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102.『快楽亭』立て直し依頼①

 翌日は昼前に起きて特に用事も無いけど、組合員の鑑の俺は一応組合に顔だけは出す。


 あれ?気のせいか人減ってる?それともみんな真面目に仕事してんのか?依頼は・・・特に変わった依頼はねえな。この時間だから微妙な依頼しか張ってねえ。取り敢えず暇そうなのに絡むか・・・昨日の今日だから、一緒に依頼受けた連中は組合でダラダラしてるな。


 絡みに行くのはペコーかショータンどっちにすっかなあと迷っていたら、リリーが手を振って俺を呼んでいるのに気付いた。


「どうした?俺は今日オフだから依頼受けねえぞ」

「違います。ベイルさんが来たら組合長が呼んでいると伝えるように言われています」


 おいおい、また説教か?心当たり多すぎてどれか分からねえぞ。・・・可能性が一番高いのは、組合長のはオーク並って言いふらして回っている事だけど・・・多分それ知ったら呼び出しじゃなくて怒り狂って襲いかかってくるだろうから違うな。組合長の気の短さを新入りに話した事か?それとも靴にうんこついてたから組合長室の扉に擦り付けた件か?


 心当たりが多すぎて行くのやめようと結論付けた所で、リリーが理由を教えてくれた。


「昨日の件で話が聞きたいそうです」

「昨日?ああ、遅刻野郎をペコーが殺した件か。そんなんペコーに聞けよ」

「それじゃないです。そもそも昨日のその件は魔道具の記録を組合長にも見て貰い既に処理は終わってます。組合長は昨日持ち帰った白いミミズについて話を聞きたいそうです」


 ああ、そっちか。って言っても俺も詳しい事何も知らねえんだけど。まあ、今日は暇だし説教じゃないなら付き合ってやってもいいか。


「そう言えば今日何か人少なくねえ?俺の気のせい?」

「ああ、それでしたら昨日のペコーさん達の一件でかなりの数が移籍しました」

「うっそだろ。あんなんたまに見るじゃん!アレにビビるってどんだけだよ。そんなんじゃ移籍してもやっていけないだろうなあ」

「私からは何とも・・・。それよりも組合長室に向かって下さい」

「はーい」


 って事で組合長室の扉をノックする。


「誰だ?」

「俺だ!」

「・・・・・・・ふう、ベイルか。いいぞ、入れ」


 声だけで俺って分かるなんて組合長耳いいな。


 許可を貰ったんで中に入ると、組合長がハンコ片手に書類にぺったんぺったんしていた。そう言えば、ハンコの件も聞かないといけないんだった。


「そこに座れ・・・ってもう飲んでんのか?」

「今日はオフですから、オフフフ」

「くだらねえ事言ってねえで、さっさと座れ」


 何だよ。さっきから場を和ませてやろうと思ったのに。組合長心の余裕がねえな。


「リリーから聞いたと思うが、昨日の件で呼んだ。あの白いミミズが本題だが、その前に蜂蟻の討伐はどうだった?」

「どうだった?って、あれだけ集めたら余裕に決まっているでしょ」

「ああ、そう言う事を聞きたいんじゃねえ。ベイルならまた同じ依頼があれば何パーティぐらい必要だと思う?」


 うん?どう言う事だ?どれぐらいって・・・うーん。


「結果論ですけど今回の面子から2級を2パーティ外しても達成できたんじゃないですかねえ」


 ぶっちゃけ、事前準備と習性理解していたらそこまで戦力は必要じゃねえ。巣の探索と素材の回収とその護衛で人手が欲しいぐらいだな。


「うーん。そうなると3級3の2級1に後は荷物持ちか・・・巣の規模によってはいけるが討伐報酬自体が微妙だからなあ・・・」


 組合長何かブツブツ言ってるけど、早く話進めてくれねえかな。


 わざとらしくエールを飲んだ後、デカい声で「プハー」って言ったら、組合長が目の前に俺がいる事を思い出してくれた。


「おっと、悪い。それじゃあ本題だ。お前らが見つけたこの新種の魔物について何か気付いた事があれば教えてくれ」

「そうは言っても、俺等が見つけた時は中から食われてましたからねえ。特徴として皮がすげえ伸びるってのと、蜂蟻の毒針でしか貫通しない。貫通した所からはナイフが通るって所ぐらいでしょうか」

