107.王都からの調査隊②
本日2回目です
「おーい。シリトラ。お前らのパーティに依頼を出したい」
しばらくすると、組合長達が部屋から出てきて、シリトラに声をかける。
「指名依頼ですか?まだ他に依頼を受けていないので構いませんけど、報酬と内容によりますよ」
「分かってるよ。依頼内容はこの3人の護衛だ。日数は長くて4日、報酬は一日100万でどうだ?」
「・・・渋いですね。少し考えさせて下さい」
組合長の依頼を保留にするシリトラ。こういう場合、シリトラは即答せず時間をおいてから断るってモレリアから教えてもらった。受ける場合は、メンバーの確認もなく了承するらしい。シリトラの所はそういうルールだそうだ。
そんで一日100万という報酬。シリトラの所は10人パーティだから、一人1日10万。俺は一日の稼ぎは5万目標に設定しているから、それと比べたら高いと思うかもだけど、俺が聞いた限り4級はだいたい1日の稼ぎを15万に設定している所が多かった。
だから組合長の依頼報酬をシリトラが渋いって言うのは分かる。
ただ、報酬が渋くても依頼内容によっては受ける事もある。
「護衛って言っても、3人とも昔の俺のクランメンバーで元5級組合員だから護衛なんていらねえんだけど、職員が外で活動する時は護衛をつけるルールになっているからな。シリトラの所は女ばっかりだから、こいつらも安心して任せられるんだ」
「・・・うーん。そう言われると・・・ただなあ・・・」
組合長の言葉に少しシリトラの心が傾いたか。少し考え始めた。
「この3人はこの間の蜂蟻の巣の調査に来たんだ。だから護衛って言っても何処かの街に行くわけじゃねえ。調査中の護衛になる。さっきも言ったように長くても4日間だ」
4級の依頼ともなると拘束時間が長い依頼も多いから、この短さも魅力なんだろう。特に4級の護衛依頼なんて長いと20日は帰ってこないとか普通にあるからな。だから『全力』や『快適』はほとんどコーバスじゃ見ねえし。
「うーん・・・報酬は渋いけど、短いのはいい・・・街道以外での護衛依頼なんて滅多に無い・・・若い子の練習に丁度いい・・・・有りか。分かりました。その依頼受けます」
何かブツブツ言っていたシリトラだったけど、結局依頼を受けるみたいだ。
「けど、組合長。私達蜂蟻の巣の場所知らないですよ。誰か知っている案内役が必要です」
「ああ、そっちは依頼書出しておく。それじゃあ明日朝に門の前に集合だ」
組合長がそう言った後は、シリトラは護衛対象に顔を向けて、自己紹介を始める。
「それでは明日からお願いします。私はコーバスの4級組合員『ちょっと賢い』のリーダー、シリトラと言います」
「こちらこそ宜しくー。私はサナサ。団長の昔のクランメンバーで今は王都で組合職員やっているよ」
「私はペナといいます。サナサと同じ経歴の組合職員です」
へえー。組合長の昔の仲間かー。ぐらいで俺は会話を聞いてたんだ。多分他の連中もそうだろう。流石に組合長がいるからスカートの中を覗こうとする馬鹿はトラスぐらいのもんだ。そのトラスも組合長に殴られて今は白目剥いて倒れている。
そんな中、最後の一人の言葉に組合が驚愕に包まれる。
「私の名前はヴィーラよ。同じく王都の組合職員。私はクランじゃなくてジークの元パーティメンバーね。それとジークの子供の母親よ」
「・・・・・・・は?」
最後のとんでも発言に珍しくシリトラがアホ面晒している。見れば全員・・・職員でさえ固まっていた。
「おい!ヴィーラ・・・それは・・・」
「「「「「はあああああ???!!!」」」」」
組合長が何か言いかけたが、その前にヴィーラの言葉の意味を理解した面々が大声をあげる。
「え?え?組合長の子供?その母親?それって妻って事ですよね?」
「残念、シリトラちゃん。ジークとは結婚してないの。私はジークの子供を産んだだけ」
・・・・・・
ヴィーラの言葉に再びみんな沈黙する。そしてその意味を理解した女達は組合長に冷たい視線を向ける。
