20.相棒を求めて⑤
さーて、今日も諦めずに俺の相棒探していくぜ。って事で来ましたいつもの狩場の森。森に入ってすぐにレッサーウルフに襲われた。その後も黄黒蜘蛛、ゴブリン、スライム、スケルトン、ゾンビに遭遇した。
・・・種類豊富な雑魚ばっかり・・・こんだけ出会えるなんて幸先いいぜ。今日こそは俺の相棒見つかるかもしれない。
取り敢えず昨日みたいに出会う奴手当たり次第って訳じゃなくて、出会っても襲い掛かって来ない奴を探してみる事にする。出会う種類も数も多いけど残念ながら今の所、そういう魔物はいねえ。
そうして彷徨っていると出会ったのは『強鼻豚』。通称『豚』、普段俺がフリーの討伐で獲物としている魔物だ。こいつはその名の通り、めっちゃ固い鼻で突進攻撃しかしてこない。倒し方は牙タウロスと同じ突進を躱して後ろ脚を叩き折れば、ほぼ終わり。
で、俺は慣れているので危なげなく倒した所で今後について考える。
一応大八車を持ってきているし、豚を持って帰るか?でもまだ、森に来たばっかりだぞ。普段なら運がいいって速攻街に戻るんだけど、今日は俺の相棒探しがメインだからなあ。どうすっかなあ。
・・・・
結局俺は一度戻る事に決めた。豚は1匹だいたい12万ジェリーだから捨てていくのももったいない。内臓捨てたら2匹は大八車に積めるけど、捌くのも面倒だ。
そして帰る途中、俺は単眼ゴブリンと遭遇。単眼ゴブリン・・・ゴブリンと同じレベルの雑魚だ。遭遇率はゴブリンより低いがこいつらも金にならないので、進んで倒す組合員はいない。まあ、こいつもゴブリンと同じで討伐依頼があると美味しい獲物に早変わりする。
でも討伐依頼も受けていない俺にとってはただの邪魔な魔物だ。いつものように向かってきた所をこん棒でぶん殴って終わりのはずだった。
なのに・・・
こいつは向かって来なかった。小首を傾げて不思議そうに俺を見ているだけだ。
「・・・・う、嘘だろ?お、お前なのか?」
単眼ゴブリンの思わぬ行動に動揺する。いや、探していたのに驚くのはどうかと思うが、実際攻撃を仕掛けてこない魔物なんて初めてだからな。
一歩近づくが、単眼ゴブリンに動きはない。さっきと変わらず小首を傾げて不思議そうに俺を見ている。
「はは、ははは。見つけた。ようやく見つけたぜ。お前が俺の相棒だったんだな」
更に一歩踏み出すと、両手を挙げて片足を交互にあげるという謎ダンスまで披露する有能っぷりだ。
「ははは。可愛い踊りじゃねえか。お前も俺と出会えて嬉しいんだな。今日からよろしく頼むぜ!俺が必ずサイクロプスまで進化させてやるよ!もし進化できなくてもサイクロプスなんか余裕で倒せるぐらい鍛えてやるからな」
サイクロプスの獲物と言えばこん棒に決まっている。俺と同じだ。やっぱりそういう共通点が必要だったんだ。これからは俺とこん棒コンビ・・・いや、両手にこん棒持ってダブルこん棒コンビとして頑張っていこう。
そう決意し、単眼ゴブリンに近づき手を差し出す。
これから宜しくな!そんな意味を込めた握手つもりだったんだ。
・・・だけど
ブシュッ!!
何かが吐き出される音と共に、俺に白い何かがかかった。飛んできた横方向に目をやると、単眼ゴブリン2匹がグリーンキャタピラーという名前の緑の芋虫を持ち上げていた。どうやら俺は芋虫から吐き出された糸をかけられたらしい。
「ギャ!ギャ!ギャー!」
すぐに目の前の、相棒だと思っていた単眼ゴブリンが大声をあげると、芋虫を放り投げて単眼ゴブリン2匹が俺を取り囲む。おいおい、3匹に囲まれたよ。しかも糸をかけられた時に咄嗟に左腕でガードしたから左腕動かねえし、右腕も糸がかかって肘から先しか動かねえ・・・つまり俺はこいつらの罠にまんまと嵌まったって訳だ。相棒だと思ったのに、ようやく見つけたと思ったのに・・・・。
「ふざけんなよ!くそがあ!こんなんで俺を殺れると思うなあああああ!」
吐き出された糸の先にはまだ芋虫がくっついていたので、体を使って芋虫を振り回し、単眼ゴブリンどもにぶち当てる。芋虫を振り回して何とか単眼ゴブリン3匹を倒した時には芋虫も死んでやがった。
・・・さて、ここからどうするか・・なんて考えなくても一つしかねえか。
■
「おいおいおい!待て待て!な、何だお前は?魔物か?魔物だよな?」
「ベイルっす!」
「・・・・べ、ベイル?・・・本当だ。大八車だ。何だ、ベイルかよ!脅かすんじゃねえよ!」
大八車を引いて芋虫を引き摺って帰ってきたら当然門番に止められた。街に入ろうと並んでいた人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていきやがった。・・・今の俺ってそんなにヤバい恰好かな?・・・・ヤバい恰好だわ。
「ああ、いいぞ。通って」
けど門番はすんなり事情も聞かずに通してくれた。いいのか?
