでみんな落ち着くんだけどね」
そう、モレリアの言う通り、組合員の多くは結局エールを好んで飲む奴が多い。だって他の酒より各段に安いからな。
「で?俺に相談ってのは何だ?」
「・・・あ、あのベイルさんってずっとソロでやっているって聞いたんですけど本当ですか?」
「ああ、そうだぜ。たまに他のパーティに誘われて依頼受ける事はあるけど基本ソロだな」
ああ、今ので何の相談かわかっちまった。ゲレロ達も察したのか難しい顔してるな。
「・・・ソロでやっていくのは厳しいですか?」
ほら、やっぱり思った通りだ。たまに同じ事を新人に聞かれるけど、俺の答えは変わらない。
「おススメしねえな。ソロでやっている俺が言うのもアレだけど、2級からはパーティ組んだ方がいい」
1級はまだソロでも何とかなるが、2級からは森の中での討伐依頼があって、複数同時に魔物の相手しないといけない場合があるからな。だからこのコーバスの街でソロでやっている奴は2級には何人かいるが、3級以上は俺しかいない。まあ、その2級もなかなかの訳ありだからパーティ組めないだけだ。
「そ、それなら、まだ1級の俺ならなんとかソロでもやっていけるって事ですね?」
おいおい、ここまでクイトがソロに拘るって、あの仲良しパーティに一体何があったんだ。まあ、他所のパーティの事だ、聞いてもどうしようもねえし、聞く気もねえけどな
「無理だな」
「な、何でですか!!」
「だって、お前らパーティで1級になっているだろ?・・・これは俺の感覚だけどな、ソロでやっていくには自分の級+2の実力がねえとやっていけねえって思っている」
「おいおい、それってベイルの奴の実力は5級って事か?」
「いや、いくらあいつでも盛り過ぎだろ。せいぜい+1じゃねえ?」
「うーん。ベイルが5級は無いんじゃないかな」
外野がうるせえが無視だ。
「そ、それなら俺の級はマイナスになるんですけど・・・」
「まあ、そういうこった。お前はソロのスタートラインにすら立ってねえって事だ」
俺を真似してソロでやっていけると思った奴が今まで何人もいたが、そいつらはみんな早々にソロを諦めたか死んだからな。少し言い方も厳しくなる。
「そもそもクイトは何でソロになろうとしたんだい?君のパーティ仲良かっただろ?」
こいつらのパーティ未だに毎回メンバーで固まって飯食っているんだよな。普通はもうそろそろ常に一緒にいるのが嫌になって依頼以外は他の気の合う奴と飯食い始める頃なのにな。
「そ、それが最近エフィルが加入した事によって・・・・」
聞けばメンバーの獣人ザリアは昔からアーリットの事を好きだったらしい。ただ臆病で行動に移せずにいたまま、ズルズルと今まで来たそうだ。そこでこの前のエフィルの事件だ。ピンチを救ってくれたアーリットにエフィルが惚れて、そのままパーティに加入した事で三角関係の始まりだ。互いにけん制しあうザリアとエフィル、それに全く気付いていない能天気なアーリット。何とかしようと3人の間に入るエルメトラ神。一人残されたクイト君。
クイトも別にそこまでは良かった。自分じゃどうしようもない事が分かっていたから。ただ、ある日彼は聞いてしまった。男と女に分かれて泊まっていた宿の女部屋から聞こえてくる情事の声を。同じ部屋で寝ているはずのアーリットの姿は見えない・・・・翌朝いつも以上に仲がいい自分以外のパーティメンバー。そこから推察する事はクイトでもできた、更にこのままだと自分がどういう扱いになるのかもだ。
「あれえ?おかしいなあ?」
話を聞いたモレリアは何か疑問が浮かんだようだが、すぐに何でもないと首を振った。
「ああ、そういうのはよく聞くぜ。居心地悪いよなあ。まあ、そういうパーティはあぶれた奴を追い出しにかかるからさっさと抜けた方がいいぜ」
「・・・・ですよねえ」
・・・
おーい、ゲレロ。後輩に現実教えんな。自棄になっても知らねえぞ。
「で追い出した後は、今度はまた次のターゲット決めて追い出しにかかるんだ。最終的にパーティは解散ってのがよくある事だ。そういう連中は地雷って思われて暫くパーティ組めねえからな。巻き込まれないようにさっさと抜けとけ」
「・・・・ですよねえ」
・・・
・・・
だから!トレオンも現実教えんなっての。場の空気がめっちゃ冷えたじゃねえか。
「まあ、何だ、こういうのはよくある事だ、さっさと区切りをつけて次に行った方がいい。よーし!今日は特別に俺が娼館奢ってやるから元気出せ!好みを言ってみろ。お前の好みの女がいる店に行こうぜ」
流石ゲレロ、こういう時は便りになるぜ。女相手だとこの手は使えねえけどな。
