108.王都からの調査隊③
「へえー。聞いてはいたけど、こうやって改めて見ると凄いわねえ」
ジロウの背中に乗って目的地に向かうヴィーラが、ご満悦な顔をしている。ペナとサナサもそれぞれサブロウとシロウの背に乗っている。今日は3人ともスカートじゃなくて、調査だからか動きやすい恰好をしている。そしてその前にはタロウに乗った俺とその横を歩くゴブ一。更にその先にはこの間仲間が蜂蟻にやられた連中同士で新たに結成したパーティ『蜂蟻撤退』が道案内をしている。
・・・・いや、俺らは事情知っているから『蜂蟻撤退』にした意味分かるよ。けど、知らねえ奴が聞いたら、流石に意味分かんねえだろう。まあ、人の決めた名前にとやかく言う事はしねえけど。
『蜂蟻撤退』は仲間が減った2つのパーティが合体したパーティでリーダーはウトリ、副リーダーはケーレだ。元々残った2級の3人と3人に王都から移籍してきたミルシーとか言う3級の女エルフが加わった7人パーティになる。
そして最後尾を歩くのはシリトラ達『ちょっと賢い』の面々だ。ちょっと戦力過剰過ぎる気がするけど、王都からの調査隊だから万が一があってはダメって事で、こうなった。
ちなみに俺はヴィーラ達からタロウ以外の懐いている魔物が見たいとお願いされて、その引率で雇われた。コーバス組合じゃなくて王都本部の特別依頼って言われたけど、違いはよく分からねえ。けど、報酬は一日5万と2級にしては破格で、内容もタロウ達の引率とかなり簡単なので受けることにした。
「カルガーちゃんから聞いてたけど、実際にゴブリンキングが懐いているのを、この目で見てもまだ信じられないなー。しかもゴブ一って普通のゴブリンキングよりかなり強いでしょ」
「タロウを初めて見た時も思いましたけど、ジロウ達も相当強いですね。一人で勝てる気がしません」
おお!サナサとペナは流石元5級なだけあって、ジロウ達の強さが分かるか。こいつら最近はコーバス周辺の街道警備やっているからか、たまに他所の街の連中が捕獲しようと襲ってくるらしけど、全て返り討ちにしてるぐらいは強いからな。しかもその中には他所の街の4級パーティも複数いたって話だ。
「実際の所、コーバスではタロウ達の強さってどの程度って見ているの?」
「組合長は組合員総出で戦ってギリギリ2匹と言っていました」
ヴィーラの質問に後ろを歩くシリトラが答えるが、俺の考えとちょっと違うな。俺の予想じゃジロウ達なら1匹が限界だ。まあ、俺以外ジロウ達が魔法使うって知らねえからそう思っても仕方がないけどな。ゴブ一ならこの間アーリット達を見送った豪華メンバーだけでいけるだろう。
・・・・よく考えたらゴブ一もそれだけの面子じゃなきゃ勝てねえって、やっぱりバケモンだわ。
そうしてヴィーラとシリトラ達がワイワイ仲良く話すのを聞きながら目的地に向かっていく。
「もうすぐ着きます。入口は封鎖はしていますけど、どうなっているか分からないので、偵察が戻ってくるのを待ちます」
そう言って、先頭を進むウトリが足を止める。
「へえー。しっかり基本出来てるなあ」
「そこは団長の街の組合員ですから。私達も叩き込まれたじゃないですか」
ペナとサナサの会話から、斥候を待つっていう当たり前の事が出来ねえ奴が、王都では多いみたいだ。王都だと競争が激しそうだから、のんびり待っている暇なんて無いのかもな。
「王都では偵察を待つって事はしないんですか?」
俺と同じ事を思ったんだろうシリトラがヴィーラ達に尋ねる。
「教えているんだけど、王都周辺は魔物の取り合いだから待っている時間が惜しいみたい。王都は3級上がるまでなら余裕だけど、3級からの討伐依頼は途端に競争が激しくなるからね。まあ、護衛依頼は途切れずあるから、王都の組合員は護衛依頼専門の3級が多くて、実力は・・・4級まで上がれるのは稀ね」
「そうなると、組合員のレベルは低いって事ですか?5級組合員はあそこにしかいませんよね?」
話を聞いていたウトリが不思議そうにヴィーラに尋ねる。
「4級はアーリット達みたいに他の街のパーティが移籍してきたか、クランで育てられた人ばっかりね。だから正確には4級以上は実力が級相当だけど、3級以下は他の街より低いって感じ」
「それならクランに入れば良いって事ですか?」
「それが出来たら苦労しないわ。クランは基本勧誘制だからね。入りたいって言っても入れるものじゃないのさ。実力や将来性のある人は勧誘がくるけど、滅多に来るもんじゃないしね。それに決まった日数毎にいくらか運営費を徴収されるから。払えなければクランから除名で結構シビアね」
それって、俺達みたいにダラダラ過ごして金無くなったら依頼受けるってスタイルじゃやっていけねえな。多分すぐに除名される。
「今はアーリット達の勧誘合戦が凄いわよ。カルガーちゃん・・・っていうよりタロウ目当てだけどね」
ああ、そりゃあ、タロウは目立つからな。
「でも、アーリット達は自分たちでクラン立ち上げるって頑張っているから、勧誘は全部断っているわ」
そう言えばアーリット達がそんな事言ってたな。パーティだけでも面倒くせえのに、更に人の多いクランなんて俺はごめんだねって思った記憶がある。
そんな事を思っていると、偵察が戻ってきた。
「戻りました。入口に異変無し。周辺に魔物の気配もありません」
偵察の報告を聞いて、全員が装備の確認を始める。この辺もヴィーラ達が驚いていたんだけど、王都ではそれすらしねえの?