「こういうのもアレだけど、説明とかしなくていいっすか?」
「ああ、いい、いい。後で組合から説明聞くからな。どうせお前からの話聞いても理解出来ねえんだ。組合長やリリーさんから聞いた方が報告書が書きやすいんだ。あの人たちは俺が報告書を書く事まで考えて、分かりやすく簡潔に説明してくれるからな」
へえー、分かっていたけどリリーも組合長も有能じゃないか・・・うん?俺の説明じゃ分かり難いのか?
もう少し詳しく聞きたかったけどさっさと行く様に言われたので、諦めて解体場に向かうが、ここじゃ芋虫の糸はどうにも出来ないってんで豚だけ預けて組合に向かう。
まあ、門の所で分かってはいたけど、今の俺は目立つよね。上半身の大半が白い糸で覆われて芋虫引き摺ってるんだもん。で、組合に入るとまた、暇している組合員が俺を見つけて大騒ぎするんだ。
「うお!何だあいつ!新種の魔物か?・・・ってベイルか」
「!!・・・ベイルかよ!ったく昨日と似たような事してまた遊んでんのか?」
「何だよ!またベイルか。昨日と同じじゃねえか」、「そのパターンはもう飽きたんだよ」
あれー?俺がこんな事になってんの遊びだと思ってる奴多くねえ?こっちは遊びじゃねえんだよ!真面目にやってんだ!
「リリー。悪い。またヘマこいちまった。商人ギルド一つ頼む」
「そういった商品の取扱いはございません」
リリーは書類から顔も上げずに冷たく言い放つ。凄え塩対応なんだけど・・・また俺何かやっちゃいました?・・・・やってたわ・・・色々迷惑かけまくってるわ・・・昨日定時過ぎに慌てて帰っていくの見ちゃったわ。少し残業になったの多分俺のせいだ。
「悪かったよ!リリー。頼むよお!謝るから商人ギルド一つ頼むよお」
「ちょっと!頭を何度も下げるのやめて下さい!」
リリー!許してくれるのか?やっぱりリリーは優しいぜ。
「ベイルさんの頭が動くとグリーンキャタピラーも動いて体液が飛び散って周囲が汚れます!仕事を増やさないで下さい」
「あっ、はい」
違えじゃん。許してくれたわけじゃないじゃん。
「はあああああ。その様子なら一人で歩けますよね?なら、これ持って商人ギルドに行って下さい。で!終わったら必ず!真っ直ぐ!ここに戻ってきてください!」
「あっ、はい」
リリーは何か封筒を俺の頭に張り付け、珍しく感情を露わに言うので、俺は素直に返事を返しておく。付き合いの長い俺は知っている。これはリリーが最上級に怒っているって事をな。これを踏み抜くと組合長とリリーの二人から長いお説教食らうんだ。知っている限りそうなった奴はトレオン、ゲレロ、モレリアしか知らねえ。あいつらマジで碌でもねえな。
ってな訳で街の住人から好奇の目に晒される罰ゲームを受けて、無事商人ギルドに到着した俺は早速兵士に取り囲まれちまった。そりゃあ、白い何かが頭に手紙張り付けて芋虫引き摺ってきたらそうなるよな。
特にここは金が集まる商人ギルドだ。組合と違って正規の兵士が常駐して警備しているからな。入口に入る前に囲まれちまったぜ。
「ちょっと待ってくれ!俺は組合のベイルってんだ。俺の頭に封筒があるだろ?そん中に手紙があるはずだ!それを読んでくれ。なーに動きはしねえよ」
そう言って頭を突き出す。丁度お辞儀の体勢だな。これ今はいいけど年取ると腰に来るんだよ。さっさとしてくれ。
「・・・確かに、組合の正式な納品書だ。よし、いいぞ!お前ら持ち場に戻れ!」
俺を囲んでいた兵士の偉いさんが封筒の中の書類を確認すると、警戒していた連中に持ち場に戻るように指示を出す。
「・・・・納品書?」
え?俺、頭に納品書張り付けられて街中歩いてたの?
「ああ、『ベイル巻き』って書いてるぞ。・・・え?2000?やっす!え?グリーンキャタピラー丸々一匹だぜ。安くねえ?」」
「え?そんなに安いの?」
「普通グリーンキャタピラーだけで1匹2万だ!見た所欠損も無いし何でこんな安いんだ?」
うん?あれ?俺が価値を下げてんのか?何で?10分の1は安すぎじゃねえ?
「おおい!ちょっと組合からの特別納品だ!後は頼むぞ!」
受付とは別の場所―昨日運ばれた所―に案内されると職員に声を掛けて兵士は持ち場に戻っていった。
「はい、はーい。・・・うお!何だこれ?・・・『ベイル巻き』・・・・あれ?これ昨日と違うような・・・やっす!え?昨日の『ベイル巻き』も安かったけど今日のも馬鹿みたいに安いな」
兵士だけかと思ったらポーカーフェイス身に着けているはずの商人でさえ驚くって事は俺が付着するとかなり安くなるらしい。・・・何でだよ!




