13.レッサーウルフ捕獲依頼おかわり③
ゴドリックの所から街に戻ると、解体場から一番近い門の脇に眼帯を付けた片目のオーガが立っていた。
うわあ、いるよお。オーガが待ち構えているよ。街に入る人達めっちゃビビってんじゃん。あれ営業妨害だろ?コーバスの兵士何してんだよ。さっさと討伐しろよ。・・・別の門から入ろ。
って事で別の門に移動して中に入ろうとしたんだ・・・・
「お前ベイルだな?冒険者組合長の名で組合まで連行するように依頼がある。悪いが拘束させてもらうぞ」
・・・くそが!あのオーガここまで手を回すか?
ここで暴れても俺が賞金首になる未来しかないので仕方なく素直に拘束される。手枷を嵌められて街中を晒し者みたいに歩くのはどうなんですか?俺別に罪を犯したわけじゃないですよ?
「ベイル。お前・・・・」、「やっぱ、そうなるよなあ」、「まあ、ベイルだしな」、「ついにやりやがったか」、「よーし、賭けは俺の勝ちだな」
そのまま組合に連れていかれた俺を見て周りの組合員からの声が・・・ちょっと酷くね?俺普段からそういう風に思われてたんか?印象最悪じゃね?
「こちらでお待ち下さい」
リリーに案内されて兵士共々組合長の部屋に案内される。
「兵士さんも自分の家だと思って寛いでいいっすよ。あ、リリー、喉乾いた。エール持って来てくんね?この人達の分とリリーも頼んでいいぞ」
座り慣れた椅子に深く腰かけ、リリーに飲み物をお願いする。兵士へのさりげない気遣いも忘れずにね。しかも俺のおごり!1000ジェリー硬貨を弾いて格好良くリリーに渡す。ここから俺の印象爆上げしていくぜ。・・・あっ!お釣りは返してね。
「ベイルさんと違って私も兵士の方々も勤務中ですよ。出せる訳ないじゃないですか・・・はあー、お茶で我慢して下さい」
そう言ってお金を返してリリーはお茶を入れてくれた。美人のリリーからのお茶に兵士の二人もにっこりだ。だけど見た目に騙されちゃいけねえ、リリーはこれでも俺より年上で3人の子持ちだ。この見た目に騙されて今まで何人の人間が苦い経験をしたか。
「それでは私は仕事に戻ります。組合長が来るまで少々・・・?そう言えば何で組合長と一緒じゃないんです?北門で待っていたはずですよ?」
「あー、俺、今日南門から帰ってきたい気分だったんだわ。組合長に悪い事したなあ」
・・・
「・・・もう、あんまり組合長を怒らせないで下さい。組合長の機嫌が悪いと若い子が怖がるんですよ」
軽くお小言を言ってからリリーは部屋からでていった。で、入れてもらったお茶を飲み終わる頃にようやく組合長が戻ってきた。
「チッ!何で南門から帰って来てんだ!・・・・・取り敢えず門番の二人はもう帰っていいぞ、助かったぜ」
「いえ、お気になさらず、お疲れ様です!」
「お疲れさまでした!」
「オツカレシタ!」
「お前はここに残んだよ!」
兵士と一緒に出ていこうとしたけど駄目だった。けどなあ、それならその次の手を俺は考えてんだよ!