「組合長。最低ですね」
「責任取らないなんて信じられない」
「組合長だけはまともだと思ってましたけど、所詮組合長もコーバスの男ですか」
「マジで見損ないました」
その言葉が聞こえたのか組合長が慌てて弁明を始める。
「お、お前ら、何か勘違いしているぞ。俺はちゃんと責任とるつもりだったけど、ヴィーラが断ったんだ!それにちゃんと養育費は支払っている。な、なあ、ヴィーラ」
組合長がここまで慌てるなんて珍しい。けどなあ、この程度の仕打ちコーバスの男達はしょっちゅう女達から受けてるんだよ!組合長はまだまだ経験が足りねえな。
それでその男達はと言うと、全く別の事を話題にしている。
「って事は、あのヴィーラって女、組合長の受け止められたって事か?」
「うっそだろ。あんなの無理だって」
「あのヴィーラって女に『・・・ちっさ』とか言われたら俺泣くね」
「俺も『全然気持ち良くないんだけど・・・』なんて言われた日には引退して田舎で畑耕すわ」
「そもそもお前らじゃ、あんな上玉に相手してもらえねえよ」
「何だとおお!金払えばイケるかもしれねえだろ!」
「そうだぞ!ああいう女って土下座して頼み込めば何とかなる時もあるんだよ!」
「・・・お前ら男としてのプライドねえのかよ」
「うるせえ!てめえが何で上から目線でもの語ってんだ!お前も俺たち側だろ!」
「決めつけんな!俺は最低限のプライドだけは捨てねえよ」
まーた、下らねえ事で喧嘩が始まったよ。
馬鹿は放っておいて再び組合長達の話に耳を傾ける。
「そうそう、ジークの言う通り、色々理由があって私が断ったの。それから何度も責任とらせてくれって言われてるからジークは悪くないわ。まあ、その理由も大分無くなったから、そろそろジークに責任とらせてあげようかなって考えている」
ヴィーラのその言葉に組合長が何かを期待した顔を向ける。
「そうなると、王都からコーバスに引っ越す事になるでしょう。今回丁度いいから街の雰囲気も感じてみようと思ってね」
「そ、それならこの仕事が終わったら、こっちに来てくれるのか?」
「うーん。そのつもりだったんだけど、バトラーがちょっとね」
嬉しそう聞く組合長に少し顔を曇らせてヴィーラが答える。他の二人もさっきと違い顔を曇らせているからあんまりいい話じゃなさそうだ。
「バトラー?あいつがどうした?クランは順調だって聞いてるぞ?」
「それが最近、あんまり良い噂を聞かない貴族と接触しているらしいの」
「そうなんです。まだそれも噂の段階なので、もしかしたら違うかもしれません」
「ちょっと、最近他のクランが盛り返してきたから、焦っているのかも」
うーん。よくわかんねえけど、昔の仲間の話だな。
途端にどうでも良くなったので、ジェリーを始めようとしたが、ゲレロもトレオンも、モレリアも何故か組合長達の会話に集中している。・・・そんなに面白い話か?
「おーい。誰か相手してくれよ」
「ちょっと待て」
「少し静かにしてろ」
「ごめん。待って」
周りを見れば、まだ喧嘩している連中がいて、それを眺めている奴も多いが、組合長達に意識を向けている奴もそこそこいるなあ。王都の話そんなに興味ある?
「そう言えば、ベイルって人いる?」
ボケーっと喧嘩眺めていたら、いきなり名前が呼ばれてびっくりした。え?何?
「ベイルならあそこにいるぞ」
見ればよく分かんねえけど、組合長が俺を指差していた。どういう流れで俺の名前が呼ばれたのか分からないので、キョトンとしていると、お客さんの3人が俺に近づいてきた。さっきの会話から貴族じゃないのは分かっているけど、いつでもトレオンを投げつけて離脱できるようにしておく。
そうして警戒していたが、近づいてきたヴィーラが意外な人物の名前を口にした。
「あなたがベイルね。カルガーちゃんから聞いてるわ」
・・・・・カルガー?何でここであの犬馬鹿の名前が出てきた?
