112.オーク検証依頼③
「ダメだった」
行く前と違い顔を腫れ散らかしたゲレロが戻ってきて報告する。
「見りゃあ分かる」
「イーパ、容赦ねえな」
同じパーティだからだろうか。イーパの奴、盾で容赦なくゲレロをボコボコにしてたからな。あれはカルガーより容赦なかった。デリカシーの欠片もないゲレロが悪いから仕方ないんだけど。
「僕ら凄い見られてるんですけど・・・」
ゲレロの馬鹿が大声でイーパに言うもんだから、男達からはドン引きの視線を、女達から冷たい視線を向けられ、ショータンがビビっているが、慣れたらどうって事ねえよ。
「あいつら今度は何やってんだ?」
「ションベンなんて自分で出せよ」
「馬鹿の考える事は分からん。それよりもショータンもあっち側に行ったのか」
「有望株だったのに残念だ」
「ちょっとお!俺の評価だだ下がりなんですけど!」
男達の声が聞こえてきたショータンが抗議してくるが、この依頼を受けたのが悪い。諦めろ。何かまだブツブツ文句言っているショータンを無視して次の番のトレオンが立ち上がる。
「そんじゃあ、次は俺の番か。けど組合のこの空気じゃ、厳しいな」
「おいおい、いきなり泣き言か?」
「やる前から負けを認めるのか?」
やる前から泣き言言うなんて情けねえ。俺とゲレロで煽ると、トレオンの奴、ニヤリと笑いやがった。
・・・・こ、こいつ・・・弱気見せたのはわざとか!既に勝ち筋が見えてやがる!
「ハハハ、悪いな。俺はピンと来たぜ!この閃き、俺の勝ちだ!ちょっと待ってろ!すぐにブツは手に入れて持って帰ってきてやるからな!ハハハハ」
・・・・何か勝手に盛り上がって、トレオンは外に飛び出して行った。
「ど、どうしよう。リーダーがあっち側に行ったんだけど・・・」
「だから俺はあんまりベテラン達と関わるな、適度な距離を保てって言ったんだ」
「こうなると『慎重に着実に』は解散かなあ」
トレオンが飛び出して行った扉を眺めていると、ショータンの仲間の声が聞えてきた。
「ちょっとおお!みんなああ!」
パーティ解散の危機になったショータンが叫んで仲間の所に駆けだそうとするが、今は依頼中だぜ。
「おいおい、ショータン、どこ行こうってんだ?」
「今は依頼中だぜ。仲間とは後で話をしろな」
そう言ってショータンの肩を掴む俺達だったが、すぐにニッシーが組合に飛び込んできて状況が変わった。
「大変だ!トレオンさんが広場でティッチさんにボコボコにされてる!周りの兵士も誰も止めねえ!このままじゃトレオンさん死んじまう!」
・・・・・・
ああ、トレオン君何考えてティッチに頼んだんだろうな。このまま死んだら・・・・・まあいいか。
「・・・・ええ?な、何で誰も動いてくれないんです?トレオンさんって嫌われてました?」
ニッシーが誰一人動かない組合員にドン引きしている中、同じパーティメンバーのショータンだけが立ち上がった。
「ニッシー!それは本当か?もしかしたら何か誤解があるかもしれない。案内してくれ。ベイルさん、ゲレロさん、俺はこの勝負降ります」
そう言って二人駆けだして組合から飛び出して行った。
・・・・あれ?次はショータンの番なんだけど・・・降りたって事は次は俺の番?
「公平に行けば次は俺の番だろ」
順番考えていたらゲレロが立ち上がった。一巡目は俺が先だったから二巡目はゲレロでもいいか。俺も良い考え思いつかねえし。
「それじゃあ、俺は娼館に行ってくるぜ」
!!
「ああ!てめえ!ずるいぞゲレロ!それは反則だろ!」
・・・・思わず声をあげたけど。娼館は思いつかなかった。これはゲレロの閃きの勝利と言っていいだろう。
・・・この勝負俺の負けだ。
■
「ダメだった」
「なんでえええ?」
この勝負完全に負けたと思っていたけど、ゲレロが肩を落として帰って来た。待っている間にリリーに依頼書を作ってもらった後、一人冷たい視線に独り耐えていた俺は思わず声をあげる。
「色々聞いて回ったが、そういうプレイの店はないらしい」
「嘘つけ!!」
そんな訳ねえだろ!この世界風俗関係は俺の度肝を抜くような店もあるんだ。ションベンなんて序の口だろ!
