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109.王都からの調査隊④

「逃げた?」

「諦めたのかな?」

「何で急に諦めた?ミミズの考える事は分かんねえなあ・・・・!!」


 急に消えたミミズに一安心しようとしたが、松明に照らされたこの場所はどこか見覚えがあった。嫌な予感がしたので慌てて辺りを照らすと、ここがどこか分かった。


 こ、ここは!!


 分かれて進んだけど結局ペコー達と合流したポイントじゃねえか!ミミズが逃げた方が俺らが進んできた道だ!って事は・・・あのミミズ!こっちからヴィーラ達に向かったのか!


「チッ!ヴィーラ達がヤバイ!お前ら!俺は先に行く!念の為、後ろは警戒しとけよ!」

「ちょ!」

「どういう事?」


 説明している時間が惜しい。こっちは護衛依頼中なんだ。説明してたら護衛対象が怪我してましたなんて洒落にならねえ。非難の声が聞こえてくるが無視して来た道を急ぎ引き返す。


「シリトラああ!ミミズが回り込んでくる!気をつけろ!!」


 慌てて戻りながら大声で注意を促す。頼むから間に合ってくれよ!


「ベイル!回り込んでくるってどういう意味ですか?」

「そのまんまだ!横穴と正面を警戒してろ!!」


 穴の奥からシリトラに叫び注意を促すが遅かったみたいだ。出口側から誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 

 慌てて駆けつけると、そこにはケーレが盾でミミズを何とか抑えている姿が見えた。叫び声や聞こえてきた指示で状況は理解している。モレリアやシリトラも慣れない近接でミミズに攻撃を入れているがダメージが入っているようには見えない。そこに俺が参戦だ。


「ハハハハ!ギリギリ間に合ったか?」


 参戦と同時にミミズの横っ面をぶん殴って壁に叩きつける。


「筆頭。助かりました」

「仕事だから礼はいらねえ!それよりもお前ら誰か蜂蟻の『針』持っている奴いねえか?」

 

 そう、最初に見つけたミミズは蜂蟻に刺されたと思われる穴が空いていた。それに皮に針で穴を空けたらそこから刃物は綺麗に通ったから、皮に穴さえ空けば斬撃は効くはずだ。


「も、持ってます」

「よーし。ウトリちょっと貸せ!壊したら経費として費用は請求しろよ」


 運がいい事にウトリが持ってやがった。後で聞いたらケーレもお守り代わりに持ち歩いているらしい。意味分かんねえけど、持っていたのは好都合だ。ウトリから奪うように借りると、突き刺すチャンスを伺う・・・とか悠長に待ってる訳ねえだろ!

 ミミズに駆け寄ってその頭をこん棒ではね上げる。と同時にこん棒から針に持ち替えて体全体でぶつかるように無防備に晒されたミミズの腹に針を突き刺す。


 これで刺さって・・・刺さって・・・・刺さらねえ?何で?


 絶対に刺さると思っていた予想と違い、針全体が腹に潜り込んだ状態でもミミズの皮に穴を空ける事は出来なかった。そして『ボヨン』とか言う間抜けな音と共に針が弾き返される。


 何で刺さらねえ!蜂蟻が生きてないと刺さらないのか?いや、死んでも刺さってたから違う。


 戦っている最中だってのに刺さらなかった理由を一瞬だけ考えた。そこにモレリアが叫ぶ。


「ベイル!上!!」


 慌てて上を見上げると、目の前に大口開けて俺を頭から丸飲みしようとしているミミズ。


 こん棒!?さっき針に持ち替えた時に投げ捨てて持ってねえ。この針じゃ殴れねえ。かといってこれで防ごうにも短くて丸飲みされる。となると!


「ぐおおおおおおおおお!!!!」

「べ、ベイル!」

「モレリア!魔法はダメです!ベイルが巻き込まれる!」


 針を捨て、手で上顎と下顎を抑えて丸飲みされるのを辛うじて防ぐ。防いだはいいけど、ミミズの勢いに負けて、へそ辺りまでミミズの中に飲まれている状況だ。押し返そうにも体勢が悪く力が入らねえ。口を閉じられないようにするので精一杯だ。もし手を離したら、へそから上と下が切り離される。そう思うぐらい禍々しい歯が口の中にいくつも並んでいるのが見える。


「べ、ベイル!ど、どうしたらいい?」

「筆頭を助けろ!!」

「尻尾を引っ張れ!!」

「モレリアはそっち!私はこっちを!ベイルを助けますよ!」


 何かみんな俺を心配して騒いでいるなあ。



・・・心配?誰を?




・・・・俺?