「まあ、聞いていた通りだな。最後にあのミミズ倒せるか?」

「蜂蟻の巣とか広い場所なら楽勝でしょ。ただしあいつの作った穴だと狭すぎて一方的にやられますよ」

「お前も同じ意見か。聞いた限りだとそうなるわな。分かった。俺の話は以上だ。ありがとう。参考になった」


 そう言って話を終わらせようとするが、そうは問屋がおろさねえ。


「組合長。商業ギルドにハンコが出回っているみたいなんですけど?」


 考案者の俺に何も話が無いってのが許せねえ。しかも俺が気付かなきゃそのままだったんだぜ。許せる訳ねえ。絶対組合長をとっちめてやる。


「ああ、それな・・・」


 俺の質問に組合長は気まずそうに額を指で掻く。珍しい事だけど、俺は追及の手を弱めねえぜ。絶対開発者としての権利を分捕ってやる!!!




「わーい。今日は組合長の奢りになったー!イエーイ!!」

「はあ?ふざけんなよ!ベイル!何でてめえだけ!お前何しやがった!」


 組合長からのお詫びを喜んで自慢して回っていると、聞こえたペコー達が怒り出した。ハハハ、ペコー達は心が狭いなあ。もうちょっとおおらかに生きようぜ。


「ハハハ、詳しくは口止めされていて言えねえが、昨日の依頼とは別の話だって事は教えてやる」

「嘘吐け!」

「こいつ、組合長からも情報料引き出しやがった」

「どんなゴネ方したら、組合長が折れるんだよ」

「マジでありえねえ。俺ちょっと組合長に抗議してくる」


 はあー。嫌だ嫌だ。人を信じられなくなったら終わりだぜ。いやあ、今日は気分がいいぜ。・・・ってあれ?俺とは逆に珍しくゲレロが眉間に皺寄せてるな。あいつ貴族依頼で何かあったのか?


「よう、ゲレロ。お前にしては珍しく眉間に皺が寄ってるじゃねえか。また未成年をプロデビューでもさせたのか?」

「うん?ああ、ベイルか。そっちは逆にお礼を言われたんだが、別の問題があってな」




 ・・・・・



 こいつまた未成年を娼館に連れて行ったのかよ!・・・いや、それよりも別の問題?


「何だ?何かあったのか?お前が悩み事なんて珍しいじゃねえか」

「ああ、ちょっと『快楽亭』の主人に相談されててな」


 『快楽亭』って少し前までコーバスでトップ3に入る娼館と言われていたけど、今じゃコーバス3番目って格付けが決められた娼館だ。1位と2位は未だに確定せず争っている。


「それって俺が聞いてもいいか?」


 ゲレロから10ジェリー貰ったのでエールを冷やしてやりながら尋ねると、問題ないらしく教えてくれた。内容としてはどうにかして売り上げ伸ばして、また以前のようにトップ3で争いたい、あわよくばコーバス1位に君臨したいってごく当たり前の内容だった。これ前に俺も快楽亭の受付にぼやかれた事あったな。


「ただなあ、理由が良く分かんねえんだよ。金はほとんど変わらねえ。酒や料理の味もほとんど同じ。娼婦の顔レベルに差はねえと思う。技術についても『快楽亭』ぐらい高級娼館だと教育もしっかりしていて他2つと差は無いはずだ。俺の結論は『健やかな宿』と『夜中の夢』と何が違うのかさっぱり分からねえ」



 ・・・・・俺はあんまり娼館行かねえからな、その相談には乗れねえな。そうなると娼館に詳しい奴・・・・・。


 ・・・・・・おお!そう言えばペコーって『健やかな宿』に入り浸っていたはずだ。


「ゲレロ、ちょっとついてこい。ペコーに絡みに行くぞ」

「え?・・・あ、ああ、そうか、分かった」


 戸惑いながらも俺の後をついてくるゲレロ。そうして誰かのジェリー勝負を見ていたペコーの首を捕まえて、空いてる机に引っ張ってくる。


「ああ?何だ?くそが引っ張るな!ってゲレロとベイルか。最悪の組み合わせじゃねえか。それで何の用だ?」


おう?最悪の組み合わせってのが気になったが無視して話を進める。


「ペコー。お前『健やかな宿』の娼婦がお気に入りみたいだな?」

「・・・うん?・・・ああ、そうだけど、どうかしたのか?」


 いきなり引き摺られて来たらこの質問だ。ペコーが戸惑っているけど気にせず話を進める。


「『健やかな宿』と『快楽亭』の違いって分かるか?」

「クッキーちゃんがいるか、いないかだろ?」


 俺の質問にどや顔で答えるペコー。クッキーちゃんって誰だよ!


