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101.女王蜂蟻討伐依頼④

 魔法鞄の話を適当に切り上げて真面目に探索を始める。


 すぐに横穴を見つけて中を確認すると、また異常な光景が広がっていた。そこはサッカーボールぐらいの大きさの白い球が無数に置かれていただろう空間だった。過去形なのはその大半が割れたり潰れたりして中の液体が地面を濡らしているからだ。近くには1mぐらいの穴が空いていて、その周辺には蜂蟻の死骸がいくつも転がっている。


「おいおい、今度は何だよ」

「これも情報にねえぞ」

「蜂蟻の巣ってこんな感じなのか」

「いや、絶対違うだろ。どう見ても何かと戦ってたんだろ」


 ペコーの仲間が言う通り、ここで戦いがあったに俺は一票だな。蜂蟻がここに侵入してきた何か・・・恐らくはさっき見た白いミミズ・・・とここでやりあったって所だろう。


 こうやってみると蜂蟻も20~30匹は死んでいるから、あの白いミミズそこそこ強かったみたいだ。それと残ってはいるけど、割れている方が多い白い球。これは多分蜂蟻の卵だと思う。


「どうする?あのミミズ仲間いると思うか?」


 穴を指差しながらペコーが聞いてくるので、みんな首を振る。


「やめとけ。その穴狭すぎて襲われたらどうしようもねえ。依頼は女王蜂蟻の討伐なんだ。ミミズは報告だけしとけば問題ねえだろ」

「言われてみればそうか。卵は・・・って既にベイルが潰し終わってるな。あいつ相変わらずこういう時の動き早いな。まあ、楽だからいんだけどよ」



 そこから更に進むと道の突き当りのデカい穴に辿り着き、そこでようやく目的の女王蜂蟻を見つけた。普通の蜂蟻の3倍ぐらいデカく、更に腹だけは異様に巨大化していて、その尻から絶賛産卵中だった。そしてその穴には蜂蟻が100匹ぐらい何をするでもなくウロウロしている。何匹かは生まれた卵をどこかに運んでいるが、大部分は何もしているように見えないから女王を守っているんだろう。


「取り敢えず釣ろうとしてもこいつら出てこねえから、この穴の中で戦う事になる。そうなると、各パーティ単位で気をつけて戦えとしか言えねえ。荷物持ちも参加したければ参加していいぞ。その代わり自己責任だけどな。そんで作戦だけど、入って左端はベイルが担当だ。真ん中から左の辺りは俺達が担当だ。残り右半分はお前らで好きに分けろ」


 ここでようやくペコーから許しが出て、仲間を殺された連中が気合を入れている。逆に作戦を聞いたフェイロー達が顔を曇らせる。


「ペコーさん。作戦は理解出来ましたが、筆頭が一人で左側の蜂蟻を相手するって無謀過ぎませんか?」

「ああ、お前ら今回ベイルと依頼受けるの初めてか。お前らこいつの強さって知っているか?」


 ペコーが俺を指差しながらフェイロー達に尋ねる。人に指差すなよ。


「筆頭の強さですか?・・・足止めが得意?」

「そうだ。こいつはどんな魔物が相手でも頼めば必ず足止めしてくれる。それが見た事無い魔物でも『ユニーク』や『賞金首』でもだ!だから、こいつの強さだけはコーバス長い連中なら信用している。それに普段は足止め任せる事が多いが、本当はベイルは一人で好き勝手暴れさせてる方がいいんだ。ただこいつはソロだから周りの事なんて考えねえ。下手に近付くと攻撃に巻き込まれる。だからベイルの隣に慣れている俺達が入ってんだ」


 ・・・・・・おお、自分の事なのにペコーってそこまで俺の事考えてくれてるの?こいつまさか俺に惚れてる?┌(┌^o^)┐ホモォ…?



 ・・・


 ・・・・ペコーは『健やかな宿』の娼婦に金つぎ込んでいるからそれは無いな。あっても俺も困るし。


「ペコーさんだけじゃなくて他の人も何も言わないなら、俺等も納得するしかねえだろ」

「アブブ、そうは言ってもベイルさんは一人であの数・・・単純に30匹近くを一人で相手する事になるんだぞ」

「ちょっと厳しくない?」

「私達パーティでなら出来る。一人は無理」

「ランの言う通り、一人では厳しいと思いますよ」


 おいおい、『転がった剣』の連中、今まで俺の何を見ていたんだ?