■
「特に変化はないですね」
蜂蟻の巣に入って、しばらく進むが、特に異変はない。先を歩くウトリが松明で周囲を照らしながら、異常が無い事を報告する。
「いやあ、探索なんて久しぶりだなあー」
「現役を思い出しますね」
シリトラに護衛されているペナとサナサが能天気な感想を述べている。二人とも元5級なだけあって、暗い巣穴の中でもビビっている様子は無い。そしてこの二人、恐らく現役時代に使っていたんだろう、高そうな武器を装備している。ペナは魔法使いだったんだろう高そうな杖を装備。サナサは雰囲気から元斥候職だと分かる。斥候の定番装備である短剣を腰に装備している。
「悪いけど、私達も仕事だからね。ヤバいと思ったらあんた達置いて逃げるからね」
短剣にしては長く、ロングソードにしては短い、微妙な長さの剣を二つ腰に装備したヴィーラが血も涙も無い事を言ってくる。けど、依頼主を守るってのは当然だからな。別にそこに驚きはしない。
俺もタロウ達の引率から追加10万で護衛依頼に変わったから全力で守るつもりだ。ちなみにタロウ達にとっては巣は狭く動きが制限されるから、家に帰るように言っておいた。
そうして巣穴を進んでいくが、魔物は何も出てこない。入り口は封鎖してあるって言ってもロープ張って立入禁止の板がぶら下がっているだけだから、何か別の魔物の巣になっていると思っていたんだけど、少し拍子抜けだ。そうしてほぼ最下層まで来た所で斥候が慌てて戻ってきた。
「この先、例の魔物が一匹いました」
「あら、それは幸運。できれば倒して手に入れたいわね」
斥候の報告を聞いてヴィーラが怪しく笑う。ただ、俺達は護衛依頼だから、それは依頼の範囲外。断らせてもらうぜ。
「すみませんヴィーラさん。ご存じかと思いますが、私達は調査の護衛依頼なので、討伐となると依頼内容が変わるのでその指示には従えません。むしろ強さが未知数の魔物なので、このまま撤退させてもらいます」
「まあ、そうなりますね。ヴィーラさんも無茶言わないで下さい。戻ってから改めて依頼出しましょう」
「分かっているわよ、ペナ。仕方ないけど出直しますか」
ヴィーラは無茶言うかと思ったけど、素直に諦めてくれて、俺達も一安心だ。こういう時にごねる依頼人は、俺はぶん殴っている。そうならなくて良かった。
なんて思っていたんだけどな・・・
「アハハ、ちょっと遅かったみたい・・・」
サナサが暗がりの奥を見つめながら乾いた笑いをして呟いた。その声が聞こえた面々が奥の暗がりを見通そうと目を凝らすが、巣穴の奥は真っ暗で何も見えない。・・・・見えないが、何かズリッ、ズリッと這う音がどんどん近づいてくる。
「チッ!ウトリ!てめえの所の斥候気づかれているぞ!ヘマこきやがって!」
「え?す、すみません」
「ち、違う!俺は何もヘマなんてしてねえ!」
俺が怒鳴りつけると、ウトリのパーティの斥候が弁明しているが、気付かれた時点でヘマこいてんだよ!言い訳すんな!そう言おうとしたが、シリトラが割って入ってきた。
「みんな、静かに」
その言葉に全員が口を閉ざす。今回の依頼のリーダーはシリトラだから素直に俺も従って口を閉ざす。何をするのかとシリトラを見れば、手に持つ松明を暗がりに向かって投げ捨てた。
松明が乾いた音を立てて暗がりを照らすが、照らす範囲にはミミズの姿は見えない・・・・・と思った瞬間。暗がりから一瞬で飛び出してきて大口開けて松明に食らいついた白いキモイ生物が見えた。
「うええー、何あれ。気持ち悪い」
「中々動き早かったな」
今の一瞬で見えた姿や動きにみんな好き勝手感想を言う中、シリトラだけが何か考えている。
