12.レッサーウルフ捕獲依頼おかわり②
「ひゃひゃひゃ!こりゃあ美味しい依頼だぜ」
夕方、既に3匹のレッサーウルフを捕獲した俺はご機嫌だった。やり方は前回と同じなので特に苦労せず、更に森の比較的浅い所で見つけられたのも運が良かった。
そんな俺の前をトコトコ歩く3匹のレッサーウルフ。その首の枷から伸びた鎖は俺が握っているので、日本だと犬を散歩させているようにしか見えないだろう。でもこっちじゃ犬は放し飼いだから、この光景を散歩だと思う奴はいないんだよなあ。
「ベイル!止まりなさい!」
そんな中偶然出くわしたのはモレリアの所属する『ちょっと賢い』のパーティだった。そのリーダー、子供にしか見えないシリトラが杖を構えて俺に止まるように命令してくる。既に他の連中も各々武器を構えて俺に向けている。
「よお、ちびっ子。何おっかねえ顔してんだ?お前ら依頼の帰りか?」
向こうの警戒を解く為、俺は出来るだけいつも通り話しかける。
「ちびっ子言うな!ベイル、そのレッサーウルフは何です?何故、あなたを襲わないんです?」
なんか余計警戒させちまった。容姿の事言ったの失敗だったか?でもこれでモレリアと同じ年ってどうなってんだよ。
「そういう風に躾けたからな。一応依頼だからどうやったかは話せないけどな」
「それなら、何故私達に今にも襲ってこようとしているんです?」
「そりゃあ、武器構えて敵意向けてくれば、こいつらだって警戒するだろうよ」
「こいつら殺していいですか?」
「何でだよ!やめろよ!こいつらだって生きてんだぞ!無暗やたらに殺したら可哀そうだろ!」
本当、こいつの頭の中どうなってやがんだ。魔物だからって何しても言い訳じゃないんだぞ。
「・・・・あなた、前に私達とレッドウルフの討伐行った時、手下のレッサーウルフ一番多く殴り殺してませんでした?」
「襲ってくる奴が悪いんだよ!」
「なら、今まさに、襲って来ようとしている、そこのレッサーウルフを私達が倒しても問題ないですね」
「問題大ありだよ!バカヤロー!モレリア!お前もこのちびっ子に何か言ってやれよ」
さっきから黙って様子を見ているモレリアに助けを求める。他のメンバーが各々武器を構えて警戒しているってのに、こいつだけは武器を構えずただニコニコ笑っているだけだ。
「見て分かるように僕も今かなり混乱していてね。どうしようか迷っているんだよ」
いや、全然そんな風に見えないぞ。ただ成り行きを楽しんでいるようにしか見えない。
「取り敢えず射っておきましょうか?」
メンバーの弓使いミーカが一歩前に出て不吉な事を言いやがる。
「待て待て!駄目だ!取り敢えずで殺そうとするんじゃありません!ミーカは優しい子でしょ?」
「・・・いや、何で親っぽいんですか?ベイルさんあんまり私と話した事無いですよね?」
とか言いながらミーカの奴、マジで矢を射ってきやがった。慌てて手に持つ盾で防ぐ。あ、危ねえ。捕獲のために盾持って来てて助かった。
「おい!馬鹿!マジでやめろ!こいつら殺すんなら先に俺を殺してからにしろ!」
3匹のレッサーウルフの前に立ち、手を広げてシリトラ達と対峙する。これ傍から見てたら、さながら映画の感動シーンとかにみえるんじゃないだろうか?
「うーん。どうします?本気で魔物庇ってますよ?私はこのまま射ってもいいかなとは思いますけど?」
「私もいいと判断しますけど・・・」
あっれー?ここは俺の行動に感動して『チッ!仕方ねえ今回は見逃してやる』ってなる所でしょ?何で射る方向で話がまとまりかけてんの?シリトラ達二人はチラリとモレリアの様子を伺う。モレリアの判断に任すって事だな。それなら安心だぜ。俺とモレリアは仲が良いからな。なんだかんだ言って最後には止めてくれるはずだ。
「まあ、二人の判断に任せるよ」
「おいいいいい!任せるなよ!そこは止める所だろおお!てめえ乳にばっかり栄養やってる場合じゃねえぞ!少しは考えろ!脳味噌にも栄養回せ!」
「ミーカ。射っていいよ」
モレリアの言葉と同時にミーカは矢を射ってくる。躊躇いなんて欠片もねえ。的確にレッサーウルフの眉間を射ぬく正確無比な射撃だ。慌てて盾で受ける。
「危ねえ!おい!今の当たれば俺のかわいいレッサーウルフ死んでたぞ。お前らおかしいんじゃねえか?」
「魔物に向かって『俺のかわいいレッサーウルフ』って言葉が出る方がおかしいんですけど?だいたい魔物を庇ったり、モレリア先輩と気が合ったり、前からベイルさんの事おかしいと思っていたんですよ。ベイルさん精神系の魔法にやられてません?」
「おーい、何で僕を巻き込んだ?」
「おかしいのはてめえだろ!躊躇いなく殺そうとしやがって!」
「『魔物殺すのに躊躇うな』。裏試験でそう教えてくれたのは諸先輩方です。私はその教えを忠実に守っているだけ、おかしくありません。」
「ちっ!話にならねえ。でもまあ、説得している時間もねえ。・・・・そっちから仕掛けてきたんだ。抵抗はさせてもらうぜ」
俺の言葉に様子見していた他のメンバーも目つきが変わった。とは言うものの4級含む実力者パーティ相手にレッサーウルフ3匹庇いながらまともに逃げるのは厳しい・・・なら!まともじゃない方法で逃げるのみ!
