104.『快楽亭』立て直し依頼③
「そんなに長く待てねえから、もう一つの案だ。ヘックス、暇そうな姉ちゃんを適当に3人ぐらい連れてきてくれ」
俺の言葉にヘックスは黙って従い、部屋を出ていき、言われた通り3人の娼婦を連れてきた。どいつも美人でスタイル抜群だ。やっぱりこの店の娼婦のレベルは高い。他2店に負けているとは思わねえ。思わねえが、姉ちゃん達に違いがねえんだよなあ。
「ゲレロ、他の店との違いが分かるか?」
「・・・・?いや、全然分からねえ。お前はもう分かってるのか?」
「全く、お前はどこに目をつけてんだよ。それじゃあ、この3人から指名するってなったらお前は誰を選ぶ?」
「ああ?何だそりゃあ・・・まあ、選ぶなら・・・・・うーん。悩むなあ。・・・この子かなあ」
ゲレロが指名したのは真ん中の姉ちゃんだ。指名された姉ちゃんも営業スマイルで『ありがとうございます』とか言っているけど、少し顔が引き攣っているのは、ババアとヘックスがいるからか。まあ、それはどうでもいい。
「ゲレロ、そんじゃあ、何でその姉ちゃんに決めた?」
「え?・・・・な、何となく?俺のカンって奴」
「顔で選ばなかったのか?」
「どの子も甲乙つけがたいぐらい美人で差がねえだろ」
「じゃあ、体は?」
「全員良い体しているから、そこでは悩まねえな」
ふう、これでババア達も分かったかな?
「これで分かったか?」
「え?何がだ?」
「うん?全然分かんないです」
こいつら・・・・・・。
「だから!この姉ちゃん達、美人でスタイルもいいけど、特別この子じゃないと駄目だっていう特徴が無いんだよ」
俺の言葉に連れてこられた姉ちゃん達が怒って口を挟んできた。
「お兄さん。違いが無いとは聞き捨てならないね。行っておくけど、私は足裏、この子は脇、こっちの子は股が得意なんだよ。それぞれちゃんとした特徴持っているよ!」
・・・・・
「ちょっと待て、足裏が得意ってどういう事だ?」
「お兄さん、知らないのかい?こうやって足の裏を使って扱いてやるんだ」
俺が質問すると椅子に座り実際のやっている様子を見せてくれる姉ちゃん。・・・・・お、おう、それ足コキって技?じゃん。俺も一応知識だけはある。
・・・おい、って事は・・・
「そ、それじゃあ、脇ってのは?」
「それはこうやって脇で挟んで扱くのよ」
・・・・・お、おう、それも一応知識だけは知っている。ま、まさかこっちにもそういうのが好きな奴がいるの?
・・・!!そう言えばゲレロとヘックスは『膝裏ガー』とか『肘ガー』とか言ってたな。ま、まさか更にレベルの高いヘンタイもこの世界にはいるってのか・・・嘘だろ。
「どう?これでも特徴が無いって言える?」
「いや、その前に何でそっちで特徴出した?まずはその前段階でわかりやすく特徴作れるだろ!」
・・・・・
「おいおい、誰も分かってねえ顔してるけど、嘘だろ。何でこんな単純な事を思いつかねえんだ!姉ちゃん達の髪の長さも体形も似てるから特徴が無いんだよ。見た目ですぐに違うって分かるのは髪の色ぐらいじゃねえか!」
そう、ここ『快楽亭』はみんな髪が長くて美人でスタイルも良し。と聞くだけならいいんだけど、実際見るとみんな見た目似たような奴ばっかりで、特徴が無い。
逆に他2店の姉ちゃん達は髪の長さはバラバラで、体形もムチムチ系からほっそい奴まで、胸もデカいのもいれば小さい奴もいた。もう、これだけで大分差がつけられていると思っている。
「ハハハ、『4落ち』貴様は何も分かっておらん。いつ来ても好みの女に出会える。これがウチのスタイルだ」
得意気に言うババアだけど、それで格付け決まったんじゃねえか。
「それなら髪の短い女が好きな奴は来る事はねえな」
「・・・ぐっ」
俺の言葉に反論出来ないババアは悔しそうに口を噛み締める。
「胸の小さい女が好きな奴も最初から『快楽亭』は除外されるな」
「・・・・ぐぬぬ」
更に追撃すると、ババアは呻き声をあげながら、俺を睨みつける。ハハハ、正論パンチは良く効くなあ。ここから更に追い込んでいくぜえ!