・・・・・




「ざけんああああああ!ミミズ如きで心配される程、俺は弱くねえ!おらあああああああああ!!!」


 叫びをあげながら、力いっぱい両手を広げミミズの口を無理やり広げる。勢い余って口が大きく裂けて体の三分の一ぐらいまで口が広くなっちまった。


「す、凄い」

「筆頭、どんだけ馬鹿力なんだよ」

「団長を思い出します」

「怪力だー」


 周りが驚いているが、このミミズまだ死んでねえ。


「モレリア!シリトラ!腹の中に魔法をぶち込め!!」

「分かりました!」

「分かった!」


 俺が食われないように顎を抑えていた両脇の二人に指示すると、二人とも口の中に手を突っ込み魔法を放つ。ワンテンポ遅れてミミズの腹が風船みたいに大きく膨らむ。そして直後に口の中から白いきったねえ液体が大量に湧き出てきやがった。モレリアとシリトラは魔法を放った直後に距離を取ったからいいんだけど、口を押えていた俺だけが、そのきったねえ液体を浴びる結果に。


「うわあ!くっそきったねえ、何だよこれ!しかもくせえ!最悪だ」

「わああ!ベイルが精子浴びたみたいになってる!」

「モレリア!てめえ例えがきったねえんだよ!しかも何でそんなに嬉しそうなんだ!ぶっ飛ばすぞ!」


 俺が汚液に塗れて何が楽しいのか、モレリアの目がキラキラしているのが更にムカつくぜ。ムカつくと言えば最後ミミズ如きに『身体強化』使わされたのもムカつくぜ。ただ『身体強化』使ったのなんて普通見た目じゃ分からないから、皆からは火事場の馬鹿力って思われているみたいだ。普段から怪力キャラで助かったぜ。 


「・・・凄かったけど、最後が締まらないなあ」

「こう言う所が筆頭だよなあ」

「いや、コーバスじゃね?」

「だよなあ。筆頭ってよりコーバスの組合員ならみんな最後締まらなさそう」




「ああ、くそ!最悪だ。全然落ちねえ」


 動かなくなったミミズを地面に叩きつけて、手持ちの水を頭から浴びるが、全然足りねえ。この状態で水場まで歩くのかよ。全く最後の最後で嫌になるぜ。


「助かりました、ベイル。怪我とかしてませんか?」

「そんな訳ねえだろ。ちびっこ。俺を誰だと思ってやがる。それよりも水くれ。体が気持ち悪い」

「ちびっこ言うな!・・・全く心配して損した。そういうのはモレリアに頼んで下さい。私は依頼人と話があります」


 そう言うと、俺の顔に水球をぶつけてヴィーラ達の所に向かって行った。シリトラの野郎・・・。


 文句言いたいが、先にこの気持ち悪いのをどうにかしたい。


「モレリア!聞いていただろ。水くれ!」


 近くのモレリアに声をかけると、嬉しそうに近づいてきた。


「まったく、ベイルは仕方がないなあ」

「ああ?そう言うの良いからさっさと水寄越せ。気持ち悪いんだよ」


 もったいぶるモレリアに催促して頭の上から水を出してもらい、体をキレイにしていくけどちょっと冷えるな。


「モレリア、冷てえからぬるま湯出してくれ」

「僕はそういうの苦手なんだよ」

「まったく、てめえの水魔法は使えねえなあ」

「・・・・・・」


 モレリアが黙ったと思った次の瞬間、頭に固いものが当たった。


「痛え!な、何だ?」


 目を白黒させながら、頭に当たったモノを確認すると、デカい石だった。


「モレリア!てめえ土魔法使っただろ!」

「ああ、ごめんごめん。僕の水魔法使えないらしいから、途中で石が出たみたいだ」

「嘘つけ!どう間違ったら水魔法の途中で石が出てくんだよ!」


モレリアに文句を言っていると、呆れた様子のミーカが近づいてきた。


「全くイチャついてないで、さっさと外に出ますよ」

「ああ?ミーカ!てめえ目が腐ってんじゃねえか?これのどこがイチャついているように見えるんだよ!お前、恋人にこんなの求めているのかよ」

「ふふふ、ミーカは良い子だねえ」

「うわっぷ。ちょっと!モレリア先輩抱き付いてこないで下さい!その無駄に大きい胸を押し付けてくるのは嫌味ですか!」


 俺の文句も聞かずに、ミーカが今度はモレリアにプリプリ怒り出した。忙しい奴だ。


「そう言えばベイルさん。最後魔法で攻撃指示しましたけど、あれって有効だって分かっていたんです?」


 俺がミーカとモレリアに呆れていると、ウトリが近づいてきて質問してきた。


「ああ、最初巣で死んでたミミズは腹の中から蜂蟻の幼虫に食われていただろ?だから腹の中の攻撃なら有効かと思ったんだ」


 これが俺の考えたBプランだ。実際口をこじ開ける必要があるから、気乗りはしなかったんだ。案の定口を押えている俺が体液を浴びる事になったしな。これで一応倒し方は分かったけど、もうちょっと簡単な倒し方考えないと4級か5級相当の魔物になりそうだ。

 って、そういえば何で針が通らなかったんだ?


