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106/109

106.王都からの調査隊①

「おいおい、また俺の負けかよ。お前ら最近強くねえ?」


 今日もいつものようにダラダラとトレオンとモレリア、ゲレロとジェリー勝負してるんだけど、最近マジでこいつら強くなって勝てねえんだけど・・・。


「そうは言ってもまだ1000ジェリーも負けてないだろう」


 今日は330ジェリー俺から巻きあげたモレリアが呆れたように言ってくるが、こいつとは稼ぎが違うんだよ。


「うるせえ!4級のお前らと違って2級の俺は1000ジェリーでも大金なんだよ!」

「2級って言っても、3級の時と変わらず、お前いつものフリーの討伐ばっかりじゃねえか」

 

 トレオンの奴、何で俺の依頼把握してるの?こいつ俺のストーカー?


「それなら稼ぎ全く変わってねえだろ?単にお前が情報屋に金バラまいて無駄使いしたってだけだ」

「うるせえな!てめえは無料券使えて満足したかもしれねえけど、俺は使えなかったんだぞ!俺から無料券奪ったやつは絶対許さねえ!」

「で、でもベイル。あの時奪われたら潔く諦めるって言ってたよね?」

「ああ、確かにそう言ったぜ。けどな、モレリア、諦めるのはそいつが謝るまでぶん殴って、『快楽亭』の金を出させてからだ」

「ええー。全然潔くないじゃないか・・・ゲレロとトレオンからも言ってやりな・・・・・って、どうしたんだい?」


 不思議そうな声をあげるモレリアにつられてゲレロ達を見ると、二人ともエールをダラダラ口から零していた。


 慌てて二人の視線の先を振り返る。




・・・・



 見ると、組合の入り口に見た事ない3人の美人な姉ちゃん達が立っていた。それだけなら、娼婦の依頼人とかでたまに見る光景だから珍しくはない。ゲレロもトレオンもその程度じゃ酒を零す事はないはずだ。


 けど、組合に入ってきた姉ちゃん達は明らかに様子が違っていた。


 だって3人ともスカートなんだもん。長さは膝下ぐらいだが、それでもこの世界でスカートはとても珍しい。貴族に会う時に豪商の嫁や娘が穿く事もあるらしいが、普通は平民が目にする事はない。貴族なんかは着ているみたいだけど、それでも足首まである、かなり長いやつだ。ちょっと前に来た『嬢ちゃん貴族』も似たようなスカート穿いてた気がする。


 それぐらいスカートなんて平民に馴染みがねえってのに、貴族スカートより短いのを穿いているのが3人も入ってきたんだ。ゲレロやトレオンだけじゃねえ、組合の男も女も気づいた連中はみんなポカンとしている。