「ムチムチ体形が好きな奴も来る事はねえな」
俺が更に死体蹴りすると、ついにババアの堪忍袋の緒が切れたのか、俺に襲い掛かってくる。
「・・・・ぐああああああ、こ、小僧!ば、馬鹿にするな!私はこれで『快楽亭』を高級娼館に育てたんだ!」
「女将、落ち着いて下さい」
「婆さん。落ち着けって!マジで頭に血が昇ってポックリ逝っても知らねえぞ!ベイルもあんまり煽るな!」
襲いかかってくるババアをヘックスとゲレロが慌てて止めに入る。俺としては頭の固いババアはさっさとポックリ逝って、話の分かりやすそうなヘックス相手の方がいいんだけど?
「ハァ、ハァ、ハァ。小僧、貴様の言う事は尤もだと思うが、この店のスタイルは変えないよ!」
「ったく、頭の固いババアだな。そんなんだから格付けが決められるんだよ」
「うるさい!それでも昔は他の店とも互角に戦えていたんだ!なのにここ最近急に差がつき出した・・・うん?」
怒り狂って叫んでいたババアだったが、途中で何かに気付いたようで急に押し黙る。
「おい、それってよ」
俺も今ので、少し分かったぞ。
「ゲレロさん。そう言えばあの2店って街の復興辺りから娼婦の順位が激しく変動してましたね」
「そう言えば、そうだったな。てっきりコーバスじゃ稼げねえって娼婦たちが別の街に移籍したとかだと思ってたが・・・多分これは違うな」
「後ろに知恵を付けた奴がいるね」
ババアの呟きに俺達は全員頷いた。よく考えれば今まで三つ巴の争いしていたのに、いきなり『快楽亭』だけが落ちる理由がねえもんな。普通三つ巴なら1店だけ抜き出たか、1店だけ下手うったかで格付けが決まるはずだ。ただ『快楽亭』は別に経営方針変えてねえ、昔から今までババアがしっかり管理していたから落ちる事は考え難い。
そうなると、かなり考え難いが他2店が同時に上がって『快楽亭』が置いていかれたって考えた方がいいだろう。
ただ、そうすると、それを仕掛けた奴がいるはずだ。『健やかな宿』と『夜中の夢』に知恵をつけて『快楽亭』を蹴落とそうと画策した奴がな。
「調べますか?」
「そうだね。調べるだけは調べてみようか。ただ、別に手を出すつもりは無いよ」
「おいおい、どうした婆さん、年取って牙抜けたか?」
ババアの気概を良く知っているだろうゲレロが、心底意外そうに驚いている
「馬鹿たれ!そんな訳あるかい!こっちは腸煮えくり返っているよ!ただねえ、今回は全く卑怯な手じゃないだろ、むしろ真っ当な方法だ。だって店の方針を変えただけだからね。まあ、あの妖怪ババア二匹が店の方針変えたのは信じられないけどね」
まあ、そうだな。向こうは『快楽亭』に何もしてきてねえ。ただ、考え方を変えただけだ。多分、その事で突っかかっていけば、こっちが悪者になるだろう。
「・・・・・・・・・・・・チッ!仕方ないねえ。こっちも『4落ち』の言った通り方針を変えるしかなさそうだ。ただ、それまでにどれだけ離されるか・・・下手したらもう追いつけないかもしれないねえ」
しばらく考えていたババアは、覚悟を決めたみたいだが、俺からすればまだまだこのスタイルでも十分盛り返せると思っている。
そんじゃあ、提案第3弾だ!
「ババア、今から俺言う俺の提案を聞けば、今のままでも、また、三つ巴の戦いまで盛り返せるはずだ」
「・・・・な、何・・・じゃと?」
おいおい、ババア、そのセリフ・・・卍解とか使えねえよな?