先手必勝!俺はとある物の固まりをあいつらの上空に向かって投げる。普通のパーティならその場から飛びのくんだが、『ちょっと賢い』は違う。誰一人動こうとしない。
「これは宣戦布告と捉えていいんですね?」
そう言ってゆっくり杖を持ちあげるシリトラ。
宣戦布告って・・・・お前らが先に仕掛けてきたって言っただろ。
そのシリトラの杖の先から複数の水球が生まれ、俺の投げた物を迎撃する。だが、
「うわ、何ですかこれ?」、「うわーネバネバだ」、「くっ!動きにくい!」、「ベイル!あなた!」
俺の投げた固まりに水球が当たると爆発的に大きくなり、シリトラ達に降り注ぐ。俺が投げたのは魔石を抜いてから乾燥させたスライムの固まりだ。水分を物凄い勢いで吸収するから水分多い系の魔物にかなり有効。
海の近くならかなり一般的に使われているが、内陸のコーバスならキノコ系の魔物ぐらいにしか使えないので知っている奴はかなり少ない。当然シリトラ達もスライムの残骸にこんな使い方があるなんて知らなかったんだろう。混乱している。
ガハハハッ、こういう場合は最初シリトラが水魔法で迎撃って決まってんだろ?お前らと何回依頼受けてると思ってんだ。お前らの手の内は全てお見通しだ!そんで、次の行動も分かっているぞ!モレリアの魔法とミーカの弓、他の連中は投げナイフだろ?させねえよ!
逃走用に使う煙玉を数個投げて辺りを煙まみれにする。
「うわ!煙が!」、「ベイルの奴!何も見えないわ」、「いやあ、手の内知られて対策完璧だねえ」、「モレリア先輩、何呑気な事言ってるんですか!風魔法早く!」
そんで、モレリアの風魔法で煙を払うって所まで読んでるぜ!既に俺は煙が無くなるタイミングに合わせて『香辛料爆弾(辛み抜き)』を投げている。辺りに舞う香辛料。『大鉈』の時と違って目は腫れねえから安心しろ。その代わり咳とくしゃみはしばらく止まんねえけどな。
「くしゅん!ベイルさん!あなた!くしゅん!これは問題ですよ!」、「ブワックッション!!いやあ、きついなあ」、「ゲホ、ゴホ。ベイル、あなた許しませんよ!」
みんな咳やくしゃみで辛そうだ。っていうかモレリアのくしゃみは、おっさんみたいだな。まあ、これなら魔法にも集中できないだろうから逃げ切れるぜ。
「おい!いくぞ!ジロウ!サブロウ!シロウ!」
「「「ワン」」」
ちゃんと返事するなんてカワイイ奴らだ。俺は苦しんでいる『ちょっと賢い』の奴らを置いてその場を後にした。
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「今回も素早い対応ありがとうございます。まさか一日で終わらせてくれるなんて思いませんでした」
色々あったが、無事、ゴドリックの所に手懐けたレッサーウルフ3匹納品の依頼を達成した。ただなあ・・・。
「どうかしましたか?浮かない顔ですね?」
「これから組合に戻ると確実に一つ目オーガとの死闘が始まるのが分かっていてな。ゴドリックさん助けてくれない?」
「・・・・・えっと、すみません。僕は戦うのは得意じゃないので、足手まといにしかならないかと」
「壁になってくれるだけでも助かるんだよ?」
「それって僕に肉壁になれって事ですよね?」
駄目かあ。嫌だなあ。帰りたくねえなあ。絶対シリトラ達、俺の事組合に報告してるよお。そうなると一つ目オーガこと、コーバスの冒険者組合長ジークが出てくるはずだ。組合長は片目を失って引退したと言っても元5級組合員、その強さは俺とゲレロの喧嘩を止めれる程に馬鹿力だ。なるべくなら関わりたくねえが、そうも言ってられねえ。ちゃんと話をしておかないとシリトラ達の、ある事無い事の言い分だけ信じて員証取り上げられるかもしれねえからな。
「はあああ、仕方ねえ、覚悟を決めるか、ゴドリックさん、骨は拾ってくれよ」
「・・・・いや、何で僕が?拾ってもタロウ達にあげますよ?それよりも色々検証したらまた組合に伝言残しますのでその時はお願いしますね」