「おお!そうだな。明日にでもクイトはパーティ抜けろ。それがいい。そうと決まればみんなで娼館行こうぜ。なーにゲレロはその道のプロだ。お前の好みの女がいる店すぐに見つかるぜ」
「だな。傷は浅いうちがいいからさっさと抜けろ。そういえば俺も今日勝ったから金を出してやる。ゲレロ、少し高めの店にしようぜ」
「・・・いえ・・・俺、初めては好きな人と・・・」
おおーい、思春期のガキかよ・・・・ガキだったわ。日本だとクイト君、まだ高校生だったな。でもこっちだと15歳は大人だ。いつまでもうじうじされても鬱陶しいだけだ。
「かあー。何だよ、娼館通わねえなんて、お前人生の半分損してるぞ?」
「お酒と合わせて俺の人生ゼロになったんですけど・・・・」
・・・・・
「だったら、ギャンブルなんてどうだ?当たれば脳汁ドバドバ!すげえ気持ちいいぜ」
見かねたトレオンからのお誘いだ。確かにギャンブルしている間はそれしか考えられないから嫌な事を思い出さなくて済む。
「すみません。ギャンブルよりも金貯めて装備を揃えたいんで・・・・」
「かあー。装備も大事だけどギャンブルももっと大事だぜ。ギャンブルやらねえなんて人生の半分損してんぞ」
「俺の人生マイナスになったんですけど・・・」
・・・・
おいおい、これどうすんだよ。空気固まっちまったじゃねえか。誰かいい案出してくれよ。このままじゃクイトが闇落ちするかもしれねえ。
誰もいい案が出せず無言が続く中、モレリアが誰かを見つけて手を振って呼んでいる。
「師匠、どうしましたか?・・・・クイト・・・何やっているの?」
モレリアが呼んでいたのは相変わらずの美しさのエルメトラ神。何故か俺らといるクイト君に冷たい目を向けている。その耳にモレリアが何やら囁くと、みるみるそのご尊顔か真っ赤になっていった。
「クイトの馬鹿!何勝手に勘違いしてるのよ!あの時は3人で話し合いたいって言うから私は宿の外で待っていたの!で、帰ってきたら・・・・取り合えず3人にはかなりきつく叱っておいたから!大体、何で私がアーリットと、そんな事しなきゃならないのよ!それに娼館って何考えているのよ!馬鹿!スケベ!私はあんたが・・・・ごにょごにょ・・・」
「はあ?エル?最後何て?聞こえな・・・いってええ、耳引っ張るな。そもそも娼館は誤解だ」
「師匠、ご迷惑お掛けしてすみませんでした。クイトの事は私に任せて下さい」
そう言って神はクイトの耳を引っ張って行ってしまった。ただ、クイトを見るその慈愛に満ちた表情で俺達は悟ってしまった。神がクイトに好意を寄せているって事にな。クイトは神に愛された男だったみたいだ。悔しいが神が選んだんだ俺は引くしかねえ。そして幸せにな。
残された俺達3人は若者の甘酸っぱい光景を見ながら、あの二人の祝福を願うのだった。
「そういう事か。クイトの奴勘違いしやがって。でもこれであの二人の仲も進むだろうさ。こういう憎まれ役なら喜んでやるんだけどな」
「だな、エルメトラもいい加減素直になればいいんだよ。見てるこっちがモヤモヤしちまう」
「なーに、あの二人なら大丈夫さ、特にクイトは俺達に相談してくるぐらい聡明な奴だ。上手くやるさ」
・・・・・
「いや、3人とも娼館に誘っていたよね?パーティ抜けろとか煽ってたよね?あの二人の仲を切り裂くような行動していたのに何でそんな自分のおかげみたいな顔が出来るんだい?」
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6級組合員、英雄クイトが部下に語った言葉
「はあ?俺が人生謳歌しているって?そんな訳ねえぜ。俺の先輩達に言わせれば俺の人生はずっとマイナスだ。ただ先輩達の協力でエルと恋人になって、ようやくゼロになったんだぜ。だからここから100%になるように人生を楽しめってのが先輩の教えだ。先輩達はそりゃあ、もう毎日楽しそうだった。あの人達は多分人生を100%謳歌していた。俺もあの人達に憧れて色々楽しんでいるが、ちょっと色々背負いこんじまったからな。村を出たときに6級を目標にしてたけど、実際なると、色んなしがらみに囚われて楽しめねえ事も多いぜ。もし人生やり直せるなら俺はエルと一緒に4級辺りで抜けて先輩達とコーバスで楽しく過ごすだろうな。・・・分かっているよ、もしかしたらの話だ。ただ、出来るならもう一度あの4人に会いてえぜ。あの人達は多分まだコーバスで楽しく暮らしているはずだ。で、今や『新サンクガラート国』の王となったアーリットや重臣の俺達が会いに行っても昔と変わらずヒヨッコ扱いしてくれるはずだ。あの人達はそういう身分とかに囚われねえ魂から自由な人達だったんだぜ」