「光に反応・・・いや、それならこっちに向かってくる。・・・音?・・・会話に反応していないから違う。・・・何に反応した?」
「おーい。シリトラどうするんだい?戦うにしてもここじゃ狭いよ」
「・・・取り合えず撤退します。『蜂蟻撤退』が先に、ヴィーラさん達がその後、私達はその後ろ。ベイルも最後尾で私達を手伝って下さい」
「はいよ」
こうなったら仕方ねえ。面倒だけどシリトラの指示に従うか。そう決めて、他の連中もシリトラの指示に従い動き出した途端、暗がりの奥の這う音が早くなった。
「おい!来てるぞ!」
「な、何で?何に反応しているの?」
暗がりから気持ち悪いのが近づいてくる音だけが響く。何かホラー映画みたいだ。
ただ、コイツが何に反応しているか俺は分かったぜ。分かればすぐに検証だ。
俺は足をあげて、相撲取りの四股踏みみたいに思いっきり地面を踏みつける。
「ベイルさん。遊ばないで下さい」
「ベイル。あなたこんな時に何やっているんですか!」
俺の行動が奇行に見えたのかミーカとシリトラが注意してくる。別に遊んでいる訳じゃねえ。だけど今は説明している余裕はない。思った通り俺に向かって大口開けたミミズが暗がりから飛び出してきやがったからな。そこを思いっきりこん棒で叩きつける。
「な?!」
「嘘。読んでいた?」
「すげえ。筆頭アレに反応できるのかよ」
周りが驚いているが、俺は構わず地面に叩きつけられたミミズを何度もこん棒で叩きつける。頭を地面にめり込ませた所でようやく叩くのをやめて一息いれる。
「ふうー。こいつ別に強くねえな。慣れれば2級相当って所だろ」
・・・・・・
おう?何でみんなドン引きした顔してんの?
「い、色々言いたいですが、まずはお礼を。助かりましたベイル」
「ハハハ、気にすんな。仕事だからな。礼とかいらねえよ」
戸惑った顔でシリトラがお礼を言ってくるが、別に仕事だから礼はいらねえ。
「筆頭、すげえ!どんだけ馬鹿力なんですか」
「いや、それよりもあの先読みだよ!」
「違えよ!あんなの読める訳ねえだろ!筆頭は超反応でぶっ叩いたんだって!」
『蜂蟻撤退』の面々も俺を賞賛してくれる。いいぞ!もっと褒めろ!俺は褒められて伸びる子なんだ。
「ハハハ、お前ら持ち上げ過ぎだ。あと、悪いが流石に超反応じゃねえぞ。ミミズが来るって分かっていたから反応出来たんだ」
「いや、どうやって予想したのさ」
「モレリアさんよお。4級ならそれぐらい分かれよ」
「うわ!ムカつく!蹴り飛ばしていいかい?」
「ふざけんな!そん時はお前をぶっ飛ばしてやる!いいか!さっきシリトラが光でも音でも反応してねえって言っただろ!それなら臭いか?って思ったけど、別に襲ってこなかった。そして、このミミズが反応したのは俺らが撤退で動き始めた時だろ。だから多分こいつ振動に反応してんじゃねえかって思ってな。後は見ての通りだ」
へへん。これも組合員としての長い経験だぜ。って言いたいが、これ前世の知識なんだよなあ。ミミズが振動に反応するかどうかは知らねえけど、振動に反応する生き物がいるって思い出して、試したら今回大当たりだったぜ。
「すげえ!あの一瞬でそこまで考えてるのか」
「これがコーバスのベテラン組合員・・・」
「初見の魔物に冷静に対処できる・・・凄いなあ」
「ハハハ、もっと褒めろ」
「・・・・・・」
胸を張って大笑いする俺を賞賛する『蜂蟻撤退』とヴィーラ達だったが、急に黙り込んで驚いた顔で俺・・・じゃなくて俺の後ろをポカンと見つめだす。
「ベイル!!」
モレリアの叫びに慌てて振り返ると、今さっき俺が地面にめり込ませたミミズが大口を開けて頭を持ち上げていた。