「ベイルさんよお。お前アシッドスライムの時に街にいなかったし、新入りが増えてきたしで、最近舐められてんじゃねえ?少しは頑張ってみるか?」


 『転がった剣』の連中の言葉を聞いて意地悪く笑いながらペコー達が聞いてくる。こいつら楽しようとしているだけだろ。


 ・・・・けどペコー達が言っている事も尤もだしな。面倒だけど俺の実力を見せてやるか。


「はあ、面倒くせえな。けどペコーの言う通りだ。ちょっと俺の実力知らねえ奴が多そうだから、少し頑張るか。ペコー、左半分は全部俺が貰うでいいな?」

「女王は残しておけよ」

「はいはい。そんじゃあ運動するか」


 そう言いながらこん棒を肩に担いで、女王の間に足を踏み入れる。踏み入れた瞬間、ウロウロしていた蜂蟻共が一斉にこちらを向いて動きを止めた。


 多分、女王が何か合図出したからなんだろうけど、よく分かんねえ。虫だし罠仕掛けるとか知能も無いだろう。


 って事で、握り絞めていた石ころを思いっきり蜂蟻に投げつけてから左側に走りだしながら叫ぶ。


「ハハハハハハ!てめえら!こん棒の染みにしてやるよ!!!」



 俺は蜂蟻の集団に突っ込み、こん棒を横殴りに振ると、殴られた奴とそれに巻き込まれた奴がぶっ飛ばされる。勢いそのままにこん棒を地面に立ててそれを軸に、今度は近くの蜂蟻を蹴りとばす。その蹴りの勢いを利用し再びこん棒を横に振って、近くの蜂蟻をぶっ飛ばし、噛みついてこようとしてきた奴を右フックで殴り飛ばす。


「す、すげえ」

「滅茶苦茶」

「殴ったり、蹴ったりで、何でこん棒と同じぐらい吹き飛ぶの?」


 俺の暴れる姿に若い連中が驚いているなんて気付く訳もなく、俺は蜂蟻の死体に手を突っ込み武器を一つ手に入れる。


「ウハハハ!こん棒拾ったぜ!これでダブルこん棒の完成だ!お前ら覚悟しろ!ハハハハハハ!!!」


「アレ、こん棒ちゃう、蜂蟻や!」

「筆頭は何で腰の鉈を頑なに使わないんだ?」

「ああ・・・お前らには理解できない・・・・俺等でも未だに理解出来てねえけど、ベイルの馬鹿は何故かこん棒大好きで、どんな物でも振り回してこん棒扱いしようとするんだよ。一つはいつも振り回しているこん棒なんだけど、二つ目はその時落ちている物をこん棒代わりに使う癖があるんだ。そんで『ダブルこん棒』ってご機嫌で叫びながら、周りを蹂躙するんだ。しかもソロだからか、周り気にしねえんだ。あいつが『こん棒ブンブン丸』って呼ばれてる理由だ」

「渾名格好悪」

「だからペコーさん達が間に入ったんですね」

「ああ、知らねえ奴が近づくとマジでぶん殴られるからな。慣れている俺等でさえ可能な限り近づかねえ」


「ハハハハハハ、蜂蟻こん棒、壊れた!けど、まだまだ一杯落ちてるぜ!」


「あ。また新しい蜂蟻拾って振り回している」

「ほら、感心してねえで、てめえらもさっさと行ってこい。じゃねえとベイルに全部とられちまうぞ?」


・・・・・


「み、みんな!行くぞ!」



 しばらく暴れ回ると、周りに動く敵がいなくなったので、ようやく一息いれる。


「・・・・・ふう、終わったか」

「終わったかじゃねえよ!ベイルてめえ獲物取り過ぎなんだよ!左側だけって言っただろうが!」


 一息入れた所でペコーが怒って俺の頭をどついてきやがった。


「痛えな!お前らがちんたらやってんのが悪いんだろ!」


 ペコーの指摘通り、確かに俺がやったのは半分より少しはみ出ているぐらいか?でもまあ、今回は人数割だから倒した数でゴチャゴチャ言うなって感じだ。それにあれだけ人数いてソロの俺に負けるってどんだけのんびり戦っていたんだよ。