納得いかない答えを聞いて椅子を弾き飛ばして立ち上がるが、ゲレロが手で制する。
「本当だ。そういうのは『伝説のエロ神』様が嫌っていたそうで、風俗界隈ではあんまりないそうだ。聞いたら領都になら、そういう店が一軒だけあるらしい」
・・・・ちょ・・サク・・・伝説のエロ神様・・・ちょっと自分の好みを後世に押し付け過ぎじゃねえか?これで依頼失敗したら今度あんたのペットの黒いトカゲに八つ当たりするぞ?
「おいおい、こうなりゃお手上げだぞ」
「流石に領都往復はなあ。しかも鮮度が大事とか言われそうだしなあ」
周りの冷たい視線からも誰もくれないだろう。
「こうなりゃ、裏路地で立っている女から買うか?」
ゲレロが言うのは。いわゆる立ちんぼって奴だ。金さえ払えば誰でもすぐに相手にしてくれるが、娼館と違って一日で何人も相手にして、更にきれいに洗わず次の客をとるから前の奴のが残っていたりするらしい。しかも病気の奴も多いって話だ。その分値段は安いが、俺はごめんだ。
「病気持ちだとダメって言われただろ」
オークが反応しないらしい。
そんなん調べるゴドリックの研究って何なんだ?と思ったけど、この結果はただの副産物だそうだ。
「これマジでお手上げじゃねえか?」
「馬鹿野郎!そう簡単に諦めるんじゃねえ!」
「・・・いや、俺ら結構頑張ったと思うぜ。ベイルは何でそんなに頑張るんだよ」
そりゃあ。20万だからに決まっているだろ。
■
「いやあー。今日も皆さんお美しい。お!エール無くなりそうですね。不肖わたくしベイルが皆さまに今宵お酒を献上させて頂きます」
「「「・・・・・・・・」」」
すっげえ、睨まれてる。仕方がねえとは思うが、さっき、あそこまで怒らせたモレリアとイーパだからな。けど、二人とも夜の街で遊び歩いているから、まだ話を聞いてくれそうだ。・・・そう言えばモレリアはもう娼館遊びやめたんだっけ?
それよりも一緒にいるシリトラが邪魔だなあ。上手い事言ってこいつを追い払わねえとな。
「シリトラ、お前邪魔だからどっかいけ」
「はあ?ベイル、あなた喧嘩売ってるんですか?」
「ばっか!違えよ。この話はお子ちゃまのお前にはまだ早いから、聞かせられねえんだよ。それに子供はもう寝る時間だ」
「お子ちゃまじゃないです!何度も言ってますが、私はモレリアと年は同じです。それにまだ日も暮れていないし、寝る時間ではありません」
・・・上手くいかねえなあ。仕方ねえ、シリトラにも話をするか。
「さっきの話の続きだけどよ。手に入れるためにはどうしたら良いと思う?一応こういう依頼書は作ってもらったけど、誰か受けてくれねえかな」
今度は要求じゃねえぞ、相談だからな。依頼書を見せると案の定、モレリアとイーパは依頼書に目を通し少し困った顔をしながらも相談に乗ってくれる。こいつら何だかんだ優しいからな。
「だ、誰も受けないんじゃないかな」
「そう、モレリアの言う通り」
「それじゃあ、困るんだっての。何かいい考えないか?詳しくは言えねえんだけど、ゴドリックの依頼に必要なんだ」
今までもゴドリックの依頼の内容は碌なもんじゃないが、結果はすげえ事になっているのはみんな知っているはず。だからこれで、どうにか察してくれねえかな。
「「・・・・」」
俺の言葉を聞いて、二人とも凄い困った顔している。何となく察したけど、協力するのは嫌って思っているのかな。
「自分達の使えばいいじゃないですか?」
二人の答えを待っていると、横のシリトラが口を挟んで来た。はあー。やれやれだぜ。
「シリトラ、ガキのお前は何も分かってねえんだから口を挟むな」
「だから子供じゃないって言ってるでしょう!」
プリプリ怒り出して面倒くせえ。こいつから貰うか?・・・いや、子供じゃオークは反応しないってゴドリックは言っていたから、見た目子供のシリトラじゃダメかもしれねえ。それだったら確実に反応する奴に貰った方が早い。誰か協力してくれねえかな。
「皆さんどうしたんですか?何か珍しい人と絡んでますね」
悩んでいると、『蜂蟻撤退』のメンバー、ミルシーとかいう三つ編みツインテールの素朴な顔した女エルフが話しかけてきた。
「やあ、ミルシー。依頼の帰りかい?」
「そうです。さっき帰ってきました。それよりも何かあったんですか?」
「ベイルの依頼。私達困ってる」
「4級の皆が困るってそんなに難易度が高いんですか?」
「難易度はそこまで高く・・・高い?・・・どうなんでしょう?私達にはかなり高いと思いますが、平気な人は無級でも簡単にこなせる依頼です」
シリトラの答えに何か分かったのか、少しドヤ顔で胸を叩く。
「分かりました。みんなが困っているなら、平気な私が代わりにその依頼受けます」
おお!マジで!?