 だと言うのに当の本人たちは何も気にした様子はなく。組合を見渡して好き勝手言い始める。


「ふーん。ここがコーバスの組合か。・・・別に普通ね」


 一番年上に見えるくせっ毛の長い赤髪の色っぽい女が、何を期待していたのか少しがっかりした様子を見せる。


「ヴィーラさん。あの子達も普通の組合って言ってましたよ」

「そうそう、変わっているのはここにいる組合員ですよ」


 赤髪の女の言葉を聞いて、連れの青髪と金髪が後ろをチラリと振り返ると、また前を向いて楽しそうに笑いながら受付に歩いていく。


 そしてその3人が歩いた後には床に転がる男達。


 ・・・この3人が物凄く強くて、絡みにいった連中がやられて床に転がされた。って訳じゃねえ。どっちかというと自主的に床に転がっていってるんだ。


「・・・ダメだ。見えねえ」

「くそ。こっちもダメだ」

「タイミングが悪いな。もっと近くで寝っ転がらねえと見えねえ



「・・・・す、凄え。何で先輩たちはあんなに躊躇いなく床に転がれるんだ?」

「羞恥心とかないのか?俺も見たいとは思うけど、女達のこの冷たい視線の中、あれは流石に無理だ」

「・・・こうやって心を鍛えていくって訳か」

「そんな中、躊躇いなく一番最初に飛び込んでいったトラスさんは凄いな」



・・・・・・



 トラスのパンツに懸ける情熱はマジで凄いな。ただ、あれぐらいの長さのスカートだと寝っ転がった程度じゃ絶対に中は見えねえだろう。 


 思った通り床に寝転がったは連中は誰一人見えなかったみたいだ。それでも諦めず今度は匍匐前進で姉ちゃん達の後をついていき始めた。


「こういう時ベイルなら率先して行くのに今日は調子悪いのかい?」


 気づけばゲレロもトレオンもいなくなり、残ったモレリアが不思議そうに尋ねてくる。


「流石にあの格好は貴族かもしれねえだろ」


 あの姉ちゃん達に俺の貴族センサーは反応していないが、スカート穿いてるから、もしかしたらって事もある。


「君は相変わらずだねえ。まあ、いいや、お客さんにアレがコーバスだと思われても嫌だから、ちょっと行ってくるよ」


 そう言ってモレリアが立ち上がる。見ると周りの女組合員達も立ち上がって受付に向かって行く。


・・・・・


 その先には男達が床に寝っ転がっているんだ。


・・・・・当たり前のようにモレリア達に踏みつけられる。モレリア達も全く躊躇いなく連中を踏みつけている。クワロとかゲレロは同じパーティのイーパから思いっきり踏みつけられている。見れば他の女達も同じパーティの奴は容赦なく踏みつけている・・・っていうより踏み抜いているって言い方が正しいぐらい容赦してねえ。


「痛え!てめえら何しやがる!」

「人様の顔踏みつけるとか喧嘩売ってんのか!」

「もっと踏んで下さい」

「てめえらぶっ殺すぞ!」

「マジで邪魔すんじゃねえ!」


 そうなると、踏みつけられた連中は怒りだすんだが・・・。こいつら怒りながらもまだ諦めてねえのか、立ち上がる素振りを見せねえ。ある意味凄いな。・・・うん?一人おかしな事言ってる奴がいねえか?


「ああ、顔だったんですね。組合の床の模様かと思いましたよ」

「凸凹して作りが悪いなと思ったので、踏みつけて均そうとしたんです」

「ゴミどもめ」

「本当に恥ずかしいからやめて下さい」

「コーバスの私達まで同類と思われるからね」


 いやあ、流石コーバスの女達だ。極悪顔の連中に床から凄まれても怯みもしねえ。変わらず踏みつけて3人のお客さんの後ろに並ぶ。


 それに構わず匍匐前進で前に行こうとトラスが動くが・・・・一応モレリア達受付の順番待ちしてる事になるんだ。そうなると、どうなるか・・・


「割り込み禁止だよ」


 当然割り込みになる訳だ。組合では割り込みはされた側の暴力は認められる。逆に割り込みした奴の暴力は認められない。一方的にやられるだけってルールだ。当然ルール破れば厳しい罰則が待っているから、コーバスの連中はしっかり並んで待つように躾されている。


 だから割り込みしたトラスはモレリアに組合の壁まで蹴っ飛ばされる。他の連中も恐れず匍匐前進で進むが悉く女たちに壁まで蹴っ飛ばされるか遠くに投げつけられる。


「す、凄いですね。コーバスの人たち過激すぎません?本当にあの子達の言った通り変だ。ここ」

「職員は止めないんだ・・・これが普通って事か」

「これがジークが目指した組合・・・。聞いてたのと違うわね」


 いつも通りのコーバスなんだけど。初めてだろう3人の姉ちゃん達は驚いている。


 聞こえてきた会話から他の街じゃあんまりこういう騒ぎ起きねえのかな?コーバスじゃほぼ毎日起きてる騒ぎだけどな。


 投げ飛ばされても蹴り飛ばされても諦める事なく匍匐前進で、何とか3人のスカートの中を覗こうとする連中と、それを躊躇いなく蹴り飛ばしたり投げ飛ばしたりする女組合員のやり取りを驚きの表情で見ていた3人だったが、ようやく順番が回ってきたみたいで、受付のリリーから呼ばれる。