「まったく、てめえはそこで素材回収手伝ってろ。女王は2級にやらせる」

「おいおい、俺も2級なんだけど?」

「お前の2級は詐欺みてえなもんだ。組合長もさっさとこいつ3級にあげてくれねえかな。やりづらくて仕方ねえ」


 酷い言われようだ。そもそも俺は半年は2級って言われたからな。あと2か月以上は上がらねえと思うぜ。それに3級に上がると、俺の員証また汚くなるんだよなあ。・・・・いや、もう既に十分汚ねえんだけどな。



 今回の依頼の責任者はペコーだからな。指示には素直に従って素材回収を行いながら女王討伐を見物だ。とは言っても女王蜂蟻はあの腹だ。動きがもっさりしていて特に見どころなく、腹を切り刻まれ、頭を落とされて討伐完了だ。後は全員で素材回収と卵を潰して街に戻る。


「今回500匹ぐらいの規模でしたけど、ロッシュさんが数を間違うなんて珍しいですね」


 戻っている道中ショータンがペコーと組合長への報告について、打ち合わせをしているのが聞こえてくる。


「多分、巣の奥にいたミミズと戦っていたか、倒した後も巣の中で警戒していたんだろう。だから外に出てくる蜂蟻も少なくてロッシュ達も間違えたんじゃねえか?」

「言われてみれば、そうですね。そう言えばその白いミミズの皮ってこの後どうなるんです?」

「一応用が済んだら返してくれとは言うけど、新種の魔物だからな。しかもこの皮で『魔法鞄』なんて作れるんだ。色々調べるだろうからしばらくは戻ってこねえぞ」

「先に自分たちの分を確保しておいて良かったんでしょうか?」

「三分の一は残っているから大丈夫だろう。って、ベイル。お前本当に『魔法鞄』いらねえのか?」


 後ろを歩く俺にまーた同じ事聞いてきやがった。


「いらねえって言ってんだろ!そもそもそいつを『魔法鞄』って呼ぶんじゃねえよ!魔法要素何もねえじゃねえか!」


「・・・ベイルさん何で怒っているんですか?」

「これを『魔法鞄』って呼ぶのが気に入らねえんだよ。『皮鞄』って呼べだってよ」

「うーん。そ、それはちょっと・・・」

「な、ダセえだろ。そもそも俺のも、ショータンの鞄も何かの魔物の皮で出来てんだから、これも皮鞄だっつうの」

「あははは、言われてみればそうですね」




 街に戻る道中はこんな感じで終始穏やかだったんだけど、組合に戻ってきたら、寝坊した2級の2パーティが俺達に絡んできやがった。


「ちょっと!置いていくなんて酷いじゃないですか!」


 そんな事を言いながら俺等に詰め寄ってくる遅刻組。こいつら酒臭え。俺達待っている間、酒飲んでやがったな。しかもこの言い掛かり、元々遅刻した自分らが悪いなんて微塵も思ってなさそうだ。


「お前らが時間に遅れたからだろ。遅れたら置いていくって言ってたぞ」

「ちょっとぐらい待っていてもいいだろ!」

「そうだよ!俺達がいないと無理だったろ」

「何言ってんだ?お前らなんかいなくても余裕で依頼は達成したぞ」


 ペコーのその言葉に遅刻組はニヤリと笑う。


 あーあ。嫌な予感しかしねえ。もう今の時点でも遅刻組のこの態度は駄目なんだけどなあ。俺が組合員になった時は、こういう連中がたくさんいたけど、大半が野盗堕ちして討伐された。主にティッチ達に・・・。