「その依頼って3級でも受けれます?」
「おお!大丈夫だ!それよりもマジで受けてくれるの?」
「私は別に平気なので、いいですよ!」
マジかよ。やっぱり探せば平気な奴いるんだな。ドン引きしている周りの視線も気にしてないから本当に平気そうだ。そう言えば、ミルシーって娼館よく行っているって聞いたな。モレリアとイーパに良い店を教えてもらっているうちに仲良くなったとか言ってた。だからそっち系に耐性があるんだな。
「はい。サインしましたよ」
さっきリリーにすげえ睨まれながらも作ってもらった依頼書に、ミルシーがサインしてくれた。
「マジで助かった。これで領都の娼館まで行かなくてすんだぜ」
「・・・・娼館?定食屋じゃないんですか?いや、確かに娼館も食べ物や飲み物出すからたくさんいそうですね」
「・・・・・うん?」
「・・・・あれ?」
「・・・・・・み、ミルシー・・・あ、あなたもしかして・・・」
何かに気付いたモレリア達。3人とも驚いた顔でミルシーを見つめる。
「うん?あれ?どうしました?」
3人から見られたミルシーは少し困惑している。
「み、ミルシー、ちゃんと依頼書読んだかい?」
「・・・・え?」
モレリアが戸惑いながらミルシーに確認すると、その動きが止まった。・・・と思った次の瞬間には俺の手から依頼書を奪いとっていた。・・・トロそうに見えるけどこいつ動き早いな。そうして依頼書を読み終えたミルシーは大声をあげた。
「・・・・は?・・・・はあああああああああ??!!な、何この依頼?」
驚くミルシー。3級なのに依頼書よく読まずにサインしたのかよ。無級ならともかく3級組合員がやっちゃダメだろ。まあ、キャンセルはさせねえけどな。
「な、何、このション・・・おしっこを・・・瓶に詰めて・・納・・品?何なのこの依頼!こんな依頼組合がする訳ありません!無効です!」
「悪いが、これは正式な組合からの依頼だ。ここにリリーの署名と組合長のハンコが押してあるだろ?」
俺が教えてやると、ミルシーは凄い顔で睨みつけてきた後、依頼書を乱暴に握りしめてリリーの所に向かっていった。
「・・・・はあ?正式な組合の依頼?・・・キャンセル・・・・駄目?・・・何で?」
これは組合からの正式な依頼だ。普通はこんな依頼受けてくれねえけど、今回は特別に受けてくれた。ゴドリック様様だ。まあ、リリーの俺に対する評価が下がったが、仕方ねえ。
そんでミルシーはキャンセルしようとしているみたいだが、俺の依頼はキャンセル不可で依頼書書いてもらっている。組合も滅多な事じゃキャンセル不可の依頼なんて通してくれねえが、俺の依頼は誰でも達成できるから通ったんだ。
そうして騒いでいるミルシーだったが、冷静なリリーの対応に諦めたのか泣きながら戻ってきた。
「シリトラさん、モレリアさん、イーパさん。誰か助けて下さい」
「依頼書はちゃんと読むのは組合員の基本でしょう。今回は受けたミルシーが悪いです。私達は助けられません」
「ごめんねえ」
「うん、無理」
「そ、そんなあ~」
3人から拒否されて更に涙を流すミルシー。けど、そんなミルシーに俺は容赦なく依頼の最終確認だ。ダメ元で組合に依頼書作っておいてもらって正解だったぜ。やっぱりこういうのは正攻法がセオリーだな。
「明日の朝までにこの瓶に詰めて納品だ。報酬は5000ジェリー。別にミルシーのじゃなくてもゴドリックが納得してくれれば誰のでもいい。ただあんまり子供だったり年寄りだったり、病気持ちのは駄目って話だ。ゴドリックが納得しなきゃ、納得出来るまで何度も納品になるから、一回で決めろよ。別にそんな難しい依頼じゃねえだろ?」
「難しいですよ!!G退治だと思ったのに!卑怯な手で私を嵌めたベイルさんは絶対許しませんからね!復讐リストに名前書いてやりますから!!」