「ただし、今から言う俺の案は真似しようと思えば明日からでも真似される。だからどれだけ他の店に隠し通せるかが勝負になる」
「そ、それは色々やりようはあるから心配せんでいい」
「そうか、それなら俺からは何も言わねえ。それじゃあ、俺からの提案のまず一つ!『髪型を変えろ』だ!」
・・・・・・
「髪型?」
ゲレロ、てめえじゃねえ。お前ハゲだから髪型もクソもねえだろ。
「そ、それは髪を短くしろと言う事ですか?」
「ヘックス、そうじゃねえ。何で髪を切るってなるんだ。この店のスタイルは変えねえんだよ!」
「あ!・・・もしかして・・・こう言う事?」
連れてこられた姉ちゃんの一人が俺の言いたい事を分かってくれたのか、髪を手でまとめてポニーテールを作ってくれる。
「はい!姉ちゃん正解!そう!みんな髪きれいで長いんだけど、全員結ばず髪を下ろしているの何でだ?これは別に店のスタイルじゃねえだろ?」
「ち、違うねえ」
「ほら、ババアもこう言ってるぞ」
「そ、それは結局邪魔だから、それなら最初から下ろしてた方がいいって教えてもらって・・・」
効率重視って奴か。でもなあ、男ってのは非効率を求める奴もいるんだよ!
「で、でも髪型ぐらいじゃ・・・そんなに変わらなくない?同じ髪型で被る人も出ると思う」
今度は別の姉ちゃんの言葉だ。もうね。馬鹿かと言いたい。
「よし、それなら、ババアも含めて思いつく限りの髪型を数えてみろ!」
「えっと、まずは普通に後ろでまとめたのがある」
「横に流してまとめたのとかツインテールもあるよね」
「サイドもあるし、上でまとめたのもある」
「ひっつめ髪に三つ編みもあるねえ」
「えー。女将の古臭い」
「古臭いとは何だい!私が現役の時はこの髪型でナンバーワンに君臨していたんだよ!」
「時代を感じる」
「けど、もしかしたら、そう言うのが良いって人もいるかも」
「ああ!あの長老とか好きそう!」
うん、うん。一人ババアがいるけど女の子達が楽しんでいるのは和むなあ。更にエロイ格好なのもポイント高い。
「ほーほっほ。確かに『4落ち』の言う通り、髪型だけでも大分印象が変わるのう。ただ、『盛り盛り全盛り』みたいなのは労力が半端ないから無しだぞ」
『盛り盛り全盛り』って何だよ?ジロウ系か?・・・・・ああ、昇天ペガサス盛りみたいなやつか。
「そう言うのは金とればいいだろ。オプション価格って奴だ。簡単に髪縛るぐらいならタダでいいけど、面倒なのは金をとれ」
「・・・・・オプション価格?」
ああ、そこから説明しないと駄目か。
「要するにその面倒くさい髪型も出来るけど追加で金がかかるシステムにしろって事だ」
「追加で金とるのは無しだろ」
「馬鹿か、ゲレロ、よく考えろ。お前は定食頼んだ後に追加のデザートタダにしろとか言うのか?言わねえだろ!」
「そ、そりゃあ、そうだけど、それとこれとは話が違くねえか?」
「だったら頼まなきゃいい話だ。それで通常のサービスしてくれんだ。文句は言わねえだろ」
「・・・・・・うーん。まあ確かにそう言われればそうか」
ゲレロはこれで納得したみたいだけど、ババアは別方向で心配している。
「確かに『4落ち』の言う通り、頼む奴もいるだろうけど、これだけで劇的に売り上げが変わるかねえ?」
ババアの言う通り。それだけじゃ劇的に売り上げが伸びねえなんて俺でも分かるぜ!けどなあ。俺は更にその先を見てんだよ!
「ハハハ、ババア。これで終わりだと思うな!こんなものはまだ前段階だ。本番はこれからよ!」
「ま、まだあるのか?こ、こやつは何者だ?・・・ま、まさか・・・伝説のエロ神様の再臨か・・・」
伝説のエロ神様って何だよ?
え?大昔に物凄いエロの知識を与えた伝説の人?脇とか膝裏の使い方教えたのもその人なの?・・・・え?その人が描いたエロい絵の複製画が王都の商業ギルドに飾ってあるってマジ?その絵って男同士?どういう事?・・・・やおいあな?ホォオモォ?