「う、嘘だろ。あれで死んでねえのかよ」
流石にあれだけ殴ったのに生きてるなんて思う訳もなく、驚く俺に噛みついて来ようとするミミズを横殴りにこん棒を叩きつけて壁までぶっ飛ばす。そこを再び何度も殴りつけ、さっきと同じように壁にめり込ませる。
「ベイル!それ以上は穴が崩れるかもしれません!手を止めて下さい!」
シリトラの指示に手を止めて、少し距離をとり、ミミズの様子を観察する。しばらくするとミミズは何事もないように、ゆっくりと壁から身を起こしだす。
「嘘だろ。死なねえのかあいつ」
「いえ、もしかしたら打撃の耐性が高いのかもしれません。ベイル!もう少し下がって!ミーカ!モレリア!」
「はい!」
「いっくよー!」
シリトラの指示に従い、ミミズから大きく距離を取った俺の脇を矢と魔法が通り過ぎていく。
・・・・・けど
「さ、刺さらない?」
「うっそー。滑った?」
ミーカの矢はミミズの体に大きく潜り込んだ後、その体に刺さることなく、軽く跳ね返され床に転がる。モレリアの水矢も刺さる事なく、表面を滑るように進んだ後は暗がりに消えていった。
「シリトラ!どうすんだ?」
襲ってくるミミズを殴りつけながら、シリトラの指示を待つ。
「まずは外まで撤退します。ここでは狭くて思うように動けません。さっきと同じ『蜂蟻撤退』、ヴィーラさん、私達の順です。シュー!ウイドロ!最後尾に!ベイル!あなたも『足止め』をお願いします」
シリトラの指示でシューとウイドロとかいう『ちょっと賢い』の盾使いが俺の横に並ぶ。こいつら無口であんまり絡んだ事はないが、腕は確かだ。
「頭は任せる。俺はいつもみたいにお前らの攻撃の範囲に入らねえから、気にするな」
「分かった」
「はい」
何度か依頼についていっているから、こいつらとは、この程度の打ち合わせで十分だ。今回は頭をこいつらに任せて俺は腹か尻あたりを担当だ。まずはさっきと同じように腹を地面にめり込ませるぐらい何度も叩きつけるが、すぐに動き出す。嫌がっている様子もねえから、これダメージ入ってねえな。そうなるとこん棒は相性が悪いと判断して久しぶりの大鉈に選手交代だ。
「これならどうだ!」
大鉈を振り下すと、ミミズの体に鉈全体が潜り込む・・・・が、『ボヨン』とか変な音と共に大鉈が弾き返される。その体には傷一つついていない。
「これも効かねえのかよ。こいつどうやって倒すんだ?」
流石にここまで攻撃が通じねえ魔物は初めてだ。このまま闇雲に戦っていても無駄だろう。シューとウイドロには悪いが少し手を止めて考える。
・・・そうか!多分、あれが必要だけど、俺は持ってねえ。『蜂蟻撤退』の誰かが持っているといいんだが、これは賭けだ。無ければ気が進まねえBプランになる。出来ればそっちはやりたくねえ。
「悪い!ちょっと下がる!」
シューとウイドロの所まで下がり、一度下がることを報告する。
「はあ?」
「逃げる?」
「ばっか!違えよ!。ちょっとこいつを倒す道具持ってねえか聞いてくるだけだ。すぐに戻る。それまで足止めできるな?」
「無理!」
「ちょっと厳しい」
おいおい、4級パーティの盾使いが何情けねえ事言ってんだ?
「こいつら私達を相手にしない。無視してみんなを追いかけようとする」
・・・チッ、振動で向こうの方が餌が多いと判断してんのか?
「面倒くせえが仕方ねえ。このまま俺達も急いで撤退するぞ。殿は俺がやる、お前ら重いんだからさっさと下がれ」
「装備が!ね!重いのは装備だから!」
「相変わらず失礼な奴」
「うるせえ!ごちゃごちゃ言ってねえで、さっさと下がれ・・・ってあれ?」
シューとウイドロと言い合っているとミミズが横穴に逃げて行った。