「おおーい。兵士さんがお帰りだ!誰か案内してくれええ!」
部屋の中から大声で声を掛けるとすぐに扉が開いて新人の受付嬢が姿を現した。
「え、えっと。お呼びでしょうか?」
「別に呼んじゃいねえ。呼んだのはそこの馬鹿だ。まあいい、悪いが兵士さん達を外まで案内してやってくれ」
「しょ、承知しました!」
そう言って案内される前に兵士さんに手枷を外してもらう。その時にちょいと受付嬢にお願い事をしておく。
「ふう、全くこの忙しい時に面倒事起こすんじゃねえよ!」
「なんかあったんすか?」
「トレオンの馬鹿が護衛依頼すっぽしやがった!おかげで商業ギルドに頭下げにいったり話聞いたり大変なんだよ」
聞けばトレオン君、コーバスから隣町コムコムまでの往復の護衛依頼受けたらしいけど、コムコムでギャンブルに熱中して帰りの護衛依頼すっぽしたそうだ。馬鹿だなあ。
「お前の言う通り、トレオンは馬鹿なんだよ。ただなあ、元5級の俺を怒らせる事に何の躊躇いもない馬鹿がこのコーバスに後3人いるんだよ」
「マジっすか?組合長を恐れないなんて命知らずな連中ですね!多分二人はモレリアとゲレロっすね?あと一人は・・・・ティッチっすね?あいつ頭固いんだもん。今度俺がビシッ!っと言っておきますよ!」
・・・・・
「お前だよ!『4馬鹿』のお前らは俺を怒らせずに生きてけねえのか?」
「俺っすか?俺は組合長怒らせたくなんてないっすよ」
「その話し方が既にムカつくんだよ!普通に話せ!」
組合長のその言葉と同時に扉がノックされた。
「何だ?」
「お呼びと聞きましたが?」
扉が開くと、対組合長決戦兵器リリーさんが立っているではないですか。さっきのコに呼んでくるようにお願いしておいて良かった。リリーに日頃助けてもらっている組合長はこの決戦兵器がいれば怒りを半分に抑えられるからな。いるだけでデバフまくなんて、ぐう有能!
「呼んでねえよ・・・・」
「ああ!俺!俺が呼んだ!ささ、リリー中に入って!疲れたでしょ?座って、座って」
「え?え?」と珍しく戸惑っているリリーの背中を押して部屋に入れて組合長の隣に座らせる。
「取り敢えずお茶いれますね」
そういって二人の為に俺自らお茶を入れてあげる。こういうさり気ない気の利かせ方出来るのよ!俺は。
「それ、さっき私が入れたお茶ですよね?・・・・・温いし」
「さて、リリーも来た事ですし、話を聞かせてもらいましょうか?」
「何で、てめえが主導権握ってんだよ。俺が呼んだんだろうが!」
「・・・あの?もう帰っていいですか?子供の迎えに行きたいんですけど?」
チッ!ここでリリーに帰られたら怒った組合長を誰も止めれなくなって俺が無事じゃ済まなくなる。怒った組合長を止められるのは受付嬢の中でリリーだけだからな。大人しく話を聞く事にする。
「そんで?話って何ですか?」
聞いてみたけど大体察しはついてる。
「お前、シリトラ達とやり合っただろ?苦情が来たぞ」
「ちょ!何であいつらが苦情言ってくるんですか!あいつらが仕掛けてきたんですよ!俺は何もやってないですって!」
「ベトベトにされたって言ってたぞ。何使った?」
あっ!リリーから冷たい視線を感じる。お茶を熱々にしておいた方が良かったかな?
「乾燥スライムですよ。あいつら初手シリトラの水魔法で対処するんで有効かと思って」
「それ、ここじゃあんまり役に立たねえだろ?何でそんなもん持ってんだ?・・・いや、今はそれはどうでもいい。シリトラ達の話聞いてお前が悪くねえのは分かっているから、こうやって呼び出すのも俺は必要ねえと思ってんだが、一応組合としては両方から話を聞くルールになっているからな。あいつらにもちゃんと説明して誤解は解いておいた。後であいつらから謝罪もあるはずだ。一応『いつものやつ』やって、それでこの件は収めてくれ」
お?怒られるかと思ったけど違うのか?
「俺も向こうの立場ならそうしたでしょうし、ケガも無かったから別にいいですよ」
特に被害も無かったし、ここでごねると何か小物みたいだしな。俺みたいな大物は心が広いんだ!
「よし、それじゃあこの話は終わりだ。それで、呼び出したのは今からの話が本命だ。お前、ゴドリックから変わった依頼受けてんだって?」
組合長の言葉に頷く俺。組合長、ゴドリックと知り合い?