・・・・
・・・うーん。多分1000年前の人には衝撃過ぎて神にされてるんだろう。よし!この話は絶対詳しく掘り下げねえ。
「俺はその伝説のエロ神様なんて知らねえ。多分!絶対!心当たりなんてねえ!その話はおいておいて、俺から次の提案だ!」
俺の言葉に全員が沈黙し、ゴクリと喉を鳴らす音が響く。
「っと、その前に、姉ちゃん達『トラス』って組合員を連れてきてくれねえか?」
「はあ?何で私達が?仕事中・・・」
「いい、あんたら探してきな。情報屋使ってもいいから急ぎだよ」
文句を言おうとした姉ちゃんの言葉をババアが強引に遮る。そうなると、姉ちゃん達も何も言えずに従うしかない。部屋を出ていく姉ちゃん達に俺がある頼みをすると黙って部屋を出ていった。
「人払いはしてやったよ。で?最後の案ってのは何だい?」
ババア、俺が姉ちゃん達に聞かせたくなかったって気付いていたのか。流石年の功だ。
「次のオプションは『服』だ。どの店の姉ちゃんも色っぽい下着しか着てねえよな?」
一応確認でゲレロに聞くと、大きく頷いた。
「それがどうした?娼館じゃ普通だろ」
「そう!普通だ!けどなあ、普通じゃないのが好きな男も多いって分かっただろ!そんじゃあ、こいつはガチのオプションにしとけよ。平民、修道女、商人、組合、更に超高級な服を娼婦に着させるサービスを始めろ!金払えばその恰好で相手してくれる!これが俺の提案だあ!」
「・・・・ま、まさか、き、貴様は一体何者なんじゃ」
「え?どう言う事?」
「ま、まさかベイル。てめえそこまで考えてたのか」
よーし。ヘックス以外は分かってくれたか。ただ、ババアとゲレロの認識に違いがあるといけないからヘックスに説明しながら、すり合わせしていくぜ。
「ヘックス。お前も男なら一度は修道女に妙なエロさを感じた事があるはずだ」
「・・・はあ、まあ、一応」
「だろ?あいつらエロさ振り撒いてるくせに神がどうのこうのうるせえんだよ」
「凄い偏見ですね。別に振り撒いている訳ではないと思いますよ。あとその不謹慎な発言はどうかと・・・」
「うるせえ。神なんていねえからいいんだよ。それで話を戻すけど、追加で金を払えば修道女の服を着て相手してくれるんだ。人気出ると思わねえか?」
俺の言葉を聞いて目を閉じて腕を組み、何やら考えだすヘックス。その顔が次第にだらしなくなっていく。
「いい!それいいですよ!ベイルさん、天才ですか!そうか、普段はみんな下着姿だから逆にそういうのが新鮮で十分金がとれるって事ですね」
「更に組合員といっても剣士や、斥候、魔法使いで装備が変わるから、種類が多く、常連でも飽きがこないだろう。中には全部試す猛者も出てくるはずだ」
ゲレロが得意げに語っているが、大事な所を忘れているぜ。
「ゲレロ、てめえは一番大事な所を忘れているぜ。組合と言えば何だ!組合の顔とも言うべき大事な所だろ?」
「べ、ベイル・・・て、てめえまさか・・・そこまで・・・」
「お、女将!!・・・う、受付嬢の制服は・・・・」
「ちょいと高いが裏の連中に頼めば手に入る」
「「うおおおおおおおおおお!!!!」」
ババアの言葉を聞いて、ゲレロとヘックスが両手を上に挙げて大声をあげる。この叫び、店の方まで聞こえてるんじゃねえ?営業妨害だろ。
手に入ると言えば、こっちも確認しておかねえとな。
「そう言えば、ババア。高級な服の方は手に入るのか?」
「そっちも大丈夫。使わなくなったとかで結構流れてくるからね」
それなら心配なさそうだな。
「こ、高級な服って・・・ま、まさか!貴ぞ・・・ブヘッ!!」
何かに気付いたヘックスが、危ない単語を口にしようとしたので、顔を張って最後まで言う前に止める。
「痛ああ。ちょっと!ベイルさん!いきなり何するんですか!」
ヘックスから見れば、いきなりビンタされたとしか思わないから怒って当然だろう。ただ、強制的に黙らせたのは自分では良い判断だと思う。
「ヘックス。今のは『4落ち』が正しいよ。今、お前は何を口にしようとした?私らが使うのは『高級な服』だ。決して言い間違えるんじゃないよ!」
お!ババアは流石に分かっているか。下手に『貴族服』なんて言えば、面倒事が絶対起こるからな。『高級な服』って言い張っておけば、多分ババアの方でどうとでも出来るんだろう。
「でもよう、その貴・・・『高級な服』も『受付嬢の制服』も高いんだろう?乱暴な奴も多いから破かれる事もあるんじゃねえか?そうなったら弁償か?」
「まあ、明らか故意でやったら弁償だろう。けど、普通にやってても破れる事もあるだろう。だからその辺は店がどうするか決めて、事前にしっかり客に説明すればいいんじゃね」
そこは経営の事だからババアが考える事だし、俺等の今回の依頼の範囲外だな。