「次の方・・・・ってヴィーラさん??」

「ヤッホー。リリー。ジークいる?」


・・・あの赤髪の姉ちゃんはリリーの知っている奴か。


「今は組合長室にいますけど、お呼びしましょうか?」

「今日は仕事で来ているから、組合長室にそのまま行かせてもらうけど構わないわよね?」

「・・・仕事?・・・よく分かりませんけど、多分ヴィーラさんなら組合長も怒らないはずです」

「そう、それじゃあ、入らせてもらうわね」


 そう言って、二人を引き連れて迷いなく組合長室に向かうヴィーラとか言う女。迷いなく組合長の部屋に向かったって事は、コーバスに来た事があるのか?取り敢えず謎過ぎるので近づかないようにしとこ。


 そうしてヴィーラは部屋の前まで来るとノックの返事も待たずに扉を開けて中に入っていった。


「はあーい!ジーク。元気ー?」

「・・・ヴぃ!ヴィーラか?お、お前、な、何で・・・」

「お久しぶりです。団長」

「久しぶりー。団長全然変わってないー」

「ペナ、サナサ・・・お、お前らも・・・何で・・・っていうかお前ら!何て破廉恥な恰好してんだ!!」


 俺に聞こえたのはそこまでだった。組合長に用事みたいだから、これ以上は聞いた所でって話だ。





 床で匍匐前進していたキモイ連中は床をたたいて悔しがっているけど・・・






 どうでもいいか。



「それでヴィーラ、何のようだ?何で組合職員の名札を持っている。ペナもサナサもだ」


 組合長室の扉が閉められたと同時に真面目な顔で聞くが、たまに視線が露になった足に向かうのは仕方がない。


「ジークったら相変わらずムッツリね。これぐらいで何動揺しているのよ。私の裸何度も見たでしょ?」

「団長、相変わらずこういう時の視線の向け方バレバレだね」

「こうやって団長揶揄うのも久しぶりですね」


3人に指摘されたジークは顔を真っ赤にして反論する。


「ば!・・・馬鹿野郎!お前らがそんな恰好しているからだろうが!そもそもそのヘンテコな恰好は何だ?娼婦にでもなったのか?」

「そんな訳ないでしょう。これが今王都で流行している恰好よ」

「そうそう、まだまだこんな片田舎には伝わってないけど、いずれ伝わると思うよ」

「最初は恥ずかしかったですけど、もう現役じゃないので可愛さ優先です」


 その言葉を聞いてジークは呆れて物が言えない。それというのも、この3人は昔ジークのクランに所属していたメンバーで、全員5級組合員だった。当時はみんなファッションなんて考えて無く、機能性や防御力を追求していたからだ。

 

「強さだけを求めていたお前らが・・・変わったな」

「あれー?団長がそれ言う?」

「そうですよ。誰よりも強さ求めていたのは団長じゃないですか」

「私を変えたのは誰かしら?」


「・・・むぐ・・・それなら!・・・」


 ヴィーラの言葉に喉を詰まらせるジーク。そして意を決して何か言おうとするが・・・途中でヴィーラが遮る。


「はいはい、そういう私用は仕事の話の後ね」

「・・・・分かった。それで仕事ってのはお前らが、職員の名札持っている事に関係しているのか?」

「そうそう、私達が来たのは組合の仕事の一環なんだ。私達今は王都で組合職員やってるんだー」

「何でだよ!お前ら現役の時に十分稼いだからもう働く必要ないだろ!」


 サナサの言葉にジークがツッコミを入れる。昔の仲間だからその懐事情もヴィーラを通してジークも聞いている。


「子供も預けられるようになったので、暇だったんです」

「そうそう、ペナと『暇だねえ』って言ってたら、ヴィーラが臨時職員の話を持ってきたの!」

「臨時職員?」


 そんな話は聞いた事がないジークが不思議そうにヴィーラを見る。


「たまに組合の仕事を手伝うのよ。主な仕事は新人組合員の教育だけど、たまにこういうお使いも頼まれるの。今回はコーバスでの調査だからジークと顔なじみの私達に任されたの」


