表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/61

22.試験官の依頼①

「試験官?・・・ああ、そう言えばそういうのもあったな」


 あれから数日、いつものように依頼を終えて戻ってきたら、リリーから試験官をしないかと誘いがあった。


「ええ、今回は『全てに打ち勝つ』の試験です。試験内容はゴブリンの巣の殲滅。報酬は3万ジェリーとなります」


 やっすいな。ただ、まあこれを受けると組合からの内申点が大幅加算されるんだよな。俺は3級からあがるつもりはないからあんまり意味ないけど、最近迷惑ばっかりかけているリリーの印象は良くしておきたい。報酬も安いけど、基本試験官は手を出しちゃいけないから、ゴブリンの巣まで行ってちょっと寄り道して帰ってくるだけで3万だと思えば悪くない。


「いいぜ、試験官のその依頼受ける」

「ありがとうございます。それでは明日組合が開く時間に組合までお越しください」


  はええな。俺は街にいる時は昼から動き出すのが常だから、朝一は辛いぞ。どうしよう、やっぱりキャンセルしようかな


 ・・・いや、何かリリーから嫌な圧を感じる。これはキャンセルしない方がいい。俺は自分の直感を信じるぜ。




「その依頼俺も受けたぜ」


 いつもの面子でエールを飲んで話していると、トレオンも俺と同じ試験官の依頼を受けた事が分かった。こいつはまあ、後輩の面倒見だけはいいからな。こういう試験官の依頼は進んで受けてるのは知っていたから驚く事は無かった。ただ、


「ああ、それ僕も受けたよ」


 まさかモレリアまで受けているなんて思わなかった。それと言うのもパーティ組んでいる奴らは、次の依頼に行くまでの間は基本自由行動だ。だから簡単な日帰り依頼や素材採取等軽く金稼ぎする奴が多いが、モレリアは基本パーティでの依頼以外受けないからな。どういう風の吹き回しなんだ?


「エルがね。一緒についてきて欲しいって言うからね」


 おいおい、モレリアさんよお。いつからエルメトラ神を愛称で呼ぶようになったんだよ。俺はまだ許可されてねえんだぞ?


「かー。俺は明日から依頼だよ。そっちの方が楽しそうだから、何とかならねえかな」

「ならねえよ。ゲレロも受けたきゃパーティ抜けて俺みたいにソロになってから出直してきな」

「まあこっちはティッチもいるし、そんなに楽しくならないと思うよ」


 モレリアのその一言に俺達は動きが止まった。


 ま、マジでティッチもこの依頼受けたのか?あいつうるせえんだよ。『全てに打ち勝つ』の連中だけじゃなくて、俺たちまで注意してくるぞ。


「カカカカ!よーし明日から俺も依頼頑張るか。お前らも頑張れよ!ティッチに怒られながらな!」


 さっきと一転ゲレロは大笑いしながら、捨て台詞を吐いてどっか行きやがた。なんて性格の悪い奴だ。


「なあ、トレオン。マジで何でティッチがいるんだ?あいつ試験官の依頼とか受けねえ奴だったろ?」

「知らねえよ。俺もあいつが受けてるなんて聞いた事ねえぞ」

「ああ、それはアーリットがティッチに頼み込んだんだよ。街一番の実力者の実力を少しでも見たいってね」


・・・・あの爽やかイケメンか。余計な事しやがって。実力見たいって、そもそも俺らは見ているだけで基本手出ししねえんだぞ。ティッチの奴もそこん所ちゃんと理解してんのか?


「うーす」

「遅いぞベイル!」

「え?まだ時間じゃなくね?」


 翌日朝から組合に行ってティッチ達に挨拶したらいきなり怒られたんだけど?まだ約束の時間じゃねえよな?トレオンとモレリアも来てねえし。


「組合員は鐘一つ前行動だ!装備や目的地、作戦の最終確認があるからな!君たちも常にこれを心がけて行動するように!」


 鐘一つ・・・一時間前行動って早すぎだろ。それはお前ら『柔軟にいこう』だけだろ。時間なんてみんな鐘を聞いて何となくで行動してんだ。約束の時間から15分程度の遅刻は許されるんだよ。


 案の定遅れてきたモレリアとトレオンはティッチは怒られても、何でそこまで怒られているのか分かってねえ。


「うむ、少し遅れたが全員揃ったな。では出発!」



・・・・


こいつは馬鹿か?