そう言って、泣き喚きながら組合から走り去っていった。
・・・・おいおい、別に卑怯な手で嵌めたわけじゃねえ。勝手に勘違いしたのに俺のせいにするなよ 周りが勘違いして俺の評価が下がるだろ。そんで復讐リストって何だよ。名前書かれたら死ぬ呪いのリストとかじゃねえよな。
「ああ、泣いちゃったよ」
「最近少し調子乗ってたから丁度いい」
「イーパの言う通り、最近あの子迂闊すぎますからね。これで少しは懲りるでしょう」
聞けばミルシー、移籍した直後はおとなしかったが、最近は都会移籍組特有の謎の上から目線になる事が多く、シリトラ達も注意していたらしい。
まあ、それはどうでもいいけど、これで物は確実に手に入るから、俺は5000ジェリー払えば20万が手に入るって訳だ。言ってみればミルシーは下請け先って所だな。ハハハハ、笑いが止まらねえ。
■
翌日、ベイルとショータン、ニッシーと組合に行くと、顔を真っ赤にしたミルシーが待っていた。・・・・トレオン?あいつは3日ぐらい牢屋にぶち込まれるらしいから、代わりにニッシーを捕まえた。
「その顔だと納品は完了したみたいだな?」
「いえ、納品はまだ終わらせてません」
赤い顔をしたミルシーに確認するが、まだ依頼達成していないと堂々と答えやがった。
「ああ?だったら早くしろよ。俺らはこれから依頼なんだぜ。お前が納品しねえと始まらねえんだよ」
「分かっています。ただ、交渉させて貰えないでしょうか?」
交渉?一体何の交渉だ?もしかして報酬か?俺が20万手に入れるってどこかで聞いたのか?
「報酬は増やさねえぞ」
「違います。例のものですが、あなた達には見せたくも触らせたくもありません」
「俺らも見たくねえし、触りたくねえよ。でも依頼だから仕方ねえだろ」
依頼ならきったねえもんも我慢して触らなきゃいけねえ時だってあるんだぜ。特に無級の下水掃除とかだな。でも金には変えられねえから受けてんだ。
「そこで、私を現地まで連れて行ってくれませんか?現地でそれをどうするのか分かりませんが、私が自分で対応します」
・・・・・
「ど、どう思う。ゲレロ?」
「駄目だろ。この依頼女は駄目って話だろ」
そう言われて見ればそうだった。
「でも、一度聞いてみるのもアリじゃないですか?」
「そうですね。どうせ今から北村に行くので、駄目ならそこで納品してもらえばいい話ですし」
ショータンとニッシーは一度ゴドリックに聞いてみたらどうかって意見だ。
「でも女は駄目って言われているだろ?」
「いや、待て既にリーゴもいるんだ。聞いてみるだけ聞いてみるか。それに追加が必要な時は一緒に来てくれた方が都合がいい」
反対するゲレロの耳元で、ささやき声で俺の考えを伝える。
「・・・そうか、聞いてみるだけ聞いてみるか」
ゲレロも納得してくれたので、ミルシーを取り合えずゴドリックの所に連れて行く事になった。
「そんじゃあ、依頼主に一度話を聞いてみるが、駄目だったら大人しくその場で納品しろよ」
「分かってますよ!!その代わり依頼主がいいって言ったら、ついていって、絶対あなた達には見せませんし、触らせませんからね!」
だから本当なら見たくもねえし、触りたくもねえんだって。
何故か俺達を威嚇して敵を見るような目で見てくるミルシー。まあ、こいつにどう思われようが、ちゃんと納品だけしてくれたらいいや。
・・・・って俺は思っていたんだけどなあ。
デリカシーの欠片もないゲレロが、
「もしミルシーが現地まで一緒についてきて対応するって事は・・・・・・『産地直送』って事だな」
と、上手い事言ったつもりなのかドヤ顔で胸を張るんだ。
当然そんな事言ったゲレロは、怒り狂ったミルシーの拳が顔面に何度も突き刺さる。昨日もイーパにボコボコにされたのに懲りねえ奴だ。