そう言ってヴィーラが書類を渡す。その書類を読んだジークは天を仰ぐ。


「あの皮ここまで大事になっているのか・・・・」

「何、ジーク、あの魔物の皮がどれだけ凄いか分かってなかったの?現役退いてちょっと感覚鈍ってない?」

「そうかもしれんな。俺は組合だけだと思っていたぞ。それがまさか国との連名で調査しろとか・・・」


 蜂蟻討伐で見つけてきた新種の魔物の皮を本部に報告書と共に送り付けた時から、調査隊が来る事はジークも分かっていた。ただ、何故王国もその調査書に名前を連ねているかが全く分からない。


「まあ、コーバスだからってのもあるでしょうけど」

「どういう意味だ?ペナ?」

「そのまんまの意味だよ。ここ最近国の話題はコーバス一色だって知らないの?」



・・・・・・



「・・・ああ、『ドルーフおじさん』や『令嬢』だろ」

「それもだけど、最近王都にとんでもない連中が移籍してきたわよ!それで王都中大騒ぎ!それ以外にも『ハンコ』なんて凄い発明して商人や貴族が大騒ぎ。あんたの街はどんだけ騒ぎ起こすのさ?あとあの不人気依頼の『腐れ花の採取』も!」

「・・・・・・・・・」


 移籍してきたとんでもない連中ってのは多分アーリット達だろう。タロウもいる事だし騒ぎにはなるだろうなとは思っていたから、こっちはそこまで驚きはない。ジークが驚いたのは『ハンコ』がそこまで騒ぎになっている事だ。販売権利は商業ギルドに売ったから、そこまで情報が入ってきていないが、便利だと話題になっているぐらいは知っていた。知っていたが、それが王都まで響いているのは初耳だった。『腐れ花』もそう言えば色々報告書出させられたなと思うジーク。


「『ハンコ』の発明権はコーバス組合でしたけど、団長が考えたんですか?」

「いや、考えたのは別の奴だ・・・おっと!言っておくが俺が権利奪った訳じゃねえぞ!」


言ったとたん3人の目が細くなったが、先にジークが釘を刺しておく。


「じゃあ、何で権利がコーバス組合になってるのさー」

「・・・・信じられねえだろうが、手続き面倒くさいからやっといてって言われたんだ。当然本人が書かないと申請は無効になるってのはちゃんと言ったぞ!そしたら、そいつ何て言ったと思う?『俺は今ご機嫌で酒飲んでるから、組合長の名前でやっておいて下さい』だぜ」


「「「・・・・・・・」」」


「流石に俺もそこで自分の名前で申請できる程面の皮は厚くねえよ。だからコーバス組合として申請したんだ。・・・で、この間ハンコが結構売れているのを知った開発者が文句言ってきたんだ」

「まあ、言ってきますよね」

「酔っぱらって覚えてなかったーとかかな?」

「面倒くさいねえ。普通は『知らねえ』で終わるけどジークは真面目だから、向こうの要望を極力聞いてあげたんでしょ」

「ああ!団長ならそうするよね」

「団長は相変わらず怖い顔して、お人よしだなあ」


 ヴィーラの言葉にペナとサナサが納得した顔をした中、ジークだけが神妙な面持ちで3人を見る。


「・・・信じてもらえねえが、一晩酒奢るって事で話はついたんだ」

「「「はあああああ???」」」

「おかしいでしょ!ハンコの開発権利だけで職員の給料5000は上げられるぐらいはあるのに?!」

「一晩酒奢るなんて5万もいかないでしょ」

「その人馬鹿じゃないんですか?」


 ジークの言葉に3人が思い思いの言葉を口にする。そして最後のペナの言葉にジークは大きく頷いた。




「ああ、そいつは馬鹿なんだよ。ここじゃ一番の馬鹿とか言われている。ただ、それを補う強さがあるから、ここじゃ一目置かれているかなり変わった奴だ」


「「「・・・・・・」」」


 ジークの言葉に3人とも信じられないって顔をするが、すぐにヴィーラだけが仕事の顔に戻る。


「ふーん。まあ、いいわ。とりあえず明日そのミミズの魔物見つけた所まで案内して」

「分かったよ。今日中に案内役は選んで明日の朝に門の前に集合だ。遅れるなよ」

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