「おいおい、ティッチ。何でお前が仕切ってんだよ。今日の俺らは試験官だぞ。黙って『全てに打ち勝つ』の行動を見ていればいいんだよ」

「・・・む、そうなのか?」

「そうなんだよ。お前試験官するの初めてだろ?なら、何度もやっているトレオンに試験官は何するか教えてもらえ」

「そうか、ならトレオン宜しく頼む」


 よしよしこれで鬱陶しいティッチはトレオンに任せておけばいいだろう。トレオン君めっちゃ睨んでいるけど急に目が悪くなったのかな?


「基本俺ら試験官は後ろからついてくるだけだと思っていてくれ。危ない場面があったら助けに入る事もあるが、基本的に手は出さねえからな」

「分かりました」


 うん、うん。手慣れたトレオンが説明してくれるから、俺は適当に後ろで腕組みどや顔していればいいだけだ。中々美味しい依頼だな。今度からもあればトレオン誘って受けるようにしよう。

 ただティッチがトレオンの隣で一生懸命メモをとっているのは何でだ?今回の試験官の役割はそんなメモとることじゃねえぞ。そもそも受験する奴らもメモしていないのに何で試験官が一生懸命メモとってんだ?



 って訳で出発したんだが、街から出るまでにティッチがチェック表みたいなやつに色々書き込んでいるんだよ。問い詰めたい事は多いが、まずはそのチェック表は何だ?


「これか?今回作ってきたチェック表だ。私達のパーティに入る時のテストで使っているものを1級用にしたものだ。当然今回初めて使うから、色々足りない項目なんかも出てくるだろうが、これからどんどん改良していくつもりだ」


 ・・・他の奴なら冗談だろ?って思うんだけどティッチだからなあ。こいつはマジで本気で言っている。俺ら試験官の役目は受験者がゴブリンの巣を殲滅できるか確認するのがメインで、別に道中の何をチェックしろとは言われてねえんだよ。しかもまだ街から出たばっかりだぜ。組合からここまで何をチェックする事があるんだ?


「今は試験中だ。休憩中に教えるから今は話かけないでくれ」


 ああ、そうですか。別に興味ねえからもう聞かねえよ。まあ、この方がティッチもうるさくねえし、丁度いいか。


 目的地の近くまで街道を進むので、道中は和やかな雰囲気で一行は進む。和やかといっても一応最低限の警戒はしているようなので、問題ないだろう。


 道中、アーリットと獣人ザリア、新人エフィルは楽しそうに会話している。


・・・・あれ?何で新人のエフィルが一緒にいるんだ?こいつまだ無級のはずだろ?


「もうすぐエフィルは1級で、今の所他に無級もいねえし、『全てに打ち勝つ』メンバーだ。なら、まとめてって所だ。たまにある事だし、結局この試験はアレを殺せるかどうかを見るのがメインだからな。無級でも問題ねえよ」


 言われてみればそうか。流石、トレオン。何回も試験官やっているのは伊達じゃねえ。ギャンブル狂いの馬鹿だと思っていたけど評価を少しあげておこう。


「で、どうよ?誰が落ちると思う」


 1000ジェリーを指で弾きながら聞いてくる、トレオン。折角感心してやったのに早速ギャンブルかよ。やっぱり評価を元に戻しておこう。


「っつってもあんまりよく知らねえしな」


 トレオンに返事しながら受験生を眺める。アーリット達3人は相変わらず楽しそうだ。エルメトラ神はモレリアと難しい顔して話をしている。モレリアの奴変な事教えてねえだろうな。そして・・・・クイト君・・・・一人寂しく、とぼとぼ歩くその姿は哀愁が漂っている。あれ?こいつもっと元気良かったよな?