「『健やかな宿』のナンバーワンか。入った当初はパッとしなかったが、地道に着実に力をつけて登ってきた実力派だな」


 ゲレロ知ってんの?何で知ってて当然みたいな感じで話進めているの?俺全然知らねえんだけど?


「そうなんだよ。俺はあの子が新人の頃から目をつけてたんだよ。ナンバーワンまで上り詰めたのは俺のおかげって言っても過言じゃねえぜ」


 いや、過言だ。お前3級だからそんな頻繁に高級娼館行けるほど稼いでねえだろ。頑張っても2回分の達成報酬でやっとって所だ。それなのに『わしが育てた』みたいなドヤ顔してんじゃねえよ。


「それなら今となっては競争激しいんじゃないか?」

「ゲレロの言う通り、ふらりと行って指名できるのは、よっぽど運がいい時ぐらいだ。大抵は予約してから行くぜ」

「・・・・予約?」


 娼館にそんなシステムあるなんて初めて聞いたぞ。ゲレロは納得した顔しているから知ってたのか。


「そう、常連になると店から提案されるんだ。この予約ができるようになったら、ようやく一人前だ。ゲレロも当然使えるんだろ」

「確かに俺も使えるが、俺はその日の出会いを楽しみたいから使わねえな。その日空いている中で最高の女を引き当てる。これが俺の楽しみ方よ」


 ・・・・ああ、うん。そんなに熱く語るな。全く興味ねえよ。


「それでその予約ってのは店に言えばいいのか?」

「ああ、クッキーちゃんの空いてる日を聞いて、そこから日にちを選んで金を払えば予約完了だ」

「・・・・・金っていくら払うんだ?」

「そりゃあ、全額だよ。クッキーちゃんは1晩15万だからな。予約忘れねえように必ず日時を書いた紙をもらえるんだ」

「そう、大体5万以上の予約だと紙が貰えるらしい」

「ああ?それって予約したのに行かなかったら金はどうなるんだ?」

「そりゃあ、没収だよ。クッキーちゃんはその為に1晩予定空けてんだぜ。店からすればどっちでも同じ事だからな」


・・・・・うっそだろ。予約ってそんなシステムなのかよ。


「ゲレロ、これって他の娼館も同じなのか?」

「うん?ああ、どこの店も同じだな」


 ・・・・・そうか、それなら付け入る隙があるな。ただ、それだけじゃまだ弱い。もうあと、一手か二手欲しい所・・・って何を俺は真剣に考えているんだ。金にならねえ事やってられるか。


「・・・・・」

「おい、急に黙り込んでどうしたベイル?」


 急に黙り込んだ俺を不思議そうにのぞき込んでくるゲレロ。


「報酬ねえからこの話は終わりだ。後はゲレロで勝手に考えろ」


 全く、あやうくタダ働きさせられる所だったぜ。俺はもう二度とタダ働きはしないって決めてんだ。


 そう言ってエールのお代わりを頼む。今度はショータンに絡みにいこうかなと思っていると、ゲレロがボソリと呟いた。


「そうか、報酬は『快楽亭』1回無料だったんだが、残念だ。まあ、報酬は俺だけかもしれねえから、お前らを巻き込んだら悪いか。けど、残念だ。店の奴に交渉ぐらいはしてやったのによ」



「「・・・・・・・・」」



「おいおい、ゲレロ。一人で抱え込むなよ。水くせえぞ」

「そうそう、ダチが困っていたら助ける。当り前の事じゃねえか」


「・・・・・俺から振っておいてアレだけど、お前らって結構な屑だよな」


「ハハハ、困っているダチがいたら率先して手を差し伸べるペコー様を屑って面白い事言うな。ゲレロ」

「ゲレロ、お前に言われたくねえな。俺は相談にはいつでも喜んで乗る心優しいベイル様だぜ」


「・・・・・・・はあー。分かったよ。明日お前らの分も報酬増やせねえか交渉してやるから知恵を貸せ」


「イヤッホーイ!流石ゲレロ!心の友よ」

「ハハハ、俺に相談したら悩み何て文字通りぶっ飛ばしてやるよ。大船に乗ったつもりでいろよ!」



「・・・・・はあー。流れでこうなったけど人選間違えたかな?」


大喜びする俺とペコーは、ボヤくゲレロに気付く事は無かった。

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