「依頼人の事知ってるんですね?」
魔物の捕獲とかいう変わった依頼がある事を組合長が知ってても驚かないけど、依頼人の名前を知っているってのは驚いた。
「お前は知らねえのか?その乾燥スライム使った戦い方を考えたのがゴドリックだ」
「マジで?」
この乾燥スライムを魚系やヌルヌル粘々系の魔物にぶつけるだけで、表面の水を吸収して簡単に瀕死または倒せるって使い方は有名だけど、それを考えた奴の事なんて知らねえ。
「10年ぐらい前だったか?その戦い方をゴドリックが組合に売ったんだ。そこから海辺の街じゃ一般的に使われだした」
マジか。昔から知られている有名な倒し方だと思っていたけど、結構歴史は浅いんだな。
「戦い方って組合に売れるんですか?」
「情報として売れるぞ。『牙タウロスの突進を盾受けしてから殴り掛かる』みたいな組合が推奨しているような闘い方もそうだ。後は『嗅覚の優れた魔物には香辛料爆弾が良く効く』もそうだったか」
へえー。良い事聞いた。今度売れる情報がないかリリーに聞いてみよう。
「お前も知っているだろうが、その乾燥スライム使った戦い方はかなり有効でな、ゴドリックは莫大な賞金をもらったんだ。ただ、当然その後はその金を狙うハイエナ共がゴドリックに群がってな。そいつらが、研究を続けようとするゴドリックの足を引っ張り、嫌気がさしたゴドリックはしばらく姿を消した。で、最近になって北村に姿を現したって所だ。いずれゴドリックの存在は広まるだろうが、組合としてはそれを止めるつもりもねえ。ただ、組合から積極的に広めるつもりもねえって事だけ頭にいれとけ」
ああ、はい。ようするに俺もゴドリックの事は広めるなってことだな。
「それでだ。今後ゴドリックからの依頼は、お前に優先的に回す。噂じゃ結構偏屈な奴らしいが、お前は既に信頼されているみたいだしな。組合にもお前がそういう依頼受けてるって噂も流しておく。」
組合長の言葉に当然俺は反対する。
「ちょっと待ってくれ!俺は指名とか強制されるのは嫌いだって組合長も知ってるでしょう?それに俺は3級だ。そういう依頼はないはずです」
「馬鹿、話を良く聞け。『優先依頼』って言っただろうが。ソロのお前じゃ馴染みがねえが、護衛依頼があった時は、依頼主と仲の良いパーティに優先して紹介してんだよ。逆に依頼人から指名があった時も同じだ。3級だから指名は出来ねえが最初に紹介する事は出来る」
「それって断れるんですか?」
俺の質問に組合長とリリーは当然とばかりに頷く。嘘じゃなさそうだ。
「強制じゃねえから当然断ってもペナルティはなしだ。ただ、お前の場合はちょっと特殊だから何で断るのか必ず理由は教えてくれ。その理由を聞いてから組合で誰に依頼するか考えるからな」
そう言えば最初リリーも『レッサーウルフの捕獲』の依頼の難易度どうするか判断に困ってたな。
「まあ、断わってもいいなら文句はないですけど、それよりもゴドリックの事、偏屈って言ってましたけど、別に普通に話の分かるいい依頼人でしたよ?」
ハイエナに狙われてたから人間不信になっているなら分かるけど、偏屈とは感じなかったような。
「あいつは最初、人を試す癖があるって話だ。まあ、それもハイエナ共のせいだけどな。お前も最初の依頼内容すげえ扱いに困る依頼だって思っただろ?で話を聞きに行って1から10まで全部説明聞いてくる奴はその時点で弾かれる」
ああ。そう言えば最初試されている感があったわ。
「お前はその試験に無事合格したから助かったぜ。リリーもこいつに頼むって判断は正解だった。ありがとうよ」
「ベイルさんがその試験に合格してなかったらどうなっていたと思いますか?」
「費用が高くなっても自分で人を雇ってレッサーウルフの捕獲をしていたはずだ。そういう風に少し動いていたらしいからな。で、そうなった時、何か魔物でとんでもない発見されたらどうなると思う?」