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。王都からコーバスまでの護衛にカルガーちゃんにタロウを借りたの。で、コーバスについたら、ベイルって人にタロウを宜しくって伝えてくれって」
・・・・うん?って事はタロウが帰ってきてんのか?その割には外から騒ぎが聞こえねえなあ。
「ああ、タロウは今、北村のお家にいるわよ。カルガーちゃんからもそこに預けるように言われてたから」
何だ、ゴドリックの家にいるか。それなら後で遊びに行ってやるか。
とか思っていたら、いつの間にか3人に両脇と背中を固められていた。美人な姉ちゃんに囲まれるってのはいい気分だ。
「それでさあ、カルガーちゃんが言うには、あなたタロウのランク付けでカルガーちゃんより上って本当なの?」
ヴィーラがそう言いながら、背後から抱きしめるような形で俺の胸を撫で回してくる。
いや、あんた組合長の嫁みたいなもんだろ!そんな娼婦みたいに俺の胸を撫で回してエロい挑発してくるのやめてくれねえ?
「・・・・ああ、まあ、確かにカルガーより上だなあ。そもそもあいつ捕まえたの俺だしな」
怒りの組合長が見えたので、俺はいたって冷静に答える。珍しくシリトラとモレリアが取っ組み合いしているのも見えた。
・・・・ってあれ?今の俺の返事に3人の目が怪しく光ったのは気のせいか?
「そう!それです!」
「どうやって捕まえたのかなあ?お姉さんに教えてくれない?」
今度は両脇の二人が腕を挟み込むように聞いてくる。その柔らかい感触に腕が幸せだ。
「それはなあ・・・」
「「「それは???」」」
何か3人とも前のめりになっているんだけど?そんなに興味あるの?
「確かタロウを捕まえた時は・・・俺がタロウに鎖で縛られた。それでタロウが俺にめっちゃ盛ってきたんだ。それで懐いた」
そうそう、それをアーリット達に見られて、ついでに斥候の練習していたカルガーにも見られてて、ゲレロが揶揄ってきたからマジの殴り合いになったんだった。多分、大体合っているはずだ。懐かしい思い出だ。
「・・・ええー」
「・・・ちょっと、それってカルガーちゃん。あの3匹に・・・」
「・・・シーワンは納得しているのでしょうか」
うん?何で3人ともドン引きしてんだ?それに何言ってんだろう・・・何で、そんな顔を引きつらせて俺から離れていくの?
その理由は後日分かった。
タロウを連れて王都に行ったカルガーは、そりゃあ目立って仕方ない。しかもタロウは二つの貴族の家紋を身につけているから、そうそう手を出せない。それでもタロウを強奪しようとする馬鹿もいたが、タロウはアホみたいに強くて強奪しようとした奴は悉く返り討ちにあう始末だ。
それで今ではタロウを奪うのではなく、タロウみたいに捕獲してから育てて行こうって流れになっているそうだ。ただ、そのレッサーウルフを懐かせるって所で、みんな躓いているみたいだ。だからカルガーに教えてくれって来るが、当のカルガーは『捕獲したのは自分じゃないから分かんないっす』って言い張っている。実際は俺たちから聞いて知っているけど、ゴドリックの契約で言い触らすのはダメだそうだ。そんでシーワンも『ゴドリック先生と実際に依頼を受けた方しか知らないです』とか言っている。
それで納得しねえ連中は当然、荒事になるんだけど、カルガーは腕利きの組合員で仲間のアーリット達がいるしで、手をだせねえ。シーワンもタロウが常に守っているから手を出せねえ。そうなるとゴドリックになるんだけど、ゴドリックの家はジロウ達やゴブ一が守っているからそっちも無理だ。それで最後の頼みが依頼を受けた人物・・・要するに俺って事だ。
当然、俺の情報は依頼達成の記録が残る組合がいち早く手に入れた。それで今回ヴィーラ達が調査のついでに聞きに来たって所だ。それでその俺の答えが『レッサーウルフに犯される事』って間違って伝わっちまった。だってあの時の記憶に一番残ってたのがそれだったんだもん!詳しいことなんて覚えてねえよ!俺は悪くねえ。
そうして少し後、王都では悲しい事件が立て続けに起こったそうだ。主に犯罪者が悲惨な事になったらしい。
王都で新しく3匹のレッサーウルフを懐かせたカルガーも、このデマの犠牲になったって知ったのは、久しぶりに会ったカルガーから盾で思いっきりどつかれた後だった。