「クイトの奴、普段もっと元気じゃなかったか?」

「そうかあ?大方明日の馬の予想でもしてんじゃねえか」


 それはお前だろ。たまに黙り込んで考えるから最初は心配してやったんだ。まあ、慣れた今じゃ放置してるけどな。


 取り敢えずザリアは性格的にちっと怪しい気がすんな。エフィルは良く知らねえ。クイトは大丈夫だと思ったんだが、今の様子だとちょっと厳しいかもな。


「ザリアとクイトにしとくぜ」


 そう言ってトレオンに2000ジェリーを渡す。モレリアは神と話しているから話しかけられないし、ティッチは聞くまでもなく賭けはやらねえからな。これで両方当てても4000ジェリーになるだけのしょぼい賭けだが、それでもギャンブル好きのトレオンは楽しそうだ。


 トレオンと話をしていると、ちょうど街道から外れて森の中に行く目印が見えてきた。まずはこの目印を見つけられるかのテストなんだが、これは問題なく見つけて森に入る。ここからは魔物の領域になるので、全員お喋りをやめて隊列を組んで進んでいく。俺達試験官は後ろからのんびりついていくだけでいいんだけど、何故かティッチはチェック表にひたすら何か書き込みながらついてきている。マジで、そんなに何を書き込んでいるのか。


 そうして道中の目印も見落とす事無く一行は無事目的地まで辿りついた。


 聞いてた通り、小規模のゴブリンの巣だ。山肌に出来た洞窟を巣にしている典型的なパターンだ。外の見張りの数から経験上、戦えるのが20~30匹って所か。大規模になると100は余裕で超えてきてジェネラルやシャーマン等の上位種がいるが、見た所、上位種はいない。まあ、いたとしても、この巣のリーダーぐらいだろう。


「よーし。それじゃあお前らに注意というかアドバイスだ。普段外で出会うゴブリンと同じだと考えるな。普段と違って向こうの領域で戦うってのは思っていた以上に大変だぞ。巣の中じゃ罠や待ち伏せ、不意打ちをいつも以上に警戒しろ」


 トレオンが巣への攻撃前に『全てに打ち勝つ』の連中に注意点を教えている。トレオンの言う通りゴブリンだと言っても巣の中はいつも以上に警戒が必要だ。ゴブリンだから楽勝だ!なんて考えで挑んで全滅したパーティは数知れず。ゴブリンと言っても・・・ってのを教える為の試験でもある。


「取り敢えず、いきなり巣の中に突っ込もうなんて馬鹿な事考えるなよ。まずは出来るだけ巣の外におびき出して倒すってのがセオリーだ。今回は俺が合図するまで巣に入るんじゃねえぞ。それじゃあ、お前らのタイミングで始めていいからな」


 そう言ってトレオンとティッチは少し離れた所にいる俺達の所に戻ってきた。ティッチの奴は・・・・まあ、好きにメモでもチェックでもしといてくれ。ただ、突入の合図出すって、ちょっと干渉しすぎじゃねえ?


「そこは組合長の許可はもらっているぜ。たまに何アピールなのかアドバイス無視して開幕、巣に突っ込む馬鹿がいるからな」


 試験官って言っても受験生を殺すなって依頼でもあるから、そんな馬鹿がいれば大変だ。まあ、幸い今回の受験生にそんな奴はいないみたいだ。普段のクイトなら少しやらかしそうな気配があったんだが、絶賛落ち込み中の今のクイトなら心配しなくてもいいだろう。



・・・・


「ふーん。連携もとれていい感じのパーティだな」


 『全てに打ち勝つ』が戦っている所は初めてみたけど、中々連携がとれた良いパーティだ。・・・・そう言えばレッサーウルフ捕獲の時も同じ事思ったわ。その時と違って今はエフィルが加わってそう日も経ってないのに、ここまで連携がとれているって事は結構真面目に訓練してたのかな。