組合長の言葉に俺とリリーは腕を組んで考える。「凄いねえ」だけで終わらねえってのは言葉から分かるけど、特に俺は困らなくねえ?いや、稼ぎのいい依頼が無くなるか。
「えっと、ゴドリックさんの暮らす北村はここコーバスの組合の管轄ですから、もし組合抜きで凄い発見したら、『コーバスの組合は何やってんだ』って言われるでしょう。そうなると組合長が交代する?」
リリーの答えに俺は顔を輝かせる。
「おお!いいじゃん!別に何も困らない!むしろ望むところじゃん!」
「お前!ぶん殴るぞ!・・・・・まあリリーの言った通り俺はここからいなくなるだろう。ただ、当然職員も罰を受けるだろうな。良くて減給、悪くて移動か」
「ええ!?困ります。まだうちは子供が小さいんですよ!」
うわー。職員さんも大変だ。俺は自由業の組合員で良かったぜ。
「更にだ。俺の代わりにやり手の組合長が就任するだろう。そうなるとゴドリックを取り込もうと多少強引にでも動くはずだ。後、考えられるのは言う事を聞く組合員を呼んでそいつらばっかり優遇、元々コーバスにいた奴らにはあんまり依頼を回さないとか、強制じゃないが、断れないようにして依頼させるかとかか」
「えー。そうなったらチョーめんどくせえじゃん。やっぱり組合長の移動は無しで!本部がなんか言って来てもそのオーガ並みのパワーで蹴散らして下さい!」
「それやったら俺がお尋ね者になるじゃねえか!」
怒っていきり立つ組合長だったがリリーが宥めてくれる。やっぱり呼んでおいて正解だったぜ。
「まあ、まあ、組合長。結局ベイルさんが合格したので良かったじゃないですか」
「まあ、それもそうだな。・・・・じゃあ、今後もしゴドリックが、とんでもない事を発見しそうな可能性があれば、すぐに俺に連絡をくれ」
とんでもない事って何だよ?しかもそれをいちいち報告ってのも面倒くせえな。
「へーい」
まあ、ここでゴチャゴチャ言っても仕方ねえから、適当に返事だけしておく・・・
・・・・・
・・・・・
「あっ!」
そういやあ、ゴドリックの奴とんでもない発見しそうだったわ!
「どうかしましたか?」
「何だ?・・・おい!まさかもう既に何かあるのか?」
きょとんと首を傾げるリリー。人妻子持ちじゃなければ俺でも惚れてしまいそうなぐらいカワイイぞ。そして珍しく戸惑った顔を見せる組合長。こっちは別に可愛くない。
・・・・・
「・・・魔物の進化がほぼ確定って・・・」
頭に手を当てて首を振るリリー。俺も魔物の進化はこの間まで都市伝説だと思ってたからリリーの気持ちは分かる。
「ち、違うぞリリー。驚くのはそこじゃねえ。ワイルドウルフに進化してもベイル達に懐いていたって方だ。これ下手したらワイルドウルフが魔物と戦ってくれるって事じゃねえか。更に言えばまだ確定じゃないが上位種と言われているレッドウルフ、最上位種のフェンリルにまで、もし進化したら・・・」
おお!そうなったらかなりやばいぞ!目の隈が酷い冴えない学者風見た目のゴドリックがフェンリル従えているなんて物語だと実は黒幕でしたって強キャラ感あって恰好いいじゃねえか。・・・・・・いや、もしそうなった時はフェンリルが『タロウ』、『ジロウ』、『サブロウ』、『シロウ』って名前になるはずだ。すげえ格好悪いな、おい。
「まあ、これはまだ想像の段階だ!ベイル!取り敢えず何か変化があれば逐一俺かリリーまで報告しろ!他の職員には言うなよ!こいつはかなりヤバい案件だからあんまり広めるな!だが、まあ、そうは言ってもゴドリックは学者だ。いずれ自分から国に向けて発表するだろうから、それまで隠しておけばいい」
ええー。そんな面倒な案件関わりたくねえんだけど。ただなあ、タロウ達に最近情が湧いてきちゃったんだよなあ。依頼を断ってたら、いつの間にか処分されていたってなるのも嫌だなあ。まあ、いずれってのがどれくらいか分かんねえけど、そこまで長くはないだろうってのが救いか。




