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19.ベイルの価値

「こんにちは!商人ギルドです。荷物の引き取りにきました」

「ああ、お疲れ様です。タークさん。これが今日の分の荷物の一覧になります。荷物はいつもの場所に。あと、あれも持って行って下さい」


 鐘一つ分ぐらい待って、ようやく商人ギルドの若者タークがやってくると、リリーは慣れた様子で対応し、最後に俺を指差す。タークは指差す方に視線を向けると、当然俺に気付く。気付くと目を丸くしてリリーから受け取った紙の束をパサリと地面に落とした。


 まあ、一般人ならそういう反応になるよな。驚きながらも臨戦態勢に入れる組合員共がちょっとおかしいんだ。・・・・いや、別におかしくはないか。


「え?え?あれ何ですか?」

「『ベイル巻き』です。ほら、ここに書いてますよ」

「あ、本当だ。書いてますね。でも『ベイル巻き』って何ですか?」


 タークが知らないのも無理はない。だって俺も聞いた事ねえもん。


「『堅皮虫巻き』のベイルさんバージョンです。コーバス組合オリジナル商品になります」


 俺バージョンって何だよ。なんかリリー適当な事言ってねえか?


「ま、まあ、確かにコーバスにしかないでしょうね。でもこれって・・・安っ!え?本当にこの値段でいいんですか?」

「ええ、構いません。但しゴブリンの処理はそちらでお願いします。ついでにベイルさんも商人ギルドで引き取ってくれると助かります」


 おおーい。リリー。俺を見捨てないでくれえ。


「・・・いや、この人はギルドじゃ取り扱えないですよ。今後も組合の方で管理をお願いします」

「・・・・チッ・・・承知しました。それではこちらにサインをお願いします」


 舌打ちした!今絶対リリーの奴舌打ちした!やべえな。俺のイメージ大分下がってんな。またお菓子の差し入れしとくか。


「なあ、ターク。結局俺っていくらで売れたんだ?」


 荷物と共に商人ギルドまで運ばれている道中、暇なのでタークに自分の値段を聞いてみた。


「1万ジェリーです。ゴブリンの処理があるって言っても破格の安さですよ」


 やっす!


「普通の『堅皮虫巻き』ならいくらになるんだ?」

「そっちは状態が良ければ5万ジェリーですね。虫が3万、糸が2万って所です」


 安くね?1万だぞ俺!めっちゃ安くね?


「『ベイル巻き』は糸しか価値がないですし、ゴブリンの処理もあると言っても1万は破格の安さですよ。また今度も売ってくれないですかねえ」


 糸しか価値が無いとか言うな。俺に何の価値もないみたいじゃないか。しかもまた売れって、俺にまた同じ事やれって事か?あれ?こいつ俺に喧嘩売ってね?


 そんな事を話していると商人ギルドに辿り着いた俺は処理場に運び込まれる。処理場の人にも同じ様に驚かれたが、何か謎の液体をかけられたら蜘蛛の糸からするりと抜けられ見事復活。謎の液体が気になったが企業秘密みたいなもんらしくて教えてもらえなかった。


 それと頭から液体をぶっかけられたおかげで、俺が漏らしていた事を誰にも悟られずにすんで、めでたしめでたしだ。大は運よく波が来なかったが、小は我慢できなくて垂れ流しだったからな。大量に液体をかけられたことで見事証拠隠滅に成功した。やったぜ。

 この糸はこれから色々な工程を経て、貴族用の高級衣類に変わるんだろう。




■■■

 今日の報告をリリーから聞いた冒険者組合長ジークは部屋に戻ると、窓に一匹の小鳥が止まっている事に気付いた。


 うん?なんか緊急か?


 この小鳥、見た目は小鳥だが、組合独自の技術で作られた魔道具で、組合上層部か各街の支部長、他特別な職についているものしか使えないようになっている。主にこれが使用される時は緊急の案件だと分かっているジークは疲れた顔をしながら窓を開け小鳥を招き入れる。


 ベイルの馬鹿がまたやらかしたから商人ギルドに頭下げに行って、ようやく仕事が終わったんだぜ。今からまた仕事とか勘弁してくれよ。


 魔道具の小鳥はジークの手元まで来ると一枚の紙に変化する。その紙にはジークが思った通り「緊急!指示を乞う!」と書かれていたので、内容を確認する。


 昨日、日暮れ前3級組合員ベイルが街から出ていくのを確認。これを追跡。

 森の中でゴブリン1匹とベイルが遭遇。ゴブリンからの攻撃を躱す素振りをみせず3度受ける。理解不能、何かの合図か?周囲に人の気配無し。

 3度目の攻撃を受けた後、ゴブリンを撲殺。仲間への連絡の可能性あり、ゴブリンの死体を探るが何も発見できず。

 その後ベイルは黄黒蜘蛛と遭遇。躱す素振りを見せず糸を受ける。これも理解不能、仲間への合図?周囲に人の気配無し。

 蜘蛛から更に糸を巻かれ、攻撃を受ける。が、ダメージ無い様子。恐らく身体強化で防いだ。蜘蛛はベイルを置いて、その場を離れる。仲間への連絡の可能性あり、蜘蛛を討伐し、調べるが何も発見できず。

 その後朝方まで動き無し。朝方ゴブリン2匹遭遇。何故か2匹とも糸に絡めとる。仲間への合図?周囲に人の気配無し。

 すぐに『慎重に着実に』パーティが現れる。怪しい動き無し。

 その後街へ戻り、商人ギルドで糸から解放。ゴブリン2匹の死体を調査、何も発見できず。商人ギルド内の事は不明。そちらはギルドに任せる。

 ベイル及び『慎重に着実に』メンバーは一度シロとしたが、今回の件でグレーとすべきか?こちらでは判断出来ない。指示を求む。


 報告書を読み終えたジークは大きくため息を吐いて椅子に深く腰掛ける。


 ったく、任務中だってのに仕事熱心なこった。・・・・いや、どっちかというとこっちの方が本業だったか。でもまあ、リリーからベイルの件の報告受けたから知っているが、あいつは何も考えてねえんだよな。・・・・いや、考えているんだが、その考えが突拍子もねえんだよ。何で『全てに打ち勝つ』に仲間が増えたら魔物が仲間に出来るって考えになるんだ?意味が分からねえ。


 あいつは無級の頃から知っているが、組合や国に悪意がある奴じゃねえってのはよく分かっている。ただ、物凄く馬鹿だって事も身に染みて分かっている。そして強制される事を病的なまでに嫌うってののもだ。まあ過去に何かあったんだろうが、それ言ったら組合員になる奴なんて少なからず何か持っているからな。


 取り敢えず手紙には『どちらもシロで問題ない、何かあれば俺が責任をとる』って返しておけばいいか。


 しかし、あの『処刑人』が判断を求めてくるなんて、ベイルは凄いのか馬鹿なのか良くわかんねえな。まあ、取り敢えず今度会った時にベイルや他人に気にせず任務を優先しろって言っておくか。


 もうあれから5年だぜ。手がかり一つないから、本部はいい加減諦めればいいのに、いつまで『処刑人』使って探すつもりなんだか・・・。まあ、余所の街でも偽物しか現れねえから無理もないか。


 

 まったく、



 ドルーフおじさんはどこにいるのかねえ。

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