「ああ、ただ、近接4人に遠距離1人はバランス悪いな」


 横で見ていたトレオンが俺も気になっていた事を口にする。


「遠距離が後一人、魔法はエルがいるから出来れば弓が欲しい所だね」

「後は盾が一人か二人だな」


 モレリアもティッチも考える事は同じか。アーリットとクイトは長剣でオーソドックスな戦い方、ザリアは短剣で素早く動き回りながらの戦い方、エフィルはこん棒でアーリットやクイトと戦っているゴブリンを背後から殴っている。きれいな顔して戦い方はえげつない。ついでにこん棒を振る度にデカい二つのスイカがバルンバルン揺れている。エルメトラ神は魔法で全体のフォローって所だ。


 うーん。やっぱりモレリアの言う通り、ゴブリンの数がもう少し多ければ遠距離からのフォローが足りなくなりそうだ。そうなると最低一人は遠距離が欲しい。盾役も今はまだいらないけど、今後の事を考えると早いうちに入れておいた方がいいだろう。まあ、盾ってよりも魔物のヘイトを集めるタンク役が欲しいって意味だな。


 そうこうしているうちに目に見える範囲のゴブリンは倒しきったようだ。数は12匹、巣から出てきた奴にも上位種はいない。アーリットが各自にケガの状況を確認しているが、見てた限りだと誰も負傷していないだろう。


「トレオンさん、外のゴブリンは全て片付けました。突入してもいいですか?」


 アーリットが聞いてくるが、トレオンは首を縦に振らない。


「戦う前に俺は何て言った?今のままじゃ頷けねえな」


 おいおい、流石にそれは干渉しすぎだろ。


「組合長に許可貰っているから大丈夫だって、だからそんな顔すんな、ベイル」

「まあ、組合長がいいって言ってるなら文句はねえよ」


 トレオンと話をしている間に、アーリット達はトレオンが何で頷かないのか分かったようだ。入口から少し離れた所から洞窟の中に向かって石を投げ込むと、当然洞窟の中に音が響く。と同時に3匹のゴブリンが叫びながら姿を現した。小賢しい事に洞窟の陰で待ち伏せしていたんだろう。まあ、待ち伏せ出来るだけの知能はあるが、それが失敗したら突撃してくるしか考えられない程度だ。入口で待ち構えていたアーリット達にすぐに倒された。

 倒し終わると、もう一度石を投げ込み様子を伺うが、待ち伏せているゴブリンはもういないようだ。

 

「よーし。突入していいぞ」


 ようやくトレオンがOKを出したので、全員で洞窟の中に潜っていくが、その足取りはかなり遅い。まあ、初めての巣だし、待ち伏せなんてのを見せられたら、そりゃあ警戒するよな。曲がり角があれば立ち止まって石を投げて様子を伺ったり、罠が無いか調べたりしながら奥へと進む。


 そうして奥には広い空間があった。多分ここがこいつらの生活空間なんだろう。何かの食いかけの肉や食べ終わった骨が辺りに散らばっている。くせえし、汚ねえし、もう少し片付けろと言いたい。

 目の前には棒や欠けた短剣、錆びた剣等で武装した7匹のゴブリン。更に1匹だけ背の高いホブゴブリンがいる。一番いい装備しているし、恐らくこいつがこの巣のリーダーだろう。まあ、背が高いって言っても子供の身長と同じぐらいのゴブリンと比べたらって話だ。だいたい大人と同じぐらいの大きさで、知能もそこまでないので、アーリット達でも問題ないだろう。これがジェネラルやシャーマンだと周りの雑魚を掃除している間、相手するタンクが欲しくなる所だ。


 幸いジェネラルやシャーマンはいないので、特に苦労せずに全滅させる事が出来た。最初にエルメトラ神の火球でリーダーのホブゴブリンを倒せたのが大きかった。いきなり指示出す奴がいなくなって手下のゴブリン達は大混乱になったから、そこを慌てず各個倒して終わりだった。


 さーて、リーダーとその取り巻きを倒して嬉しい所悪いが、ここからが本番だ。


「おーい。終わったらしっかり巣の中を確認しろ。生き残りがいたら、またここが巣になって面倒だからな」

「はい、分かりました」


 トレオンはいつもの調子で声を掛けたのでアーリット達も返事をしたが、モレリアとティッチがさっきと違ってアーリット達をしっかり見ている事に気付いているんだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