 不思議に思い、地面に転がっている針を拾い、ミミズの死骸に突き立ててみる。さっきと同じように柔らかく弾き返される。


「どうしたんですか?」

「ウトリも前、この針が皮に穴空けるの見ただろ?今回は何で弾かれると思う?」

「・・・・刺す場所とかですか?特別弱い一点があるとか?」

「馬鹿野郎。そんなん戦っている最中に狙えるか!秘孔を刺すとか北斗神拳覚えねえと無理だ」

「・・・ほ、ほくと・・し??何です?」

「いや、気にすんな。それよりもこれ全然刺さらねえ。前は何で刺さったんだ?」


 ボヤキながら、何度も針でミミズを突き刺そうとするが、全て跳ね返される。


 こりゃあ、分かんねえな・・・と思った次の瞬間・・・。



 ズブリと針が突き刺さった。はね返されない・・・マジで刺さった。何でえ??


「・・・・・・・・」

「・・・・刺さりましたね」


 ちょっとびっくりしすぎて声を出せない俺にウトリが、事実を述べる。


「ど、ど、どういう事だ?何で刺さった?ウトリ!刺さった場所は他と何が違うか分かるか?」


 俺自身刺さった場所を見ても他と違いが分からない。違いが無いとなると、戦闘中に刺さるかは運任せになる。そりゃあ、ちょっと、効率が悪い。


「いや、俺も分からないですね。違いあります?」


 結局、他の連中に見てもらっても何が違うのかよく分からねえ。シリトラが妙に俺が裂いた口を気にしていたように見えたけど、気のせいか?結局巣穴だと暗いから分からないんじゃないかって事でミミズの死骸を外まで引っ張り出す。


「明るい所で見ても分かんねえな」


 全員で見てみたが、結局何が違って刺さるかが分からなかった。ケーレも針を持っていたので、どこに刺さるか試してもらい、ようやく刺さった場所の共通点を探そうとしたが、マジで分からん。結局ここじゃ落ち着いて検証も出来ないからミミズを街まで持って帰った。


「今回は助かったわシリトラちゃん。私達大分体が鈍っているのがよく分かったわ」


 組合長室の椅子に寛いだ姿のヴィーラがシリトラにお礼を言う。


「いえ、仕事ですから。でもあの巣穴の調査は例のミミズの検証が終わってからにして下さい。刺さる場所を特定できないと犠牲がたくさん出ます」

「分かった。組合としても土魔法使える奴を雇って巣穴の入り口を封鎖しておく。巣穴の調査はシリトラの言った結果が分からないと、コーバスは調査を認めない。王都の爺さんにそう伝えてくれ」


 シリトラの提案にヴィーラの隣に座るジークが、その提案を受け入れる。


「分かったわ。流石にミミズを追加で一匹持って帰るんだから王都も文句言ってこないでしょう」

「そうなるように頼むぞヴィーラ。・・・・それでシリトラ達はミミズ討伐の追加報酬は本当に皮でいいのか?」

「ええ、どう考えても50万よりこっちでしょう。私の仲間も『蜂蟻撤退』も迷いなく選んだので苦情も出ないでしょう。一応『魔法鞄』は自慢したりしないように注意はしてあります」


 珍しいものを手に入れても自慢してはダメというのは常識だ。組合員や、貴族、商人の耳に入れば荒事になろうが手に入れようとする奴らは多いからだ。そうは教えてもらっても珍しいモノは自慢したくもなる。


「ジークの所はしっかりしているわねえ。王都だと自慢する馬鹿が多くてよく姿が消えるわ」


 そうなると、ヴィーラが言ったような結果になる。


「王都は相変わらずだな」

「それよりもベイルは50万を選びましたが、彼が価値を分からないとは思いません。それに魔法じゃないのにミミズの皮を『魔法鞄』と呼ぶことを凄く嫌がって50万を選んでましたから、何か魔法に思い入れがあるんでしょうか?」

「あいつの考えはマジで分からん。別に害がある訳じゃねえからほっとけ」

「ベイルってあの馬鹿力の子よね?あの無茶苦茶な感じジークの若いころに似てるわね」

「おい、やめろ!ヴィーラ。あいつより俺の方がマシだ」

「そう言えば組合長は、あのミミズの皮を『身体強化』使えば破れますか?」


 雑談の中にシリトラが本当に聞きたかった質問を投げかける。


「やってみたがダメだった。あれを力で破れる奴はいないんじゃねえか?」

「あら?ジーク報告聞いてないのかしら?あのベイルって子は口を引き裂いたわよ」

「馬鹿野郎!それは口だからいけたんだろう。それなら俺でも出来る」



・・・確かに組合長の言う通りかもしれない。けど、口も同じような強度があって、ベイルがやったみたいに同じように裂けなかったら・・・




・・・・・




・・・・もしかしたらベイルは・・・組合長より強い?





・・・で、でもベイルとは何度か依頼を受けて実力は分かっている・・・・あ、あれ?そ、そう言えばベイルって『身体強化』使った事あった?あれは最後の手段で、あんまり使うものでもないし、使った事は見た目じゃ分からないし、ベイルとの依頼失敗した事も無いし、気にした事なかったけど・・・





ま、まさかね・・・。

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