「それなら良かった。危ねえ、金がもう少ししか無かったんですよ」

「何もせずに報酬貰えるなんて、凄い楽な依頼だなこれ」

「今後からこういう依頼受けようぜ」

「だな。アハハ!」


 うーん。何でこいつらも報酬貰えると思っているんだ?取り敢えず殴っていいか?駄目?ペコーは我慢強いなあ。


 ぶん殴りたいけど、ペコーから待ての合図出されたから我慢だ。


「お前らは依頼失敗だ。組合にもそう報告する」

「はあ!ふざけんな!俺達も一緒の依頼受けたよな!」

「お前らが抜け駆けして置いていったんだろ!」


 抜け駆けしてねえよ。お前らが寝坊したんだろ。うーん。ムカつくなあ、殴っていい?まだ駄目。はーい。


「うるせえなあ。そこどけ。・・・って事だリリー、聞こえていたな。こいつらのパーティは依頼失敗で素材の金は残りで人数割りにしてくれ」

「承知しました」

「何言ってんだよ!リリーさん、俺達も報酬ちゃんと分けてくれよ」


 あっ!割り込み。と俺が思った瞬間にはペコーの裏拳が、割り込んできた遅刻組の顔面に叩きこまれた。


「割り込み禁止だ」


 ペコーが受付のカウンターにもたれかかりながら、殴られて吹っ飛ばされた奴に注意する。


「いてててて。て、てめえ!!!」


 殴られた奴が立ち上がると同時に腰の剣を抜いた。


 ・・・・おいおい。マジか。


 剣を向けられたペコーを見ると受付嬢達も目に入る。ラルダはアワアワしているが、カナとリリーは流石だ。慌てる事なく、ただ、冷たい目で様子を見ている。見ればいつの間にか受付に例の魔道具が出ているし。

 そして本人はと言うと、剣を向けられても受付に背中を預けた姿勢から変わらず、のんびりしたものだった。


「おいおい、武器は駄目だぜ。今ならまだ許してやるから剣をしまえ」


 ペコー優しくねえ?既にこの時点でアウトだろ。何でまだ許してやろうとしてんの?


 ただ、組合で武器抜くような奴がその言葉で引き下がる訳がねえんだ。何か喚きながらペコーに剣を振りかぶる。


「残念だ」


 ペコーのその言葉と共に仲間の盾使いが間に割って入り、振り下ろされる剣を大きく弾き返す。弾き返されて足がもつれた所に別の仲間が足払いをかける。そして仰向けに地面に倒れた所に盾使いが盾を緩衝材にしてダイブする。


「ガハッ!!!」


 ペコーの仲間の盾使いは中々ガタイがいいからな。そんな奴に上から飛び乗られたら、肺の空気が押し出されるのは当たり前だ。口から大きく息を吐きだしたが、多分今のであばら骨も何本か折れただろう。更に今度は別の仲間が武器を持つ手を何度も踏みつけ手の骨を砕きながら強制的に剣を手放させる。


 そこにゆっくりと近づいてくるペコー。


「本当に残念だ」


 そう言いながら喉に足を乗せる。


「ま、待て!!!!・・・・・・グッ!ゲ!」


 何をされるか気付いて慌てて止めようとするが、組合内の喧嘩で武器抜いた時点でもうアウト。更に無防備なペコーに斬りかったから更にアウト。だからペコーは気にせず、そのまま足を踏み抜いた。




 組合に骨の折れる音だけが響く。





 しばらく組合に無音の時間が流れるが、遅刻組の仲間の一人が我に返り激高する。


「て、てめえ!よくも!うちのリーダーを!!」


 その言葉に我に返った遅刻組が全員武器に手をかける。


「やめとけ、やめとけ。周りをよく見ろ。次は抜いた時点で死ぬぞ」


 ペコーの注意を聞いて周りを見渡す遅刻組、組合にいる全員から注目されている事にようやく気付いたか。周りの関係ない連中に殺気はないが、武器を抜いた時点で敵になると分かったんだろう。ゆっくりと武器から手を離し、足早に組合から出ていこうとする連中の背中にペコーが声をかける。


「おい!こいつの金や装備は奪わねえでおいてやるから、ちゃんと埋葬してやれ」


 こいつ何でこんな優しいの?俺にももうちょい優しくしてくれよ。


 その言葉を聞いた遅刻組は一度戻って来て、首の折れた仲間を抱えて出ていった。


 ・・・多分アレは野盗になるな。


 何となく今までの経験上俺はそう思った。




「それじゃあ、俺とショータンは組合長にミミズの件報告してくるから、これで解散だ」


 そう言って組合長室に向かうペコーとショータンだったが、俺はある事を思い出して声をかける。


「そう言えば、今回の依頼の報酬って素材売っただけなの?組合から討伐報酬とか出ねえの?」


 素材の売値ばっかり気にして、報酬を全く気にしていなかった。組合員として恥ずべき事だな。今度から気を付けよう。


「よく依頼書読んどけよ。討伐報酬は2万だ。人が多いから報酬が少ないのは仕方ねえ。その分素材売った金は良かっただろ」


 少ねえ。けど、素材売った金がそこそこ良かったからまあ、いいや。

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